魔法少女まどか☆マギカ [外編]英雄の物語   作:クウキ

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色々ありまして、一度退会してしまいましたが、またこうして戻ってくることができて本当に良かったと思ってます。今度は書き上げられるよう頑張りたいと思いますので、どうかよろしくお願いします!

※8/23
戦闘の内容を修正。話の流れは変わってません。


第一話 偽物のJ/バーサーク・デカレッド

 深夜二時。

 普通の人ならとっくに布団の中で安らかに眠り、とっくに外を出歩いてはいないだろうその時間だが。

 見滝原と呼ばれる街では、とある存在が闇夜の中を駆け抜け、もう一方の自身を追ってくるその存在から逃げていた。

 

 暗闇を照らす街灯は、人間離れした速度を出している逃走者の姿を照らし出す。

 それは、明らかに人間とは言い難い姿をしていた。

 最初に目につくのは、その鋭利な爪。その爪を本気で振るえば、普通の人間ならただでは済まないだろう。決定的なのは、口から伸びている、これまた鋭く、いかにも強固そうな牙。二本生えているそれはアクセサリー等ではなく、正真正銘本物の牙だった。

 

 体のいたるところからネコのように毛が生え、まるで太鼓に絶滅した生物であるスミロドンを思わせるであろうその見た目は、明らかに人ではない。

 ――腰にベルトの様なものをつけているその存在の名は、スミロドン・ドーパントといった。

 

 とても俊敏な動きができるその怪物は、その特性を活かし、チーターのように地面を駆け抜けてとある存在から逃げていた。ある組織では幹部の一人に数えられている実力者にも関わらずだ。

 

 と。後ろから追ってくる気配が無くなったのを確認し、スミロドンは足を止める。

 ――が、しかし。振り返った体を正面に向かせて、身を凍らせた。

 

「――追いかけっこは、終わりにするぞ」

 

 前方に、一人。街灯に身体を預け、腕を組んでスミロドンの方を向いている人間がいた。

 着ているのは、どこかの高校の制服だろうか。髪は後ろでゴムを使って一纏めにされ、顔立ちは平凡、といった所だろう。髪が長いので女かと思われる見た目だが、声からしてどうやら男らしい。

 

 

 それだけなら、まだいい。「ミュージアムの処刑執行人」と呼ばれたその実力を使えば、普通なら一瞬で相手を仕留めることが出来るだろう。

 しかし。問題は、その男の腰に付いているそれだった。

 黒い帯で腰に取り付けられ、赤い塗装を中心に塗られているベルト。よく見ればL字にも見える形をしているそれは、何かを入れるような差込口がある。

「ロストドライバー」と名付けられているそれは、「ドーパント」であるスミロドンには恐怖すべき物だった。

 

 

 もう逃げることが出来ない事を悟ったスミロドンが、戦闘態勢に入る。

 それを見て、男もどこからか取り出した、Jと描かれているUSBメモリにもよく似たそれ――「ジョーカーメモリ」を構え、それを差込口に挿入した。

 

「やる気になってくれたみたいだな。それじゃあ――変身」

『JOKER!』

 

 変身、というやる気のない掛け声と同時に、ロストドライバーのメモリが差し込まれている部分を傾ける。

 メモリに内蔵されているボイスがメモリの名前を宣言すると、青年はその姿を「異型」にへと変えた。

 基本カラーは黒で、その頭部からは二本の白い角が。胸部から両肩へ伸びている紫のラインは、まるでWという字を表しているかの様だ。

 

「俺の名は――少なくとも、仮面ライダーではない。さて、行かせてもらおうか」

 

 

 

 青く美しい星『地球』はその美しさからか、よく悪を呼び寄せる性質がある。だからこそだろう、とある世界の地球にはよく悪の魔の手は迫っていた。彼らの目的は時には地球の資源。時には世界征服。また時には、人類の殺戮。

 時には、と称したのは地球に惹かれたのは一つの勢力だけではないからだ。

 

 世界征服を実行するため、人類抹殺を目論む黒十字軍

 世界を醜く歪め、混乱を振り撒く為に異次元世界からやってきた邪電王国ネジレジア

 自身の主を復活させる為に人々の「恐れの力」を求める牙鬼軍団

 

