魔法少女まどか☆マギカ [外編]英雄の物語   作:クウキ

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今回話の切りどころに迷い、いっそたまには一つの話として投稿してしまえ、という精神で行ったので滅茶苦茶長くなってます、すみません。



第五話 理由

 ──夢を、見た。

 

 夢に出てきたのは、一人の少女。

 終わりのない永遠の命を持った「彼女」は、果てしなく続く歴史をこの眼で見てきた。

 

 素敵な物は山程あった。

 悲しい物も山程あった。

 

 彼女は永遠の命を持った事に後悔をしていなかった。過程に思う事はあっても、その結果自体に今は後悔していない。

 同じ永遠の命を持っていて殺し合う関係になった友人、自身に仕えてくれている頼れる臣下。

 

 素晴らしい物が揃っている彼女に、後悔などある筈もなかった。

 

 ──しかし、そう思う前の彼女の周りはとても酷いものだった。

 

 今では愉しく殺し合う友人とも、その前は険悪とも言える関係。

 その友人をそうさせてしまったのは自分。友人から憎悪の表情しか伺えないその時だけ、彼女は自分の過去に後悔を抱いていた。

 

 それが決定的に変わったのは「────」の時。

 

 彼女が本当に守りたいと思う物を、見つけた時だった。

 

 これは、そんな彼女が再び守りたいと思う物を見つける物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも通りの日々を、過ごしていく。

 

 

 

「……よく寝れたわ、おはよう遊星……いけない、遊星は今居なかったわね」

 

 

 

 朝。朝食を適当に済ませ、その後軽く食後の運動に町内の走り込み。

 

 

 

「999、1000っと……とりあえずこんな感じでいいのかしら?」

 

 

 

 昼。気分転換にテレビでも見ながら、腹筋運動やスクワット等をノルマ分こなす。

 

 

 

「っ、怪人──!」

 

 

 

 怪人の気配をアークルが察知したら即座に家を飛び出し、走って急行。

 

 

 

『ジャラゾグスバ、クウガ!』

「人は襲わせないわよ!」

 

 

 

 現場に到着。一般人を襲っていた怪人に思い切り蹴りをくらわせてやった。

 

 因みにこの独特の言語を喋るのがグロンギ。本来私ことクウガの敵である怪人らしい。

 私自身グロンギの言葉は喋れる訳ではないが、何故かそれを聞いて意味を理解する事は出来る。

 遊星にこの事を何気なく話したら微妙な顔をされたのは未だに謎だ。

 

 

 

 

「大丈夫ですか?早く逃げてください!」

「あ、ああ──助かったよ、ありがとうね!」

「……よし、離れてくれたわね──変身!」

『ダグバボバシゴボバギレ!』

 

 

 

 ダグバのなり損ない。私の変身するクウガを見たグロンギは、揃って私のことをそう呼ぶ。

 

 ダグバというのは彼らグロンギの王様の様な存在の名前らしく、私のアークルの中にダグバは眠っているとか。

 私自身そんな自覚はないのだが、そのせいで私の変身するクウガは本来の進化を辿らずに変質してしまっているらしい。

 

「これで終わり!」

 

 特に手こずる訳でもなく、追い詰めたグロンギに対し、封印エネルギーをたっぷりと込めた必殺の蹴りをお見舞い。

 

 体内に流し込まれた弱点のエネルギーに耐えれず、グロンギは呻き声を上げながら爆散した。

 

 

 

「……一件落着っと」

 

 

 

 特に手こずることなく終わったので、体力もほぼ消費していない。折角だしどうせなら買い物を済ませてしまおう、とスーパーに寄る。

 

 

 

「これと……後、あれも買っておこうかしら?」

 

 

 

 目に付いたレトルト系や食パン、お惣菜などを適当に籠に突っ込む。

 一度遊星に教えてもらいながら料理を作った事があるが、料理が絶望的に下手な事が判明したのでそれ以降調理は遊星に止められている。

 

 遊星が作る料理はとても美味しいのに、その遊星から教えてもらって何故あんなゲテモノが出来てしまうかは自分でも不明だった。今でも思い出してしまいそうな程の味だったが、二度と味わうのは御免だ。

 

 

 

 

「……今夜は月が綺麗ね」

 

 夜。適当に食事を済ませ、その後寝る時間まで外をパトロールがてら散歩する。

 月の光を楽しみながら歩けば、その時間もあっという間に過ぎていく。

 

「っと。こんな素晴らしい日にも、怪人は出るのね──!」

 

 ──何もなければ、の話だが。

 怪人の気配とその方角をアークルが教えてくれる。

 しかも魔力の入り混じったこの感じ、間違いない。魔獣だ。

 

 

 

 

 気配を感じた場所に到着する。

 相変わらずの白い巨人が何体も佇む光景の中に、最近知り合った少女達の姿もあった。

 

「……輝夜さん、どうも」

「あらほむらちゃん、こんばんは……全く、こんな夜遅くにまで現れるなんて。夜更かしは肌の天敵って言うのに」

「同感です。手っ取り早く片付けちゃいましょう!」

「アタシはそんなのは気にしないけど──とっとと寝たいし、さっさと片付けるとしますか!」

 

 そうして各々と連携を取りながら、魔獣に立ち向かっていく。

 これが、最近の私の日常と化していた。

 

 

 

 

 

 

 戦いも終わり。

 帰り道の違うほむらちゃんやマミちゃんとは別れ、暗い夜道を歩きながら私達は楽しく女子会の様な話をしていた。

 

「……それで、上条君だっけ?その男の子とは最近どうなのかしら?」

「えっ!?ど、どうってそりゃあ特に、何も……」

「二人で仲良くデートの話をしてたのが何もないなんて、随分進んだ関係になってるじゃねーか」

「ちょ、杏子ぉ!?」

 

 顔が真っ赤になりながら私や杏子ちゃん達に弁明するさやかちゃんは、随分と微笑ましい。

 どうやら私達と魔獣を退治した後、遊星と出会って何かあったらしい。

 遊星に話を聞こうと思ったら何処にも居ないので、詳しく何があったのかまでは知らない。

 

 が、どうやら彼女は仮面ライダーに変身したらしい。それも、本来の変身者に資格を認められて。

 

「しっかし、この前まではその男の話を出しただけで顔を真っ赤にしてたのに。付き合うなんて何があったのさ?」

「もー、その話はしたくないのに……まあ、ちょっと色々と、ね?門矢さんに色々と言われたっていうかなんて言うか……」

「は? ちょっとちょっと、大丈夫だったのそれ?」

 

 スティック状の菓子を加えながらも、驚いた様子をした杏子ちゃんがさやかちゃんに尋ねる。

 

「うん、まあね。それに関しては謝ってもらったし、結果的に本当の戦う理由も見つけられたから。だから、ちょっとだけ。あの人の事は、信頼してもいいかなー……なんて」

「……ま、さやかがどう思おうが勝手だよ。アタシはまだ信用してねーけど」

 

 もにょもにょとしたもどかしそうな表情をしているが、その中には確かに遊星に対して感謝をしている様子も見られた。

 

 最初に聞いた時は驚いた。まさか遊星がさやかちゃんの恋愛話に首を突っ込み、告白させるなんて。

 ……しかしまあ。同時に、心の何処かで納得もしていた。彼だったらやりかねない、と。

 それにしても──

 

「戦う理由……少し、羨ましいなあ」

「えっ?」

「私ね、こうやってクウガとして戦っているけど……未だに、戦う理由っていうのが見つからないの」

「そうだったんですか? そんな事ない、って思ってたんですけど……」

「──実はね、私記憶喪失なのよ」

「記憶喪失!?」

 

 さやかちゃんの方へ向けられていた杏子ちゃんの視線が、驚愕と共に私の方へ向けられた……まあ、それも当然だろう。

 

「気がついたら遊星に拾われてて、それ以前の記憶は全く無し。クウガの力を持ってたから、心の赴くまま戦っていた──って感じかしら。正義のために、なんて事は全然考えた事がないの」

 

 その場に沈黙が走る──失望、されただろうか。

 私には戦う理由が無い。今日の様に一般人がいたらその人を守ったりはするが、その行動自体に理由があるわけじゃ無い。ただ、心の衝動に従って守り、戦っているだけなのだ。

 

「……それでいいんじゃねーの?」

「え?」

 

 そう口を開いたのは、ポケットから取り出したクッキーを頬張っている杏子ちゃんだった。

 

