魔法少女まどか☆マギカ [外編]英雄の物語   作:クウキ

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1話と2話の内容を一部変更しました。
変更したと言っても1話の戦闘を差し替え、2話に少し描写加えただけで大幅な変更はありませんので読み返さなくても大丈夫かと思われます。


第四話 協奏曲 音を愛するリトル・マーメイド

 美樹さやかは恋をしている。

 相手は入院中のバイオリニストこと上条恭介。

 さやかは恭介の病室にほぼ毎日と言っていいほどCDを片手に見舞いに行き、その献身的な姿は周りの人間からは恋仲だと言われてる程である。本人はそれを知らないが。

 

 そんな彼女が今どうしているかと言えば。

 

「……」

 

 公園内の湖沿いの道にあるベンチに座り込み、複雑な表情をして頭を悩ましていた。

 その原因は、先程偶然出会った親友の志筑仁美が放った衝撃の言葉にあった。

 

 

 

 

 

『私、ずっと前から上条恭介さんの事をお慕いしてましたの』

 

『私、明日の放課後に上条君に告白します』

 

『丸一日だけお待ちします。さやかさんは後悔なさらないように決めてください。上条君に気持ちを伝えるべきかどうか』

 

 

 

 

 

「どうすれば、いいのかな……」

 

 ボヤきながら色々と考えてみたさやかだが、結論は出ない。

 本当の気持ちと向き合えるかと言われたさやかだが、自分自身その気持ちが分からなくなってしまったのだ。

 

「……なんで、あたしは恭介の事を好きになったんだろ」

 

 恭介の事は確かに好きだ。しかし、何が好きだったのか、何故好きになってしまったか分からなくなってしまっていた。

 

 そんなフワフワとした動機で告白なんて出来る訳がない。そう考えたさやかは自身の頭をフル回転させて考えていたが、分からずじまい。

 

「好きかだけじゃない。戦う理由も……契約した理由も、何も分からなくなっちゃった」

 

 乾いた笑みを浮かべながら、自身の黒く染まり始めてるソウルジェムを、ポケットから取り出した手持ちのグリーフキューブで浄化すると、元の深い海の様な淡い光を放つ自身のソウルジェムを見つめながら考える。

 

 

 契約した理由は、勿論好きな異性である恭介にもう一度彼の好きなバイオリンを弾いて欲しかったから。しかし、何故そこまで自分は恭介の事を好きだったのだろう。

 最近の話であるのに、それすらも分からなくなってしまっていた。

 

 しかも、契約した事を恭介にバレてしまったら、という事を考えた時、自分は動けなかった。

 

 それは──自身のおかげだとバレたら嫌われてしまうかもしれないから戦わなかったのではないか?

 

 それはまさしく偽善である。自身が憧れていた、正義の味方とは程遠い物だ。

 

 さやかは苛立ちから思わず力任せに自身の足を思い切り殴る。

 ジーンとした痛みと足に走る強い衝撃は、自分が馬鹿であるという事をどうしようもなく再確認させるだけだった。

 

「あたしって、ホント馬鹿」

 

 そうしてさやかが振り絞る様な声で呟いたのは、奇しくも改変前の世界での最期の言葉と同じ言葉。

 

 

 様々な要因が重なってしまい、さやかは今忘れてしまっていた。

 戦う理由。契約した理由。恋した理由。

 

 本筋とは違うとは言え、本来ならばこの後さやかは様々な経緯を辿った後に円環の理に導かれ、その計らいにより根底にある願いを理解して消滅していくだけの運命にあった。

 

 ──しかし。運命が交差した事により、さやかはまた新たな結論に到達する。

 

 

 

 

 

 

「──やっと、見つけたぞ」

 

 いつの間にか、目の前に誰かが立っている事に声でさやかは気付いた。

 

 俯いている顔を上げなくても分かる。今日二度目、それも出会い方が同じなのだから。

 

 遊星だ。さやかを探して町中を駆け回ったのだろう、額から汗を流して息を荒げている彼は、さやかの隣の空いているベンチに座り、一息ついていた。

 

「……何の用よ。何度も言うけど、あたしはあんたに用は──」

「すまなかった」

「え」

 

 突然予想もしない言葉が遊星の口から吐き出され、さやかは思わずその顔を上げて遊星の方を向いた。

 

 その表情を歪ませながらも、遊星の目はしっかりと今顔を上げたばかりのさやかの目を見据えている。

 

「お前の戦う理由も覚悟も、何も知らずに下がってろなんて言ってすまなかった」

「……」

 

 頭を下げて謝罪する遊星に、さやかは何も言えなかった。

 誠意を感じられなかったとか、呆れて何も言えないとか、そういう理由からではない。

 今の、何もかもが分からなくなってしまった自分に、その純粋な謝罪がどうしようもなく自分の心に突き刺さってしまって。

 

「……るさい」

「ん?」

「うるさい!」

 

 思わず、怒鳴り散らしてすまう程に。

 それはさやかの心を乱すものだった。

 

「あんたに何が分かるの!?何もあたしの事を分からない奴が、指図も謝罪もしないで!」

 

 言って、さやかは直ぐに心の中で後悔した。

 正直言って目の前の人物には良い印象を抱いてない。それでも、彼は自分に対して謝罪した。

 彼は悪くないのに。悪いのは、忘れてしまった自分なのに。

 