 世界征服を企んでおり、後に幾度と無く、時には名前を変えて復活した秘密結社ショッカー

 殺人ゲームを楽しみ、自分に課せられたルールを厳守して遊び気分で人間を殺す戦闘民族グロンギ

 人間になることに対して強い憧れを持ち、しかし人間によって在り方を変えられてしまった機械生命体ロイミュード

 

 今挙げたのは一部に過ぎない。他にも多くの大規模組織や独立した生命体等の、所謂「悪」と呼ばれる存在がこの蒼く美しい星を襲っていた。

 ――しかし。悪がいるところには、同時に正義も存在する。

 この畏れ多き存在達から、地球を。人々を。自分たちの守りたい「何か」を守ってきた戦士達がいた。

 

 例外はありつつも、基本的には五人の力を合わせて巨大な悪と戦うスーパー戦隊。

 怪人とよく似た力を持ちながらも、その力を正義として使う仮面ライダー。

 

 所謂「正義」と呼ばれるこの二つの存在は、幾度と無く立ち塞がった悪をそれと同じ数だけ跳ね除けた英雄だ。

 英雄。言い換えれば正義の味方。弱きを助け、強きを挫く。

 ――しかし、それは力の使いようにもよる。

 その力の使いようでは、英雄にも、巨悪にもなれるだろう。

 

 

 

 

 

 スミロドンが爪を合わせて放ってきた光弾を素手で弾くと、ジョーカーはその場から飛び出し、一気にスミロドンとの距離を詰めてきた。

 50メートルは離れているであろう所から、一瞬でだ。

 

 一気に距離を詰められたスミロドンは、それに驚きながらも冷静にその爪を振るう。振るわれた全ての爪が、少なくともジョーカーで変身しただけの人間には見えないレベルの速さであるのに、それを捉えられるのが、今仮面ライダージョーカーに変身している彼だった。

 

「ふっ! はあっ!」

 

 ジョーカーは振るわれた爪全てを避けるか、腕で受け流して防ぐかし、攻撃を物ともせず。その仮面の下では、表情を眉一つ動かさず、まるで攻撃をどうとも思っていない様だった。

 

 そして中々攻撃が当たらず次第に苛立っていき、我慢の限界だったスミロドンは、その身を貫こうと爪で突く様に拳を放つ――が。

 少なくともこれまでのどの攻撃よりも遥かに速かったその攻撃は、ジョーカーが爪を鷲掴んだ事で、その攻撃は本人の意に反する形で止められた。

 

 そのまま爪を掴みながら、何度も膝蹴りをスミロドンの身体に叩きつけるジョーカー。何度も何度も叩きつけている膝蹴りは、その程度では傷もつかない筈のスミロドンに対して間違いなくダメージを与えていた。

 

「……これもくらっとけ」

 

 突き飛ばす様にしてスミロドンの爪を離したジョーカー。おまけと言わんばかりの、鋭い蹴りが叩きこまれ、スミロドンは後方に吹き飛ばされるが、何とか受け身をとって体性を立て直す。

 

 この一分にも満たない攻防で、スミロドンは圧倒されていた。こちらの攻撃全てを読み、そして的確に攻撃を仕掛けることのできるジョーカーに対し、スミロドンは内心恐怖を抱いていた。

 ――もしかすると、自分よりこの仮面ライダーの方が「化物」なのではないか、と。

 

『JOKER! MAXIMUM DRIVE!』

「ライダー……キック」

 

 そう思った瞬間には、もう遅かった。

 すでにジョーカーは右腰に取り付けられている『マキシマムスロット』に、ジョーカーメモリを入れ、所謂必殺技と呼ばれる物の体勢に入っていた。

 

 

 メモリのアナウンスが鳴った後、ジョーカーの右足に、紫のエネルギーが蓄積され始めると、その場から前方に飛び上がり、空中で蹴りの体勢に入る。

 

 最早、スミロドンに打てる手は何もない。強大なエネルギーを纏ったジョーカーのライダーキックがその身を貫くと、その衝撃に耐え切れず、断末魔を上げる間もなくスミロドンの身体は『ガイアメモリが排出されずに』爆発四散、その後身体を残さず消滅した。

