「平和だな。八千代」
「平和ですね。杏子さん」
ファミレス内で"裏"と呼ばれる場所で八千代さんは店長にパフェを渡していた。
すでにテーブルには5個ほどパフェに使う容器が置かれており、もうこれで6杯目だ。
6杯目にも関わらずペースが止まることがない店長は、珍しく店の異変に気づく。
「…つーか他の連中どうした?」
辺りを見ても誰もいない。いるのは目の前の八千代さんのみだ。
「そういえば見かけませんね…」
「すみません……フロア空けちゃって」
小鳥遊の声が聞こえると、店長はそちらの方を向く。
「………!?!?!?」
店長は口に含んだパフェを吹き出すと、店長は震え始める。
「た……小鳥遊かお前」
「ええ、残念ながら」
「宗太だから宗子ちゃんとでも呼んでやってくれ」
小鳥遊に続いて佐藤さんもやって来ると、さらに種島さんも戻って来た。
「やめて!かたなし君は伊波ちゃんのために女装してるの!ふざけて呼んだりしないで!!!」
「せ、先輩……」
種島さんが小鳥遊をかばうが…
「じゃあ小鳥遊だからことりちゃん」
「うむ!!ならよし!!」
あっさり言いくるめられてしまった。
「ことりちゃん。とりあえず……ホール出てみなよ……ププッ……アハハッ!」
あまりに小鳥遊の姿が面白いのか、五十嵐は小鳥遊を見ると必ず笑っている。
「五十嵐くん?これは一体…」
「松本さん。これはですね……かくかくしかじか」
笑い声を聞いてこちらに来た松本さんに五十嵐は全ての事情を話した。
「伊波さんのお父さんに嘘つくために小鳥遊くんが女装……。フツーじゃないわねそれ」
「逆に普通ならそれは恐ろしいことですよ」
「1つ思ったんだけど、いいかしら」
「どうぞ。笑ってあげてください」
「……例えば、私とかチーフとか、伊波さん以外の他の女子が小鳥遊くんのフリをすれば小鳥遊くんは女装する必要なかったんじゃない?」
「あーーーー……気づいちゃいましたか」
「五十嵐くん、知ってて何も言わなかったの?」
「相馬さんに口止めされました」
「相馬さんもあなたもひどいわね…」
このあと、五十嵐は松本さんに人に優しくしなければならないということに対しての説教を15分ほど受けた。
◆◇◆◇◆
「結局、俺が言った通りホールに出たのかことりちゃん」
「まだです。あとその呼び方やめてください」
「そうは言うがなことりちゃん、伊波さんのお父さんに会った時にバレたら元も子もないだろ。一応行って来たらどうだ?」
「それは確かに否定しませんけど、その呼び方やめてください」
「否定しないなら行ってきなよことりちゃん」
「……その呼び方で呼ぶなっつってんでしょーが!!!!」
ことりちゃんは「仕方ないか…」と呟きながらトボトボとホールに向かい、注文を受ける。
少しするとことりちゃんは行きよりゆっくり帰って来た。一体何があったのだろうか。
「…どうだった?」
「君、かわいいねって言われました」
「やったな。これで問題ないだろ。あとは伊波さんのお父さんを待つだけだな!」
「そういえば、伊波さんのお父さんはどんな人なんですか?」
裏でずっと待っている伊波さんに聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。
なんと伊波さん、お父さんの顔を覚えていない。試しに紙に描いてもらうと、その紙に描かれていたのはへのへのもへじだった。
「マジで覚えてないんですか?」
「10年以上会ってないし、誕生日プレゼントとかくらいしか接点ないし……興味ないし」
「段々お父さんがかわいそうに思えてきた」
「親不孝者ですね…」
このあとしばらく待っても伊波さんのお父さんは来ない。
時間は昼を過ぎ、客もだんだん少なくなっている。元々客はほとんどいないのだが。
「もうやだ……やめたい」
ことりちゃんは昼過ぎからずっとこれだ。壁を見ながら1人どよーんとしている。
そんなことりちゃんを慰めようと、相馬さんが召喚される。ついでに五十嵐も召喚される。
「まぁまぁ落ち着きたまへことりちゃんよ」
「そうそう、弱気になっちゃダメだよことりちゃん!」
「あんたらが俺を弱気にさせるんだろ…!」
「君なら完璧な女の子役が出来るはずだよ!」
「できたら困るんですよ!」
「じゃあ、自信が持てるように………」