 突然の怒声に、無表情のまま少し固まる遊星。

 しかし、大きなため息をついた後、

 

「何があった?」

 

 態度も何一つ変えずにさやかに話しかける。

 何事も無かった様に、しっかりとさやかの目を見据えて。

 

「え……?」

「俺と別れてから何かあったんだろ。流石にその取り乱し様はおかしい」

「別に、何も……」

「……まあ話してみろ。自分一人で抱え込むより、誰かに話を聞いてもらった方が楽だろ」

 

 相変わらずの無表情。しかし、その口ぶりは明らかに自分を気遣ってくれているものだ。

 

 確かにこの男は怪しい。自分たちを襲った事も忘れた訳じゃない。

 それでも、さやかは少し迷った後に。

 

「……実は……」

 

 気を許さない相手の筈の遊星に、自分の事情を話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 辿々しくも、全てを話し終わり。

 全てが終わった時には、綺麗な青空が赤みがかった色に染まる程。

 

 全てを聞いた遊星は、黙って俯いたまま少し何かを考え込んでおり。次の瞬間、顔を上げると

 

「よし、その上条少年の家に行って演奏を聴くぞ」

 

 さやかからすれば、何を言っているんだと言いたげな事を平気な顔で言い出した。

 

「いや、ちょ、はぁ!?」

「文句があるのか?」

「ありまくりよ!何で恭介の家に行く事になってんのよ!?しかも口ぶりからしてあんたも来る事になってると思うんだけど!?」

「話を聞く限りでは会うのが一番だと感じた。後、俺も行くのは純粋な興味。将来有望なバイオリニストの腕前を見たい。お前の親戚のバイオリニストと偽って、後はその場のアドリブで乗り越えれば平気だろ」

 

 あっけらかんととんでもない事を言い出す遊星に、さやかは絶句。

 

 一体この男は何を言っているのだ。わけがわからないよ。あんたの興味に私を巻き込むんじゃない。

 そんな考えが脳内をループしているさやかは、言葉が出ない。

 

 

「おい、愚痴を聞いてやったんだ。それくらいはしてもらうぞ」

「う、それは……」

 

 痛いところを突かれるが、自分の愚痴を聞いてもらったのは確かに事実。

 関係ない他人の様な存在の遊星だからこそ、自分の全てを言い出せたのだ。これがマミやほむら達であったら、自分はもっと話すのを渋っていただろう。

 

「ほら、分かったのなら案内しろ」

「うう〜、ごめん恭介……」

 

 観念して、渋々ながらも遊星を案内するさやかであった。

 

 

 

 

 

 

「へえ、中々の物だな」

「恭介のお父さんも有名なバイオリニストだからね」

「そんな有名なのか?」

「……あんた、テレビとか見ないの?」

「悪い、全く見ない」

 

 二人が居た場所から時間にして十分程歩いたそこに、恭介の家はあった。一言で言うなら、ちょっとした豪邸であった。

 二階建ての立派な家で、二階には小さな半円状のベランダまで付いている。

 

 

 意を決したさやかが、震える手でインターホンを押す。

 ピンポーン、と軽快な音が鳴り、少し待つと声が聞こえた。

 

『はい?』

「……あ、恭介?』

『さやか? 珍しいね、さやかが家に来るなんて。どうしたの?』

「急にごめんね、実は……」

 

 そうして本当の理由を隠し、建前上の理由を説明する。

 さやかの親戚が今一緒にいるのだが、その人も新米バイオリニストで、恭介の話をしたら是非その演奏を聞いてみたいと言っている……などと、適当に理由を付けて話した。

 

「本当にごめん、迷惑じゃなかったらでいいんだけど……」

『……うん、構わないよ』

「本当!?」

『僕なんかの演奏でよければ。さやかには腕が治る前に酷い事を言っちゃったし、その罪滅ぼしって事で』

「そんな、それに関してはあたしも……うん、ありがとう」

『ちょっと待ってて、直ぐ行くから』

 

 インターホンが切られたのを確認して遊星の方を向くと、遊星の顔は少しニヤついた表情を浮かべており。

 

「ふーん……」

「な、なによ」

「乙女の顔をしてるぞ、お前」

「なっ!?」

 

 途端、さやかの顔が真っ赤に染まる。それはもう、熟したトマトの様に。

 

「な、な、な、」

 

 興奮しすぎて言葉がうまく出ない。一体目の前の男は何度自分を動揺させたら気が済むのだ。

 

 反応が面白いさやかをからかう遊星の態度は、正に悪戯小僧と言ったところか。

 文句の一つでも言ってやらなければ気が済まん、と口を開こうとしたその時。上条家の扉が開いた。

 

「何を言って──」

「お待たせさやか」

「え、あ、恭介……」

 

 勝気な態度が一転、バイオリンケースを持って玄関から出てきた少年を見るや否や、しおらしい少女の態度に早変わり。

 

 遊星は内心面白がりながらも、それを表に出す事なく出てきた少年に一礼する。

 

「突然の申し出に応えていただきありがとうございます、私の名前は門矢遊星と申します」

「ええ、どうも。上条恭介です」

 