 

 

 その場に残ったのは、ジョーカーのみ。風が音を立てて吹き、その場の静寂感を更に現している。無事に倒したことを確認したジョーカーがロストドライバーを外し、元の平凡な学生服姿にへと戻ると、それ程動いた訳でもないというのに、まるでマラソンを走りきった後の様に胸を手で抑えて息を荒くしていた。

 

「はあ……はあ……」

 

 荒い息遣いはしばらく続くが、やがてそれが落ち着くと、何かに気付いたのか落ち着いた表情で辺りを見回す。

 彼は、周囲に「何か」を感じ取っていた。彼の知っている物で例えるなら、その「何か」は魔力だろう。ただ、それ以上の事が分からない。魔力関連の「何か」が周囲にあるのは分かるが、彼の見渡す限りでは周囲に何もいない様子であった。

 

「仕方無い……帰る、か」

 

 怠そうな声でそう彼が呟いた瞬間である。突如彼の前に灰色のオーロラが現れると、躊躇もなくその中に彼は入っていく。

 やがてその場にいた者は誰もいなくなったが、疲労しきっていた彼では気付かなかったのだろう。

 

 彼がいた場所からすぐ近くのビルの屋上に、一人。綺麗な長髪を靡かせ、女子学生の制服のようなデザインであり、紫を基調とした服を着ている彼女は、彼が灰色のオーロラを通って何処かに消えたその光景を目撃していた。

 

「……今のは、一体」

『どうしたんだい、ほむら?』

 

 今見た光景に自分の目を疑っている彼女の後ろには、また一人……否、一匹。白い毛色の、紅い目を持つ猫が彼女に「テレパシー」で話しかけた。

 猫にほむら、と呼ばれた少女はその存在が現れた事に若干の嫌悪感を感じながらも、振り返ってそれに話しかけていた。

 

「……いいえ、何でもないわ。それより、マミと杏子、さやかは?」

『どうやら他の場所に出た魔獣に対応しているらしい。それほど強い相手でもないだろうし、すぐに駆けつけると思うよ』

「そう。じゃあ、一足先に相手をさせてもらおうかしら」

 

 ほむらが振り返った先。丁度、白い猫の後方に広がる風景には、静けさを保った街と同時に。明らかに、異質なものが街の風景に紛れ込んでいた。

 一言で表すなら、長衣を纏った男の巨人、という所だろう。白骨化しているような体の所々にかかっているノイズが、その存在が「世界にいてはならない」といった存在感を表している。

 魔獣と称されている彼らが街に何体もいる。そんな光景を目の前にしながら、ほむらは慌てる事なく魔力で黒き弓を形成する。

 

「……さて、行くわよ」

 

 かつてたった一人の友達の為に、ほむらは幾度と無く同じ一ヶ月を繰り返し、何度も足掻いた。その果てに待っていたのがこの世界であり、ここでもまた戦いは続く。

 ただ一人、記憶を「持ってしまった」ほむらは。いつかまた「最高の友達の笑顔」に会う為に、懐にしまっていた友達から受け取った赤いリボンをカチューシャの様に髪に結びつけ、弓を構える。

 

 結ぶ前に何気なくリボンを見て、そういえば、と。目の前の魔獣の動きは見逃さないようにして、暁美ほむらはふと思った。

 最近よく見る「救えなかった世界」の夢。その中で見るのは「もう見飽きた」場面ばかりだった。自分は「宿敵」の前に倒れ、白い悪魔は「彼女」と契約するという、もう何度も見てしまっていた所。

 しかし、彼女が悪魔に願った「契約」の内容だけはよく聞き取れない。そこだけ風が吹いていた訳でもないし、ましてや「魔法少女」としての聴力なら風が吹いている中で普通に話していても十分聞き取れる距離であった筈なのに。

 まるで、そこだけノイズがかかったように――と。ここまで考えたところで、思考を切り替えた。

 

 

 いつまでも夢のことを考えていても仕方がないし、最早そこで彼女が何を願っていようが関係無かった。

 それは「前の世界」の話であり「新しくなった世界」には関係ないことだ、と。

 

「……私は頑張るよ、まどか」

 

