バイトを始めて早くも1週間が経ち、仕事にも慣れてきたある日、五十嵐は2つほど違和感を抱いていた。
1つ目は、シフトに書いてある『伊波 まひる』という人に出会ってないということ。
見事にシフトが合わないのは、何かおかしいが、店長に聞いても「しらん」と言われるので追及はしないことにした。
2つ目は、チーフの轟 八千代さんの帯刀について。銃刀法違反とかその他諸々に反してるのでは?と思いながらも、未だに八千代さんとは話せていないのでスルーしていた。
結局どちらもはっきりとしたことはわかっていないということだ。
いつも通りシフトを確認すると、今日は伊波さんという人と一緒に仕事をする日となっていた。五十嵐はどのような人かを小鳥遊に聞くことにした。
「小鳥遊ー。この伊波さんってどんな人なんだ?」
「………通り魔」
「その伊波さんって人は、犯罪者か何かか?」
冗談9割で笑いながら言うと、小鳥遊はプルプルと震えは始める。
「ハハハ……ソウカモシレナイデスネ」
「そんな危険人物なのか、覚悟だけはしておこう」
「生きて、帰れるといいですね」
「やめてくれ、縁起でもないこと言うの」
あの小鳥遊の受け答えからして、伊波さんとやらはヤンキーか何かなのだろうか。
「おい、お前らちゃんと働け。そろそろ客が来る時間だぞ」
「あっ、はい」
店長はパフェを食べながら言うと、小鳥遊はチッ、と小声で言いつつホールへと向かった。
一方五十嵐は松本さんが着替え終わるのを待っていた。
バイトを始めたとはいえ、まだ1週間。わからない事も多く、年齢的にもバイト歴的にも上でかつ話しやすいと言ったら松本さんしかいない。
小鳥遊は何か合わないし、種島さんはどう頑張っても年下として扱ってしまうし、店長はちょっと無理だし佐藤さん&相馬さんはポジションが違うしで、なかなか話す人がいない。
そういった事から、よく松本さんに話しかけたり質問したりしている。
「松本さん、こんにちはー」
「あらこんにちは。今日で始めて1週間だけど、わからない事はある?」
「んー、レジ打ち、伝票打ちはまだキツいですかね、あとはそこそこ出来るようになりました」
「1週間でそんだけいけたら全然良い方よ。まぁフツーに頑張りなさい」
「はい」
松本さんはよく『フツー』と言う。何が原因で言うようになったかはまだわからないが、そんだけフツーにこだわる理由があるのだろう。
「あ、お客様来たわよ。行きましょうか」
「はい!」
◆◇◆◇◆
「……ありがとうございました!」
「なかなか頑張ってるじゃないか五十嵐。そろそろシフトも本格的に入れてくか」
「え、それは週何日ですか」
「週6か週7を選べ」
「何そのブラック」
「仕方ないだろ、人いないんだから」
ブラックすぎる究極の選択を迫られる。どう考えても週6の方が楽なのだが、1日休むと逆に体が変になるというか、毎日いけばサイクルがどーのこーので……。
ということで週7、つまり毎日を選んだ。
「お前は……自殺志願者みたいだな。小鳥遊も」
「何がですか店長。俺を自殺志願者扱いして」
「お前と五十嵐、週7で働いてんだぞ。五十嵐は来週からだが」
「小鳥遊は何でなんですか?」
「"若い"からな。なぁ……小鳥遊?」
こいつ、もしや店長のこと年増とか言っただろ。
28のどこが年増なんだか。まだお姉さん世代だろう。それがいいというのに、小鳥遊のミニコンはミニコンの中でも重症の部類だ。
「店長も若いじゃないですか。28なんてまだ現役ですよ?」
「だろ?お前良い奴だな。これで飯作ってくれたら最高なんだが」
「あいにくキッチンではないので」
店長は「そうか」とだけ言ってチーフのところへ「八千代ーパフェ食べたい」と言いながら去ってしまった。
「五十嵐さんは店長を扱うの上手いですね。俺はちょっと前からすごく怖い顔で見てくるんですよね。何でだろう」
「「年のことだろ(でしょ!かたなし君!)」」
「ふぁっ!?」
五十嵐の隣には最初に出会ったバイトの子、種島 ぽぷらがいた。
小さすぎて気づかなかったが、どうやら小鳥遊は気づいていたようでなでなでしながら「何でですか!?」と言っていた。
「女の人は年のこととか聞かれるとイヤなの!特にあの年代はデリケート、なんだよ!」
「………アホくさ」
五十嵐はこのどうでもよさに耐えられず、ホールでお客様のところまで笑顔で向かったのである。
◆◇◆◇◆
お客様の前で笑顔になりまくってから1時間ほど経って、そろそろお客様が増えてきそうな時間帯になった頃、五十嵐と小鳥遊はチーフに呼ばれた。
「あら……えっと、新人さんの…」
「五十嵐 光希です。よろしくお願いします、チーフ」
「轟 八千代です。わからないことがあったらなんでも聞いてね?」
「はい」
「あ、そうだ。裏にある紙をレジに補充してきて欲しいの。2人ともお願いね」
「あれ、重いですもんね。わかりました」
慣れた感じで小鳥遊は話を聞いて、五十嵐を連れて裏へと向かう。
「小鳥遊。教えてけろ」
「これを持ってけば良いだけです。ほら、さっさと終わらせましょうか」
すると、近い場所からバタン、とドアを閉めた音がした。
その音がした瞬間、小鳥遊の顔が青ざめていく。
「どうした小鳥遊」
「この後俺は……」
足音がして、目の前に現れたのは、オレンジ色の髪の毛の少女だった。
「もしかしてあなたが伊波さんですか?こんにち……」
「キャァアアアアアア!!!!おとこ!おとこ!おーーとーーこーー!!!」
五十嵐より前にいた小鳥遊が左のアッパーカットで倒され、その勢いで五十嵐に右ストレートで一発KO!すると種島さんとチーフが駆けつけた。
「五十嵐君!かたなし君!大丈夫!?」
「ほら……言ったでしょう?」
「本当……すまなかった」
ここまでの破壊力とは、本当に申し訳なかった。小鳥遊。
「五十嵐君はまだ知らなかったわね。この子は伊波 まひるちゃん。男性恐怖症で『つい』男性がいると殴っちゃうの。死なないように気をつけてね?」
チーフからありえない言葉がでてきた。死なないようにだと!?