 先程までのさやかに対する言動と態度はどこへ行ったのか。敬語を使い、しっかりとした態度で恭介と握手を交わしているその様子は、側から見ればちゃんとしている物だろう。

 しかし、この男の素を知っているさやかからすれば、違和感その物。まるで人間の言葉を喋れる豚が服を着て、どうぞ私を食べてくださいと言っている様な物である。

 

「では早速。こちらへどうぞ」

「ええ、お邪魔します……ほら、さやかも」

「え、あ、お邪魔します……」

 

 どうすればいいのだ、この状況。そんな事を思いながらも、さやかは覚悟を決めて恭介の家へ入っていった。

 その時の心境を後にさやかはこう語る。魔王の城に、牧場主が入る様な覚悟で入っていったと。

 

 

 

 閑話休題。

 恭介家にお邪魔した二人は、とある一室に案内された。少し広めのその部屋は、防音が施された部屋なのだろう。

 

「門矢さんは、僕の演奏は初めてお聴きに?」

「ええ、まあ、恥ずかしながら。他人の演奏は全く聴かないもので」

 

 嘘である。単に興味が無いだけだ。

 サラッと嘘を吐く遊星に対して、さやかはそう思いながら恭介に内心謝りつつも喋らず。

 

「でしたら、ファンを一人増やせる様に精一杯頑張りますね」

「ははは、期待してますよ」

「勿論、さやかの為にも頑張るよ」

「えっ!?」

 

 突然の爆弾発言。さやかの顔は再び朱に染まっていく。恭介まで何を言いだすんだ、と思いつつもムカつく様な感情は出ておらず、代わりに内心恥ずかしさで一杯の状態である。

 

「さやか、どうかしたの?顔が赤いけど……」

「え!? いやいや大丈夫、いつものビューティー美少女さやかちゃんなりよ!」

「そ、そう? なら良いんだけど……」

 

 大丈夫な訳がない、と口を揃えて言いたくなるその光景。

「なり?」と頭に?マークを浮かべて不審に思いつつも──バイオリンを構えると、空気が一変。

 心優しい少年の顔は、真剣な物に変わる。

 

「では、行きます」

 

 

 

 

 

 心を安らかな気持ちにさせる、優しいメロディが恭介の弾くバイオリンから奏でられている。

 

 それはまだ未熟さを感じさせるものの、確かに目の前の客に喜んで貰おうという強い意志を感じさせるものであり、その意思が表現されているそれは美しいという言葉以外浮かばない

 

 心が動揺しまくってたさやかは一気にそれに引き込まれ、その表情を少し驚いた物にした遊星は真剣に、恭介の奏でる音色を感じ取り。

 

 演奏が終わった時、二人の手から自然と拍手が出た。まるで、素晴らしい演奏に敬意を払うように。

 

「ふう……ありがとうございました」

「先程の冗談が本当になってしまう、素晴らしい演奏お見事でした」

「良い演奏だったよ、恭介。もう完全復活だね!」

 

 二人の演奏に対する素直な賞賛に、少し照れた様子を見せた恭介。

 するとどうしたことか、恭介はバイオリンを持ったまま遊星の方へ近づき、

 

「ありがとうさやか。では、お次は門矢さんの番です」

 

 そうしてバイオリンを差し出してきた。

 それを見たさやかの心の中は、とてつもなく素晴らしい物で満たされた満足感から一転、一気にその肝を冷やした物になる。

 

「え!?いや、門矢さんはちょっと都合が……」

「え、そうなのかい? こんな機会無いし、せっかくだから聴かせてもらおうかと思ったんだけど……」

「……いえ、構いませんよ。ですが、バイオリンは自前のがありますので」

 

 少し考えた後、そう答えた遊星。

 その言葉に驚愕するさやかを他所に。どこからか取り出したバイオリンを片手に持ち、先程まで恭介が立っていたその場所に歩いていく。

 

 すれ違ったその時、遊星の持つバイオリンを何気なく見た恭介は内心で驚愕する。

 そのバイオリン程の名器を、恭介は見たことがない。

 一度恭介が父親の知り合いに見せてもらったかの名器、ストラディヴァリウス。それを、明らかに超えたと断言出来る程のバイオリンであったからだ。

 

 恭介は知る由もないが、それも当然。

そのバイオリン──「ブラッディ・ローズ」は、元天才バイオリニストである「紅 音也」が、その魂をかけて作り上げた逸品であるから。

 

 そんな品に触れる機会があるのは、天性の才を持つバイオリニストだけだろう。遊星への不信感が浮かび上がるが、それと同時に恭介は無意識に目の前の彼にワクワクしていた。

 

 自分に、どれだけ素晴らしい音を聴かせてくれるのだろうと。

 

 そんな恭介の視線に気付いたのか。正に弾こうとしたその直前に、突然口を開いた。

 

「上条さん。もし、失望してしまったらその時はすみません」

「え……?」

 

 演奏する時から何を言っているのだろう。

 その真意を掴むことが出来ぬまま、演奏が始まった。

 

 

 

 

 

 その演奏は、精度であればプロ一歩手前の実力を持つ恭介のそれを遥かに超えていた。

 凄まじい技術で奏でられる音は、天才の一言しか浮かび上がらせない。どこかの大きな大会に出させたら間違いなく優勝だ。

 しかし、ただそれ()()なのだ。

 