「戦う理由なんて誰もが見つけようと思って見つけられる訳じゃないさ。無理に正義の為、なんて気負う必要ねーよ。きっと戦う中でいつか見つかるさ、アンタだけの戦う理由が」

 

 ニッ、と笑う杏子ちゃんの顔は、どうしようもなく頼れる予感しかさせない。姉御とでも呼ぶべきような笑顔だった。

 なんて素晴らしいのだろう。まだ魔法少女の皆と交流を深めて時間が経っている訳ではないけど、杏子ちゃんの言葉は妙な説得力を持っている。

 それが経験から来た言葉なのか、それともはたまた別の理由かは分からない。それでも、彼女は年下に慕われるいいお姉さんになれると思う。

 

 

「……うん、ありがと。いつか見つけてみせるわ、私がクウガとして戦う理由を──」

「──クウガ?」

 

 その時だった。暗闇の奥にいたらしい男の人が、私のクウガという声に反応して、電灯の光で姿を現したのは。

 何故かボロボロの布と化している軍服を着た男は、私に視線を向けている。

 ──まあ間違いなく言えるのは、この男は只者ではないという事だろう。こんなにも相手を威圧できる一般人がいる訳がない。世紀末じゃないんだし。

 

「(輝夜さん、知り合い?)」

 

 さやかちゃんのテレパシーに対し、首を横に振る。

 こんな男と知り合った覚えはない。記憶を失う前、という事だったらお手上げだが。

 ──しかし、彼は今クウガという単語に反応したのだ。

 それが意味するのは、つまり。

 

「ビガラ、ギラクウガドギデダダバグドギダダバ?(貴様、今クウガとして戦うと言ったか?)」

「……ええ、言ったけど。あなたはどちら様かしら?」

 

 彼がクウガという存在に釣られた、という事。

 

「(アンタ、あいつの言葉分かるの?何言ってるのか全然分かんないんだけど)」

「ええ、何となくだけど……多分、私がクウガだからじゃないかしら?」

「ゴグバ ── バサダゴセドダダバゲ!(そうか──ならば俺と戦え!)」

 

 咆哮と共に、異形に姿を変えた。

 

 明らかに人間のものではない筋肉と外骨格は、それが怪人に分類させる存在だと知らせ。

 体の所々に身につけている古代の装飾品の特徴が、私にグロンギだと教えてくれた。

 その場を凍てつかせる程の闘気が、そのグロンギから伝わってくる。

 

「怪人──!?」

「……グロンギ。それも、話に聞くゴの集団辺りかしら?」

 

 戦闘民族であるグロンギには、階級の様な物が存在する。

 確かゴ集団はその中でも、かなり高い位置にいると聞いた気がする。遊星曰く、手強いのが多いとか。

 

 そんな相手に敵うのだろうかとも思ってしまうが、相手が相手なので逃げてはいられない。

 何より、クウガが目当てになっている内がチャンス。一気に叩いて、人々に被害が出ないようにしなければならない。

 

「ゴンドゴシザ、クウガ。ガガ、ダダバグゾ!(その通りだ、クウガ。さあ、戦うぞ!)」

「……ここまで熱いお誘いはされた事ないわね、全く」

 

 冗談を言いながらも、即座に体内のアークルを出現させ、腕は変身の構えを取る。

 そして、独特のポーズを取りながら左手の甲をアークルの脇にあるスイッチに持って行き。

 

 

「行くわよ、私の──変身!」

 

 叫びと共に、右手でそのスイッチを押し込んだ。

 

 私の姿が白い光に包まれ、クウガの鎧に合う様にその身長も少し大きくなる。マントを翻す様にその光を吹き飛ばし、私の白きクウガへの変身は完了した。

 それに合わせて、二人も姿を変える。

 

「ほう、俺の知るクウガとはまた別のクウガ。そして生身で戦うリントの女か。しかし、これは──貴様、ダグバのなり損ないか何かか?」

「グロンギは全員それ言うわね──そんなに似ているのかしら?後貴方、日本語喋れるのね」

「リントの言葉など覚えるのは容易い。しかし、その闘気で自覚なしだと?ハハハ、面白い──その力、この破壊のカリスマ「ゴ・ガドル・バ」が試してやる!」

 

 

 言って、彼──ガドルは私たち目掛けて突進してきた。

 さやかちゃん達二人は、いつでも飛び出せる様な姿勢で相手を待ち──私は、強く拳を握って飛び出した。

 

「はああああっ!」

「オオオオオっ!」

 

 お互いに間合いまで入り、互いに同時に思い切り拳を振るう。

 

 相手はゴ集団、その中でも手練れだろう。間違いなく苦戦する相手だ。

 ならば先手必勝。数はこちらが有利なので、流れを作れば勝機はある──!

 

 彼と私の拳がぶつかり合う。途端、全身を走る衝撃。ビリビリと伝わるそれは、このグロンギが格上である、という事を無情にも教えてくれる。これだから理不尽だ。

 

「流石、ゴはそこらのグロンギより違うわね!」

「それ以上の力を持ってよく言う!」

 

 拳を引っ込め、勢いに乗せて蹴りを放つ。しかし腕を盾にする事で、それも難なく防がれてしまう。

 あまりにも一方的すぎるその光景に、ガドルは少し苛立っている様子だ。

 

「この程度か?」

「まだまだ──なーんて、ね」

「何?」

 

 言葉と同時に、次の攻撃に移る──ように見せかけ、思い切り横に飛んだ。それだけで、何を狙っているのかを彼女達に知らせられるだろうと信じて。

 

 生憎だが、私は真剣勝負をするつもりはない。相手がクウガを目当てとしているなら、それを利用するだけだ。

 恐らくガドルは、私が突然戦線を離脱した事に一瞬気を取られるだろう。そこが狙い目。

 

「喰らえええっ!」

 

 私の真後ろでスタンバイしていたさやかちゃんが、私の離脱と同時に地面を蹴る。魔力を込めているそれは、青い閃光と化してガドルの懐まで一瞬で潜り込み。

 

 その体を串刺しにでもしてしまいそうな程の勢いで放たれた突きは、ガドルの体を確かに貫いた。

 

 グロンギは基本しぶとい性質。それで完全に倒せる等とは思っていないが、きっと戦闘の足枷にはなってくれる。

 

 

「──この小細工も含めての、その程度かという質問だったのだが」

 

 そんな私の想像は、あまりにも早く打ち砕かれる事となった。

 体を貫かれても平然としているガドルは、さやかちゃんが刺した剣を平気な顔をして引き抜いた。

 不条理だと叫びたい程だ。体を貫いたのが、その程度なんて言い切るなんて。

 

「体を貫かれてるのに……!」

「甘い、甘いぞリントの女!その程度で、この俺に打ち勝てると思うな!」

 

 激昂した様子のガドルは、引き抜いた剣を持つとそれをモーフィングパワーで自身が使う剣に変化させ……不味い!

 

「やらせるか、っての!」

 

 一瞬で振られたその剣は、横入りした杏子ちゃんの横振りの槍によって押し留められた──しかしガドルが力任せに剣を振るおうと力を込めると、その鍔迫り合いは一瞬でケリがついてしまい、押し切られた杏子ちゃんが姿勢を崩す。その空いた隙を逃さずに蹴りを叩き込まれ、後方に吹き飛んだ。

 

 

「まだ私との戦いは終わってないわよ!」

 

 二人をやらせる訳にはいかない、と私は白いクウガの転移能力を使って、ガドルの後ろを取り同時に拳を叩き込む──が。

 

 一瞬で後ろに回り込んだ筈なのに。それでも、ガドルは反応して。私のお腹に、持っていた剣を思い切り突き刺した。

 さやかちゃんも既に斬られたのか、血を流して倒れている。

 

「甘いのは貴様も同じだ」

「が、ぁ、っ……!?」

 

 熱い、熱い、熱い。

 突き刺される感覚が、こんなに痛いとは思わなかった。体が警報を鳴らす様に、全身に冷や汗をかく感覚が染み渡る。

 尚も熱い。鉛を流し込まれている様でもあるその痛みは、じわじわと広がっていってしまいそうだ。

 

 意識がはっきりしない。自分が膝をついているのは分かる。血塗られた剣が眼前に見えることから、多分腹に突き刺されたそれが引き抜かれているであろう、という事も分かる。

 

 もう一つ分かるとすれば。ガドルが、本気で私に失望している事だ。

 

 

「──弱い、弱すぎる!これならまだあのクウガの方が強かった!究極の闇を継いでいる貴様はもっと強いはずだ!」

 

