side:シャルティア
「ペロロンチーノ様、お会いしたいでありんす……」
淫靡な雰囲気の漂う部屋の中で、一人の少女が涙で頬を濡らしていた。
ベッドに横たわり、自分の身体を抱きながら悲しみに暮れる姿は、幼い容姿ながらも孤独の辛さを体現している。
最も、隣で道具をつっこまれた二人の吸血鬼の花嫁が裸で身悶えしているため、哀愁漂う雰囲気もぶち壊しではあるが。
しかし、明日からは念願の任務だ。モモンガ様からそのために休むようご慈悲をかけていただいている身であるため、いつまでもあの御方のことを想って休めなければご厚意を無駄にしてしまう。
そして、シモベの嬌声を聞きながら、彼女は眠りにつく。この世の誰よりも愛しい人のことを記憶の隅へと追いやって――。
「モモンガさん、モモンガさん、見てください!シャルティアが遂に完成したんですよ!」
気付いたら、目の前で愛しい御方が目を輝かして自分を見てくださっていた。
(ぺぺペペロロンチーノ様ぁぁ!お、お戻りになられたのでありんすか!ずっと、ずっとずっと、お会いしたかったでありんす!お会いしたかったでありんすぅぅぅ!)
心の中で叫んでみるも、その声はペロロンチーノには届かない。
声を出そうとしても、何故か凍ったように身動きが取れず、自由に喋ることもできないのだ。
身体中は熱くなり、愛しさと歓喜が溢れんばかりに湧き上がってくる。理性がそれよりも遥かに強い感情に覆い尽くされ、ただ幸せだけが膨れ上がる。
今すぐにでも愛する人の胸に飛び込んで、この気持ちをお伝えしたい!!!
しかし、どれだけ心が揺さぶられても、決して身体は動かない。
自分にできることはただそこに立って微笑んでいることだけ。
でも、それでも嬉しかった。
この気持ちが貴方様に伝えられなくても、ただそこにいてくれるだけで。
それだけで幸せだった。
「おぉ、おめでとうございます!とっても可愛らしいですね!」
「ありがとうございます!そうなんです、シャルティアはかわいいんですよ~」
(嗚呼、嗚呼!ペロロンチーノ様、わっちにかわいいなどと!もったいないでありんす~!)
「幼い雰囲気に、この変わった服も凄く似合ってますね」
「はい、これはゴスロリといって、ロリとエロを併せ持つシャルティアにぴったりの服装なんですよ!」
「え、エロですか?」
「はい!シャルティアはロリの他に沢山のエロい属性を持ってて、それがシャルティアの萌えを演出するんです!」
(そうでありんす!エロと〝もえ〟でありんすえ!)
ペロロンチーノが大げさに身振り手振りを加えながら、熱くお語りになり始める。
御方が自分を見てくださる。自分のことを他の御方に自慢してくださる。
そして何よりも、そんな御方が楽しそうで、心底楽しそうで!!
そのお姿を見ているだけで、シャルティアには何度も何度も天に昇れるほどの快感が駆け巡る。
ああ、自分はなんて幸せ者なのか!!愛しの御方にこんなにも愛されているなんて!!!
「たとえば廓詞なんて、シャルティアのロリ属性と絶妙なギャップを生んで、此処に絶世のロリBBAが完成します!」
「ロリババア、ですか……」
(はい!ろりばばあ、でありんす!ペロロンチーノ様、わっちはちゃんとお望みの通りに出来ているでありんすか……!?)
「それとシャルティアは貧乳なんですが、そこにコンプレックスを抱いてるんですよー。いやー、貧乳に悩む女の子は正義!」
「は、はぁ……」
(ありがとうございますでありんす!。でも、やっぱり恥ずかしいでありんす……)
「あ、それとネクロフィリアなんてのもありますよ。モモンガさんみたいなイケ骨は大好きです」
「えぇ…………」
(はい!モモンガ様はとてもお美しく、慈悲深き愛しい御方でありんす!)
シャルティアは幸せな一杯な気持ちで自分のことについて語り合って下さっている二人の御方を見る。
しかし、モモンガの方を見て笑うペロロンチーノを見ると、シャルティアの心に何故か急に寂しさが押し寄せてくる。何故?幸せなはずなのに、なんでこんなに寂しいの?
