魔法少女まどか☆マギカ [外編]英雄の物語   作:クウキ

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※8/23に一部加筆。本当に一部だけなんで多分見返さなくても大丈夫です。本編を少し付け加え、後書きに少し解説入れたくらいなので。


第二話 戦士の邂逅

 とある、夢を見た。それは、「いつか」地球を守っていった戦士たちの記憶。

 

 幾つもの五色の戦士が。仮面の戦士が。何かを守る為に戦い、時には敗れ、しかし最終的には勝ち、時にはその生命を無くし。1000年以上にも渡る記憶にも関わらず、「門矢遊星」の名前は一度も出てこない。

 

 よく似た夢も見た。それは、「いつか」地球を、或いは弱きを襲った悪の記憶。

 

 幾つもの異星人が、異世界人が、自分の欲望を満たす為に暴れ、時には勝ち、しかし最後には負け、その命を散らし、悪の野望は尽く破られ。1000年以上にも渡る記憶にもかかわらず、やはり「門矢遊星」の名前は一度も出てこない。

 

 ――それら全ては俺の記憶じゃないからだ。俺は本郷猛でも、海城剛でも、ショッカー首領でも、黒十字王でも、仮面ライダーでも、スーパー戦隊でも、怪人でも、英雄でもない。じゃあ俺は――

 

 

 

 

「う、ん……」

 

 暗い、寂しげな部屋。家具がベッドと本棚しかなく、本棚にはぎっしりと本が詰められている。それ以外には装飾も何もなく、そのベッドの上で悪夢にうなされている部屋の主――「門矢遊星」の心象を表しているかのようだ。

 やがて、顔を歪めつつも意識がハッキリとしてきたのか、ゆっくりと目を開く。体を起き上がらせてベッドに腰掛ける形になると、手につけていたゴムを取り、それで彼の長い髪を束ねる。

 ポニーテール風になったところで、ようやく立ち上がる。

 目覚めに一回、大きな溜息をした後。

 

「朝、か……悪い夢を見たものだ」

 

 彼――門矢遊星は、完全にその意識を覚醒させた。

 

 

 

 

 

 魔法少女達四人が襲われた翌日。

 さやか、杏子は共に大した怪我は負わず。何とか謎の存在から逃げ切った四人は、翌日午前中から魔獣の探索に出かけ、道中で昨日起こった事について話し合っていた。

 

『……なるほど。それで、君達ですら手も足も出ない存在だったと?』

「……そうね、あいつは強かった」

「ああ。明らかに手慣れてる相手だったよ、アイツは」

 

 先程からその場の空気がぎこちない。四人が話しづらそうにし、無言で魔獣を探索することに専念している。

 理由は当然、昨日の惨敗だろう。そのせいで士気が下がり、お互いに話しづらくなっている。

 そんな中。ほむらだけはとても険しい顔をしており、それに気付いたマミが声をかけた。

 

『君達四人で敵わないとなると、その存在はとても警戒すべき相手だ。他の街にも注意を呼びかけておくよ』

「どうしたの、暁美さん? 凄い顔よ?」

「……いいえ、何でもないわ」

 

 なんでもない、とは言ったが。実際の所、現在ほむらの中では様々な感情が渦巻いていた。相手にかなわなかった事への焦り。彼女が守った世界を、自分が守れなかった事への怒り。

 逃げ出した自分が情けなくて仕方ない――これじゃあ、あの子に顔向けできない。

 どんどんと、負の感情が高まっていくほむら。それにつれて、指輪となっているソウルジェムに負の感情が蓄積されて行き――

 先頭を歩いていたマミと杏子が、立ち止まる。

 

「! 皆、気付いたわね?」

「ああ、「巣」だ。それも近いな」

 

 魔獣が本格的に人の世に出て来るのは夜の間だけだ。しかし、朝から昼にかけては出現しないかと聞かれればそうではなく。昼間は自分の創りだした巣に篭もり、巣に近づいた人間を捕まえ、廃人になるまで感情を吸い尽くた後、巣から放り出す。

