2ヶ月もお待たせして申し訳ない…!
2月14日、世間ではバレンタインデーと呼ばれるイベントの日である。
本来バレンタインデーと言うのは聖バレンチヌスが処刑された日としてあまり良い日とされてはいないが、いつからか女性が男性にチョコレートをあげる日となっていた。どうやらこれはチョコレート業界の戦略だとかなんとか言っているが、それはもう避けることができないことだし、こればっかりは諦めるしかない。
だが、これよりももっとやばいイベントが1ヶ月後に控えている。3月14日のホワイトデーだ。これはもう地獄のイベントと呼ぶべきかもしれない。
なぜ地獄なのか。それは家系が深く関係している。
五十嵐家、ついでに小鳥遊家は女系家族である。五十嵐は母含め4人、小鳥遊は姉妹で4人にチョコレートを返さなければならないのだが、チョコレートを渡してきた側がこれを邪魔してくる。
五十嵐の場合、母は何もしてこないのでまだ良いが、妹たちがここぞとばかりに邪魔をしてくる。主に遊べだの飯がまずいだのと文句を言ってくる。1人だけで落ち着いて何かをできる時間が五十嵐にはほぼ無い。あるとすれば深夜、そのくらいしかない。
さらに、五十嵐は幼馴染の柊の姉からも貰うので、実質5個になる。柊の姉は優しいので、返さなくていいよ?毎年大変でしょ?と言ってくれるのでいいが、それも申し訳ない、と毎年一応返している。
小鳥遊の場合、妹のなずなが気を利かせて姉たちをなんとかしてくれるが、それでも姉たちは止まらない。
梢姉さんに関しては酒関係で色々あり、泉姉さんに関しては部屋を片付けてくれと助けを求め、一枝姉さんも何かと理由をつけて六法全書で殴ってくる。そんな小鳥遊に余裕などあるわけがなく、五十嵐と同じように1人だけで落ち着いて何かをできる時間は深夜くらいしかない。
さらに、小鳥遊の場合、姉3人の経済力が無駄に高いため、返すチョコレートは基本的に貰ったチョコレートの3倍で返さなければならない。別にそうする必要は無いのだが、そうでもしないと納得してもらえなさそうなのでそうしている。
そんな悪魔の日、バレンタインデーが刻一刻と近づいてくる中、五十嵐と小鳥遊はいつもの日課のように山田への説教をしていた。
「まったく…いつになったら割らなくなるんだよ…」
「本当だよ。これ以上割ったらマジで家に監禁すんぞ」
「なんでやまだばっかりに怒るんですか!?破損報告書には全然やまだの名前無いじゃないですか!!」
「だってこれ今日2枚目だもんな!1枚目はどう見てもお前の名前しかねーよ!!!」
相変わらず反省の色が見えない山田に、怒ることすら馬鹿馬鹿しくなってきた五十嵐は、そろそろ判決を下そうと考えていた。
当然判決は「五十嵐家にご招待の刑」だ。
「やまだ、いがらしさんの家には行きませんよ!いがらしさん、それを言おうとしましたよね!フフーン、やまだにはお見通しです!」
「バレようがバレなかろうが俺はやるぞ。フフーン、お前ごときの脅しには屈しないんだなぁこれが!!」
「ぐぬぬ…でもやまだを嫌々いがらしさんの家に連れてく姿はまるで犯罪者ですよ」
「なるほど、面白いこと言うな。だがな山田、お前は家出してきてまだこの地域のことをよく知らないな?」
「ややややややまだは家出じゃないですよ」
「俺はこの辺じゃ良い子って言われてんだ。優しい良い子。ってな。だからお前をいやいや連れてったって犯罪者だなんて誰も思わねーよ」
「そしたらやまだはこの人痴漢です!って言いますもん!」
往生際の悪い山田に、小鳥遊がついに動く。
「とりあえず割らないようにしろよ。まずはそれからだ」
ポス、と山田の頭にチョップすると、小鳥遊はお盆を持ってホールへと出て行ってしまった。
「山田、お前今何をしようとしてたら当ててやろうか?」
「……え、なんです?やまだの考えは簡単には分からせませんよ」
「割らないようにするには、働かなきゃいい。だからもう早退しよう。って思ってるんじゃないのか?」
「…………フフフッ、そそそそんなことおおおおおおおお思ってななななななないでででですすすよ」
「声も体も震えてんぞ」
「やまだちょっとお腹痛いです……だから今日は早「……おい!」
言ったそばから早退しようとする山田を、五十嵐は全力で止める。
じたばたとする山田だが、これ以上やっても自分が不利になるだけだと悟ったのか、しばらくするとおとなしくなり、裏でずっと待機していたのだった。
「どうしてこう、こんなに仕事ができないんだろうな」
「なんか逆にすごいですよね」
「なにか、画期的な方法が欲しいな」
「五十嵐くんの方法が最も画期的だとは思うんだけどねぇ…」
ひょっこりと相馬さんが出てくると、相馬さんは佐藤さんに捕まり、キッチンへと連れてかれた。
相馬さん、仕事をサボっていたんですか…。
「まぁいいや。正直今はそんなことを気にしてる時間じゃない」
「あ、五十嵐さんもですか」