 ガドルの怒声が、私の耳につんざく。正直余裕がない私にとってはうるさいが、言っている事は確かだ。

 多分、やろうと思えば私はコイツを倒す事ができる。ダグバというのは、グロンギの頂点に立つ者の名前。その力を完全に引き出したクウガならば、まず間違いなく圧倒できるだろう。

 しかし。

 

「ダグバの力、を──受け入れたく、ない」

 

 それにどうしようもない程恐怖を抱いているのが、私だ。

 戦う理由がない──その状態で力を解放するのが、途轍もなく恐ろしいと感じてしまっている。

 理由のない暴力は、悪意と同じ。

 自分を律して戦っているつもりでも、いつの間にかそのタガを外してしまっているかもしれない。

 

 自分でも何故ここまで恐れているのかは分からない。

 けれど確かな事は、私が臆病であるという事だ。

 

 

「……力を使いこなせない、ただの弱者だったか。ならば死ね!」

「輝夜、さん──!」

 

 既に私の事は見限ったのだろう。ガドルは血塗られた剣を振り上げ、そして──

 

 

 突如どこからか飛んできた黄色いリボンに剣は絡み取られ、ガドルの手を離れて行った。

 ああ、黄色いリボンを使うのはあの子しかいない。

 

「ム……?」

「そこまでよ!」

「マミ、ちゃん……!」

 

 先程別れた筈のマミちゃん。そしてその横で弓を構えるほむらちゃん。

 怪人を察知して来てくれたのであろう二人が、並び立っていた。

 

「これ以上、可愛い後輩と新しい仲間に手を出すのはやめてもらえないかしら?」

「新しい女のリントの戦士、か」

 

 正直、本当に助かった。

 二人が来てくれなければ、ここで私達は死んでいただろう。

 私の方は指一本動く気配がない。倒れたさやかちゃん、吹き飛ばされて壁に激突した杏子ちゃんもその意識を失っている。

 

 

 ──そこで、唐突に。脳裏にある姿が浮かんだ。

 

 

 漆黒の中、それは確かに存在感を放っていた。

 真っ白な体、それに浮き出ている全身に張り巡らされた血管の様な組織。

 装飾品を纏っている事から、彼もまたグロンギだろう。

 その場所に佇んでいるグロンギは私に手を差し伸べ、助けてやると言わんばかりに右手を差し出している。

 

 それを必死に脳内で拒絶する。

 ダメだ、アナタの力は使わない。使いたくない。

 しかし、考えれば考えるほど焦りの様な感覚と共にその脳内の姿がこちらに近づいて来ている気がする。

 ──そして彼の姿が目の前まで来た時。私は、彼に吸い込まれる様な感覚と共に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 巴マミは、焦っていた。

 今目の前で対峙しようとしている怪人。跪いている輝夜、更に杏子やさやかが気を失っているという事が、彼女の焦りを急増させた。

 それはつまり、この怪人が三人を相手に取れる実力者だという事。油断が出来ない。

 

「ねえ」

 

 そこで唐突に。輝夜から、冷たい声が発せられた。威圧を乗せたその声は、一言だけでその場を支配する。

 

「輝夜さん……?」

「……ほう」

 

 彼女から発せられた雰囲気が、ガドルの中のある記憶を呼び起こす。

 自分の身が凍りつく様な、あの感覚。それを思い出させる相手は、後にも先にも一人しかいない。

 その相手を思い浮かべた刹那。ガドルの全身が、炎に包まれた。

 

「あなたは私を楽しませてくれるのかしら?」

 

 愉快そうな声で喋りながら立ち上がる輝夜の様子は、まるで人形遊びをする子供の様に。

 この状況を、楽しんでいる様だった。

 そして、それは内側から燃やされているガドルも同じ事。

 

「目覚めたか、ダグバ……!」

 

 輝夜の内側に眠っていたそれが目覚めた事に、ガドルは歓喜し、この状況を作り出した誰かに感謝した。生前では果たせなかった、ダグバへの挑戦。それが叶ったのだから。

 

 

 

 ガドルの拳とクウガの拳が、再びぶつかり合う。

 先程と全く同じシチュエーションであるのに、驚愕したのはガドルの方だった。

 クウガの力が、先程と段違いに上がっているのだ。それこそ、ガドルが電撃体でなければ今の一撃でやられていた、と確信する程に。

 

「ガグガダグバ、ドギダダドボソバ(流石ダグバ、といったところか)」

「ほらぁ、もっと私を楽しませてよ!」

 

 殴る、蹴る、また殴る。互いにそんな攻撃を繰り返している。

 ガドルは、ひたすら戦闘に身を置きたい衝動から。

 そして輝夜は、自身を「楽しませてくれる」相手とひたすらに楽しむ様に。

 その光景を見た一般人が居るとしたら、こう語るだろう。

 ──怪物同士が、笑いながら仲間割れしていると。

 

 

 

 

 その二人の戦いに、マミ達は入り込める気がしなかった。無論、戦闘の激しさだけで言うならばまだ入り込める余地はある。

 そういう物ではなく──今の輝夜に、恐怖して動けないのだ。

 

 

 おかしくなってしまった輝夜は、仮面の下で狂った笑みを浮かべながら戦闘しているだろう。

 自分たちの知る彼女とは、決定的に違う。

 優しくて穏やかな性格の彼女は今、どこかにいなくなってしまっていた。テレパシーを送っても反応はない。ただ見ていることしか出来なかったのだ。

 

「……ッ!」

「暁美さん、何を……!?」

 

 

 しかし。そんな中でも、彼女は。

 ほむらだけは、足を動かす事が出来ていた。

 

「助けに行くわ……輝夜さんを!」

 

 ほむらには、分かっていた。

 彼女が自分から()()()()()()()()していることに。

 

「彼女」が世界から消えてしまった記憶を取り戻した時、無理をしてそれを自分の内側に隠し、誰にも見せないようにしていた時期があった。

 無理して平静を装って、一時はまどかは存在しない、と思い込もうとしてしまった──今から思えば、我ながらとても馬鹿な行為だと思うが──時もある。

 

 その時の自分に、今の輝夜が似ている。それだけの理由ではあるが、故に放っておけない。ほむらの心には、それしか浮かんでなかった。

 自分から狂気に取り込まれようとしている彼女を見るのが、ほむらにとってはとても辛かったのだ。

 

「輝夜さん、目を覚ましてください!」

 

 自分でも柄にもない事だ、と思いながらも叫び、再び叩き込まれようとした拳を後ろから全力で抑えるほむら。

 しかし、魔力で強化している筈の腕力でも、それは何とか抑えられている程度。クウガからすれば、歩いている道に水たまりがあったから迂回する程度の抵抗をすれば、この通り。

 

「邪魔よ」

「きゃ......!?」

 

 少し腕をふり払うだけでほむらの拘束をいとも容易く解き、ほむらの方を向くとその拳に炎を纏わせる。

 普段の輝夜ならば、間違ってもしない行為。それに、今の輝夜は手を染めようとしていた。

 

「私の楽しみを邪魔するなら──死になさい」

「……!」

 

 態勢を崩しているほむらには、何もする事が出来ない。

 普通の人間ならば即死するであろう輝夜の拳は、がら空きのほむらの腹部に吸い込まれる様に叩きつけられ──る直前に、その拳を止めて変身を解除して、その場に倒れこんだ。

 

「輝夜さん!」

「……ダグバの力に精神が耐えきれなかった、か」

 

 冷ややかに喋るガドルだが、その内心ではこれ以上ない程にダグバの力を持ったクウガに対して興奮をしていた。

 

 冷や汗をかかされそうな程の圧倒的な力。

 ダグバがかつて戦った黒の金のクウガとはまた違う、狂った故の強さ。

 恐らくはその力に精神の方が付いていけなかったのだろう、とガドルは推察した。

 

 同時に、失望をしてしまった事を撤回する。

 グロンギの頂点たる「ン」に相応しい力、その鱗片を味わえた事に感謝をした。

 完全に狂えば今の自分を楽々と超えられるであろう実力。それを倒せたのであれば、自分は更に高みに登れるとガドルは確信している。

 

「面白い──おい、そこのリントの女」

「!?……何かしら?」

 

 次は自分の番か、と身構えていたマミは警戒しながらも慎重に様子を伺う。

 

「クウガに伝えておけ。明日のこの時間、人質と共にこの近くの廃工場で待つとな」

「……人質?」

 

