シャルティアとペロロンチーノ   作:灯理

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 漆黒聖典の姿はアニメ設定資料集を参考にしました。
 オバロ大百科の漆黒聖典のページに立ち絵が載っているので、見ておくと分かりやすいかも。


夜にすれ違う

 [守護者たち]

 

 

 

 月光に照らされた森を進む十二の人影。

 それぞれが絢爛な武装を整え、独特の風格を放つその集団は、何かに警戒するかのようにゆっくりと歩を進めていた。彼らはそれぞれが人類の切り札とも言える強さを持つ。そんな者達ですら警戒する程の存在。それこそが単騎で人類を滅ぼすに足る存在〝破滅の竜王〟であり、今まさにその復活が示唆され、その調査のために彼らが駆り出された原因である。

 

 (――え)

 

 最初にその気配に気付いたのは、集団の中で最も探知魔法に優れた少女だった。

 彼女の探知魔法は広範囲に渡りなんおかげで彼女が遠くの敵を捕捉した後、部隊は万全の戦闘準備を整えことができる。不意の敵との遭遇を許さない彼女の能力は信頼されており、本人もその役割に自信を持っていた。

 

 (なに、これ……!?)

 

 だがその瞬間、そんな彼女にすらあまりに予想外すぎる出来事が起きた。広範囲に探知魔法を展開していた彼女の知覚に、唐突に、あまりに強大すぎる死の感覚が〝すぐ近くに〟生じたのだ。

 

 (あ、ああああ!!!死ぬ、死ぬ、死んじゃう!!)

 

 その身で敵の器を図る彼女にとって、気配の強大さは敵の強さの証。どれだけ強大な敵が現れても、その気配から敵の脅威を正確に把握する自信があった。しかし、その絶大な死の気配は鍛え上げた彼女の精神すら混乱に陥れるほど強烈なものだった。

 

 (あぁ、逃げないと……!殺される……!) 

 

 あまりに圧倒的な波動を前に、少女は恐怖でガタガタと身を震わす。この異常をすぐに報告しなければいけない。しかし、体が竦んでうまく声が出せない。

 今まで様々な敵と遭遇し、その度に冷静に任務をこなしてきた彼女にとって、それは初めての経験である。

 今までに相対してきたどんな敵ともまるで桁が違う、死を錯覚するほどの悪寒と恐怖。人類最強である隊長すらも上回る、暴力的な力の暴風。

 

 「おいおい、なんなんだこの気配は!?報告を!」

 

 巨大な盾を持った偉丈夫が少女の異変に声を荒げ、彼女の肩を揺さぶる。唐突に現れたその気配に、他のメンバー達も既にただならぬ悪寒を感じていた。

 しかし、何よりこの存在の正体を正確に知覚しているのは少女なのだ。今この瞬間、この集団の、いや全人類の行く末は彼女に懸っていた。集団のメンバーたちは緊迫した雰囲気で彼女の返答を待つ。

 

 みなの視線を集めた少女は、そこでようやく自分たちの置かれた状況と、自分の果たすべき使命を自覚することが出来た。

 

 (何やっているの、あたし。あたしは選ばれし人類の守護者。こんなところで怯えるほど、弱くないっ)

 

 彼女は恐怖を抑えこみ、毅然とした口調で言葉を紡ぐ。

 

 「失礼致しました。報告します」

 

 他のメンバーたちも固唾を飲んで報告を待つ中、少女は端的に告げる。

 

 

 「難度200超。――推定、破滅の竜王」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [シャルティア]

 

 

 

 

 

 「ぁぁぁぁぁ……アインズ様に叱られる……」

 

 洞穴前の開けた空間で、シャルティアは頭を抱えていた。

 

 「血の狂乱さえ無ければ……いえ、それは私をお作りになったペロロンチーノ様に失礼。血の狂乱を抑え込めれば……」

 

 彼女の前には魅了の魔眼を受け立ち尽くす赤髪の少女が一人。本来なら姿を見られた相手は殺すべきだが、主人が何らかの意図で接したとされるこの少女に危害を加えるわけにはいかない。

 必死に思考を働かせ解決策を講じようとするも、彼女の頭ではそう簡単に方法など思い浮かばない。

 

 (生かしておけば、なんとか最悪は免れるか……?いや、でも……)

 

 

 

 「――ぁ」

 

 

 ――そして、深い渦に沈みこんだ彼女の思考は、あまりにも唐突な、〝圧倒的な気配〟によって一瞬で吹き飛ばされることになる。それは先ほど人類の守護者たちが感じた気配と同じもの。

 しかし、その表す意味も、その重大さも全く違う。最も、この世界においてシャルティア以上にその気配が意味を持つ存在などいるはずもないが――。

 

 その瞬間、彼女の世界が静止した。 

 瞠目し、力の抜けた両腕をだらりと垂らす。

 

 「あ、あ、ああああああ」

 

 まさか。まさかまさかまさかまさかまさか!!!