「……まさか、バイトで死にかけるとは思ってもいませんでしたよ……。てか、その服はフロアってことだろうけど、どうやって料理持ってったり接客してるんだよこの人」
「だ、男性客なら他の人に任せて、女性客をなんとか…料理を受け取るときは女の人だと思って……」
伊波さんはチーフの後ろでモジモジとしながらチラッとこちらを見ながら話している。
「だから店員が足らないと……この店の事情が少しずつ分かってきた気がした」
これから伊波さんと会うときは、死を覚悟していかなければと思った五十嵐であった。
◆◇◆◇◆
プチ騒動が起こった後、あまり良いとは言えないような客が来店した。
腐ってもお客様なので、普通に接客していると、種島さんを見てニヤニヤとしている。コイツ、ロリコンかよ。
「あいつ小学生っぽくね?後で聞いてみようぜ」
なんだそれだけか。なら良いか。
「店長、もしガラの悪い客が来たらどうしますか?」
休憩室でパフェを食べていた店長に、五十嵐は質問をしてみる。
店長はパフェを完全に食べ終わると、口を開く。ちなみにそれまでかかった時間は1分だ。
「私に危害を加えなきゃ便利な後輩になんとかしてもらうな。事件にならない程度に」
「デスヨネー」
「なんだ?そんなこと聞いて」
「いやぁ、今さっきあまり良いとは言えないお客様が」
「まぁ何かするまで待ってるか……」
「やめてください!!」
叫び声が聞こえた。ガチャガチャ言ってるのが聞こえるので、おそらく種島さんが何かされている。
「何このちんちくりん。この店小学生働かせてんのー?」
「やめてください私高校生です!」
「先輩!?どうしよう先輩が!」
小鳥遊がいつも以上に動揺している。仮にも先輩、助けようという心はあるのか。
「大丈夫だよ小鳥遊君。あの人に任せとけば」
そういったのは、佐藤さんと同じキッチンで仕事をしている、相馬 博臣さんだ。
青髪がトレードマークの、世間話が好きな人、らしい。
「あの人って……?」
「お客様」
ドコン!と店長がガラの悪い客に前蹴りを食らわせる。
ガラの悪い客1は数メートル吹っ飛ぶと、
「お客様、暴力は困ります」
「「「「えええええ!?」」」」
ガラの悪い客2人と、五十嵐小鳥遊は驚く。
それもそうだ。こんなの、警官が目の前にいるのに人を殺したあと、『俺人なんて殺してないですよ』って言っているようなものではないか。
「客蹴り飛ばす店員いるかよ!店長呼んでこい!!」
ガラの悪い客は負けじと反抗する。
しかし残念だ。なんてったって……。
「私に何か用か?」
この人が店長なんだよ
「き、客蹴り飛ばす店長がいるかよ!2度と来ねぇからな!クソババァ!!」
「!?」
「あー……これはあの客終わったね」
相馬さんがポツリと呟くと、ケータイを取り出す。
「小鳥遊君。これ店長のケータイ、持ってってあげて」
「え、なんで相馬さんが持ってるんですか?」
「良いから早く、持ってってあげて」
「え?あ、はい…」
相馬さんに言われた通り、小鳥遊は店長にケータイを持っていく。
それに続いて五十嵐も付いていく。
「店長、これ相馬さんに言われて……」
店長はケータイを受け取り、開いた後
「お、おい、今出た客から有り金、全部持ってこい」
「「え、えええ!?」」
店長の言うことではない。というか何言っているんだこの人。
「何もそこまでしなくても……」
「働き者の種島に、ちんちくりんと言ったんだぞ?
それに、クソババァって言ったし……クソババァって、クソババァって………」
一応、みんなのことは見ているのか。パフェばっか食べてるけど。それと、クソババァって気にしすぎ。
「……店長」
「なんだ」
小鳥遊に話しかけられた店長は、あまり機嫌が良くなかった。
「店長、前は年齢の事聞いて、すいませんでした。店長思ったより若いってわかりました」
「だろ?」
「店長…思ったよりガキですね」
「かたなし君……」
「小鳥遊…」
((それはダメでしょ……))
この時初めて、五十嵐と種島さんの気持ちが一緒になった瞬間である。
次はアニメ通りに行くと音尾さん登場、原作通りに行くと月間目標を決めるとかですかね。
原作通りに行くのも良いけど、アニメ通りに行くのもアリかと思うんですよね。
そこんところみなさんはどうなんでしょう。
意見いただけると嬉しいです。
それ次第で次回も変わるかも知れません。