 人質という言葉に疑問を抱いた次の瞬間。ガドルは米俵を担ぐ様にほむらと倒れていたさやかを担いだ。

 

「な、どこ触ってるのよ、離しなさい!?」

「黙れ、貴様らはもう一度クウガと戦う為の人質になってもらう」

 

 ほむらがジタバタと暴れても、ガドルは全く離してくれる様子はない。

 それも当然だ、普通の蟻が象に敵わないのと同じで、ほむらがいくら暴れようがガドルはそれ以上の力で拘束している。

 流石に蟻と象程力量が分かれている訳ではないが、それでも腕力で言えば彼の方が圧倒的に上なのだ。

 しかし当然、それをマミが見逃す筈がない。

 

「二人を離しなさい!」

「銃か。撃つのは勝手だが、俺は容赦なくこの二人を盾にするぞ?」

「ッ……!」

 

 銃を出現させて構えるマミだが、ガドルの言葉に心を揺らされる。

 その隙をついて、ガドルは二人を担いだまま人間離れした脚力を使い、上空へ飛び上がり、そのまま暗闇に消えていってしまった。

 

「美樹さん、暁美さん……!」

 

 人質にとられたとはいえ、慕ってくれる大切な後輩を守れなかった自分を心中で責めるマミ。

 悔しい。勇気の足りなかった自分に反吐が出てしまいそうだ。

 しかしそれ以上にやらなければいけないことを忘れたわけではない。

 

 杏子の無事は、ソウルジェムの魔力で確認できる。だからといって後回しにする事を申し訳なく思いつつも、腹から血を流して倒れている輝夜に駆け寄り声を掛けた。

 

「輝夜さん、大丈夫ですか!? 輝夜さん!」

「……っ」

 

 声を短く上げた事から、とりあえず息はしているらしいとマミは安堵する。

 しかし、輝夜のその表情はどこか悪夢に魘されている様でもあった。

 

 それが何を意味するのか分からないマミは、とりあえず輝夜を道の端に横たわらせ、同じく気を失っているだろう杏子の救出に向かった。

 ──輝夜の腰に取り付けられたままのアークルの霊石アマダムが、異常をきたしている事を示すかの様に妖しく光ったのにも気付かぬまま。

 

 

 

 

 

 

 ──■■さん、俺、な■■す──

 

 

 ──■■は、■■だけしていて■しかった──

 

 

 

 

 

 

「う、ん……」

 

 猛烈な眠気が引き、目が覚める。

 何か長い夢を見ていた気もするが、内容は思い出せない。

 

「……知らない天井ね」

 

 天井に見える壁の模様には、見覚えがない。

 身体を起こして辺りを見回してみるが、やはり見知らぬ部屋だった。

 お洒落なカーペット。いかにも洋風、といったデザインの手すりが付いた階段。

 一つだけ言えるのは、恐らく一人暮らしの部屋である、という事だ。

 

「私、なんでこんな所に……?」

 

 そう、確か昨夜。

 魔獣と闘い、マミちゃんやほむらちゃんと別れてさやかちゃん達と帰って……

 

 

 

 それを、思い出してしまった。

 

 

 

 

「っ、そう、私、は……!」

 

 違う、違う、違う!あれは私じゃない。

 私は戦いを楽しむ様な事はしてない。私は暴力を振るう事に身を任せてなんかいない。私、は──

 

『──死になさい』

 

 ほむら、ちゃんを。殺そう、と、なん、か──

 

「ああ、そん、な──」

 

 心の何処かで、それは分かっていた筈。

 その筈なのに、私は認めたくなかったのだ。

 私の本性は暴力を楽しむ様な、最低な人間だという事を。自分から、あの狂気を望んでいたという事を。

 全て、認めたくなかったのだ。

 

「……あ、輝夜さん!目を覚まして……輝夜さん?」

「、来ない、で──!」

 

 マミちゃんが心配そうな顔をして近付いてくるが、それを手と声で必死に静止する。

 駄目だ、今は。

 今近付いてきた人を、私は受け入れられる自信がない。

 

「っ……すみません……あの怪人が、昨日と同じ時間に人質と共に廃工場で待っている、だそうです」

「……そう」

 

 心配するマミちゃんの事を思わず拒絶してしまい、マミちゃんは沈んだ表情になる。

 それを見るだけで、自分に対する嫌悪感はますますと増大していく。

 最低だ、最低だ、最低だ。一言だけ返し、その場で立ち上がる。

 ──今の私が、戦える気がしない

 

「……ちょっと、外に出てくる。ちゃんと約束の時間には行くから」

「外って、お腹の傷は……!」

 

 何か言っていた気がするが、そんな物を機にする余裕は今の私にはない。ひたすら衝動を抑える事だけを考えていなければ、多分私自身が耐えきれないからだ。

 

 

 

 

 マミちゃんの住んでいたマンションを飛び出し、行くあてもなく街を駆け回る。

 何かから逃げる様に、ひたすら。

 もし止まってしまえば、その何かに捕まってしまいそうだったから。

 

 そうしてひたすら走ったその先。ふと立ち止まってみると、そこは河川敷だった。

 距離にしてどれくらい走ったのか、想像もつかない。

 

「……」

 

 走り回って逃げていても、仕方ない。

 そこの土手に、思い切って仰向けで横たわってみた。

 太陽の暖かな光が、私を包み込む。普段なら穏やかな気持ちでそれを堪能出来るが、今の私にとってはそれすらも堪えかねる。

 

「あれ?あなた、もしかして……」

「……え?」

 

 そこで、不意に後ろから声を掛けられた。立ち上がって振り向くと、見知らぬ子連れの夫婦が立っている。

 しかし夫婦の内の女性の顔には、見覚えがあった。

 それも当然だ。何故ならその女性は、昨日私が昼間に助けたあの人だったのだから。

 

「やっぱりそうだ!」

「お知り合いかい?」

「ああ、まあ、昨日ちょっと、ね。困ってたのを助けてもらったのさ」

 

 女性は夫と思わしき男性の疑問にに、少しボヤかしながらも答える。今の言い方からして、恐らく私を匿ってくれたのだろうか。それとも、人外の怪物に出会った等という虚言とも取れない事を話すのは戸惑うからなのか。

 いずれにせよ、彼女に感謝しなければいけない。私の存在をバラさないでくれているのだから。

 

「あ、今時間ちょっとだけ良いかな?出来れば、ちゃんとお礼を言いたいんだけど……」

「……ええ、まあ」

「ごめんなさい、ありがとう。少しタツヤの事お願いしてもいいかな?」

「うん、大丈夫だよ。ほら、パパと一緒にあっちで遊ぼうか」

 

 やはり夫だったのだろう。穏やかな父親としての一面を見せながら、タツヤと呼ばれた男の子と共に河川敷の方へ向かっていってくれた。気を使って貰って申し訳ない。

 

 張本人である彼女は、座り込む形になっていた私の隣に座る。

 そうしたら急にこちらを向き、勢いよく頭を下げた。

 

「昨日は本当にありがとう!お陰で命が助かった!」

「え、いや、そんな頭を下げなくて……」

「それくらい感謝してるんだ、アタシは。あの時急に襲われて、もう息子や夫に会えないのか、なんて思うと……ね。そんな時に、助けてくれたのがアナタだった。お陰で命は救われたんだけど……何か、怖くなっちゃってね。仕事休んで、家族水入らずで過ごしてたんだ」

 

 語っている彼女の目線は、向こうの河川敷で遊んでいるお父さんと息子さんに向けられている。

 

 

「……あ、勿論アナタの事は誰にも話してないから。あいつが人間の敵うような相手じゃないって事はよく分かる。警察に言って話しても、どうせ実際に見なきゃあいつらは信じないしね」

「……ありがとう、ございます」

「……元気ないみたいだけど、何かあったのかい?」

 

 怪訝な顔をした彼女が尋ねてくる。

 無理に平気な顔をして対応しようにも、どうしてもバレてしまう物なのだろう。

 

「……まあ、昨晩ちょっと。強い奴との戦いに、負けちゃいまして」

「え……ちょ、ちょっと!怪我は大丈夫なの!?」

 

 負けたという事を聞いて、慌てて私の心配をしてくれる。

 やはり、彼女は優しい人なのだろう。その優しい心が、少し羨ましくもある。

 

「ええ、まあ。私、怪我しても直ぐに治っちゃうんですよね」

 

