土曜の夜、そろそろバイトが終わりそうな時間帯に、ワグナリア近くの排水管から大量の水が噴き出した。
その後、店にいるメンバー全員が裏に集合し、チーフの八千代さんから話があった。
どうやら壊れた排水管の工事をするのに明日丸一日かかるそうで、その際ワグナリアの水が一切使えないらしい。
つまりワグナリアは営業することができないので、明日は臨時休業となる。
週7で働いている五十嵐と小鳥遊には久しぶりの休日がやってきた。
「明日は臨時休業……つまり、やまだはひとりぼっちと言うことですか!?」
「そうなるな」
「朝ごはんも1人、昼ごはんも1人、晩ごはんも1人!やまだやりたい放題です!」
「お前は明日ずっと屋根裏にいろ」
「店の食い物に手を出すとは許さんぞ。店の食い物は私のものだ!」
「客のもんだ」
相変わらず佐藤さんは冷静につっこむ。
そんな姿を見ていた種島さんは、ある事を考えた。
「……そうだ!!」
◇◆◇◆◇
「やまだはひとりぼっち……やまやまやま」
意味不明な泣き方をする山田の元に、制服姿に着替えた種島さんが山田に話しかける。
「葵ちゃん!明日私と温泉行かない?もちろん伊波ちゃんも!」
「えぇ!?」「山田行きます!温泉行きます!」
と2人は同時に反応する。
「ついでに五十嵐くんも行かない!?」
「何故に俺を?こーゆーのは女子たちが行くべきでは?流石に女3:男1は絵面的にも俺の精神的にもクるものがあるんですが」
「かたなしくんがいるじゃん!」
「かたなしくん、来るんですかね」
「え?俺ですか?先輩とか伊波さんも行くんですか…?」
「そうらしい。で、俺も誘われたってわけ。小鳥遊行かないなら俺行かないんだけど、行く?」
男子更衣室では着替えながら小鳥遊と五十嵐が話していた。
そこには佐藤さんも相馬さんも一緒に着替えていた。
「いいじゃん。行きなよ小鳥遊くん」
「そういう相馬さんはどうです?どうせ暇でしょう」
「ひどいな…確かに暇だけど」
「俺はパスだ。借りたDVD返さにゃならんのでな」
「轟さんの風呂上がりの姿見れるよ?」
「うるせぇ」
ドスッ!と大きな音が男子更衣室中に響いた。
相馬さんはお尻を抑えながら小鳥遊、五十嵐にも話をふる。
「五十嵐くんは松本さん誘えばいいじゃん!」
「…いや、俺は男1人っていう状態が嫌なんですよ。相馬さん来てくれるなら行きますよ?」
「んー……行けたら行くかな!」
「それ絶対行かないやつですよ」
「小鳥遊くんは?やっぱり家事で忙しかったりするの?」
「いえ、明日は日曜ですし、特に忙しくはないんですが、梅干しを干すのに適した天気なので…」
「…伊波さんは小鳥遊をご指名だが?」
「え…なんで」
温泉街は男の人がいるから、小鳥遊を犠牲にすることで他の人への被害を最小限にするという建前で、本音は好きな人と一緒にいる時間を少しでも作りたいと言ったところだろうか。
だがそれを小鳥遊に思いっきり言うことはできないので、オブラートに包んで包んで包みまくることにした。
「…伊波さんの暴走を防ぐため?」
「余計嫌ですよ」
「でも、伊波さんが温泉行くって言って男の人見つけたら手当たり次第殴って行くよ?」
「そんなの…五十嵐さんが止めればいいじゃないですか」
「無理、死んじゃう。命が何個あっても足らない」
「とにかく、俺は行きませんよ」
◆◇◆◇◆
「松本さん、明日みんなで温泉行くらしいんですよ。よかったら行きます?」
帰り道、いつも一緒に帰っている松本さんに明日のことを話した。
松本さんは明日は特にやることがないからいいわよ、とサラッとOKをした。
こうなってしまえば、五十嵐は明日男が来なかろうが行かなければならなくなった。
「どうしましょう。種島さんたちは店長の車で行くらしいですけど、人数多くて多分俺たち入らなさそうです」
「ならバスで行けばいいじゃない」
「なるほど。じゃあバス停集合で」
「わかったわ。じゃあまた明日ね」
「はい。また明日」