 

 この感覚は。全身を覆う幸せと、懐かしさは。

 胸が張り裂けそうになるほどの切なさは。とめどなく溢れてくる涙は。

 信じられない。でも、間違いない。絶対に、シャルティアだけは間違えるはずがない。

 

 「嗚呼、ずっと、お待ちしておりました」

 

 夢にまで見たその気配は、想像よりもずっとリアルで、耐えがたいほど心を打った。

 

 「やっと、やっと、やっと会えます…………」

 

 少女は震える腕でその身を抱き、天を仰ぐ。

 既に彼女の頭の中に今までの混乱などどこにもなかった。

 今思うのは、何よりも愛しいあの御方のことだけ。

 

 そして、漏れ出した思いは呟きとなって、ずっと思い続けたその名を紡いだ。

 

 「ペロロンチーノ様――」

 

       

 

      ――――

      ――――

 

 それからのシャルティアの行動は早かった。

 

 「お前達は急いでナザリックに戻って任務の結果とペロロンチーノ様のご帰還を伝えなさい!」

 

 二体の吸血鬼の嫁に命じると、自分は一刻も早くこの場所から離れようとする。

 後のことは全てシモベたちに任せ、自分は一刻も早くペロロンチーノ様の下へ向かわなければならない。もし合流が遅れて愛しの御方の身に何かあったともなれば、どれだけ死んでも死にきれないほど後悔するだろう。

 アインズ様直々の命を途中で投げ出してしまうことになるが、その罪は自分が何としてでも償おう。それで命を落とすことになっても構わない。ペロロンチーノ様がナザリックにご帰還してくださるのならば、それで……。

 

 「シャルティア様、生き残りの女を内部で数人見つけました。その処分はどうしますか?」

 

 「はぁ?そんなのどうでもいいんだよ!全部お前たちに任せる!」

 

 それだけ叫ぶと、全力でシャルティアは走り出す。森の中では流石に速度は鈍るが、それでも風を切り裂く尋常ならざる速度であることには違いない。

 

 「ああ、ペロロンチーノ様、シャルティアが今御身のもとへ参ります……!」

 

 森を駆け抜けていくと、段々と創造主の気配を強くなってくる。

 もうすぐ愛しの御方と会える、そう思うだけでシャルティアの顔はだらしなく歪み、身体の奥から温かいものが湧き上がってくる。

 ペロロンチーノ様に会ったら、まず何と言おう。話したいことが沢山ある。

 その手で自身を生み出してくださった感謝。沢山の愛情を注いでくださった喜び。もう一度ご帰還してくださった感動。

 かつて近くにいてくださったときには言葉に出来なかった沢山の思いを、もうすぐお伝えすることが出来る!嗚呼、それはなんて幸せなことなんだろうか。

 

 きっとそのときには、わたしが本当にお伝えしたい思いも言葉に出来るかな……。わたしの言葉にペロロンチーノ様はなんと応えてくださるだろう……。

 

 シャルティアは間もなく御方の気配を感じる場所に到達した。

 するとなにやら他の気配が御方を取り囲んでいることに気付く。

 そこにいたのは十二人の人間だ。全員それぞれが違った武装を整えている。その男女は、今まで見てきたこの世界の住人と大きく雰囲気が違った。獅子とネズミほどの違いだ。

 

 そして、そこに確かに〝いた〟。十二人の集団の影になってお姿は見えないが、自身の感覚が確かに告げている。

 ペロロンチーノ様が、そこにいる。

 しかし、何故かその気配から尊きご意思のようなものを感じないし、集団の影から動く様子もない。 

 まさか、御身に何か!!!わたしの到着が遅れてしまったせいで、何か取り返しのつかないことが起きてしまったのだろうか。

 もしや、この集団が至高なる御身に何かしたのか!?