 そう。私の体は、アークルが体内に埋め込まれている影響からなのか傷の治りが恐ろしく早い。

 昨日剣で刺された傷も、もう治っているのだ。

 ……今ならわかる。多分、正しく生物兵器として

 ある為の防護機能の様な物なのだろう。

 兵器が傷付いては、困るのだから

 

 と。そんな事を思っていると、唐突に。

 私は、彼女に抱きつかれていた。それはまるで、子供をあやす母親の様に。

 

「え……?」

「傷っていうのはな。例え消えても、その人の心の中に残っちまう物なんだよ。傷が消えたなんて、そんな辛そうな表情をして言う物じゃないよ」

「そん、な……」

 

 そんな、筈は。無い。

 今の私の顔は、普段通りの筈だ。

 そんな、辛い、なんて。

 

 

 

 

『ほらぁ、もっと私を楽しませてよ!』

 

 

 

 

「ッ──!」

 

 唐突に、思い出すのは昨日の私。紛れもない、本性。本当の姿。

 狂気に塗れているのが、私なのだ。

 

 そんな私が優しくされる資格なんてない。

 しかし、それでも。彼女は、私を抱きしめる力を緩めないばかりか、更に強くする。

 

「大丈夫、怖くない。怖くないから」

「……離して、ください。私、昨日大切な仲間も殺そうとしたんですよ?あなたなんて──」

「アナタはそんな事しないよ。ほら、自分の顔を見てみなよ」

 

 そう言って彼女は、持ち歩きの手鏡を手提げバックから取り出して私の顔を見せてくる。

 そこに写っていた私の顔は──

 

「誰かを傷付ける事に躊躇わない奴は、傷付ける事を怖がって泣いたりなんかしないさ」

 

 ──泣いて、いたのだ。

 彼女は取り出したハンカチで、私の顔を拭ってくれる。

 まるで、泣き腫らした自分の子供の顔を拭う様に、しょうがないなという顔で、笑いながら。

 

「ほら、別嬪さんの完成さ──おっと!?」

 

 そこで、堪らずに。

 私の方から、彼女の胸に飛び込んでしまったのだ。

 それでも嫌な反応を一つも見せずに、彼女は泣き噦る私の事をまた抱きしめてくれていた。

 

 

 

 

 

 

 一通り、泣き終わった所で。

 自分がどれだけ恥ずかしい事をしていたのかを、脳が正確に理解して。

 私は、心中で悶えていた

 

「……すみません、凄く恥ずかしいところをお見せして」

「ううん、いいんだ。元はと言えばアタシから子供扱いしちゃってたしね」

 

 

 いっそ殺してほしいとも思うくらい、今の私は悶えている。

 それでも、この母親の様な事をしてくれた彼女は私に対して笑いかけてくれている。

「アンタみたいな娘がいたらなー」と言っている彼女に、私は感謝した。

 彼女のお陰で、胸の中にあった黒い感情は晴れた。まるで青空の様な、清々しい気分になっている。

 

「……その、ありがとうございます。お陰で、楽になりました」

「こんなおばさんのお節介で笑顔に出来たなら、それが何よりさ」

「……私、笑ってます?」

「気付いてなかったの?今のアナタ、凄く綺麗な笑顔をしているよ」

 

 ……無意識すぎて、自分でも気づかなかった。そうか。今の私は笑っているのか。

 

 再び手渡された手鏡を見る。そこに写っていたのは、多分先程までの私では出来なかった笑顔。

 自分の笑顔で言うのも何だが、見ているだけで清々しい気分になりそうだ。

 

「……気付きませんでした。笑顔って、とても素敵な表情ですね」

「そうだろ?やっぱり、人類皆笑顔でなくっちゃ。そうすれば、辛い時も乗り越えられるしね」

「──そっ、か」

 

 彼女からしたら、何気ない言葉だったのかもしれない。

 でも今の私にとって。それは、自分の世界を変える様な言葉だった。

 

 

 笑顔というのは、とても素晴らしいものだ。

 見ているだけで人を勇気付けてくれる事もあるし、励ます事もある。

 それならば、笑顔でない事は?

 勿論悲しい。沈んでいる気持ちは伝染して、その場を悲しみに包み込む事もある。

 

 

 笑顔とは、人に幸せを届けられる様な効果を持っている。人類の宝の一つと言っても過言ではない。

 

 だったら。今この人が、私にやってくれた様に。

 私は、皆を笑顔にしたい。そして皆の笑顔を守りたい。

 その為なら戦える。そう思うくらい、妙に心にしっくりくるのだ。そう、まるでなるべくしてなったような。元々、そうであったような。

 

「……悩み、解決したかな?」

「はい、全て。さて、私はそろそろ行きますね」

「ああ。私は見ている事しか出来ない、卑怯な立場だけど──頑張って、って。言ってもいいかな?」

「ええ、勿論。あ、じゃあその代わりに、あなたのお名前を伺ってもいいですか?」

「アタシ?ああ、まだ名乗ってなかったね……鹿目詢子、って言うんだ」

「詢子さん──ええ、覚えました。ではまた、何処かで!」

 

 彼女──詢子さんは、頑張れよと言わんばかりに親指を立て。

 私も、それに返す様にサムズアップをした。

 

 あの時、力に飲まれた恐怖を忘れたわけではない。

 あの時、腹を貫かれた痛みを忘れたわけでもない。

 

 それでも、笑顔を守る為なら。それを乗り越える事が出来そうだった。

 何故かというと──多分、私がクウガだからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 人気の無い廃工場で、その男──ゴ・ガドル・バは、さやかとほむらを縄できつく縛り、口にも噛ませて、仁王立ちで構え立っていた。

 精神を統一させ、コンディションを万全に。

 昨晩見た狂気のクウガを思い浮かべて、それを乗り越えるイメージトレーニングを果たし。

 静かに、その時を待っていた。

 

 そこまで彼がする理由。それは、彼が一度死んだ存在だったからだ。

 

 ガドルには、一度死んだ記憶がある。

 強敵であるクウガとの対決の末、その命を落としたのだ。

 しかし、気付けば彼は見知らぬ場所に倒れており、彷徨っていたら輝夜と出会い、クウガという言葉を聞いて対決を挑んでいた。

 

 これは運命か何かだ、とガドルは思った。

 あのダグバの力を宿したクウガを乗り越えるのが、蘇った自分に課せられたゲゲルの様な物なのだ、と。

 

 そう思い、心待ちにしていたのだが。

 

 

「……俺は、クウガとの戦いを望んでいたのだが?」

「輝夜さんは今戦える様な状態じゃない。代わりに私が相手をするわ」

 

 

 その前に立ちはだかったのは、他でもない。

 覚悟を決めた表情をしている、マミだった。

 

 マミがここへ来た理由は一つ。輝夜の代わりに、戦う為だった。

 輝夜があの調子では戦うのは無理だろうし、そもそもあの精神状態で戦わせたくない。

 

「……人質のリントを助けたいからか」

「ええ、その通りよ。こんな不甲斐ない先輩が、たった一つ出来る事だから」

 

 あの時、勇気が無かった自分をマミは悔いていた。手が届く場所にいたのに、それが助けられなかった。

 自分が情けなくて本当に仕方がない。

 だからこそ、先輩として自分が後輩達を助け出すと。その決意を持ってここに来ていた。

 

「(マミさん、逃げて下さい!そいつは──)」

「(分かってる。それでも、信用して待ってて)」

 

 慌ててテレパシーで話しかけるさやかの制止は、今のマミには届かない。

 

 マミは自分の実力を過大評価しているわけではない。相手との力量差もきっちり分かっているつもりだ。

 だから分かる。マミがこれまで相手して来たどの魔獣よりも彼が強い事に。

 

 それでも彼女は戦うのだ。大切な仲間を助ける為に。

 心配をさせない様に、ガドルの後ろで縛られている二人にマミはニコリと笑いかける。

 自分の心に広がろうとする不安を、必死に抑えながら。

 

「……まあいい。クウガが来るまでの暇潰しになるだろう。どれ、手合わせ願おうか……!」

 

 その言葉と共に、ガドルは怪人としての姿に変身する。

 その姿は雷撃体と呼ばれるそれではなく、目の色が赤である所謂格闘体と呼ばれるものだ。

 

「昨日と姿が違う……?」

「貴様相手にはこれで十分だ。弱きリントの戦士よ」

「……あら。その言葉、前言撤回する事になるわよ!」

 