相馬さんがことりちゃんに何かを見せると、ことりちゃんは突然やる気になっていた。なぜか涙を流しながら。
「あ、誰か来た」
五十嵐がその人を席に案内すると、伊波さんはじーっと見つめる。
「もしかしたら……あの人が私のお父さん、かな?多分、きっと、おそらく……。間違ってたらごめんね?」
「俺より先に自分の父に謝ってくださいよ」
「…あの客、周りをジロジロ見てるし、伊波さんのお父さんなんじゃないのか?なんかゴルフクラブを入れるケースみたいなの持ってたけど」
「ゴルフの帰りとかなんじゃないですか?」
「まぁいいや。ほれことりちゃん、行ってらっしゃい」
「…何事も無ければいいですけど」
ことりちゃんは伊波さんのお父さんであろう人にお冷を渡すと、その人は早速ことりちゃんに声をかけた。
「あの、こちらに小鳥遊という子がいると思うのですが…」
「小鳥遊は私ですが(超裏声)」
「そうか…本当に女の子なのか……」
伊波さんのお父さんはゴルフバッグのチャックを開け、中に入ってたブツを取り出し、安堵する。
「……よかった」
ブツは、猟銃のようなものだった。
(俺も女装しといてよかった……というか、何狩りに来てんだよこの人)
「なんか物騒なもん持ってんぞ伊波さんのお父さん。しかもなんか笑顔だし、殺意的な笑顔なのかあれ」
「えぇぇえ!?でも偽物じゃないの!?」
種島さんが想像以上に驚いている。それもそうか。普段見ないものを持っているのだし、驚くのも当然か。
「話の内容がわかんないから何とも言えんな」
「やまだ、こんなこともあろうかと小鳥遊さんの制服にマイク付けときました」
「お前一体何者だよ」
「初めまして、伊波まひるの父です。娘がいつもお世話になってます…」
「初めまして、小鳥遊…です。あの…それは」
ことりちゃんは猟銃のようなものを指差し、それが一体なんなのかを聞く。
「ああ、驚かせてしまってすいません。これは偽物です。けどこれで殴ったら痛いよ」
(そーゆーことじゃねぇぇ!!)
「……あの、娘は元気ですか?」
話が突然変わるが、ことりちゃんはそれに動じない。
「はい。元気ですよ」
「ひとり娘なのでものすごく可愛いんですが…単身赴任で滅多に帰れないし、会っても殴られてぜんぜん生身を見てなくて…。あぁ、まひる…」
(当の本人は父親の顔すら覚えてないんですけどね……)
「小鳥遊さん、随分と背が高いですね。まさか女装していたりして〜」
と笑いながら銃口を向ける。いくら偽物とは言え、銃口を向けられたら驚く。
ことりちゃんの顔はどんどんと青ざめていく。
「失礼なこと言わないで!小鳥遊さんは女の子よ!!!」
「まひる!?今日はバイトじゃないって聞いたのに…」
ことりちゃんはものすごいタイミングで来たなと驚いているがそれもそのはず。山田が用意した盗聴器で会話を全て聞いていたからドンピシャのタイミングに合わせることが可能なのだ!
だがことりちゃんはそのことを知らないので、何が何だかわかっていない。
「あ、遊びに来たんですよ!仲良しだから!」
と、ことりちゃんは伊波さんと肩を組む。
予想外の行動に伊波さんは悲鳴をあげかけるが、ことりちゃんが口を塞ぐ。
「…悲鳴上げないでください。バレるじゃないですか」
「んん……」
「まひるかわいい……」
(あ、聞いてないや)
伊波さんのお父さんは上の空状態になっている。
「はっ、私としたことがうっかりまひるを眺めていました…申し訳ない。確かにこれを見る限り小鳥遊さんは女ですよね。うちの娘がこんなに男とくっつけるわけないし…」
「あははは…」
「もし男だったら…」
突然伊波さんのお父さんは立ち上がり隣の客に銃を向ける。
「こうなって」
肩めがけて銃を振り下ろし、
「こうですから」
銃口を頭に向ける。
客はただただ怯えている。それも仕方ない。伊波さんのお父さんの事情なんて知らないしただの他人なのだから。
「おおおおおお客様に迷惑かけないで!!!!」
ことりちゃんは客に謝り、会計をことりちゃんが済ませると言った後客は怯えながら帰っていった。
「大体、娘のバイト先にこっそり来ないでよ!私がどこで何をしようと私の勝手でしょ!もう嫌い!!!!」
伊波さんはプンスカと怒りながら裏へ帰ってしまった。
「まひる…」
伊波さんのお父さんはものすごく哀れだが、それでもなお「怒ったまひるもかわいいな…」などと言っている。