 さやかは演奏に圧倒させられているが、恭介からすれば、その演奏には心が乗っていない。

 演奏が出来る機械が凄い演奏を注文され、それを弾いている様。人を感動させる事は決してない、ただの凄い演奏。

 音楽プレイヤー等で聞いた時の音とはまた違う。例えるならば、そう。記録のような。ただの、とある誰かがこんな演奏をしていましたよ、と書かれている演奏の図鑑を読んでいるような。

 それが、遊星の奏でている音であった。

 

 演奏が終わり、遊星は二人に目をやると、やはりかと言う反応を見せる。

 さやかは、凄まじい演奏に圧倒された顔をして声が出ず。恭介は、ただただ不自然だと言わんばかりの表情で遊星の事を見ていた。

 その様子を見た遊星は、一つ大きな溜息をして。

 

「……失望させてすみません、お邪魔しました。さやか、行くぞ」

「え、あ、うん。ごめんね、恭介……」

「ちょっと、待っ……」

 

 恭介の制止を聞かず、困惑するさやかを連れて部屋から出て行ってしまう遊星。

 再びすれ違ったその時の顔は、相変わらずの無表情ではあったが。

 恭介には、それが苦しんでいる様にも見え。

 

「あれだけの演奏をするのに、どうして一切心を乗せられてないんだ──?」

 

 一人になった恭介のその呟きに、答える者は誰も居なかった

 

 

 

 

 

 帰り道、気まずい雰囲気になってしまった二人。

 どこを目指すわけでも無く、ただ適当に歩いている。

 

「……バイオリン、弾けたんだ」

「……まあ、弾けるだけだがな」

「え?それって──」

 

 弾ける()()とはどういう事なのか。

 その言葉に違和感を持ったさやかが尋ねようとするが、それは遊星の言葉に遮られる。

 

「それより、答えは見つかったか?」

「……何かは掴めそう、だったけどダメ」

「……俺は分かったぞ。単純な話で、バレバレだった」

「え、何であんたが!?」

 

 自分にも分かってない自身の事を、遊星が確信している事にさやかは驚いて遊星の方へ向き。

 自身の考えを確信している遊星が、ニヤニヤとした笑みを浮かべてさやかに告げる。

 

「……自分を見てみろ、それがヒントだ。じゃあ俺は忙しいんで」

「は、ちょっと!?」

 

 それだけ告げると、遊星は手を軽く振った後に何処かへ走り去ってしまい。

 

 残されたさやかは、遊星の残したヒントを元に考えていた。

 

「私を見る……?鏡でも見ろっての?」

 

 

 自分自身を見るというのも変な話だが、実際その真意が分からないからどうしようもなく変な考えに到達してしまうさやか。

 無論、鏡を見るなんて単純な話ではないだろうとその線を捨て、再び長考に入る。

 

「あいつには見えてた……?」

 

 遊星には見えていた。しかし、一体いつの時の話だろうか。

 からかわれてた時?恭介と会った時?それとも──

 

『よし、その上条少年の所家にいって演奏を聴くぞ』

 

 と、そこで。そもそも恭介の家にまで行って、演奏を聴いた発端をふと思い出し。

 次の瞬間、電流が走る様に閃いた。

 

「あ、演奏を聴いてた時──!」

 

 いつも恭介の演奏を聞いていた時、自分はどう感じていたのか。さやかは必死に思い出し、そして気付いたのだ。

 

 演奏の時、自分はいつもその音を少しも聞き逃さない様に集中している。正に、音楽に魅入られているかの様に。

 そこまでする理由。それは単純な話であり。

 恭介の奏でている音楽に、そしてそれを奏でている恭介に、自分は無意識に魅せられてしまっていたからだ。

 

「思い出した……!」

 

 それが引き金となり、次々と流れ込んでくる様にさやかの心に響いたのは、優しい音色──先程聞いた、恭介の奏でる音。

 

 

 これを、世界中の人々に聴いて欲しかった。だからこそ、さやかは消滅するという運命を受け入れてキュゥべえと契約し。

 

 恭介の素晴らしい演奏、そして恭介自身の演奏に乗せて人々に伝える心──言うなれば、心の音楽に、魅入られたから。

 

「だからあたしは、恭介に恋をしたんだ……」

 

 

 

 

 

 

 それが自分の本当の気持ちである。不思議とそう信じられたさやかの行動は、早かった。

 急いで来た道を戻り、恭介を呼び出し。遊星と

 二回目に出会ったあの公園に連れて来て、今現在二人並んでその道を歩いていた。

 

「どうしたの?門矢さんと出て行ったと思ったら、急に散歩なんて……」

「え、えーっと……」

 

 しかし。いざ告白するぞという時、さやかは一言で言うならヘタレとなってしまい。上手く言葉が出ない自分の喉を、恨んでしまう程にその心中は荒ぶっていた。

 

「(動け、動け動け動け動け動いてあたしの喉!ここまで来てチキったら一生後悔する!)あ、あの!恭介!!」

「は、はい!」

 

 振り絞りすぎて思わず大声で叫んでしまい、思わず恭介もつられて大声で返事をする程。

 緊張しながらも、さやかは勇気を持って言葉を続ける。

 