 余談だが、これはかつての魔女も似たような性質を持っていた。魔女の場合はそのまま餌となるが、魔獣の場合は人を廃人とするだけで、殺しまではしない。似たようで違うこの2つは、世界の改変から出来たルールだろう。

 ……しかし。どちらにせよ、そんな悪行を許すわけにはいかない。

 

「皆、行くわよ!」

 

 マミの掛け声と共に、一同は魔獣の巣が感じられたその場所へと向かう。

 普通の中学生としての日常は終わり。魔法少女としての「日常」が、始まった。

 

 

 

 

 

 冬の寒気は、もう一度眠ろうとした彼を許さない。仕方なく起き上がった彼は、洗面所に行って顔を洗い流す。冷えた水が、より一層と彼の意識を覚醒させた。

 濡れた顔をタオルで拭き、リビングに向かう。既にリビングには、一人。遊星より先に起き、ソファーに佇む女性が居た。

 一言で言うなら、その女性は美しかった。長い艶のある髪。丁寧に整った細かい仕草。すらっとした顔立ち。その雰囲気は、まるで現代の大和撫子。見る者全てを一目で魅了させる彼女は、時と場所によっては多くの男性から求婚されていただろう。

 

「あら? おはよう、遊星」

「……ああ、おはよう、輝夜」

 

 彼女――蓬莱山 輝夜が、遊星に気付いて美しい微笑みと共に挨拶をする。それを返した遊星が、輝夜の隣に座り込む。

 しかし。そのまま何か話すわけでもなく、二人でこの穏やかな時間をゆっくりと過ごす。特に、輝夜はその時間を楽しんで過ごしている。

 

 

「……」

「……」

「今日は、いい天気ね」

「……そうだな。後で散歩にでも出かけるか?」

「ええ、そうしましょうか」

「……」

「……」

 

 これが、この二人の日常だった。特に何かするわけでもなく、ただひたすらゆっくりと平和を噛み締めながら過ごし。たまに何か話すと、また無言に戻り。

 ――日常は、突如終わりを迎える

 

「遊星、怪人ね」

「……ああ。お前はどうする?」

「ついていかせてもらうわ。少しでも実戦の経験を積みたいし」

「……ああ」

 

 日常は終わり。非日常は、突然始まる――

 

 

 

 

 

 第XXXX回 観察書類 見滝原市

 

 四人の魔法少女に、円環の理に導かれる状態となる傾向は無し。

 しかし、魔獣とはまた違う存在を二つ発見。一つは下級の魔獣より手強い「怪人」と名付けられた存在、もう一方はその怪人を敵と見なしていると思われる存在。前者は魔法少女三人がかりでようやく倒せた存在であったが、後者は四人の魔法少女(内三名はベテラン)を圧倒する強さを持った存在。

 この存在がいる事により「円環の理研究計画」は保留。しかも後者からは之までの歴史上最高の素質を確認。この存在と契約すること、並びに円環の理の支配が成功するならば、この宇宙を救うという目的は果たされたと言っても過言ではないだろう。

 この存在は慎重に取り扱うべき問題である為、現地や近くの市の魔法少女達を誘導して倒させる事も視野に入れて行動すべきであると判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 四人とキュウべえが魔獣の気配を追ってたどり着いたのは、とある神社。魔獣が出やすかったり、巣がよくあるのは、人の感情が出現し易い場所。こういった場所ならば、よく感情が吸収できると踏んだのだろう。

 

『なるほど、確かにこういう場所なら様々な感情も渦巻いている。感情を集めるのなら効率的だね』

「キュウべえ、下がっていなさい。来るわよ」

 

