それと、前回のあとがきに輝夜はお借りしたキャラだと書きましたが、諸事情によりオリジナルのキャラとなりました・・・完全なオリジナル、という訳ではありませんが。
「ーーそれが、私が変身する戦士についての全てよ。尤も、教えてくれたのは遊星なのだけれどね?」
魔法少女という存在について説明を受けた私は、こちらも自分の使う力について説明をしていた。
クウガ。それは超古代文明の民族が、グロンギと呼ばれる怪人に対抗するべく創り出した戦士。
アークルと呼ばれるベルトを使って変身し、アークルの内部にある霊石アマダムの力により得られる、超人的な身体能力を駆使して戦う。
といった事を簡単に説明して納得してもらう……筈だったが。
「クウガ……アークル……超古代文明の戦士、かあ」
「さっき戦ったし、魔法少女の事もあるから信じるっちゃ信じるけど、なあ」
正直、失敗した気がする。青髪の子……さやかちゃんと、赤髪の子……杏子ちゃんは、私の話を聞いて悩むように唸っている。
仕方ない事であるのだ。いきなり突拍子のない話をされたらこうなるに決まっている。
あちらからすれば、今の私は昨日襲って来た疑惑のある遊星の仲間。疑念が晴れていないところでこんな話をしたところで、すんなり受け入れられる話ではない。
「……やっぱり、いきなり明かさない方が良かったかしら? ごめんなさい、もう少し段階を踏んで話すべきだったわね」
「いえ、そんな事は。先ほどの門矢さんに関してはともかく……あなたは信じてもいいと、私は思っています」
「……そっか、うん。ありがとうね?」
ほむらちゃんがそういうと、他の三人もそれに同調して頷く。
そう言ってもらえるのは嬉しいが、同時にやはり遊星を信じて貰えないというのは悲しいし、悔しい事ではある。
しかし彼女達も何とか納得しようとしてくれている上での言葉なので、それに関しては何も言えない。
そも、彼女らの話が正しいにしても間違ってるにしても悪いのは遊星。弁解をすればとりあえず何とかなったかもしれないそれを、遊星はあんな形で別れたのだ。警戒されてもそれは彼が悪い。
「全く、遊星ったら。今頃どこで何やってんのかしら? ……こんな事したら警戒されないわけがないってのに。しかも、いつだって私の事を放っておいて……」
「……あの、少し気になったのですけど」
「え、あ、ごめんなさい。どうしたのかしら?」
「輝夜さんと門矢さんってどういう御関係なんですか? もしかして、恋人とか?」
ブツブツと呟いていた私に、少し遠慮がちに手を伸ばして質問したのはマミちゃん。
……恋人。まさかそういう風に見られてるとは思っていなかった。それは違うわ、とその質問を否定し。
「彼とは弟子と師匠、って関係かしらね。あ、当たり前だけれど私が弟子よ?」
「弟子と、師匠。という事は、門矢さんに鍛えてもらっているという事ですか?」
「ええ、この関係が始まったのは一月前の──っと、ごめんなさいね。流石に話を脱線させすぎたわ」
そこで遊星の話を終わらせ、その後は魔獣・怪人退治についての話を進めて、結論が出た。魔獣と怪人に関してはお互い協力して戦闘に臨む事になった。
信用に関しても私に関してはとりあえず信用して貰える事になり、遊星に関しても可能な限り友好的に接するが、本人から攻撃してきた場合はその限りではない、という事になりそれに私も同意した。
自分を何とか納得させて、という但し書きが付くが。
「それにしても、遊星が、ねえ」
帰路に着いている中で、そんな事をボヤきながら歩く。
あの遊星が、無害の少女達に問答無用で危害を加える。そんな事は、普段の遊星からしたら絶対に有り得ない。
「だからこそ、信じてあげないと」
遊星の味方は、今私しかいないのだ。そんな私が信じてあげなくてどうする。
──それに、初めて出会ったあの日に。
『……初めまして、見知らぬレディ。早速で悪いが、単刀直入に聞こう。正義の味方になる気はあるか?』
何も無くしてしまった私を救ってくれた英雄を、どうしようもない事態になるまで私は信じてみたいのだ。
廃ビルの一室。
最早呪われていると言われても信じるであろう程の、惨状となっているその部屋の中央にある血溜まりにポチャリ、と一つの物体となったソレ──キュゥべえの死体が、投げ込まれる。
白かったその身体は赤く染まり、光のない、無機質な目は、投げ込んだ張本人──門矢遊星の冷酷な表情を映している。酷く深い溜息を一つ付くと、
「魔法少女という存在について教えてくれたのはありがたかったが──それだけ済めばもう用無しだ。まあ、どうせインキュベーターには個体が無数にあるんだから一機くらいいいだろう?」