相馬さんよ。頼むから来てくれ!と本気で祈りながら五十嵐は床についた。
次の日、小鳥遊は朝早くに起きると庭に出て梅干し作りを始めようとしていた。
始めようとはしたものの、脳内に伊波さんのことがちらつく。
(確かに五十嵐さんの言う通り伊波さんに何の護衛もつけず外に行かせるわけには行かないけど、何で俺なんだ?でも俺じゃないと止められなさそう。いや、うーーーん…)
「お兄ちゃん。行ってきなよ」
後ろから小鳥遊家の末っ子のなずなが肩をポンと叩く。
「なずな!?」
「梅干しのことは大丈夫。なずな何年もやってきてるし、1人でもできるよ。それよりバイトの人たちとお出かけ行ってきなよ」
「……ありがとうなずな、俺行ってくるよ」
☆☆☆☆
「……あれ、五十嵐さんに、松本さん?」
「よぉ。一緒に行こうぜ小鳥遊」
「あ、小鳥遊くん結局来たんだ」
「相馬さんも来たんですね。てっきり来ないと思いました」
4人が集まると、いいタイミングで温泉街行きのバスがやって来た。
「じゃあ行こうか」
一方、種島さん達は店長の車を待っていた。
「店長来ませんね…」
「これは確実に寝坊ですね」
「杏子さん…」
「とりあえず電話したらどうでしょう…?」
「それがいいんだけど…私、ケータイ持ってないの」
八千代さんは種島さんにケータイを借り、店長に電話するが店長は電話に出た後すぐに切ってしまった。
「杏子さん、完全に寝てるわ…」
「ど、どうしよう…。これじゃあ何もできないよ!」
4人が半分諦めかけていると、見覚えのある車が通った。
「…あれ、お前らここで何してんだ?」
「佐藤さん!佐藤さんこそ何してんの?」
「俺は借りたDVD返しに行く途中だよ」
「佐藤さん!ここで会ったが100万年目!やまだたちを温泉街まで連れてってください!」
「おい……それやめろ」
山田はボンネットに大の字でへばり付き、ジーッと佐藤さんの方を見つめる。
「はぁ…わかったよ。けど、伊波のことしっかり守ってろよ。車内で殴られたらお前ら死ぬぞ」
「わかったよ!」
仕方なく佐藤さんは4人を連れて温泉街へ車を走らせた。
一足先に温泉街に着いた五十嵐たちは、種島さんたちの捜索に向かった。
「今種島さんに連絡したけど、佐藤くんの車に乗ってて、佐藤さんの車がガス欠になって、そしたらいいタイミングで店長がやって来て、店長の車で現在温泉街へ向かってます!だってよ」
「ならまだ来てないんですね」
「いや、これ見たのさっきで、届いたのが15分くらい前なんだよね」
「じゃあ結局探さなきゃいけないじゃないですか!」
「すぐにわかるんじゃない?」
相馬さんは楽観的に考えているがそれは間違っていなかった。
よく考えればわかる話だ。伊波さんは男性恐怖症で男を見たら殴りたくなってしまう。しかも大声をあげる。
そんな人が近くにいたら、気づかないはずがない。しかもそれをほぼ毎日聞いてるのであれば、見つけるのは容易だ。
「とりあえず、悲鳴が聞こえたところに向かうのが一番いいかと」
「ですね」
「……ものすごい見つけ方ね」
「キャアアアアアア!!!」
相馬さんの言った通り、伊波さんはすぐに見つかった。
「あ!見つけた!」
「小鳥遊!逝ってこい!!」
「ったく……!!!」
小鳥遊は伊波さんの近くにいだ男性の間に立ち、自ら伊波さんのに殴られに行った。
「あれ…?なんだろうこの殴り慣れた感じ…」
「そりゃ…俺ですもん」
「小鳥遊くん!?」
「あれ!?かたなしくん、来ないんじゃなかったの!?」
「野放しにして、よその人に迷惑かけるわけには行きませんし」
(なんで動物扱い…)
伊波さんはこの後も男の人にぶつかり、殴りかかりそうになるが、小鳥遊がマジックハンドでそれを止め、人気のいないところへ連れて行ってしまった。
「さすが小鳥遊くんだね」
「伊波ちゃんのことはかたなしくんに任せておけば安心だね!」
「そしてやまだはそうまさんにお任せ!そうまさん!やまだお腹すきました」