 巣まで到達されたと察知したのだろう。何もなかった境内の空間に、突如ノイズが発生した。それは魔獣の巣に誘い込まれる合図。

 その辺り一帯の空間が、現れるノイズに侵食されていく。同時にほむらたちは魔法少女服に変身し、いつ何が来ても良いように警戒をする。

 そこは深い霧と森に包まれた一本道だった。乾燥した石敷きの道が、神社への道を思わせる。

 魔獣の巣は、存在する場所によって空間の内容が異なる。その場所の記憶を読んでいるのか、その場所の情報から創りだしているのかは分からない。しかし、何かしらの理由から巣は発生場所に関係した空間を創りだす。

 

 そんな中。警戒は怠らせる事なく、マミが全員に声を掛けた。

 

「皆、色々と考えることもあると思うわ。でも、今は魔獣を倒す事に専念して!」

「……当然よ」

「もっちろん! 任せてくださいよ!」

「ふーん、さっきまで一番落ち込んでた奴が何を言ってんだか」

 

 マミの言葉で三人、そしてマミ自身も自分に喝を入れ直せた事で元気を取り戻せたのだろう。あっという間に四人の間では戦闘とは言えない様な雰囲気となる。

 無論、警戒はしたまま。そのおかげだろう、四人の後方に居た人物にほむらが気付けたのは。

 

「……何者かしら?」

「……気付いていたか」

 

 自身の後ろ。先の見えない一本道の向こう側に、何者かの気配を感じ取るほむら。しかもそれは、一つではなく二つの気配。

 しかも聞き覚えのあるその声は、昨日自分たちを襲ってきた存在と同じ声。警戒するほむら達の前に、霧の向こうから二人。ゆっくりとした歩みで姿を表す。

 カップルの様に並んで現れたのは、男女のペア――輝夜と遊星の二人。

 

 黒い無地のTシャツに、黒いタイツ。その上にピンクのスカートを履いている輝夜は、四人に対して優しい笑みを浮かべるだけで敵意は全く無く。白い無地のTシャツ、その上に黒の革ジャケット。そこにジーンズを履いている遊星は、黙ったまま無表情でジッ、とほむら達を見つめている。

 

「こんにちは、えーっと……魔法使いの女の子さん?」

「ま、魔法使い……って、そこのあんた!」

「……俺か?」

「あんた、昨日私達を襲った奴でしょ! 声でバレバレよ!」

 

 自分に声が飛んでくるとは思わなかったのだろう。遊星が疑問を漏らし、さやかが更に追求する。

 さやかの追求は、今この場にいる魔法少女たち四人が思っていた事と同じだった。当然だろう。説明してもらわなければ、納得することは出来ない。それに対し首を傾げて、昨日、と呟きながら思い出そうとするが心当たりの無い様子の遊星。

 三秒ほど立ったところで「ああ」と思い出したかの様子で遊星は話し始めた。

 

「昨日の夜なら心当たりが無くもない……そうか、そういうことか。その格好から判断するに、お前らがこの世界を守っている英雄だな?」

「守る……似たような物かしら? でも、英雄って……」

『そうだね、古くから世界を守っているという点では英雄と言えるだろうね』

「ね、猫が喋った!?」

「……いや、喋ったというよりあれはテレパシーだな。それよりも――」

「――暁美さん、来るわよ!」

 

 遊星が辺りを見回すと同時に、周囲を警戒していたマミが叫ぶ。それは突然の事だった。遊星たちと魔法少女を挟み撃ちする形で現れたのは、何体もの魔獣。

 囲まれた。マミ達は即座に武器を構え――遊星と輝夜は、最も魔獣と近い場所にいるというのに、その余裕を崩すことなく。

 

「これ、新しい怪人かしら? 少し不気味ね」

「この世界特有の怪人だろ。さて輝夜、やれるな?」

「ええ、勿論……!」

 

 輝夜が独特のポーズを取ると、その腰にベルト――「アークル」と呼ばれているそれが出現、装着され。遊星もまた独特のポーズを取ると、アークルとよく似たベルト――「オルタリング」と呼ばれる物が腰に装着される。

 しかし、アークルに内蔵されているアマダムだけは、本来の物とは違っていた。本来――少なくとも、五代雄介が使っていたアークルのアマダムは、フォームによって変わるものの、基本は赤かった。しかし、そんな赤みなど一切見せず。輝夜の持つアークルのアマダムは、白一色だった。