その部屋に唯一ある窓に視線を向けながら、問いかける様な口ぶり。それは、何処かで監視しているであろうキュゥべえに対して言ったものか。
しかしこのまま放置しておくと、呪いのスポットとなってしまう。
何処からか取り出した金色の携帯──マージフォンと呼ばれるソレを取り出すと、画面の部分が展開。杖の様な形になったそれに番号を入力して一振りし、
「マジーネ・マジーネ」
と呟く。瞬間、遊星が吐血した後の血だまり、着ていた服に付いた血痕、キュゥべえの死体、砕けた床といった、遊星がここに来た後に加えられた要素が跡形もなく消え去り。
残ったのは、見た目は古ぼけている筈なのにどこか清潔感のある、綺麗とも一瞬錯覚してしまいそうな一室と、その中央に座り込み、自分が聞いた事を整理している遊星のみ。
考えるべき事は沢山ある。自身が聞いた魔法少女という存在。その危険性。
自分が彼女達を襲ったという確かな事実。自分が今抱えている状況。
それらを整理して考えると、面倒な事しか待ってないであろう未来しか予想出来ない事に内心嘆きつつも、次の瞬間には既に自分がやるべき事を決めていた。
「──魔法少女、か。見極めるべきだな」
立ち上がった遊星が指をパチンと鳴らすと、銀のオーロラが出現。
遊星がそれの向こうへ歩いて消えていくと、後には何も残らず。オーロラも、ひとりでに消えていった。
それから、数日の時が経ち。
「おりゃあああああ!」
自身の得物を構えると、コンクリートの床を踏み台にして一気に飛びかかる。
魔獣が撃ってきたレーザーを姿勢を低くして掻い潜り、一気に懐まで潜り込むと思い切り剣を振り上げる。
大振りで隙だらけの攻撃だが、知性のカケラも残っていない魔獣には有効であり。身を切り裂かれた魔獣は、出血する事もなく実体を保てなくなり、切り裂かれた断面から消滅。
「いぇーい、さやかちゃん大勝──」
「美樹さん! 油断しちゃダメよ、後ろ!」
「──っとと、危なっ!?」
調子に乗るさやかだが、他の魔獣を倒していたマミの叫びで、後ろに居た通常より一回り大きい魔獣が自分を狙っている事に気付くと、慌てて回避。レーザーが少し頰を掠めたが、それ以外は無事に済んだ事に安堵の息を思わず漏らす。
「──私に任せて!」
「お願いします、輝夜さん!」
杏子やさやかといったスピードタイプにも劣らずの速さで、最後の魔獣に向かって駆け出したのはクウガに変身している輝夜。
クウガが右腕にアークルから漏れ出るエネルギーを集中させると、それに反応して右腕自体が光を放っている様に、白く輝き。
「喰らいなさい!」
気合いを入れる為の叫びと共に、全力でその拳を叩きつける。
高エネルギーにより強化されたパンチ。ハンマーか何かで壁を殴った様な轟音がその「巣」の内部の空間全体に響かせ、エネルギーの放出の余波は、ただでさえその拳により身体に穴が空いていて、じき消滅するであろう魔獣を跡形もなく消しとばした。
そして、最後の魔獣が倒された事により巣は消滅、無事に戦いが終わったさやか達と輝夜は其々の変身を解除する。
「──ふう」
「お疲れ様でした、輝夜さん」
「アンタやるじゃん、最後の奴には驚いたよ」
「そんな大した事はしてないわ。連発が効くような物でもないしね」
魔獣が落としたグリーフキューブを回収しながら、マミと杏子は輝夜に声をかける。何てことはない言葉に悪くないような気持ちを抱きつつもそう答えると、マミは思い出したかのような声と共に。
「──それと、美樹さん?」
「うぇぇっ、はい……」
「戦闘中に調子に乗らない事! 危なかったんだから!」
「はーい……」
マミに注意され、項垂れるさやかの様子がその場を少し賑やかにした後、その場はお開きとなり。
皆がマミの家でお茶をご馳走になるという話になったが、さやかは家の用事があるから、とそれを断ってその場を離れた。
「輝夜さん、優しそうな人だったなあ」
住宅街の一角を歩きながらさやかが考えていたのは、今日初めて戦っている姿を見た輝夜の事だった。
容姿もとても綺麗で、物腰が柔らかく、戦闘になっても、師匠的存在であるマミと同じくらい頼りになる存在。
今日一日だけで、それだけ輝夜の事を好印象にさやかは感じていた。
「──それでも、あいつは信用できない」
しかし、次の瞬間に頭に思い浮かべたのは遊星のこと。輝夜にはとても申し訳なく思いつつも、やはりさやかの中で遊星に対する疑念は全くもって晴れていなかった。
その事を思い浮かべたさやかの表情は、どんどん険しい物になっていき。
「──おい、」