「……大丈夫ですか伊波さん」
「もうお父さんなんて嫌いよ…」
「こりゃひどい親バカですね。伊波さんが可哀想に見えてくるレベルですよ」
「五十嵐くんはこーゆーことあるの?」
「うちに父親はいません。一番下の妹が生まれる前に事故で亡くなりました」
「えっ、あっ、ごめんね」
「謝らないでください。あの人の死に方は非常に笑えるレベルだったので、そんなしんみりされても困るんです」
「……?」
「俺の親なんかどうでもいいんですよ。ほら、ことりちゃんとの会話聞きますよ」
「…伊波さんは幼少期に言われた一言で男嫌いになったと伺いましたが…」
「ああ、小鳥遊さんもその話ご存知でしたか。でもね、一言だけでそんな男嫌いになると思います?」
「……え?」
「十数年の積み重ねです。プレゼントで渡す本やDVDに出てくる悪役は全部男。会談や行事で出てくる悪いものは全部男、さらに男を殴る腕力をつけさせるためにバックの中には重りを仕込んでいます」
普通に話しているが、内容は明らかにおかしい。トラウマを植え付けるような行為に見える。
伊波さんのお父さんは娘を溺愛し過ぎて、良からぬ方向へ向かって行ってしまっている。それでは娘から嫌われるのも無理ない。
もはや親バカを通り越してバカ親だ。2つの意味は全く違うが、そんな風に思えてきた。
「……って、マジかよ。伊波さん、もしかして…」
「え?でもこのカバンすっごく軽くて…」
ドスン!と金属が当たる音が聞こえた。
伊波さんのカバンの中からは鉄板が出てきて、五十嵐がそれを持ち上げようとするが、結構重い。
男で思いと言っているものを軽々と持ち上げてしまうほどの腕力、これも全てお父さんが仕組んだことなのだ。
「とにかくまひるには男を近づけさせませんよ!一生!!!」
「……………ふざけるなよ。この大バカ親」
ことりちゃんはいつもの小鳥遊くんのトーンで静かに怒る。
「あんたのその妙ちきりんな育て方で、伊波さんがどれだけ苦労してるのかわかってるのか!
愛情注ぐのはいいが、子供は親の所有物じゃないんだぞ!ちゃんと考えて育てろ!」
(な、なんか男前だこの子……)
「あっ…はい。すいませんでした」
「『俺』に謝るな!伊波さんに謝れ!会って殴られるなら手紙でもなんでもいいから謝罪しろ!……返事は!」
「は…はいぃ!」
「わかったら即実行!今日はこのまま家に帰れ!」
「はいいいいい!!!!」
最後の方は小鳥遊が出てしまったが、伊波さんのお父さんはそんなことよりも説教が正論すぎてただ聞くことしかできず、挙句帰らされる羽目になっていた。
伊波さんのお父さんが帰った後、伊波さんはボーッとしていた。
「あれ……伊波さん?」
「………」
顔は真っ赤で、頬を抑えながらただ小鳥遊を見ている。
(おっとこれは……)
(((完璧、惚れたな)))
種島さん、山田、五十嵐の意見が一致した瞬間である。
◆◇◆◇◆
「なんて言うか、勢いで説教してしまい、伊波さんのお父さんには申し訳ないと思いました…」
「いいんじゃないか?流石にあれはヤバいし」
全てが終わり、休憩室で五十嵐と小鳥遊が話していると、伊波さんがやってきた。
「あ…あの…」
「伊波さん…?」
「その…えーっと……あり、がとう。小鳥遊くん……」
顔を真っ赤にしながら、さらに頭から湯気が発生しながら涙目で言うと、小鳥遊は「伊波さんが怒ってる…」と怖がっていた。
「怒ってないでしょ。一応嘘は貫き通せた訳だし、な?」
ここから、伊波さんの恋物語が始まる。
この先────と言うか、明日からどうなるかは、もうすでにわかりきっている。
小鳥遊は、いつも通り殴られる日常。
伊波さんは、愛情表現と言う名の暴力を振るう毎日。
こんなすれ違いラブストーリーが明日から始まると思うと、五十嵐は頭がおかしくなりそうだった。
最近この作品を見てくれる方が増えていて嬉しいです。
しかも評価もしてくださるなんて…最高です!
次回は、アニメオリジナルストーリーの話でも書きましょうかね…。それか五十嵐家の日常とか…?
あ、気になることが1つ。
ここでのアンケート行為は禁止とのことなので、活動報告でちょっとしたアンケートをとりたいと思っています。
参加してもらえると嬉しいです。
またのご来店、お待ちしております!