 

「あれは……ベルト?」

「昨日あんな物付けて……いや、なかったよな」

「昨日何を見たのか()()()()、多分今日のはまた別だ、見せてやるよ。俺の――」

「私の――」

 

 二人が叫ぶのは、四十年間仮面の戦士となる者が、正義と悪も変わらず言ってきたあの言葉。

 輝夜は、自身を変えるこの言葉に誇りを持って。遊星は、自身を変えてしまうこの言葉に嫌悪感を抱きながらも、責任を背負って。

 

「「変身!」」

 

 叫ぶと同時に、輝夜は左手の甲で左腰にあるアークルのスイッチを押し、遊星は両手でオルタリングの両腰にあるスイッチを押す。すると、二人の姿は光に包まれ、見る見る内に変わって行き。その光を見た魔獣が、一斉に遊星たちに飛びかかった。

 魔獣達が二人に触れるか触れないかの距離まで近づいたその時。光から飛び出してきた二つの拳が、魔獣の体を貫いた。魔獣は呻き声を上げながら、ノイズとなって消えていく。

 

「魔獣が……」

「……拳の一撃で!?」

「ったく、ヒーローの変身中は攻撃しないっていうお約束を知らないのかしら?」

「……その冗談、本気で信じていたのか?」

「え?」

「……いや、何でもない」

 

 軽口を叩きながら光から出てきたのは、似通った姿をした二人の戦士。

 輝夜が変身する戦士、クウガは――白かった。本来グローイングフォームと呼ばれる物と、同じものになっていた。三つ違う点があるとすれば、一つは角だが「小野寺ユウスケ」が変身するクウガが、本来角が短い筈のグローイングフォームの角が通常の形態と同じまでに伸びている。二つ目は、その眼だ。複眼の部分が赤ではなく黒く染まっている。

 決定的に違うのは――その威圧感だった。基本的に穏やかな性格の本人はそんな自覚は無いが、彼女が立っているだけで、耐性が無い者はかなりの威圧を受ける。仮に、グロンギ最強の存在と出会ったことのある者が彼女と戦えば、分かるだろう。彼女の放つ威圧感が、ン・ダグバ・ゼバの放つ物とよく似た物だと。

 何故そんなクウガなのか、それには遊星が関係しており。この姿を見て、直球にも程はあるが「ダグバフォーム」と。遊星はそう名付けた。

 

「……究極の闇を受け継いだクウガ――相変わらずの風格だな」

「そう? 遊星のその……アギト? それも結構な風格出してると思うけれど」

 

 遊星が変身する戦士、アギトは本来と同じ物となっている。黒い素体のボディに、金色のアーマー。赤色の複眼と、龍の様な二本のクロスホーン。

 大地の力を宿した、超越肉体の金。仮面ライダーアギト グランドフォーム。本来ならば津上翔一が変身するその戦士が、世界を超えて今ここに現れた。

 

「本当のアギトなら、これとは比べ物にならないんだけどな――」

「何か言ったかしら?」

「……いいや、何でもない。それよりそこの魔法使い四人。思うところもあるだろうが、ここは一時共闘と行かないか?」

 

 ここで戦ってもお互い面倒だし、と付け加えた遊星の提案。四人の中でも自他共に認めるリーダー的存在であるマミは、その提案を受けるべきか迷った。

 それは当然だ。相手は昨日自分達を襲ってきた人物。まだ素性も明らかになっていない人を信用すべきではないだろう。

 しかし、ここで彼らと敵対するのは明らかな自殺行為でもある。魔獣の相手をしつつ、自分達を圧倒した人物とも戦うのだ。昨日よりも最悪な条件で相手をするべきではない。

 それに――遊星の放つ雰囲気は、昨日とは明らかに違うのだ。殺気に満ちていない、穏やかな雰囲気。一緒にいるだけで心が落ち着きそうなそれを、マミは心の何処かで知っていたから。