 戦い続ける事に思うところがない訳ではない。しかし、彼女が「存在」を失ってまで守ろうとした世界を、今度は自分が守って行くべきだと。それを決意したほむらは、今日もまた夜の街で戦う。

 いつか見た、「まどか」の笑顔にまた会えるその日まで。

 

 

 

『……頑張ってるほむらちゃんがいつか本当に困っている時に、私が助けてあげたい。それが私の願いだよ、キュウべえ』

 

 

 

 

 街に蔓延っていた魔獣達を一通り倒したほむらは、他の場所に現れた魔獣を殲滅した仲間達と、ビルの屋上で集合して話し合っていた。

 その場にいるのは、四人。髪型も服装もバラバラだが、ただ一つ。共通しているものがあるとすれば、それは彼女ら全員が「魔法少女」であることだった。

 

 西洋風の上品なコルセットと白いブラウスに、黄色いスカート。ブラウスの胸部分にはそれと同じ色をしたリボンが付けられ、黄色い宝石がついた花の髪飾りが頭部の右側に付けられている。一見優雅な印象を持たせ、おしとやかなお嬢様の雰囲気を全身から放っている金髪ドリルヘアーの彼女が巴マミ。

 

 女性らしさをアピールしつつも、いかにも剣士といった、彼女自身の性格を強調した凛々しい青い服。着用している白いマントが、更にそれらしさを強調している。ショートヘアの淡い青髪であり、いかにも男勝りの性格をしている、という風貌の彼女が美樹さやか。

 

 神父服をモチーフとしたであろう真っ赤な服で、ノースリーブの上着の襟元には真っ赤な宝石が。真っ赤な長い髪の毛を黒いリボンで結んでポニーテールにし、どこからか出したポッキーを口に加えて美味しそうに食べている彼女が、佐倉杏子。

 

 マミはほむらと真剣な表情で情報交換をしており、さやかと杏子は会話の邪魔をしないように、と少し離れた場所で雑談をしていた。

 

「……人型の、魔獣?」

「ええ。人ではないのは確かだけど、とても強い相手だったわ」

「巴さんの実力ですら、そこまで言わせる相手だなんて……」

 

 その内容は、先ほどマミが遭遇したという人型の魔獣について。

 魔獣、というのは確かに人型だが。今回マミが遭遇した魔獣は、人とは程遠い異型の形をしていたという。鋭い爪に、獣の様な逆立った毛。まるで狼の様だったその魔獣は、実力者であるマミを相手に互角以上に戦っていたという。

 万一、また他の場所で魔獣を倒していたさやかと杏子がマミと合流出来なかったとしたら、マミも危なかっただろう。

 しかし二人が間に合った事で、人数的にも戦力的にも形勢逆転。どうにかその魔獣を倒し、丁度魔獣を倒しきったところのほむらと合流したのだ。

 

 

「美樹さんや佐倉さんが来てくれなかったら、危なかったもしれないわね。二人共、助かったわ」

「ふん、今度からは油断すんなよな!」

「またまた~、マミさんが大変だって聞いて一番焦ってたのは杏子だった癖に」

「ちょ、さやかてめえ何を!」

「ふふ、ありがとう佐倉さん。美樹さんもね」

 

 さやかの爆弾発言に、赤面しながら叫ぶ杏子。

 微笑ましいそんな様子を見ながらも、クスクスと笑いながらマミは二人にお礼を言い、さやかはそれを「当然ですよ!」と元気な返事をし、杏子はそっぽを向きながら「……無茶すんなよな」とツンツンした言い方をしながらも、そのお礼を素直に心の中では受け取っていた。

 その行為が照れ隠しからくるものであることを、杏子を除いた三人は分かっていたので、それ以上その事に触れることなく話題を戻した。

 マミがそうだ、という表情をし、二人の会話を近くで見ていた白い猫――「キュウべえ」に尋ねることにした。

 

「キュウべえ、これまでそんな魔獣を見たことがある?」

『いいや、これまでそんな魔獣が出たことは一度もない。僕はマミと一緒に居たわけじゃないからはっきり見たわけじゃないけど、マミからの魔獣の特徴を聞いて判断する限りは、そんな魔獣を見たことはないね』