――嗚呼、駄目だ。“この感情”は駄目だ。不敬だ。でも……
そして、シャルティアは思い至ってしまう。
何故こんなにも寂しいのかを。
モモンガが好きと創造主に言われた時に、喜びと共に、なぜこんなにも寂しさが湧き上がるのかを。
(だって、私が一番お慕い申し上げているのは――)
シャルティアが抗いがたい“その感情”を意識した瞬間に、ペロロンチーノの姿が急に陽炎のように揺らめき、薄らいでゆく。
(ぁぁ、ペロロンチーノ様!まって!いかないでください!ごめんなさい!ごめんなさい!こんな不敬な感情を抱いてしまってごめんなさい!!わたしはどんな罰でも受けます!死ねというなら喜んで従います!だから、いかないで――)
絶望と哀しみがシャルティアの心を覆い尽くし、やがてその意識も消失した。
side:ペロロンチーノ
贅沢の限りを尽くしたホテルのスイートルームのような部屋で、バードマンと少女が向かい合っている。
『ペロロンチーノ様!シャルティアでありんす!』
『おぉ、シャルティア!やっぱりかわいいなぁ。さすがは俺の嫁!』
『そんな、嫁だなんて……。恥ずかしいでありんすっ』
『はっはっはっ!恥ずかしがってがってるところも可愛いぞ!はっはっはっ――』
「――はっ!?」
薄暗い、いくつものPCが並べられた仕事場で男は目を覚ました。思わず辺りを見回すがそこにはいつも通りの乱雑としたした空間があるだけで、彼の期待した者はどこにもいない。
どうやら残業中に居眠りしてしまったようだ。外はすでに真っ暗で、自分の他にぽつぽつと残業中の人間はいるもののとっくにほとんどの人は帰宅していた。
(しまったなぁ。最近仕事が忙しすぎて寝る時間も削りに削ってたからかな……。明日も仕事だし、早く帰って休まないと……)
男はPCの電源を落とし帰宅の準備を始めながら、ふとさきほど見た夢のことを思い出す。印象が強かったのかなぜか“彼女”と話したということは忘れず覚えている。
(はぁ。それにしてもまた夢に出てきたよ、シャルティア。エロゲのキャラが出てくることはたまにあったけど、ここまで頻繁に出てくるなんてなぁ)
男はぼやけた頭で夢のことを思い出しながら、とぼとぼと付けっぱなしのPCの電源を落とし帰宅の準備を始める。
(まあ、シャルティアは俺の最高の理想像だもんな。作るのにめちゃくちゃ手間をかけたし、キャラ愛があって当然か……)
残った数人に挨拶をして、男は帰路につく。
疲れた体でぼんやりと真っ暗な道を歩いていると、何故か今日見た夢のことや昔のことを考えてしまう。きっとあの頃が本当に楽しかったからだ。
今の、好きなこともできずにただ仕事をこなすだけの毎日からすれば、あの頃の思い出は本当に夢のようだった……。
冒険心の限り好きなだけ探検することのできる世界。自分のことを受け入れてくれる友人達。自分の理想を体現した彼女。
そこには、全てがあったのだ。
しかしそんな楽園での生活も、リアルの生活が困窮していくにつれ仕事との折り合いが付けられなくなっていった。そして他の友人も、進む速さを増していく現実世界の前にあの世界に留まれなくなり、どんどん減っていった。
『いやぁ、みなさんリアルが忙しいでしょうからね。仕方ないですよ!それより、今日は二人で久しぶりに探検にでも行きませんか?ヘルヘイムの大洞穴でペロロンチーノさんの大好きなサキュバスが大量発生してるらしいですよ!』
最高の友人である彼はその度に悲しんでいて、でもそれを隠して精一杯楽しもうとしていた。それを自分は何よりも分かっていたから、安易に慰めの言葉を告げることもできなかった。
『おぉ、マジですか!!最高じゃないですか!早速いきましょう、モモンガさん!!』
だから自分も精一杯楽しもうとした。
彼にとっても自分はここに残った貴重な友人であると分かっていて、だからこそ彼を一人きりになんて絶対にしたくなかった。
――したくなかったのに。
(モモンガさん。俺は、ユグドラシルにINできなくなってから、あんなに後悔したのに!結局、最後の最後まであなたをあの場所で一人きりにして……。なんて、なんて最低なんだ!!くそっ!)
彼はそのときの絶望を思い出し、感情を高ぶらせる。
彼が気付いた時、すでにユグドラシルは終わっていたのだ。
仕事に奔走され、ネットの情報をまともに得る機会を失い、運命のいたずらかその情報を彼に教えてくれる者と話す機会もなかったため、そもそもユグドラシルが終了することすら知ることができなかった。さらに仕事とプライベートのメールを分けていた彼は、友人からのメールに気付くこともできなかった。
そして、彼の知らないところで一つの世界が終わった。
それから姉にそれを知らされ、その友人にメールを送ったが、どれだけ待っても返事は来ないままだ。
(モモンガさん……。もう一度会いたいです。もう一度会って、ちゃんと謝りたいです。許されなくていい、それでも、あなたを一人にしてしまったことを謝りたい……)
と、彼が思考の中にいながら夜道を歩いていると、道を走る車のライトに照らされて、ふと自分の前に何か動くものが見えた。
(あれは、子供?なんでこんな遅くに?)
それはまだ年端もいかない少女だった。おそらく十代半ばかそれより下くらいであろう。
彼女はこそこそと身を隠しながら、民家の中を伺っているようだった。
(おいおい、まさか盗みに入ろうとしてるんじゃ。多分、孤児なんだろうな。あんなにちっちゃいのに……)
彼は何か優しく声をかけようと少女へ近づく。
しかし、車のライトに照らされて自分に近づく男を見たとき、今からいけないことをしようとしている少女が平常心でいられるわけがなかった。
「きゃああああ!!」
少女は駆けだす。
「おいっ、待て!そっちに行くなぁぁ!!」
急停止するトラック。しかし、それは既に遅かった。
「おおおおお!!!」
少女を車道の外に突き飛ばした彼は、光に照らされた世界の中で、家族や自分の人生のことを思い出し、最後に骸骨と美少女の吸血鬼を幻視する。
(なんだよ、走馬灯もシャルティアとモモンガさんかよ……。はぁ、もう一回会いに行きたかったなぁ――)
そして全身を伝う衝撃と共に、彼の意識は途切れた。
ここまでお読みくださりありがとうございます。
今作が初投稿であり、ミスを犯してしまっているかもしれませんが、その際は感想フォームでお知らせください。
シャルティア→ペロロンチーノ様にお気持ちを告げたい。でもいてくださるだけでもいい。
ペロロンチーノ→モモンガさんに謝りたい。シャルティアをもう一度見たい。
ペロロンチーノは、シャルティアが自分の理想ではありながらデータに過ぎないことを知っていたので、理想に対しての愛情はとても強かったものの、流石にモモンガさんへの思いの方が上回っています。しかし、これがシャルティアが生きているとなると話は別。
彼女が自分を待っていたと知り、どんな感情を向けるのかは続きをお待ちください。
ちなみに、しばらくの間二人は会うことはできません。