「わ、私、美樹さやかは、貴方の事が」

 

 しかし、その言葉は。無慈悲にも上空から恭介に飛んでくるその牙を偶然目にした事で途切れ、無我夢中で恭介の手を取り、引っ張る。

 

「ダメ、恭介危ない!」

「うわっ!?」

 

 恭介の首筋に刺さる筈だったそれは対象を失い、地面に突き刺さり。引っ張られた恭介も無事に済み、さやかが一安心した所で。

 先程遊星が倒した筈のビートルファンガイアが、どこからともなく二人に姿を現した。

 

「なんだ、あれ……バケモノ!?」

「何であいつがここに……!?」

「美樹さやか、お前が目当てで狙ってるんだろう」

「「!?」

 

 いつの間に、二人の後ろに立っていたのはビートルファンガイアを睨む遊星。

 いつの間に、いやそもそも何故ここにいるのか。

 さやかのそんな疑問を見抜き、答える遊星。

 

「門矢さん!?何でここに……」

「こっそりお前を尾行してた。さっきは俺を狙ってたのかと思っていたが、どうやらまほ……お前のライフエナジー──ざっくり言えば魂を吸い取りたかったらしい。上条少年を狙ったのも、お前が庇うと思ったからかもな。全く、理性がないクセに変な所で頭が回る奴だ」

 

 遊星の言葉に、さやかは思考を停止させた。

 

 つまり、どういう事だ。自分が──彼は恭介がいる為に隠して伝えてくれたが、魔法少女であるから。

 自分の最愛の人は、狙われてしまったのか?

 

 その事実は、どうしようもない程にさやかの心に響き。

 

「とりあえず、二人とも下がってろ。奴は俺が──」

「──許さない。絶対に、絶対に許すもんか!」

「さ、さやか?」

「……うん?」

 

 目の前の存在に、純粋な怒りを感じていた。

 自分が最愛の人を巻き込んでしまった事は、勿論重く責任を感じている。

 ただ、それよりもさやかが抱いている気持ち。それは、

 

「私の、最愛の人を傷つけようとした事、その音楽を断とうとした事……絶対に、許さない!」

 

 愛である。普通の人間がどうしようもなく異性、或いは同性に抱いてしまう感情。とある悪魔曰く、希望よりも熱く、絶望よりも深いもの。

 

 その自分への告白にも近い言葉に、恭介はどう反応したらいいのか分からず立ち尽くし、遊星はただ一言。

 

「答え、見つかったんだな。良かったじゃないか」

「うん。あたしの新しい戦う理由。それは、人の奏でる音楽を守ること」

「……」

「恭介のおかげで、人はこんなにも素晴らしい音楽を心から奏でられる、って知れたんだ。だったらあたしは、その人の心に流れる音楽を守る為に戦いたい──変、かな?」

「……いいや、ちょっとばかし驚いた。まさか、その言葉が出るとは思ってなかったから──これも、なにかの巡り合わせって奴なのかね」

 

 

 どこかに遠い目を向けながら、そんな事を呟いた。その真意を掴むことは、さやかには相変わらず難関であると悟り。

 

 ──面白い、愛と音の為に戦う女の子か。気に入った──

 

 次の瞬間、突然さやかの脳裏に声が響き渡った。

「え?」

「どうした?」

「いや、なんか幻聴が……」

 

 ──幻聴? この天才の素晴らしきお声は幻聴などではない──

 

「っ、やっぱり……」

 

 確かに、自分に聞こえているキザっぽい声。

 遊星や恭介には聞こえてないので、魔法少女同士で使うテレパシーの様な物であるとさやかは納得するが、同時に疑問も生まれる。

 この声の主は、一体何を目的に話しかけてきたのだろうか?

 

「(あんた、何者?いきなり何の用事?)」

 

 ──そう焦るな、焦っている姿もまた愛おしいが──

 

「(えぇ……)」

 

 困惑してしまう程のキザっぷりに呆れてしまう。

 まだ人生経験も少ないさやかが、この男は絶対に道行く女性全員に声をかけまくっている、と断言してしまいたくなる程に。

 

 ──まあ待て。少しこの天才が力を貸してやろうと思っただけだ──

 

「(え?)」

 

 ──人の音楽を守りたいという願い。そして何より、惚れた男を傷つけようとした相手への言葉。俺に惚れていないという点は残念だが、そこ以外は気に入った。ますます今の俺に肉体が無いことが悔やまれるよ──

 

「(何でそんな、急に……)」

 

 ──偶然から生まれた気まぐれだ。それ、少し俺の記憶が入るぞ──

 

 その言葉と共に、一瞬だけさやかを襲った頭痛。

 それと共に、ある男の記憶が流れ込んできた。

 

 

 

 それは、ひたすら愛に生きた物語。

 

 先程の声の主であるその男は、確かにさやかの思うような人物であった。

 しかし、彼が本気で求めた愛は何処までも純粋な思いを貫き、同時に心の音楽を汚そうとした相手に対しては本気で怒り、自分が本気で愛した女の為なら命も張れる。

 

 どこか憎めないキザっぽい愛の救世主──紅音也は、自分の愛に向き合ったさやかの為に一度限り、その力を貸した。

 

「美樹さやか──それ、どうした?」

 

 