「……あの野郎、かなり腕の立つ奴だったぜ。あんな魔獣がいるなんて、な」

『杏子、魔獣と判断するにはまだ早いかもしれないよ?』

「え? 何よそれ、私達が戦う相手は魔獣だけでしょ?」

 

 魔獣と判断するにはまだ早い。その言葉をほむらが脳内で処理した瞬間、一つの存在がほむらの脳裏を過った。

 希望を振りまく存在が魔法少女であれば、その対極。絶望を振りまく存在である魔女。かつての世界での魔法少女の敵であり、魔法少女達がいずれ到達するであろう成れの果てでもある。

 ――いや、そんな筈はない。確かに魔女は、彼女が存在ごと消し去った筈だ。

 ほむらの額に、汗が流れる。それは焦りからか、かつての「トラウマ」からか。ほむらの様子がおかしい事に気付いた杏子が、声をかけた。

 

「おいほむら、大丈夫か? 凄い汗かいてるじゃねーか。風邪でも引いたのか?」

「……いいえ、大丈夫よ。それよりキュウべえ、魔獣と判断するにはまだ早い、とはどういうこと?」

『簡単な話さ。また別の敵、という可能性が高いというだけだよ』

「別の敵? キュウべえ、それは一体……」

『マミ、一つ質問がある。その魔獣、グリーフキューブは落としたのかい?」

「え?――あ!」

 

 マミの表情がそうだ、とでも言いたげな顔になり、杏子とさやかも同じような表情となる。そう、マミはこれまでとはまるっきり別の異質な状況に囚われて気付いていなかったが。

 魔獣が倒されれば必ず落とす筈の、グリーフキューブをその魔獣は落としていなかった。魔獣の手下の可能性も考えられなくはないが、あの強さで手下というのはまずありえないことだった。

 

『そういうことさ。つまり、マミが遭遇したという存在は魔獣ではなく、その正体は――そうだね、怪しげな存在で人に近い風貌。怪人とでも名付けようか――怪人だった、というわけだね』

「怪人……!?」

『実際その可能性は高いと思うよ。それが一体どういった事情で現れた物なのか、僕には分からないけどね。実際に怪人と会ってみれば、魔獣と関連がある物かどうかは分かるだ――マミ、上だ!』

「ッ!?」

 

 言葉を切らしたキュウべえの叫びに、咄嗟に反応できたのはベテランだからか。マミが地面を蹴飛ばし、後ろに飛ぶ。刹那、上から飛来した幾つもの光弾が、マミが一瞬前までいたその場所を吹き飛ばした。

 

「……まったく、今日はどれだけ倒せば気が済むんだ」

 

 警戒体制に入ったマミ達の前に降り立ったのは、怪人ではなく。

 全身を包む赤に、胸に刻まれた「1」の数字。手に握られている二丁拳銃を、その存在はマミ達に向けて構える。

  かつて地球を守ったスーパー戦隊をよく知る者が見れば、その存在がだれか一目で分かるだろう。マミ達に銃口を向けているのが、かつて非常な悪事を憎み、地球を脅かす宇宙人の犯罪者「アリエナイザー」と戦った戦隊。

「特捜戦隊デカレンジャー」の一人、デカレッドであることを。

 

「貴方何者? 魔法少女では、無さそうだけど……」

「……」

 

 マミの問いかけに、まるで聞こえていない様子のデカレッド。無言で引き金に指をかけると同時に、マミも動いた。

 手慣れた手付きで自身の武器である「マスケット銃」を二丁魔力から形成すると、それを両手でデカレッドに向けて構える。

 それと同時に動いたのは、マミと同じくベテランである杏子とほむら。それぞれ自身の得物である、杏子は「槍」を、ほむらは「弓」を形成すると、それを構えた。

魔法少女としての日が浅く、戦闘経験があまりないさやかも一瞬遅れて「剣」を形成し、いつ動いてもいいように神経を研ぎ澄ます。

 

「おりゃああああ!」

 

 痺れを切らして一番先に動いたのは、さやかだった。

 新人故の無謀とも取れる猛突さで地面を蹴り、4人の中でも一、二番を争う程の瞬発力で一気に近付く。

 