 

「(あの人――誰、だったかしら。誰かと雰囲気が同じなんだけど――)」

「(マミ、ここで彼らと戦うのは避けたいわ。彼の提案を呑みましょう?)」

「(暁美さん……ええ、そうね)……ええ、提案を呑みます。でも、下手な動きを見せたら遠慮なく攻撃させてもらうわ」

 

 

 迷っているマミを見かねたほむらの助言を受け、決意したマミの一言に、遊星は「それで十分だ」と一言だけそう返し、輝夜と共に、後方の魔獣の群れに突っ込んだ。

 

 

「マミさん! あいつらは……」

「分かってる。でも、彼等と今争ってもやられるのが分かるでしょう?」

「うっ、それは……」

「分かったなら私達も行くわよ!」

 

 黙り込んださやかを見て、一先ずは納得してくれたと判断したマミの声と共に、自分たちの前方を塞ぐ魔獣達との戦闘に入る。

 奇しくも、お互いがお互いの背中を守る形になり。二つの英雄は、目の前の敵を殲滅することだけに集中をした。

 

 

 

 

 この程度の魔獣に苦戦するほど、私──暁美ほむらは弱いつもりはない。

 向かってきた魔獣を矢で牽制しつつ、ふと気になった彼──あの女性が遊星と呼んでいた彼の様子を見る。

 

 彼が変身した「アギト」という存在。正に戦士という風貌をしているそれは、淡々と魔獣に対処している。しかし、その動きに昨日の様なキレはなかった。

 

 確かに今の彼も強い。しかし、私であれば互角に渡り合える様な印象しか持てないのだ。少なくとも私達四人を相手に、互角以上に戦える様な実力を兼ね備えているとはとても思えない。

 

 意図的に隠しているのか、それとも。

 一定の条件下でしか、あの動きが出来ないのか。

 

 そのどちらにしても、とりあえずは目の前の魔獣に対処すべきだろう。

 

 再び弓を構えて、矢を放った。

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!てやっ!」

 

 怪人にしては珍しい、高身長――三メートルはあるであろう巨人が複数、かざされた掌から白いレーザーを放つ。数は多いし威力もあるだろうが、そんな攻撃じゃあ私を止めることはできない。

 私――蓬来山輝夜が変身するこのクウガの能力。視認できる場所、かつ視認できる範囲に足場がある場所ならば瞬間移動できるこの能力を使い、レーザーを容易く避けると同時に怪人の目の前まで瞬間移動。構えた拳を放ち、怪人の体を貫き、倒して油断した瞬間を狙ってきた怪人たちのレーザーをまた避ける為に瞬間移動、目の前まで行ってまたその体を貫く。

 単純な敵ならば、これを繰り返すだけで倒せる。体力の消費が激しいのが弱点の一つ。弱点が多いのは難点だが、それを差し引いてもこの能力は決して弱くはない。

 と、次の瞬間。一瞬反応が遅れ、後ろから腕を伸ばしてきた怪人の手に捕まってしまった。

 

「……あら、後ろから鷲掴みとは乱暴ね」

 

 この身体に肉体のある第三者が触っていると、能力が使えなくなるというのが、もう一つの弱点だ。

 ……しかしこの怪人、見かけによらずかなりの剛力である。軽く振りほどけると思っていたが、軽く力を入れた位ではこの拘束は解かれない。

 私の体を持ち上げ、怪人の顔と同じ目線になる程にまで持ち上げられる……チャンスだ。地面に叩きつけようとし振り上げ、油断して手の握る力がほんの少し弱まったその瞬間、一気に力を振り絞って拘束を力ずくで振り払い、同時に高エネルギーを集中させていた右足が白く輝く。

 

「レディの身体を乱暴に扱う奴にはお仕置きよ!」

 

 言いながら光り輝く右足での蹴りを、怪人の顔面に思い切り叩き込んだ。勿論、そんな事をされて受けた側は無事に済むはずがない。大きな衝撃音と共に、怪人の頭がノイズとなって消え、それにつれて体もノイズと化して消えた。