 さやかが気がつくと、本気で驚いた表情をした遊星が、さやかの肩辺りを見つめている。

 その視線の先。自身の左肩には黒い蝙蝠が佇み、さやかの方をその黄色い目で見つめていた。

 

『ふん。音也の認めし少女よ、初めましてだな』

 

そしてその蝙蝠が、低い声で喋りかけてきた。

さやか自身それに少し戸惑ったが、既にキュゥべえという前例がいるので直ぐに受け入れることができ。遊星はやってしまったという顔をしながらその蝙蝠の名前を告げた。

 

「……キバットバットⅡ世、か。なるほど納得」

「キバットバットⅡ世……それが、あんたの名前なの?」

『ああ、間違いない。貴様のような奴に、本来この鎧を纏わせる気は無いのだが──一度限りの特別だ、使わせてやる』

 

 すると、次の瞬間。さやか達を包んでいた景色が一変。

 中世にでもありそうな、玉座の間だろうか。血塗られた玉座に座り込んでいるのは、いつもと同じく魔獣である。

 ──ただ、唯一違う点があるとすれば。玉座まで辿り着くまでの間に、何体ものビートルファンガイアが、行く手を阻んでいる事だ。

 

「そんな、魔獣と手を組んで──?」

「……俺が最初に戦ったのは、魔獣に備わっていた分身能力で生まれた内の一体、と言った所か。つか、お前」

「ん?」

「正体、バレてもいいのか?」

 

 こっそりと聞かれた問いに、一瞬さやかは考え。

 いつも通りの、柔らかな笑みを浮かべたら、後ろにいる恭介の方へ向き直った。

 

「ごめん、恭介。多分今から色々ビックリさせる。戦い始めたら恭介は隠れてて、全部終わったら話すから」

「……僕には、よく事情は分からない。それでも、これだけは言えるよ」

 

 恭介は、その場の状況に付いていけてなかった。怪人やら魔獣やら、何を言っているのか分からない。

 しかし、それでも。自分にさっき告白した少女が、今から戦うという事だけは何となく分かっており。

 せめて自分に出来る事。かつて自分が腕を負傷して、絶望していたあの時彼女がしてくれたように。今、無理をして自身に笑いかけてくれている彼女に対して。

 

「男の子がこんな事を言うのも頼りないけど──頑張って、さやか」

 

 心から、応援の言葉をかけた。

 その言葉だけ。それだけでさやかにとって、戦う理由は十分すぎる程だ。

 再び魔獣の方へ向き直り、溢れてきそうな涙を拭う。

 

「はは、あたし何悩んでたんだろ」

「……悩みなんてそんな物だ。解決すれば、なんてこと無い夢のように消えていく」

「……ここで戦って、恭介に嫌われてもいい。その音楽を守れればそれでいいって、今のあたしはそう思ってる。それでいいのかな」

「十分だ」

 

 短くそれだけ言うと、遊星の手に握られたのはキバットバットⅡ世によく似た金色の蝙蝠。

 キバットバットⅢ世と呼ばれるそれは、本来の饒舌さを発揮する事なく黙ったまま。

 

『我が息子……ではない、な』

「……ああ。あんたはともかく、こっちはただの模造品みたいな物だよ」

『ふん。力の代償もデカイだろうに、何故戦う?』

「……さて、ね」

 

 キバットバットⅡ世と遊星の間で交わされた、その会話の意味はさやかには分からない。

 間違いなく遊星の秘密に関わる重要な話。しかし、その会話の半分も何かの知識の前提で話してる為か理解不能。

 

「俺には戦う理由がない。戦わなくちゃいけない理由はあっても、な」

「……?」

「だけど、今だけは。紅渡の理由を借りて──人に流れる音楽を守る為に、戦うよ」

 

 訳が分からなくなってきそうな展開。それでも、怪人に対しての怒りは収まっていない。

 さやかは自分のさっきの言葉を──人の音楽を守る為。そして愛を貫き通す為に、戦う。

 

「私も、さっき言った言葉に嘘をつく気はない。今回だけ力貸してよ、コウモリもどき!」

 

『フッ、よかろう──ガブリ!』

「こっちも行くか、手動だけどな──!」

 

 さやかの手に収まったキバットバットⅡ世を、知っている様に慣れた手つきで空いているもう一方の手に噛ませる。同じように、遊星もキバットに手動で手を噛ませた。

 

 二体のキバットバット族が、それぞれの持ち主に魔皇力を注入し、眠る魔皇力を──さやかの場合、代用して魔力だが──を活性化させる。すると二人の肌に怪しげな模様が浮かび、その腰に巻き付くように鎖が出現、やがてそれはベルトの形を作り。

 

「「変身!」」

 

 その叫びと共に、バックルの止まり木部分に逆さまに装着した。

 

 二人の姿が、体内から出た鎖に包まれて行き。

 その姿を、変えていく。

 

 

 黄色い、蝙蝠の羽を模した複眼。赤い上半身に、黒い下半身。しかし、その肩と右足にはカテナが巻きつけられ、その真の姿を封印されている仮面ライダーキバ。

 

 緑の、また蝙蝠の羽を模した複眼。黒いボディに、それを包み込む様な真紅の装甲。何処からか吹いた風にたなびく白いマントが、その姿が王であるという象徴をしている仮面ライダーダークキバ。