「少し早いですけど、お昼にしましょうか」
◆◇◆◇◆
ここからなぜか別行動になってしまった。
店長は八千代さんと食べ歩きに行ってしまい、相馬さんは種島さんと山田と一緒に食べに行き。そして最後に自然と2人になった五十嵐と松本さんが今どこの店で食べるか迷っているところだ。
「どこで食べます?」
「あそこで食べない?」
松本さんが指さした店は、海鮮丼が売られている店だった。
特に反対する理由もないので、そこの店で昼食を取った後、相馬さんたちと合流した。
「やぁやぁ。デート楽しかった?」
「デートって…、ただ2人でごはん食べただけですよ」
「それをデートと言わずになんだというのかね!どうだった?進展あった?」
「進展も何も、始まってすらいないですよ」
「いずれわかるよ…」
「……はい?」
このあと特に目立ったことはなかった。
顔が腫れまくっている小鳥遊と合流し、足湯に入った。どうやら伊波さんの家は門限があるらしく、そろそろ夜になって来そうなので他のメンバーも帰ることにした。
行きと同じように、種島さんグループは店長の車で帰り、五十嵐グループはバスで帰ろうとした。
のだが、佐藤さんの車が五十嵐たちの前で止まった。
「お前ら、来てたのか」
「ええ」
「他の連中は…その様子だと帰ったか。まぁいい、乗れ」
「はーい」
「運が悪かったなー佐藤くん。轟さんたち、一足違いで帰っちゃった!……ど」
相馬さんが何かを言おうとした時には、佐藤さんの車は発車し、Uターンして相馬さんの方へ向かうが、相馬さんを無視してそのまま進んでしまっていた。
「あれ〜?」
しばらくしてから結局佐藤さんは相馬さんを乗せ、帰って行った。
「なんか、このメンバーが集まるだなんて珍しいな」
「だね〜。松本さんがいるのが何より意外だよ」
「べ、別にいいじゃないですか!みんなでどこか行くくらいフツーですよ!」
「ふつーといえば五十嵐くん。ここであえて言わさせてもらうけど、五十嵐くんの女性のタイプってどんな人?」
突然何話して来たんだよこの人!と思った五十嵐だが、恥ずかしがることなくサラッと話した。
「年上ですかね。小鳥遊と違って年上、高身長がいいです」
「小鳥遊くんは、小さいものがあればものすごい可愛がるけど、五十嵐くんもそーゆー感じ?」
「違いますかね。俺はどっちかというとじっと見てるタイプです。自分から迫るんじゃなくて、来るのを待つ、的な感じです」
「つまり変態ってことだね!」
「なんでそうなる」
ただ女性に話しかけるのが恥ずかしいから、じっと見ることで話しかけて来るだろうという考えのどこが変態なのだろうか。どう考えも小鳥遊くんの方がアウトな気もするが、これ以上相馬さんに行っても返り討ちにあうだけだと思いこれ以上は何も言わないことにした。
「五十嵐くんは小鳥遊くんの正反対!小鳥遊くんがミニコンなら、五十嵐くんはデカコン!小鳥遊くんが小さいものを見てなでなでしたり触りながら愛でるのに対し五十嵐くんは触らずただじっと見つめながら愛でる!どっちも変だね!」
「「……やめてください!!」」
「まぁ、人によって趣味も様々だし…いいんじゃないかしら」
明後日の方向を見ながら松本さんが言うと、余計悲しくなって来た。
「それやめてくださいよ!なんか悲しくなります!」
(なんで、ここの店ってフツーの人が私くらいしかいないのかしら。結局五十嵐くんも…)
夕焼けを眺めながら、物思いにふけっていた松本さんであった。
アニメ版でやってた小鳥遊くんと伊波さんとのデートシーンはばっさりなかったことにしましたが、今後2人のデートとかを書く予定なので勘弁してください。
次は時期的にテスト話か体育祭的な話を書きたいと考えてます。(作者は温泉街の話は5月から6月くらいに起こったことだと思ってるから)
体育祭なら、他の学校と同時開催して、2つの学校が争う…とか面白そうですよね。やるかはわかりませんがw
またのご来店、お待ちしております!