 そのまま地面に着地し、息を整える。こうもキリがない程居ると、負けはしないがやはり手こずる。体力的にはもう瞬間移動は使えないだろう。そうなると、たった今一つ問題が発生した。

 前方には、新たに現れた怪人が複数。それら全てが、私を狙っているようにも見えた。

 

「……数の暴力、って訳ね。今の私には良い戦法だわ」

 

 数が多いとはいえ、不用意に近寄ってくる怪人の体を蹴りで吹き飛ばす。が、一体倒した位では数の不利は揺るがない。勝利を確信したのか、大量の怪人が一斉に手を翳し始めた。

 今にも放たれそうなレーザーの嵐。食らったら微塵も残らないだろうけど――これが最後ならば、問題ない。

 私も同じように、手を怪人たちに向けて翳す。そして、その手に力を思い切り込めた次の瞬間。

 私の前方にいた怪人全てが、体の内側から発生した炎に包まれる。悲鳴を上げる間もなく、それらは一瞬にしてこの世から消滅。後には何も残らなかった。

 

「……パイロキネシス、ってね」

 

 モーフィングパワー。それが、たった今起こった現象の正体だった。モーフィングパワーというのは物質の原子、分子を分解、再構成する能力だ。

 今の現象はその能力を利用して起こした所謂パイロキネシスという奴だ。その威力は見ての通り絶大、周囲に居た怪人達全てを殲滅することが出来た。

 

「はあ……疲れたわね」

 

 強力故に、この能力は使った後かなりの体力を消費する。遊星に聞いてみると「本来使えない物を使える様になった代償」だと言っていた。

 何だそれ、私は代償を払ってまでそんな物を望んでいない、と思っていたが、それは口にしなかった。何故なら、それを語る時の遊星の顔は、これに関係している訳でもないのに何かに申し訳なく思っているという顔だったから。

 

「……お前も終わったか」

「あら、先に終わってたのね」

 

 変身を解除した私に、最初に声を掛けたのは遊星だった。やはり、私よりも先に終わっていたらしい。

 すると、突如周りの空間が歪み始め。ガラスが砕けるような音が響き渡ると、次の瞬間私達は元いたあの神社の境内に戻っていた。

 そういえば、と。魔法使いの女の子達の様子を見ようと後ろを振り向くと、既に終わっていたのかあの可愛らしい服装は私服に戻っており。明らかに疑惑を持ったその視線は、私達に向けられている。

 

「……さて、これで邪魔者は消えたが。どうするんだ?」

「あの姿の事、私達を襲った理由、全てを話して貰いたいわ」

 

 遊星の問いに答えたのは、黒髪の綺麗な女の子だった。

 ……しかし、襲ったとはどういう事だろうか。過ごしてしばらくになるけど、遊星が誰かを襲うなんてそんなこと、ある筈が無い。

 不器用に優しくて、少し私をからかう時もあって、強くて。色々な意味で、遊星はそういう事をしない人物だと私は思っている。遊星が襲うといえば怪人達だが、彼女等は怪人にも見えない。

 

「輝夜」

「!? な、何?」

 

 不安げに背中を見つめていた私に、遊星は振り返らずに声を掛ける。突然声を掛けられたので驚いたが、何とか出来る限り平静を装って返事をする。

 いつ、何が起きても良いように魔法少女達は二人の動きに警戒する。

 

「……俺は野暮用が出来た」

「えっ?」

「後、暫く帰る事はない。金は置いてるから、適当に何か作って食べてくれ」

「え、ちょ、遊星!?」

「ちょっと、貴方にも答えてほしい事が――」

「すまない、必ず戻る」

 

 遊星は顔色一つ変えることなく、自身に備わった能力によって現れた銀色のオーロラに入り込む。それに入り込んだ彼の姿は、跡形もなく消えた。

 慌てて追おうとした私だが、通過する前にオーロラは消滅した。

 ……全く、何を考えているのやら。

 