「……」
「おい!」
「っ!? ごめんなさい、気付かなく、て」
少しイライラしながらもその事しか頭に浮かんでなかったさやかは、自分に声を掛けられている事にも気付かず。声をかけた存在が少し声を張り上げる事で、ようやく自分に声を掛けている存在に気付いた。
「少し考え事を──あんた」
「……一応言っておくが、会ったのは本当に偶然だ」
数日前に見たその顔と声は忘れる筈もない。怪訝な表情を浮かべている遊星が、そこに立っていたからだ。
──何故か、さやかの知り合いのバイオリニストが着ていそうな正装を着ているが。
「……何の用よ、こっちはあんたに用事なんてないんだけど」
「随分酷い言われようだな……まあ当然か」
「当たり前よ! 輝夜さんはともかく、あんたは私達を襲った相手なんだ!」
「……それに関しては否定も、弁解もする気はないが、謝罪は──」
言葉を途切らせ、表情を歪めた遊星が、突然後ろを振り向く。
何も居なかった筈のそこには、いつの間にか明らかに人とは姿形がかけ離れてるモノが。
全身が黒い堅固な皮膚で覆われているが、胸部分がステンドガラスの様になっており、頭部からは自身の強さを象徴する様に三本の角が生えていて、どこか甲虫を思わせる見た目。
かつて「キバの世界」に君臨していたビートルファンガイアと呼ばれる個体が、先代の王という品格もなく、グルルと吠えながらも遊星とさやかを睨んでいた。
遊星は即座に構え、
「怪人──!?」
「なるほど、さっきの血の匂いにつられたか。巻き込んですまんが一時休戦だ、一緒に……やっぱり何でもない、下がってろ」
「は!? そんな訳にはいかないでしょ、私も──」
「今はたまたま見当たらんが、住宅街では人目に付きすぎる。魔法少女の存在は流石に世間にバラす訳にもいかんだろう」
遊星にそれを言われて、思わず黙り込んでしまう。
それはそうだ。魔法少女として戦っているという事が世間にバレたら、真っ当には生きていけないだろうし──何より。自分の願いで腕を治した彼に、自分のお陰で治ったという事がばれてしまうかもしれない。
そうなったら今後どう接していけばいいのか分からなくなってしまう。感謝される? 余計なお世話だったと恨まれる? それとも──
「……おい! ボーッとしろとは言ってないぞ!」
「っ、しまっ……!?」
嫌な想像ばかりして隙だらけのさやかを見逃す筈もなく、ビートルファンガイアはさやかに向けて吸命牙を放つ。
遊星の叫び声でハッとさやかが現実に戻された時には、既に目前にまでそれは迫っており。
「やば、これは──」
既に自分で回避するのは不可能な距離と速度で、それは迫っている。
さやか自身の直感が、あれに触れるのはまずいとさやかに告げている。しかし、身体は動かない。それは恐怖による束縛か。
ファンガイアにライフエナジーを吸われた人間は、ただではすまない。動けないさやかの首筋に、それは刻々と迫り──
「全く、世話をやかせる」
後少し、1センチでも進んでいればさやかの首筋に刺さっていたであろうそれは、遊星がそれを掴んで止める事で強制的に止められ、粉々に握り潰された。
「さて、やられてばっかりじゃ気が済まん。こっちもそろそろやらせてもらうか」
そう言いながら遊星が取り出して構えたのは、携帯電話──否、それを模した変身アイテムの「ゴーフォン」。それに、六角形の不思議な形をしたそれ──携帯電話に関係している物であれば、SDメモリーカードが1番近い形をしている様にも思える「チェンジソウル」を、ゴーフォンの先端にあるカバーを開いた所にあるスペースに収納し、カバーを閉じる。
「チェンジソウル、セット……さっきも言ったがお前は下がってろ。俺だったら正体はバレん」
今正に変身するという所でさやかの方に振り返り、それだけ告げる。
言われたさやかは、少し呆けたような、怖がっている様な表情をしていて、今起きていた事が整理しきれていない様子。
そんなさやかの内面を知ってか知らずか、放って怪人の方に向き直り。
「レッツ、ゴーオン!」
その身を、赤き勇者に変えていた。
全身が赤の強化スーツ。デザインからしてレーサーを模しているであろうその戦士は、かつてガイアークから世界を救った七人の戦隊の一人。
「江角走輔じゃないが──マッハ全開、ゴーオンレッド!」
本来なら江角走輔が変身している筈のゴーオンレッドが、ポーズを決めて少しノリノリで名乗っていた。
しかし、その場の誰もそれに反応してくれる事は無く。さやかはそれどころではなく、ビートルファンガイアは理性を失った様子なのでそれに反応する事はない。