 

 本来ならばこの世界で登場する筈もなかった二人の皇帝が今、新たな資格者を得て並び立っていた。

 

 

「うわあ、あたしのいかにも悪っぽい……」

「ダークキバだからな。ああ、変身にお前の魔力使ってたから、多分その姿でも魔法少女の力使えるぞ」

「え? ……本当だ、でも何この色」

 

 さやかが試しに何時もの要領で剣を出そうとすると、変身して大きくなった身体のサイズに合わせてはいるが、確かにいつも自分が使う西洋風の剣が現れた……何故か、持ち手の部分が金色にになり、その刀身がダークキバの鎧と同じ赤みを帯びているが。

 

「変身した影響で、一時的に魔法がダークキバに合わせた物になったんだろ」

 

 不思議なものだ、などと思っている暇はない。既に二人の周囲は、分身したビートルファンガイアに囲まれており。

 

「さて、キバっていくとするか」

「ありがたく思いなさい、絶滅タイムよ!」

 

 決め台詞と共に、玉座に座る魔獣目掛けて駆け出して行く二人。

 

 その道中を塞ぐのは何人ものビートルファンガイア。

 だがしかし、ここに揃っているのはそのファンガイアの頂点たる皇帝二人だ。

 百でも千でも、今の二人には響かない。

 

「そらそらぁ!さやかちゃんの剣戟を喰らえぇ!」

 

 魔皇力を模した魔力で強化された二刀が交差に振るわれる。

 その一振りで近くにいたビートルファンガイアの分身はいとも容易く切り裂かれ、更にその振るった衝撃で出た赤い斬撃は、その向こうにいた分身までをも消しとばす。

 

 更に後ろから襲いかかってきた分身にも、振り向くことなく剣を逆手に持って迷わず突き刺すと、そのまま剣を動かし、別方向から飛びかかってきた分身に対する盾とすると、剣を引き抜いて容赦なく思い切り蹴りを入れた。

 

 ダークキバの影響で身体能力が大幅に強化されているのは勿論あるが、それを引いてもさやかの戦闘のセンスは底が知れない物であった。

 

 

「調子に乗るんじゃない、痛い目見るぞ」

 

 一方のキバ。

 近くにいた分身の腹に何度も拳を叩き込んでから、締めに蹴りを入れる。

 更に2方向から襲いかかってきた分身を軽々しく避けると、二体の頭を同時に掴みそれらをぶつけ合う。

 敵の攻撃を避け、撹乱しながら戦うその様は蝙蝠の様。

 

 今の二人に、敵と呼べる者はこの空間には存在してなかった。

 

「ごめん、少し舞い上がってたかも」

「……まあ、今回位は思い切りやってみろ。迷いも捨てられたんだし」

「……うん、じゃあ思い切りいくよ!」

 

 背中合わせに話しながらも、その手を休める事なく殲滅を続ける二人。

 そうして分身の数も後僅かと言った所で、沈黙していた魔獣が動いた。

 その口から白い息の様な物を吐き出すと、それは徐々に個体を持ちながら分かれて行き。

 再び、ビートルファンガイアの分身が二人の周りを囲む形で現れた。

 

「ああもう、面倒臭い!」

「無尽蔵なタイプか……なら仕方ない。コイツらは俺に任せろ、俺はお前を上に飛ばすから奴はお前がやれ」

「りょーかい!」

 

 キバが手で形作った足場に乗ると、そのとてつもない腕力で上に飛ばされたダークキバは、上空に魔法陣を展開、それをまた壁として利用すると、剣を構えながら勢いを付けてそれを蹴った。

 

 

 

 無事に飛んだ事を確認したキバも、腰に装着されているスロットから取り出したフエッスルをキバットの口にくわえさせ、吹かせる──無論、寡黙なまま。それでは締まらないので、遊星が代わりに叫んだ。

 

「ウェイクアップ!」

 

 瞬間、辺りが暗闇に包まれ。キバの右足のカテナが、完全に解放された。

 

 そのまま天高く飛び上がると、本来ならば出ていない筈の月を背に。

 地上に向けて、その蹴り──ダークネスムーンブレイクを放つ。

 

 

 

 

「はああああ!!」

「くらえええ!!」

 

 

 その二つの攻撃を、邪魔する者は誰もいない。

 

 地面に放ったキバの蹴りは、そこにキバの紋章を残し、クレーターを作り出すほどの威力で、分身とそれに紛れていた本体も跡形も無く消しとばし。

 

 迷いを捨てた乙女の攻撃も、兵を用意するだけの愚かな王を気取った魔獣を貫いた。

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり。巣が崩壊すると同時に、さやかの変身も強制的に解除された。

 

 ──見事だったぞ、美少女よ。この天才こと紅音也の賛美だ、ありがたく受け取るがいい──

 

 

「(ん。力を貸してくれてありがとう、音也さん)」

 

 ──うむ、苦しゅうない。これからも音楽とその男を愛し、愛を貫けよ。さらばだ──

 

 さやかの脳内に話しかけていたその声の主──紅音也の声は、じきに聞こえなくなり。先程までいた筈のキバットバットⅡ世も、そして遊星すらもまた姿を消して。

 