「はあ……貴方達、遊星が色々迷惑を掛けたみたいでごめんなさいね」

「え? いや、そんな……」

「……出来れば、さっきの姿や貴方や彼の事について聞きたいのだけれど」

「さっきの……ああ、クウガの事ね? 分かったわ、貴方達の事も聞きたいし」

 

 クウガ。聞き覚えのない単語に、少し眉をひそめる魔法少女達。

 しかし、それも含めて聞かせて貰おうという事で。その場で、彼女等の情報交換が始まった。

 

 

 

 

 

 

 見滝原市内。しかし神社から遠く離れたその廃ビルに、オーロラは突如現れる。そこから出てきたのは、無表情のままの遊星だった。

 しかしその顔色は、一瞬にして苦痛の色に変わる。

 

「くっ……ゲホッゴホッ!」

 

 突如咳き込む遊星。その咳込みは止まる事なく、遂には血を吐き出し始めた。

 苦しい。早く止まってくれ。そんな願いとは裏腹に、咳込みは止まることはない。

 人気のない廃ビルに響き渡る咳。どんどんと血を吐き出し続け、ついには遊星の足元に血溜まりが出来る程。

 普通の人間ならば既に失神、最悪死亡している程の血量を吐き出しているというのに、遊星は跪いているだけで失神などする様子も予兆もない。

 

「ッ……」

 

 やがて咳が止まったその時には、おびただしい程の血溜まりが、遊星を中心に広がっていた。

 自分が今どんな顔をしているか分からず、確かめたい為か地面に映る顔を見る遊星。写った遊星の顔は――狂気の笑みを、浮かべていた。

 それを見た遊星はその顔に嘲笑を浮かべ――次の瞬間、遊星が血に染まった床を殴りつける。

 

 その腕は豆腐を壊す様に床を貫き、建物全体にその際の衝撃音が鳴り響く。

 血が滴り、真下の部屋までこぼれ落ちる。カッ、となった意識が落ち着いて、自分がやった事を改めて認識し、乾いた笑みを浮かべた。

 着ていた服、部屋の床。全てが赤く染まり、唯一それに染まりきっていないのは遊星だけだった。

 

『やれやれ、酷い有様だね』

「……お前、さっきのか」

 

 そんな彼に声をかけるのは、部屋の入り口に立っていた猫――キュウべえだった。

 大して驚いた様子も見せず、遊星はキュウべえをギロリと睨み付けた。

 自身の瞳を見つめる赤い瞳に不気味さを感じながらも、それに怯まず彼は立ち上がる。

 

『一つ、聞きたいことがある』

「……何だ」

『君が何故吐血したかはいいとして、何故そこまで血を失っていて生きているんだい?』

 

 無機質な瞳が次に向けられたのは、床の血だまり。

 キュウべえの言葉は、つまり遊星が「何者」なのかではなく「人間」なのかを聞いていたのと大差なかった。遊星の最終的な吐血量は、人間ならば必ず死んでいる程。否、死んでいる所ではない。見る限り、恐らくは人間の体内にある血液量を超えている、とキュウベえは推察している。

 それは人間であるかを疑うには十分すぎる理由。しかしその質問の意図を分かっているのか、遊星は無言で貫く。

 

『答える気は無い、という事だね。それならそれでいい、僕の目的は君に魔法少女について教える事だからね』

「……魔法少女。さっきの奴らか」

『ああ。教えてあげよう、祈りを対価に戦う少女達の事を――』

 

 




ダグバフォームの解説をし忘れたので軽く説明。

本編でも言われてた通り、一言で言えばダグバの力を使えるクウガです。まだ不完全な形態なので、体力も大幅に消費する燃費の悪い事この上ないですが、輝夜の実力が上がる毎にそれはどんどん改善されてきますが、最後には──?

ってな感じです。その事でも、それ以外の事でも質問がありましたら感想かメッセージでお答えします。
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