 言葉と共に、ガドルは飛び出した。

 昨日少し相対した時に、マミの使用する武器が銃である事をガドルは知っている。接近戦に持ち込めば勝てると思った故の行動だった。

 

 対するマミは、落ち着いて自分の周囲に銃を展開。その一斉放火で、ガドルを迎え撃つ。

 しかしそれは、常人とは圧倒的に異なる硬質な肌を持つガドルにとっては無意味。鉄の壁を、小石を投げて壊そうとする様なもの。

 

「ふん、この程度──!?」

 

 無意味な物だ、とその身で受けようとしたガドルは次の瞬間驚愕する事となる。

 自分の体に弾かれた丸い弾丸が、毛玉の様にほつれ。質量を無視した量のリボンとなり、自身の上半身を包み込んで来たのだから。

 

「バビ!?(なに!?)」

 

 驚愕したガドルの視界が、黄色一色に染まる。

 しかし、魔力を込めて強化されているとはいえリボン。高が知れているそれを、ガドルが引きちぎるのは簡単な事だ。

 そしてそれは、マミも分かっていた事。

 

「ム……!?」

 

 再び視界が確保されたガドルの前には、マミの姿は一切無かった。

 右、左、後ろ。振り向いても何処にもいない事に一瞬戸惑った刹那、まだ見ていない場所がある事に気付く。

 

 そう、上。

 振り向いた先には、天井一面を埋め尽くす程のマスケット銃が展開されており。

 

「少しじゃ駄目でも、この数だったらどうかしら!」

 

 一斉に放火。

 激しく鳴り響く爆音と共に、空を埋め尽くす程の銃弾の嵐が、ガドル目掛けて襲いかかって来た。

 

「グ、ヌウ……!」

 

 雨粒が降りかかる様に襲い掛かる銃弾。

 一発程度なら何ともないそれも、何十、何百と同時に絶え間なく降りかかって来れば、勢いも相まってその皮膚を削り、ダメージを与えるのには充分すぎる程だ。

 

「な、めるな……!」

 

 しかし。それはあくまで、少しダメージを与えた程度。

 その程度でやられるなら、彼は破壊のカリスマの異名を名乗れていない。

 

 銃弾を全て受けきったガドル。その心中に、マミに対する弱者という評価は消え去っていた。

 それを示すかの様に変身。クウガを打ち倒した、雷撃体に再び姿を変えた。

 新たに現れた強者との戦いに、ガドルは嗤う。

 

「──認めよう、リントの女よ。貴様は強い」

「お褒めに預かり光栄だわ。後輩を助ける為だもの、これくらいしなくっちゃね──!」

 

 二人が飛び出したのは、同時だった。

 お互いに自身の近接射程まで入り込み、激しい競り合いが行われる。

 

 当たったら即死であろうガドルの拳が、マミの頭目掛けて振るわれ。

 頭を逸らしてそれをかわし、出現させたマスケット銃をまるで棍棒の様に振るうマミ。

 

「接近戦なら銃に勝てると思ったかしら?」

「対策済みか──それも面白い!」

 

 身を傾けてそれをかわすガドルだが、マミは素早く構え直すとそのマスケット銃から弾を放ち。

 ガドルは、それをかわした。自分から喰らいにいかなかったのだ。

 

「あら、先程までは当たってくれてたじゃない」

「わざわざこの局面で危険を顧みずに撃ったのだ。何かあると思うのは、当然だろう?」

 

 仕掛けたマミにとっては図星の様な物。返事と言わんばかりに、不敵に微笑んだ。

 それもそう、今マミが撃った弾は特別魔力が込められた特別品の様なもの。おおよそ10丁程のマスケット銃分の魔力を込めているそれは、無駄遣いが出来ない代わりに、雷撃体となったガドルをも貫く自信がある物だった。

 

「あら残念。さっきと同じで、油断しているかと思ったのだけれど」

「生憎、それで反省したのでな」

 

 ガドルの猛攻に、マミは耐え抜いていた。体術を交えたそれは、鍛え抜いて来たガドルの技術に劣っていない。

 

 それも当然。巴マミはとある例外を除けば、魔法少女の中でも本来最強と称される少女でたる。単純な戦闘能力に加え、長い戦闘経験で培って来た勘。リボンを交えた拘束と、武器に頼りすぎない為に身につけた体術。

 それらが合わさり、しかもマミの精神状態は絶好調。

 今のマミを止められる者は、早々といない。

 

「ははははは!」

 

 一方のガドルは、また笑っていた。

 久しく見ぬ実力者。しかも、クウガではない。超常の力を持っているとはいえ、生身の人間なのだ。喜ばない筈もない。

 

「──そろそろね」

「何?」

 

 今尚行われている近接戦の最中。

 唐突に、マミが呟きと共に上空に飛び上がったのだ。無論、それを追いかけようとするガドルだが、それは叶わない。マミが呟いたその瞬間に、全ての準備が完了したから。

 

 そもそもの話、近接戦でガドルに対抗出来る程の切り札をマミは持っていない。その経験と熟練の技を武器にして、あくまで対等に戦えているだけの話なのだ。

 

 では何故、近接戦に持ち込んだのか。至って簡単だ。広い視野を持たれ、自分たちの周囲──普段なら既に消えている筈の散らばったマスケット銃を魔力代わりの媒体にして、大規模な魔法を展開しようとしている事を悟らせない為だった。

 

 そして、その魔法が起動する。黄色い、巨大な魔法陣がガドルの立っている場所を中心に展開。

 その魔法陣の向こう側から現れたのは、またまた無数のリボン。しかしその数は、先程までの比ではない。

 先程までは、精々が数十本。

 今回のは──その場の誰にも数えきれないが、恐らく千を超えるのではないか。

 そう思わせる程の数。工場一帯を包み込んでしまいそうなそのリボンの一部が、ガドルを拘束した。

 

「な、んだと──!?」

「膨大な魔力を引き換えにしたんだもの。その拘束は振りほどけないわ」

 

 マミの言葉通りだ。ガドルがいくら力を込めても、それはビクともしない。

 当たり前だ、それは先程の数千倍もの強度を誇る無数のリボン。解けた所で、また拘束されるのがオチだ。

 

 そうしてガドルが争っていると、残りのリボンが再び収束し。

 いつも彼女が使う物よりも更に一回り大きいサイズの大砲が、ガドルを狙う形で出現した。

 

「ここまで火力を出した事は無いけれど、偶にはかっこつけなきゃね──ティロ・フィナーレ!」

 

 そうして彼女は、何時もの様に。

 昔TVを観ていて憧れたヒロインの魔法少女の様に、必殺技の名前を叫び、自分を奮い立たせながらも大砲を発射した。

 

「グ、ヌオオオオオ!」

 

 最早ガドルに、残された手はない。

 放たれた巨大な砲弾を模した魔力の塊が、ガドルに近付いて行き──その場が、爆炎に包まれた。

 

「(うわあ、マミさんすっげえ……)」

「(当たり前でしょ。あの人、絶好調の時の強さは半端じゃないんだから。メンタルが崩れやすいだけで)」

 

 

 これが、絶好調の時の巴マミ。

 何かを助ける為に戦う彼女の強さは、そこいらの魔法少女とは比べ物にならない。

 

「……そんな」

「全く、間一髪だったな」

 

 その筈、なのに。更にその姿を変え、ガドルは蘇ってきていた。

 

 体の所々に、更に装備された装飾品。

 その厳格な見た目とは裏腹の、薄いピンク色の眼。

 そして何よりマミが気になったのは、彼から感じられる魔力だった。

 

「確かに先程までの俺であれば、砲撃で死んでいただろう。しかし当たる直前、この身──正しく言えば、このベルトの魔石ゲブロンが、貴様が持つその力を吸収して進化を促進させた」

「そん、な……!?」

 

 確かにマミは先程まで惜しみなく魔力を使っていた。よって今の廃工場は魔力が立ち込めた状態になっている。怪人にとって未知の力であるそれを吸収し、進化したというのにも一応筋が通っている。

 

 それはマミも理解している。

 だけど、それでもあまりにも理不尽。マミの一撃は、確かに届いていたのに。

 もし進化していなかったら、間違いなくその一撃はガドルを打ち砕いていただろう。

 

 しかし、理不尽な存在だからこその怪人。だからこそのガドル。

 

「さて、行かせてもらうぞ──!」

 

 

 ガドルは強化された脚力で一瞬でマミに近付き、一撃。鳩尾に拳を叩き込む。

 

 動揺しているマミには、それに反応する事が出来ず。容赦なく、その意識を刈り取られた。

 