ポーズをとり続けていた遊星がゴホン、とワザとらしく咳をすると、
「気をとりなおして──マッハ全開で、行くぞ!」
自身の獲物である、刀身が道路を模した「ロードサーベル」を構えて駆け出した。
勢いよく近付いてきた遊星に対して拳を振るうが避けられ、お返しと言わんばかりにロードサーベルを振るう……が、その刃はビートルファンガイアの強固な皮膚に阻まれ、傷一つ付けられない。
「ふっ、せい、やあああっ!」
諦めずに何度も振るうが、その刃が通る事はなく。
ただ単にビートルファンガイアの苛立ちを募らせるだけの行為となってしまうばかりか、こちらの剣が刃こぼれしかけてしまう始末だ。
「クソ、やっぱ硬いなお前……!」
「ヴァアア!」
思わず悪態をついてしまう遊星だが、理性を失った様子の相手がそんな事を気にする筈もなく。耳を劈くような叫びと共に全身から放たれた衝撃波が、地面を抉ると共にゼロ距離に居た遊星を容易く吹き飛ばす。
「硬いの相手じゃ剣は無理か、だったら──レッツ、ゴーオン!」
掛け声と共に、遊星が纏っていたスーツは光に包まれ。光が収まると、その姿を青き戦士に変えていた。
変えたといっても基本的な部分はゴーオンレッドと変わらず、細部が違うのみと、手に持っていた剣が無くなり、代わりにその手に大型重量バズーカこと「ガレージランチャー」に持ち替えている事くらいか。
突然姿が変わったことにビートルファンガイアは驚き、その驚きに答えたのは遊星。
「ノーモーション変身だよ、生身と他の戦隊からはしないけどな──ゴー、オン!」
叫びながら、構えたバズーカから何発も光弾を放つ。
放たれた光弾は直撃し、ビートルファンガイアは硬かったその皮膚から火花を散らして吹き飛ばされ、後方に転がる。
「読みが当たった、この調子で一気に──何?」
倒れ込んだビートルファンガイアの姿がゆらゆらと、陽炎の様に消えて行く。まるで、最初からそこに居なかった様に。
不思議に思う遊星だが、周りに他の怪人が潜んでいる様子もない。
仕方がないので変身を解き、さやかが立っている方向へ向き直る。
顔は俯いていて分からないが、怪我してないようだ。
「おい、大丈夫か?」
「……ッ!!」
「? おい、どうし……」
声を掛けてくる遊星の事を無視して、突然さやかはその場から逃げ出すようにして、道の向こうにへと駆け出してしまう。
その場に一人残された遊星はそれを追いかけようとするも、
「……はあ、はあ、難儀な、物、だ。これ、抑え、る方、法はな、いの、かね」
心臓を抑え、その場に膝をつく遊星。苦しんでいる表情を軽く見せるも、直ぐにその表情は落ち着いた物に戻り。
「これくらいで済んだ事を幸運に思うべきか──? まあいい。とりあえずは……」
さやかを追うべきだと判断する。
自分の言葉で傷付けてしまった事には責任を感じる遊星。
彼女の中でどんな考えがあったかは知らないが、彼女の戦う理由も、何も知らずにあの言葉で納得させてしまった──それは、今自分がしてはいけない事だ。
体に無理やり鞭を打ち、遊星も後を追って駆け出していった。
「……最低だ、あたし」
さやかの今の心境を一言で表すならば、情けない、という気持ちで一杯だった。
言われた事とはいえ、自分の都合で変身して戦うかどうかを迷ってしまい、挙げ句の果てにそれにどこか納得してしまう自分がいた。
何をやっているんだ、あたしは。マミさんみたいな、正義の魔法少女になるんじゃなかったのか? そんな、正体がバレるなんてそんな事を気にして──
遊星の言葉、そして何より自分に対しての苛立ちが積み重なっていく。
そんな彼女を待っていたのは──
「……さやかさん?」
「え? ……仁美?」
「休みなのにお家に行っても朝から帰ってないって聞いて、少し心配してたんですのよ?」
「う、ちょっと今日は朝から特訓やら何やらが……いやいやいや何でもない、大した事ない用事が、ちょっと、ね? それより、仁美の方こそどうしたの?」
「……ええ、さやかさんに少し、お話が」
「──私、ずっと前から上条恭介君の事をお慕いしてましたの」
改変前の世界から続く、恋の因縁だった。
さやかを襲う苦悩の連続。さやかちゃんは本編中でもそうだったから仕方ないね!
ノーモーション変身については、色々と考えた上で出しました。1番のの出した理由は変身し直させるのが面倒なのと、レッドだけでなく他の色の戦士にも活躍してもらってこそのスーパー戦隊だと思ってるので、そこから出来上がりました。
遊星の相変わらずの病弱ぶり。基本波がありますが、変身するとああなる感じの状態になりつつあります。