「ああもう、突っ込み過ぎよさやか!」

「カバーは任せて、美樹さん!」

 

 悪態をつきながらも、それを援護するのはほむらとマミ。ほむらは即座に魔力で紫色の矢を形成して何度も放ち、マミは空中にマスケット銃を何丁も周囲に展開し、何時でも放てる準備を施した。

 

 魔力の矢であるからか、本来直進しかしない筈の矢は途中で軌道を変えると、デカレッドの周囲を囲む様にして迫ってきている。

 

 魔力の矢を何とか避けてもさやかが、さやかをどうにかすると今度はマミの弾幕。そしてマミの横で今にも突撃する素振りを見せている杏子。

 

 デカレッドからすれば4段構えのその攻撃。どうしようもなさそうなその状況。

 

 しかし、そんな状況を跳ね除けてこその英雄。

 少なくとも、この状況でも赤座伴番ならば諦めず行動に移すだろう、と。

 そんな想いを持ちながら、デカレッドは行動に移した。

 

 急接近したさやかの剣が、立ち尽くすデカレッドの足を切り裂こうと振るわれる。

 それを踊るような足遣いで躱したデカレッドは、そのまま勢いをつけて無防備なさやかの体を蹴り飛ばす。

 

「なっ!?」

「まず一体」

「さやか!」

 

 

 追撃として迫っていた矢。その速さはまるで神速、少なくとも普通の人間には見えない筈の速度。

 

 別方向から同時にきたそれを、まるでクレー射撃でもこなすかの様に、デカレッドは撃ち抜いたのだ。それも、他方向から来ている矢に対しては見向きもせずに、一切の迷いなく。

 

「な、見もせずに……!?」

「操作しても、魔力を帯びているから位置は分かるんだよ」

 

 デカレッドは軽々しく言い切ったが、実際その技術はとても実跡するのは難しいもの。撃った相手の視線、仕草。それらを見て瞬発的に行動しなくてはならない。

 それが軽々しく出来るのは、幾多もの戦闘経験を積んだ様な人物でないと成し得ない。正に歴戦の勇士がする様な技術だ。

 

 これは油断出来ない、と再び気を引き締め。

 

「──これならどうだよ、っと!」

 

 油断も容赦も一切しない用心深い性格である杏子が、自身の幻覚能力を使ってデカレッドの後ろを取り、その体を貫こうと言わんばかりの勢いで槍で突く。

 

 

 無論、四人は魔獣とは明らかに違うデカレッドを殺すなんて考えは最初からないし、そもそもそんな覚悟もない。ただ自分たちに襲いかかってきたこの存在を倒し、その目的を聞きたいだけだ。

 であれば、狙うのは心臓や頭部といった命に関わる部分ではなく、足や腕といったさやかやマミの治癒魔法で治せる部分に限られてくる。

 

 容赦のない杏子であってもそれは例外ではなく、当たると確信したその時に太腿付近に狙いを変える腹積もりであった。

 

 

 

 

「──殺さない様な覚悟で勝てるとでも?」

 

 

 

 その幻覚戦法すらも見破られており、自身に銃口が向けられた時までは。

 

 

「気配までは騙せんよ」

「チッ、腕の一本や二本は覚悟しなよ──!」

 

 次の瞬間、杏子がとった行動は急ブレーキ。

 勢いのついた体を全力で押し留めながら、銃口から放たれた光弾を槍で振り払う。

 

 急な無茶振りに肉体に負担がかかるが、そんなことを考えている余裕は杏子にはない。

 今考えるのは目の前の敵の倒し方。

 あることにはあるのだ。少し前までの自分なら絶対に取らなかったであろう選択肢が一つ。

 ──今は、それに賭けるしかない。

 

「(ほむら、マミ。今からアタシが全力で隙を作りに行く、その隙に火力を集中させろ)」

「(それだったらあなたまで──)」

「(なーに、アタシだって死にたくない。確認したら直ぐに退避するよ)」

 

 いつもの軽口を交えてだったが、それは嘘である。

 杏子の見立てでは、この存在は戦い慣れし過ぎている。だからこそ迷いなくその場の最善手と思える行動を取れるし、幻覚に気付くなど直感も妙に鋭い。

 無論、退避しても大丈夫だと確信できたらそこで退避するつもりはある。

 しかし、九割方それはないだろうと思うし、それだったら自分が犠牲になるしかない。

 