「貴様は強かったぞ、リントの女よ」

 

 

 

 

 

 マミの魔法少女としての変身が解除され、その場に倒れこむ。

 その前に立ち尽くすガドルは、自分の新たな進化に喜びを覚えていた。

 

 ガドルに宿った新たな力──魔法体とでも名付けるべきだろう──は、ガドルの力を更に高みに上げ。

 今の彼ならば、ダグバと互角以上に戦えるだろう、と。そう自分に思わせる程の力が宿っていた。

 

「フフ、フハハハハ!これならばダグバに勝てる、勝てるぞ!」

 

 抑えきれずに思わず高笑いをするガドル。

 そんな彼は、魔法体として覚醒した影響により強化された感覚で、先程から此処に近づくとある気配を感じ取っていた。

 姿形は違えど、それはガドルの好敵手。

 

「誰に勝てるって?」

「──来たか、クウガよ!」

 

 クウガ。それに変身する輝夜が、廃工場の入り口に立っていた。

 その表情からは、迷いが一切見受けられない。まるで友人に話しかける様な、そんな気さくな表情をしていた。

 

「……何があった?貴様、一皮剥けたような顔をしているぞ」

「あら、そうかしら……そうね、多分戦う理由を見つけられたからじゃないかしら」

「ならば、全身全霊を以って相手をしようではないか──!」

 

 威嚇をする様に、ガドルの全身から魔力が噴出する。

 常人なら恐怖で気絶するだろうそれも、今の輝夜にとってはそよ風のような物。

 気にせず、アークルを展開した。

 

「私は、皆の笑顔を守る為に戦う。だからこそ──」

 

 語る輝夜の顔が一変。

 笑顔から、真剣な表情になり。真っ直ぐと、ガドルを見据え。

 

「──皆の笑顔を傷付けたあなた、そして私が許せない。その為に戦ってみせるわ、究極の闇を継ぐ者として──クウガとして!変身!」

 

 その表情を覆い隠すように、白きクウガの鎧は纏われる。

 

 それは、何時ものクウガとは少し違う風貌をしていた。

 基本的な色は変わらない。しかし、何時もの鎧が異なる形に変化していた。

 肩には金色の肩当ての様な物が装着され、白い鎧には黒い血管の様に組織が浮き出ている。下半身を太腿辺りまで覆う様な金色の前垂れが、装着されている。

 ガドルは、その姿に──否、より強まったその風格に覚えがあった。

 昨夜と同じ、或いはそれ以上。

 しかし、昨日とは決定的に異なるのは。彼女から、ドス黒い殺気を感じられない事だった。

 

「ダグバ──!」

「あなたも進化しているみたいだけれど──私も、少し進化したみたいね」

 

 仮面ライダークウガ ダグバフォーム。それは、まだ不完全ながらも真の姿を取り戻していた。

 ダグバの力を受け入れられなかった時よりも、そして精神が狂っていた時よりも、その力はずっと強いだろう、と。

 ガドルは、戦う前からそう感じていた。

 理不尽なまでの成長を遂げた彼女に、ガドルは怒ってなどいない。否、逆にまた喜んでいる。

 進化した自分と、また渡り合えそうな相手が来たのだから。

 

「クウガ──ジャザシ、ゴセンラゲビダヂズガガスバ(やはり、俺の前に立ちふさがるか)」

「ええ。貴方が誰かを傷付ける限りね!」

 

 それを皮切りに、二人の最強同士がぶつかり合う。

 

 クウガが脚力を用いて一瞬で近付き、硬質な腹部に膝蹴りを叩き込もうとするが、一歩後ろに下がったガドルに届かず。

 再びその距離を詰めて来たガドルの拳が、無防備なクウガに激突する。しかし、当たったのは咄嗟に交差した腕。大したダメージにもならない。

 

 ならば追撃だ、と言わんばかりにガドルがもう一方の拳を放とうとした時。

 下からの衝撃とともに、ガドルの視界が揺れた。

 

「ガッ……!?」

「甘いわよ!」

 

 つま先での蹴りが、ガドルの顎をアッパーカットをするような形で蹴り上げていた。

 魔力で強化されている体とはいえ、生物の弱点とも言える脳を揺らされれば隙も出来る。

 脳が揺れて状況が整理できないガドルに、クウガの容赦ない追撃。

 右腕に炎を纏わせると、一撃。その場の空気を一気に燃え上がらせる様な爆炎とともに、その拳が無抵抗のガドルをブチ抜いた。

 

「喰ら、ええええええ!」

「おおお――!」

 

 想いを込めた炎が、強化された筈の硬質な皮膚を焼き尽くす。

 全身を焼き尽くされるその痛みは、尋常では無いはずなのに。それでもガドルが膝を付くこともなく、ただひたすらそれに耐えていた。

 それは、ガドルの並外れた精神力がさせる賜物。死後という特別な状況だからこそ生まれた、もう一度猛者との死闘を演じたいという執念がさせている物。

 

 それがあれば、彼に不可能は無い。

 身を振り絞って全身から魔力の衝撃波を発すると、身を包んでいた炎を一瞬で消し飛ばす。

 

「ボンデグゾゼゴセゾダゴゲスドゴログバ!(この程度で俺を倒せると思うな!)」

「さーて、こっからが本番ね……!」

 

 輝夜は、再び動き出すだろうガドルを目の前にして本腰を入れ。

 ガドルは、先程までの自分の醜態を反省し。吠えながらも、行動に移った。

 装飾の一つを引きちぎり、モーフィングパワーを用いて剣を精製する。

 それは対するクウガも同じ。新たに腕に取り付けられていた腕輪が一瞬金色に光ったかと思えば、そこから剣――輝夜のクウガがもう決して到達できないであろう、紫のクウガの獲物であるタイタンソード――を出現させ、右手で構える。

 

 

 そうして互いに、ゆっくりと近付き合う。

 自身の獲物の射程内まで、一歩、また一歩と互いを睨み合いながら、慎重にその時を待ち。

 両者が同時に相手の射程に入った瞬間。同時に思い切り振るわれた剣が、二人の鎧と皮膚を切り裂いた。

 

「はっ!」

「おおおっ!」

 

 両者共に少し仰け反るが、それでも再び同時に剣を振り、また傷付き。それを何度か繰り返し、斬撃音のみが虚しく響き合う。

 それは、戦闘というよりかは意地と意地のぶつかり合い。ガドルは、決して二度もクウガに負けてたまるか、という意地。輝夜は、新しく出来た戦う理由のために、絶対に倒れられないという意地。

 

 やがて、何度めかの衝突かで二人の持つ剣は同時に刃毀れを起こした。当然だ、クウガもガドルも、今の両者を包む鎧は強固な物なのだから。

 それを確認した二人は、同時に剣を投げ捨てると、今度は拳同士でぶつかり合う。

 

「おりゃああ!」

「フン!」

 

 殴る度、殴られる度に湧き上がる鋭い痛み。輝夜はそれを、この戦いの中で決して忘れることはしない。

 それが、殴られる者の痛み。殴るものの、心の痛みであるから。

 こんな悲しい、苦しい思いを無関係な人々にさせたくない。だからこそ彼女は心の笑顔を忘れずに、ただひたすら殴るのだ。

 

 

「きゃっ!」

「クッ!」

 

 そうしてまた何度目かのぶつかり合いで、二人は衝撃により後方まで吹き飛ぶが受け身を取り、再び立ち上がり相手を見据えた。

 切り合い、殴り合った両者は既に疲労困憊。その鎧や皮膚はボロボロの状態となっている。

 であるならば、取るべき行動は一つ。ここで決着をつける。それだけだ。

 

 ガドルは体内に眠る雷の力と魔力を活性化。その二つを体内で融合させると、体から電撃状のオーラが出現し。全身にそれを纏い、それから両足にそれを収束させた。

 クウガはただひたすらに、精神を統一させる。アークルを最大限まで働かせてエネルギーを作り出し、またそれを右足に集中させていた。それを示すかのように、右足が強く輝きを放ち始める。

 

 

 そうして、全ての準備が終わったその瞬間。二人は同時に駆け出していた。

 最早、二人の間に言葉は不要。力で真っ向からねじ伏せ、自分の意地のほうが強いと相手に分からせるだけだ。

 ある程度まで進んだ地点で、二人はまた同時にジャンプ。

 

「フン!!」

「はああああ!!」

 

 声と共に、同時に蹴りを放ち。それが空中で激突した。

 