「ああ、そろそろバレンタインという忌まわしきイベントがやってきたな」
「あれ?五十嵐くんも小鳥遊くんも、バレンタイン嫌いなの?」
伊波さんがホールから帰ってきていた。佐藤さんに頑張ってオーダーを伝えると、2人の会話の中に入る。
「ええ、あまり。と言うか全く好きじゃないです。誰だよ考えた奴」
「あっ、もしかして貰えないから?」
「貰えるから嫌なんです。確実に4つは貰えるし」
「俺も年によるけど4つか5つは貰うな」
「小鳥遊くんと五十嵐くんはお姉さんや妹さんに貰ってるのね…。なんだかんだ仲良いのね」
「「いえ、別に全くそういうわけでは無いです」」
「そこはきっぱり言うのね…」
「お、五十嵐、小鳥遊。ちょいちょい」
珍しく店長が五十嵐と小鳥遊を呼ぶ。相変わらず店長はポテチを小脇に抱えているが、もうその辺は気にしないことにしよう。
「知ってるか?アメリカの風習ではな」
「アメリカ?」
「バレンタインは男が女に何かあげる日なんだ…」
「どっちかと言うとイタリアとかの男性があげるとかの方がなんとなくわかる気が…」
「だから食い物くれ」
「節分の豆でも食ってろよ」
「俺は善処します。渡せれば渡しますよ…」
小鳥遊は塩対応をし、五十嵐は曖昧な言葉で逃げた。
「とりあえずどうするか、だな。まともなのを買わないと怒ってるくるし…。散財だ」
「……同じく」
そんな2人を見ながら伊波さんは考えていた。どのようにして小鳥遊にチョコを渡そうかを…。
◆◇◆◇◆
そして、来てしまった。バレンタイン。
ワグナリア内では、女性陣が男性陣にチョコを渡していた。
「佐藤くん、相馬くん、いつもお世話になってます」
八千代さんは綺麗に包装されたチョコを2人に手渡すと、店長へのチョコをどうするかを2人に聞いていた。
「毎年ありがとな」
「いえいえ。あ、佐藤くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…杏子さんにチョコあげたいんだけど、何かいい趣向ないかしら?」
「……しらん」
「あっ、私が頭からチョコをかぶるとk……あうっ!」
奇行に走りそうになった八千代さんを佐藤さんはおたまを叩くことで目覚めさせた。
八千代さんが去ると、相馬さんは八千代さんから貰ったチョコを佐藤さんに渡していた。
「これ、俺の分あげるよ」
「なんでだよ」
「義理とはいえ、俺ももらえないよ。だから貰ってよ」
仕方なく佐藤さんはチョコをもらうと、
「あ、義理が2倍に増えた」
「……………」
「ああっ!フライパン!?轟さんにはおたまだったのに俺にはフライパン!?差別だよ差別!!!」
「………区別だ」
その後豪快な音が聞こえたのは、言うまでもないことである。
事務室では、店長が誰かに電話をかけていた。
『もしもし』
「音尾、生きてるか」
『生きてますけど、何かありました?』
「お前の机の上にチョコ置いてあっからな」
『ああ、今日はバレンタインですか。わざわざすみません。って…それを言うためにわざわざ電話を?』
「それなんだが、食っちゃったから」
種島さんが音尾さんにとチョコをあげたのだが、店長はそれを見て我慢できずに食べてしまったらしい。
種島さんは涙目になりながら店長に対してばかばかばかー!とワンワン言っている。
『……もらった事実だけありがたくいただきますと伝えておいてください』
「ん」
休憩室前では、伊波さんが待ち構えていた。
「あれ?伊波ちゃん?どうしたの」
「あっ、種島さん。たっ、小鳥遊くんにチョコを…」
「かたなし君に?」
「でも今までチョコあげたことなくて…」
「じゃあ初チョコだね!伊波ちゃんからかたなし君にチョコ渡してもらおっか!」
「ええ!?」
伊波さんの顔が今まで以上に赤くなり、頭からは湯気のようなものが出てきている。
(……チョコ溶けちゃう)
種島さんは裏で皿洗いをしている小鳥遊を休憩室前に連れて行く。
そこでは伊波さんが待っていた。
「伊波ちゃんと私から!伊波ちゃんはすごく考えてチョコを選んだって!」
「は、はぁ…。ありがとうございます」
小鳥遊は伊波さんの目の前まで向かい、チョコを貰おうとする。
しかし、伊波さんはチョコよりも先に手が出てしまう。
「……まーた例のご病気ですか」
「今のは違う!!男嫌いで殴ったんじゃなくて……そう!ただの照れ隠し!!」
「余計悪いわ!!!!!」
時間が過ぎていき、午後9時。そろそろ学生組が帰る時間になると、松本さんは五十嵐を呼ぶ。
「どうしました松本さん」
「これ、今日バレンタインでしょ?妹さん達の分もあるから、よかったら食べて」
「あ、ありがとうございます。わざわざ妹達の分も」
「いいわよ。ちょっと作り過ぎちゃったし」
「そうですか。じゃあ帰りましょうか」
今年はチョコを1つ多く貰えた五十嵐である。
次回はホワイトデー+新キャラ爆誕ですかね。
またのご来店、お待ちしております