 佐倉杏子は戦闘を積んだベテランの魔法少女である。だからこそ、その結論に辿り着いてしまったのだ。

 

「(──分かった。あなたに任せるわ、杏子)」

「(ん、それでいーんだよ。軽い援護だけ頼むわ)」

「(佐倉さん……死なないでね)」

「(任しときなって。絶対、生きて帰るから)」

 

 ほむらとマミの心配する様な声に、若干の罪悪感を感じながらもそこで念話を切り、杏子は目の前の敵を見据える。マスクで顔は見えないが、その目がこちらを捉えているのは確からしい。

 好都合である、と思い再び槍を構え直すと、その姿勢を低くする。さながら、短距離走を走るランナーの様に。

 

「久々、本気でやらせてもらうよ──!」

 

 自身を昂らせる為に叫んだのを皮切りに、杏子が駆け出した。

 さやかよりも数段速いそれは、言うなれば赤い閃光。当然だ、今の杏子は魔力を使ってまで走力を強化しているのだから。

 無言でデカレッドが撃つ光弾を、槍を振るってかき消す。

 

 戦闘の経験はあちらの方が圧倒的に上だろう。

 だったら簡単な話。力で押せばいい。

 

「喰らいな──!」

 

 ある程度まで近付いたその地点で、杏子は手に持つ槍を思い切り投げた。まるで、槍投げの様に。

 普通の槍投げは山なりになる様に投げるが、杏子のそれは、走力の勢いと魔力で強化してる腕力も込めた圧倒的までに直進的なもの。

 

 普段はこんな事をしないため性格な威力は計り知れない。間違いなく普通の人であればミンチになるのは確かだ。

 しかし、この相手は容赦もしてられる程甘い戦いではない。

 

 

 

「こんなものか」

 

 だがまあ、当たらなければどうという事はない。

 その速度で放たれた槍を、デカレッドは少し体を捻らせる事で難なく回避。

 その声色には少し失望が入っている様にも感じられたが、次の瞬間その言葉を撤回するとなる。

 

「アタシの顔を見て、まだそんな事を言えるのかい?」

「……!?」

 

 目前まで迫っている、不敵な笑みを浮かべた表情の杏子を見て不審に思うが、その次の瞬間。

 杏子の投げたその槍は、すぐ後ろに突き刺さり、そしてその形を崩壊させ、無数の魔力で編み込まれた赤い糸と化すと、デカレッドに襲いかかってくる。

 

「凝った小細工だな、全く!」

 

 気付かなかった自分の失態を悔やみながらも、その手を休める事はない。距離を取って後退しつつ、回避もしくは銃撃にて糸に対処する。

 

 しかし、そんな事をしている隙を与えてくれる杏子ではない。

 好機とみて一気に近づくと、槍を再び生成して近距離戦を仕掛けてきた。

 

「そらよ!」

「全く、忙しいな……!」

 

 デカレッドが何歩後ろに下がったとしても、その距離を一歩分で詰められるのが杏子。一気に距離を縮め再び槍を振るった。

 

 しかし、何度槍を振るってもデカレッドに届く事はない。

 振るわれるの軌道を読みつつ、必死にそれを避けながら結界にも対処、ほむらが援護として矢を放ってもそれを撃ち落とす。

 

「チッ、化け物かよアイツ──!」

 

 一向に攻めきれないその状況に焦りつつも、脳内で対処を考える杏子。

 

 あと一つ。あと一つ、大きな要因が重なれば恐らく今もデカレッドを襲っている糸での拘束が出来るだろう。

 

 しかし、杏子のネタは尽きている。正確に言えば多節棍となる槍の仕掛けをまだ見せてはいないが、それを使った所で避けられるのが目に見えている。

 

 もっとこう、何か──

 

 

「……っ、何!?」

 

 

 ──例えるなら、今起こった出来事の様に。

 こっそり復帰していたさやかが超スピードを発揮して、デカレッドとのすれ違い様、まるで辻斬りの様に右足に負傷を入れてくれる様な。

 