「負、けるかああああああ!!」

「オオオオオオオオオオオ!!」

 

 意地でも負けを譲るもんか、と両者共に吠え。同時に背中から、ロケットでいう推進の役割を果たすように、ガドルには雷の、輝夜には白い輝きの、それぞれが持つエネルギーが放出される。

 しかし、それは二人共両方が負けないという気持ちの一心で出した物。本来エネルギーを制御しなければ安定しない筈の物だが、強敵だけを意識している今にそんなことが出来る筈もなく。

 やがてそれは、エネルギーの制御が効かなくなり。空中で大爆発を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 多大なダメージから変身が解除された輝夜は、その場に倒れ込んでいた。

 意識までは失っていないが、そうなるのも仕方がない。新たに進化したダグバフォームの力でも、魔法体となり強化されたガドルを相手するのは至難の業だった。それ程までに、ガドルというグロンギはひたすら強かった。

 

 ――しかし。ガドルは、まだ倒れていない。倒れた輝夜の目前にて、その体をボロボロにしながらも立っていたのだ。

 それは輝夜もわかっていたが、彼女の体はもう少しも動かなかった。

 やっと見つけた、戦う理由。それを胸に戦ったというのに、一歩届かなかった。それが、輝夜にとってはとても悔しくて。思わず、呟いてしまう程。

 

「……悔しい、なあ。勝ったと思ったんだけど」

「いいや、勝ったのはお前だ。クウガよ」

「……え?」

 

 何とか力を振り絞り、顔を上げる輝夜。

 そこに立っていたガドルの肉体。より正確に言えばベルトの部分には、クウガの紋章が確かに刻まれていた。

 それはつまり、ガドルに確かに封印エネルギーを叩き込めたということ。もう、数分もしない内にガドルの肉体は爆発を引き起こすだろう。

 

「そんな、抵抗すればまだ……!」

「貴様と戦う前、そこのリントの戦士に追い詰められたのでな。この体も既に限界を迎えている。そんな余力はもう残されていない」

 

 そう語るガドルの声は、何処か満足げだった。

 

「誇れ、クウガよ。貴様は狂気にも陥らず、この破壊のカリスマを乗り越えたのだ」

「……誇れって言ったって、何も嬉しくないわよ。貴方を殺したのよ?そんな相手に言われても、正直微妙だわ」

「悲しみながら、笑顔の為に戦うか。リントの心はよく分からない物だ」

「……ねえ、ガドル。貴方は私以外のクウガを知っていたみたいだけれど、どんな人だったの?」

「そうだな。リントとしての奴は、よく知らん。ただ――」

「ただ?」

 

 

 ――一つだけ言えるのは、恐らく貴様とあのクウガは違うようでよく似ている。

 

 

 それだけを言い残したガドルの体は、爆炎に包まれ。

 

 廃工場の天井を突き破り、巨大な火柱を上げる程だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その音で目覚めたマミはさやかとほむらの縄を解き、疲労に耐えきれず気絶した輝夜を連れてまたマミの家まで運び込まれた。

 幸い輝夜は数時間程で無事に目が覚めた。覚めたの、だが。

 

 

 

「……で、何であなたは私のアークルの中に居るのかしら?」

『こちらが聞きたい所だ。何故俺はここにいる?』

「知らないわよ!」

 

 目が覚めたら、死んだ筈のガドルの魂が輝夜のアークルに宿っていたのだ。

 原因は不明。あまりの事態に輝夜は卒倒しかけるが、そこは何とか気を強く持ち。

 

 話を聞いてみると、どうやら彼自身も気がついたら意識だけの存在となっていたらしく。神経系に接続しているアークル内部にいるので、輝夜の身体を操ることも可能だと語った。無論、主人格である輝夜の命令が優先されるが。

 

 そこで、マミ達に傷付けたことを謝罪、そして絶対に人間を傷付けたり、強制的に体を乗っ取ろうとしない、という事を条件とし、戦闘の際、たまにガドルに体の主導権を渡すことを輝夜は提案。ガドルは、驚きながらもそれに承諾していた。

 

 余談だが、ガドルの性格は明らかに少し丸くなっていた。

 肉体を失って魂だけになった影響からなのか、それとも擬似的に輝夜と一体化している影響で輝夜の性格に染められたからなのか、それともその両方からなのか。

 

 とにかく輝夜は早速ガドルに身体を譲り渡し。マミ達に謝罪をさせていた。それはもう、魔法少女たちが戸惑う程の立派な土下座付きで。

 

 

「……戦闘にて傷付けた事、殺そうとした事、誘拐をした事を謝罪する。すまなかった」

「輝夜さんの体で言われると、何かすっごい違和感あるんだけど……」

「仲間を傷付けた奴は許せねーけど……二人がいいんだったら、アタシはいいぜ。ちゃんと反省しなよ」

「……まあ誘拐された事は気が済んでないけれど、それも何とか済んだし。これから心を入れ替えてくれるなら、とりあえず私は受け入れてもいいわよ」

「ちょ、二人共いいの!?……あーもう、分かった!あたしもいいよ!意地はっても仕方ないしね!」

 

 何だかんだで、マミ以外の魔法少女はそれを受け入れていたが。

 マミだけは真剣な目付きでガドルの事を睨みつけていた。それには、他の魔法少女たちも気付いている。

 当然だ、彼女からしたら大切な後輩を傷付けた相手。そう簡単に許せる筈もない。

 

 突然その場から立ち上がった彼女は、未だ土下座をしているガドルの前まで詰め寄り。

 

「少し、顔を上げて貰えるかしら?」

「ああ……っ!」

 

 瞬時に魔法少女姿に変身すると、顔を挙げさせたガドルの頬を思いっきり引っ叩いていた。

 パチーン、と場に軽快に響くその音は、軽快さとは裏腹にその光景を見ていた魔法少女達の肝を思い切り冷やさせる。

 叩かれたガドルは、その痛みを自分の罪だと実感しながらもそれを受け入れる様に静かに目を閉じ。その様子を見たマミは、溜息と共に変身を解いた

 

「大切な仲間を傷付けたあなたは正直今でも許せないけど……そこまで真剣に謝られて、しかも一番の被害者の二人も許してるんだったら、私も大人にならないとね。許すには時間がかかるけど……とりあえず、受け入れるわ。あなたのこと」

 

 そう言って、少し微笑んだマミ。それにガドルは戸惑うばかりで。

 

「……全く、リントの心は本当によく分からん」

「あら、そこはこれから学べばいいじゃない。時間はたっぷりある訳だし」

「リントを、学ぶ?……なるほど、一理あるな」

 

 破壊のカリスマである自分を追い詰めたマミに、二度も倒したクウガ。

 どちらもリントであり、超常の力を持っているとはいえ本来打ち倒せる様なものでは無いはずだ。

 グロンギと人間。その違いが、恐らく自分に敗北を齎したのだろう。ならばその違いが分かれば、今度こそ。自分は、またさらなる高みに立てるのではないか。

 ならば、今はその人間を観察しよう。そして、学ぶのだ。何が違うのか、何が足りなくて、自分は負けたのか。

 二度死んだガドルの、新たな決意が生まれた瞬間であった。

 

 

 

 本来起こるはずのなかった運命は、破壊のカリスマであるガドルに新たな運命を与えていた。

 それが、何を生み出すのか。どんな結論に至るのか。

 まだ、誰にも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

「ん?……妙に心中が騒がしいと思ったら、貴様の平手でクウガが痛がっているぞ」

「え、痛覚共有してるの!?ご、ごめんなさい輝夜さん!」

『ま、魔法少女の本気のビンタ、今回暴走した罪だと思って甘んじて受けたわ……めっちゃ痛いけれど』

 

 




主人公の筈の遊星登場しねえ!そんな5話でした。今回の主人公は輝夜ってことでここは一つ。
輝夜がクウガとして改めて笑顔を守る為に戦うというお話を作ろうとしたら、こんなに長く。まあたまにはええやろ!って事で許して頂けると。

死闘の末、ガドルは倒れてその魂は何故かアークル内部へ。丸くなったガドルはとりあえず輝夜の言うことには従います。敗者だから仕方ないね!ガドルが輝夜の身体を借りて戦う時には、とある変化も……?

クウガのダグバ化が進行してますが、新たな戦う理由を見出したのでまだ完全に狂気に堕ちる事はありません。まだ。

次回の話は幾つか構想はありますがまだ未定なので、少し遅れます!
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