とある日の学校の休み時間にて、
「なんか今日は、不幸なことが起こりそうだ」
同じクラスの友人、柊 勝斗(ひいらぎ かつと)が呟くと、隣にいた五十嵐が反応した。
「突然変なこと言うな……。占い師かよお前は」
「あくまで予想だよ。不幸になるのは俺かもしれないし、光希かもしれない」
柊は物理の計算をしながら五十嵐に問いかける。
「バイト始めたんだって?姉さんが言ってたよ」
「家のためにな。あいつらのプレゼントのためにちょっと働いてるよ」
「俺もバイト始めたんだ。どことは言わないけど」
「俺も教える気は無いぞ。来られても困るし」
「そうだな。お互い知らない方が幸せだな」
一見仲が悪いように見えるが、小さい時からの幼馴染で、仲は良い。
五十嵐も柊もそこまで自分を人に見せようと思わない性格ゆえ、近すぎず遠すぎずといったこの状態が一番好きなのだ。
「お前に何か教えるとするなら、ウチは普通の職場ではないな」
「……奇遇だな。俺の所もだよ」
「………え?」
◇◆◇◆◇
学校が終わり、柊と別れると五十嵐はワグナリアへと向かう。
途中松本さんから電話がかかって来きたのだが、どうやら今日は諸事情で休むらしい。メールでは小鳥遊が休むぞ、だからお前は早く来い。と店長からかかって来たりで、今日は本当に柊の言った通り不幸な日になるのかもしれない…。
「お疲れ様でーす」
従業員用入り口から入ってすぐに、店長が仁王立ちしているのが見えた。
八千代さんのパフェ待ちかと思ったが、今日は八千代さんが休みで、ついでに種島さんも休みだった。
今日いる限りの人で店長に関わろうとする人はまずおらず、それがあってか一人でずっとお菓子を食べながら正面を向いていた。
「な、何してるんですか店長」
「今日は人が少ない。忙しくなると思うが頑張るように」
「そっくりそのまま店長に返していいですか?その言葉」
制服に着替え、ホールを見ると伊波さんが一人で接客していた。ラッキーなことにお客さんが全員女性なので問題なく接客している。
「お疲れ様でーす」
「あ、五十嵐くん。おはよー」
相変わらず相馬さんは暇相馬さんしている。そうなるとキッチンは佐藤さんだけで回していることになるのだが、佐藤さんは相馬さんに怒らないのだろうか。
「相変わらず暇相馬さんしてますね。また誰かの秘密言いふらしたんですか?」
「人聞き悪いなぁ……あと繋げないでくれるかな…」
「おい相馬。暇そうにしてるなら俺の仕事を少し分けてやろう。ほれ。全部千切りしとけよ」
佐藤さんは4つのキャベツが入った段ボールを相馬さんに渡すと、休憩室に戻ってしまった。
「さて……俺もホールに出ますか」
圧倒的に仕事の量が多い相馬さんに比べ、形勢逆転した佐藤さんはタバコを吸ってのんびりとしていた。
「ううっ……自分だけ休憩しちゃって…ひどいよ佐藤くん」
「さっきまで休憩してた人が何言ってんですか」
ピンポーン!
お客さんが段々と増えてくる時間帯になり、五十嵐と伊波さんは忙しくなって来た。
「いらっしゃいませ」
やって来たのは2名の男性客。
「ひっ!」
当然伊波さんが接客できるわけがなく、五十嵐が男性客を席まで案内する。
ピンポーン!
「いらっしゃいませ」
やって来たのは4名の男子学生。これもまた五十嵐が接客をする。
「ううっ……!」
ピンポーン!
「えーっと……11名ですね。席までご案内します」
今度は11名のサッカー少年たちだ。
女性客がほぼいなくなり、伊波さんは何も出来ずにいた。
「伊波さん……俺すげぇ仕事あるんすけどって、オーダー来た……行ってきます!」
「どうしよう……種島さんとかを呼ぶわけにもいかないし……小鳥遊くんも今日は用事あるって言ってたし…あっ、そうだ!」
伊波さんはケータイをポケットから出すと、誰かに電話をかける。
「あの……伊波です。相馬さん、佐藤さん。ホールに男性客が多くて、私ホールに出られなくて、五十嵐くんが一人で接客してて…だからお二人がホール出てくれませんか!?」
『無理。接客嫌い』
佐藤さんが即答すると、相馬さんがフォローする。
『佐藤くん!五十嵐くんを見捨てるのかい!?』
『見捨てるわけじゃねーけどよ。伊波ー、お前も頑張ってみたらどうだ?』
ドゴォッ!!!と何かが砕ける音が電話からと直接聞こえた。
(コレは、お願いではなく……)
(脅し、だな)
お願いという名の脅迫に応じた相馬さんと佐藤さんは、ホールの服装に着替え、今いる全員を集めた。
「俺らがホールもやるんで、他の奴らもしっかり頼む。店長はレジ」
「ん」
「五十嵐は料理出来るか?」
「一応できます。なんでも」
「じゃあ俺らがホールでいろいろやってたら料理をやってくれ。出来る限りでいい」
「あ、はい」
「伊波はパフェやら…出来ることをやれ」
「……はい」
伊波さんは涙目になりながらも返事をする。
「ああ、あと泣くな」
「それじゃ、頑張りますか…」
◇◆◇◆◇
思ったよりも店は機能しており、人数が少ない割にはよくできていた方だと思ってもいいくらいだった。
五十嵐は初めて家事以外で料理をして得るものも大きかったようで、今回このようなことがあってまた一つレベルアップしたらしい。
途中、伊波さんに3回ほど殴られたが、大事故には至らなかったのが本当に良かった。
「なんとか終わったけど、痛い……顎と腹が痛い……」
「お疲れだね…五十嵐くん。どんまい」
「笑顔で言わないでもらえますか……相馬さん」
「……フーッ」
佐藤さんは喋ることなくキッチンでタバコを吸っている。本当はダメだが。
(佐藤くん。本当に接客が嫌だったんだね…それに対して怒ることも出来ないし、優しいなぁ佐藤くんは)
「とりあえずお疲れ様でした。俺はもう帰ります……身体がもたない」
「そろそろ店も閉まる時間じゃない?俺たちも帰ろうか。佐藤くん」
「………ああ」
五十嵐はフラフラと歩いているともう何が何だかわからなくなってしまっていた。
それがたとえ、着替える場所を間違えていたとしても。
「おい五十嵐そこは……んんっ!」
「ダメだよ佐藤くん……」
相馬さんが佐藤さんの口を手で覆いながら笑顔で言うと、佐藤さんは相馬さんの手を離そうとする。
「お前……五十嵐を見捨てる気かよ」
「素晴らしいブーメランだね。佐藤くん」
五十嵐が更衣室に着くと、目の前には拳があった。
つまり、殴られた。
殴られたことで意識がはっきりしたのか、ここが女子更衣室だと言うことを伊波さんのおかげでわかった。
「うわあああああああ!!すいません!俺ボーッとしてて、間違えました!!!」
即座に部屋を出ると、相馬さんと佐藤さんが待っていた。
「やっぱり今日は……不幸かい?」
「不幸過ぎて死にかけましたよ………」
柊には、将来凄腕の占い師になれるよ。って言っておこう……と心の中で誓った。
次回は特に決めてません。思いついたものを書こうと思います。
またのご来店、お待ちしております