 そんな状況を、待っていた。

 

「やるじゃん、さやか!」

「杏子にばっか、美味しいところはあげるわけないでしょ!」

 

 この場の誰もそれを予想していなかった。デカレッドですらも。

 足を斬り裂かれたデカレッドは、バランスを崩し転倒。

 

 地に伏せたデカレッドを赤い糸が包み、拘束。

 その隙に杏子とさやかは退避。

 

 デカレッドを拘束している糸は魔力で何重にも編み込まれているので、その拘束を解くのはほぼ無理と言っても過言ではない。

 何とか抜け出せないものか、と思っているデカレッドの視線の先には、巨大な大砲を幾つも展開しているマミの姿が。

 

 

「今だったら降参も受け入れるけど?」

「……」

「反応なし。だったら、少し手荒く行くわよ──!」

 

 叫びと同時に、展開されていた大砲が一斉に火を吹いた。

 勿論、ある程度威力は幾らか落としている。しかしそれでも、合計の火力は人間が喰らえばタダでは済まない。無論デカレッドは強化スーツに纏われているので、ダメージで動けない程で済むだろうが。

 

「……」

 

 放たれた砲撃にも何も反応する事なく。その運命を受け入れている様に静観し──

 

 その場を爆風が包み込んだ。

 

 

「やった──?」

 

 誰かの呟き。確実に動けない状況での砲撃。

 明らかに勝利を確信してもおかしくないその状況。

 

 しかし侮るな。それを覆してこその真の英雄。どんな絶望的な状況でも、デカレッド──否、スーパー戦隊はそれを覆してきたのだ。その体現者は、たかが動けないくらい訳ない。

 

 刹那、爆風によって発生した煙が吹き飛ばされた。それは、風などの自然現象ではない。魔法少女四人が、何かした訳でもない。

 

 彼が──強化スーツの上から新たな白いアーマーを装着したデカレッドが。剣を振るい、煙を吹き飛ばしたのだ。

 

「な!?」

「──デカレッド バトライズモード」

 

 その機械的な声と、彼が構えた剣から放たれた斬撃が四人を襲うのは、ほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

「そ、んな──」

 

 あまりのダメージに、倒れ臥す四人。

 意識があるのは、恐らくほむらだけだろう。

 

 デカレッドがその目前に立つ。自分を殺す気だろう、と思い必死に身体を動かそうとするも無意味。ダメージが蓄積されすぎているその身体は、もう動けない。

 

 そんなほむらに、ゆっくりと剣を振り上げ、そして──

 

 

「ガ、■■■■っ!」

 

 叫びにすらなっていない叫び。本人もどんな言葉を叫んでいるのかすら分からないまま、頭を抑えて叫び。

 次の瞬間、デカレッドの体は突如現れた銀色のオーロラに包まれ、そのまま姿を消した。

 

 

「一体、何、が──」

 

 とりあえず危機が去った事に、身体が一安心したのか。

 ほむらの意識は、急激に遠のき。

 

 先程まで生死をかけた戦いが行われていたその場所に、静寂が齎され。

 残っているのは、意識を失った少女達四人だけだった。

 

 

 

 

『……へえ、マミ達四人を相手にして勝てるなんて、実に気になる存在だ。どうやら怪人とは違うようだけど――関連がありそうなのは間違いないね』

 

 

『円環の理に干渉する計画は一時保留かな。未知の存在である彼と怪人を調べないことには、遮断フィールドを突破される可能性を残したまま計画を進めたくない』

 

 

『気になるのは、さっき彼はまるで混乱しているかの様な素振りを見せていた事。恐らく彼の正体に関係あるんだろう』

 

 

『……だがしかし、一番気になるのは。マミすらも赤子――いや、それ以上の表現をしても納得できる程の彼の素質の大きさ。これじゃあまるで、彼が複数の人間の様な――』

 

 

『……まあいいや。とりあえず、マミ達を起こさなくっちゃ』

 

 

 白い悪魔は、彼に興味を持つ。しかし悪魔は知らない。

 彼は、悪魔が手を出してはいけない存在であり。内に秘めている計画すらも粉々にしかねない、大きい陰謀が動き始めていることに。

 

 

 

 

 

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