 その場に残されたのは、さやかと隠れていた恭介の二人だけであった。

 

 

 

 

 別の場所に現れた魔獣を退治していたマミ達が公園に現れたのは、それと同じ様なタイミングだった。

 駆けつけた一行が最初に見つけたのは、遠目に何かを見つめている遊星。

 

「遊星!?こんな所で何を……」

「……あなたも魔獣を追ってここに?」

「……輝夜と魔法少女一行か。丁度良い、面白いものが見れるぞ」

「あれは美樹さやかと……上条恭介?」

 

 視線の先に居たのは、互いに向かい合っているさやかと恭介。

 

 

 

 しかし、当のさやか本人は、向き合っても何を言えば良いのか分からず。その場に立ち尽くすだけになってしまっていた。

 

 

「(やばいやばいやばい、さっきより緊張する!あの怪人に怒ってたとはいえ、さっきあたし告白みたいな事言ってなかった!?)」

「……さやか」

「は、はい!」

「怒らないから教えて。もしかして、僕の腕を治してくれたのはさやかなのかい?」

「っ!?」

 

 いきなり、図星を突かれた。

 恐らく、今起こった戦いを見て。戦い慣れしていたさやかを見て、恭介は自分に起こった奇跡の真実を見抜いたのだろう。

 真剣な表情の恭介の瞳は、さやかの隠された想いすらも見通している様で。

 

「……そうだよ。あたしが、戦いの運命と引き換えに治したんだ」

「……そっ、か。やっばりそうだったんだ」

「恭介──!?」

 

 突然。さやかは、恭介に抱きしめられた。

 怒られるだろう、と思っていたさやかは、茹で蛸の様な顔色にしながらも何も言えず。

 

「ごめん、本当にごめん、さやか。僕が君を、そこまで追い詰めてしまっていた事、辛い戦いの運命を背負わしてしまった事」

「そんな、恭介が謝る事じゃ……」

「ううん。それは僕が謝らなくちゃいけない事。そして一つ、お願いがあるんだ」

「お、お願い?」

 

 さやかをいきなり抱きしめる様な気概を見せながらも、恭介は内心とても緊張しているようで。

 とても大きく深呼吸をした後。意を決して言葉を紡いだ。

 

「僕には、その戦いの運命から君を解き放つ事は出来ないかもしれない。それでも、それに立ち向かう君を支える事は出来る」

「きょ、う、すけ……」

「それだけじゃない。さっきのさやか風に言うなら、君の心が奏でる演奏は、僕にとってとても尊い物だった。その心の音色に、いつの間にか僕も魅せられてたんだ。それに、気付いた」

 

 それは愛を謳う告白。

 おぼろげながらも、恭介の誠実な気持ちが現れている言葉。

 正しく、さやかが惚れた恭介の心の音楽その物と言っても過言ではなくて。

 

「君と一緒に、これからの人生を共にしたい──締まらないけど、良い、かな?」

「っ、うん──!」

 

 そう言って、さやかも思い切り恭介に抱きついた。抱きしめ合う二人の眼には自然と涙が浮かんでおり。

 その光景を見たマミ達も、少しもらい泣きをしている程。

 

「美樹さん、良かったわね……」

「馬鹿、マミ。泣いてるんじゃねえ……ははっ」

「あなたもじゃない……ふふ」

 

 ほむらは貰い泣きも何もしておらず、ただその光景を微笑ましく見守ってた。

 ──どうしようもない程に自身の心に浮かび上がる違和感に、疑問を浮かべながら。

 

「(さやかが上条恭介と結ばれるのに、何故違和感が沸くの──?)」

 

 きっと、改変前の幾度となく繰り返された時間に、その光景が無かったからだろうと。

 そう思うことにして、今は目の前の友人の交際を素直に喜んでいた。

 

 

 

 

 

「──チッ、やっと終わったか」

 

 そんな一行からいつの間にか離れ、人気のない森林の中で倒れていたのは遊星。

 ()()()()頭痛に襲われ、ようやく終わったらしい彼は、額の汗を拭き取り。

 

「キバットバットⅡ世──タイミング的に考えれば、先程紅音也()演奏したから、か……分かってる。分かってるさ、キバットバットⅡ世よ。このままだと、俺の肉体が耐えられないなんて事は」

 

 

「それでも戦わないといけないんだよ──英雄の力を奪った俺は」

 

 

 

 運命が交差した事で、人魚の乙女は円環の理に導かれる事なく真実の愛を手に入れた。

 しかし、それはどうしようもない矛盾を何処かに起こし──世界に、異変が始まる。

 

 

 

 

 

 




約15000字とか笑えない。ここまで長くするつもり無かったのに、な4話。
キバらしさ、音也らしさが出せたかは自分でも分かりませんが、先日のビルドのカズミンさよなら回と久々キバを観ていたら色々とやばくなったのでこんな展開に。
イクサとどちらにするか迷ってましたが、音也が命をかけて変身したダークキバの方がさやかに合ってると思いこちらになりました。

さやかの変身はこれ一回限りです。魔法少女という事、音也に認められたという要因が重なり一回ならダークキバに変身しても平気でしたが、もう一度か二度は多分耐えられません。

次回は予定通りならば輝夜回。前後篇になるかは不明です。
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