 

 「きいいいいいさまらあああああああああああ!!!!!!!!!」

 

  シャルティアはすかさず神器級アイテム――スポイトランスを装備する。

 至高の御方ですら多くは持たない最上級アイテム、その貴重な最上級アイテムの中からペロロンチーノ様が直々に与えてくださった、命よりも大切なシャルティアのメイン武装だ。それを迷いなく取り出すほどにこの集団を警戒し、激怒していた。

 スポイトランスを構えたシャルティアは猛スピードで集団へ近づき、殺害すべき敵を探る。

 

 「――使え」

 

 冷ややかな湖面のような声が響く。シャルティアがそちらを一瞥する。それは、大地に届くのではないかというほど髪を伸ばした中性的な男だった。

 

 (こいつはっ……強い?)

 

 正確な強さは図れないが、プレアデスの強さすらも遥かに凌駕していることが分かる。おそらく、この集団の中で脅威に値するのはこの男くらいだろう。

 人間たちが男の声に従って動き出す。 

 そして、男に向けられたシャルティアの意識は一瞬で上書きされることになる。

 集団の間から御身の影が見えたのだ。

 しかし、シャルティアが本当に注視せざるを得なかったのは、自分から御身を隠すように立っている一人の男だ。両腕に鎖のようなものを巻きつけたその男は、此方を確認しながらも、その鎖でペロロンチーノを縛りつけようとしていた。

 

 「ペロロンチーノ様に、触るなああああああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 シャルティアはスキルにより、巨大な光の槍――清浄投擲槍を作り出す。その男に使うにはいささか過剰といえるその槍には、ペロロンチーノに触れる愚か者を絶対に抹殺しようとするシャルティアの執念が篭っていた。

 

 

 ――ゾワリ。

 その瞬間、光の槍を構えるシャルティアの身に、全く予想だにしなかった感覚が襲う。

 ナザリック地下大墳墓の最高戦力である100レベルに達するシャルティアの体が震える。それは第六感が発した、ありえないはずの危険信号。警鐘の先にいたのは、全く似合わない露出度の高いワンピースのようなものを羽織った老婆。

 本当に警戒すべきなのは、この人間だ。即座にそう直感したシャルティアだったが、視線の先には未だに御身の尊き体に触れる男の姿が見える。

 相手が何をしかけてくる気だとしても、至高の御方に愚かにも手を掛けようとしている者を殺すこと以上に、優先順位の高いことなどあるはずがない。

 

 そして僅かな逡巡もなく――投擲。

 放たれた槍は光の閃光となり、一瞬で鎖を持つ男を貫いた。

 

 

 運命の分かれ道があったとするならば、きっとここがシャルティアとペロロンチーノの運命を決定づける瞬間だったのだろう。シャルティアは自分よりもペロロンチーノを守ることを優先するし、そのために出し惜しみもしない。その思いの強さが故に、その結果は必然だったのかもしれない。

 たとえそれが、二人にとって最悪の結果であったとしても。

 

 

 ――そして、シャルティアの心は白く塗りつぶさていく。

 思考の一部が剥離するような感覚。何が起きているのか理解できない。

 そしてその現象が何かを悟ったとき、シャルティアはアンデットでは感じるはずのない恐怖を感じた。 

 それは精神支配。精神攻撃に完全耐性を持っているはずの自分が、精神を支配されつつある。

 

 (ありえない、ありえない、ありえない、ありえないっ……!!)

 

 白く染まっていく意識の中で、シャルティアは絶叫する。

 残された意識を満たすのは、ナザリックに従する自分を支配しようとする愚か者への憎悪。ペロロンチーノとの再会を邪魔する人間への燃えるような憤怒。

 

 「ぎぃいいいいいい!」

 

 声を上げ、清浄投擲槍を作り出す。

 だが髪の長い男が槍を構え、突き立ててくる。この世界の住人からしたらあまりに規格外な、人間の種の到達点である高速の突きが瞬く間にシャルティアに迫る。

 ナザリックの最高レベルに位置するシャルティアは、その程度の攻撃など手持ちのランスで問題なく受け流す――が、その一瞬が決定的だった。

 防御を意識したことによる隙がシャルティアの心を白く覆い尽くす。清浄投擲槍は放たれることなく、光の粒になって消滅していく。

 

 薄れゆく意識の中、シャルティアは必死に視線を動かし、何かを探した。それは既に無意識の行動だったのだろう。

 

 無事に目当ての人を見つけたシャルティアは、安堵したかように、血の涙を流す。

 

 (ペロロンチーノ様、やっと……)

 

 彼女が最後に見たのは、地面に倒れ伏した創造主の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 [ペロロンチーノ]

 

 

 

 呼ばれた気がした。

 それはとても懐かしい響きだった。

 

 深い深い海の底に沈んでいる感覚。

 その静かな暗闇が、揺らぐ。

 

 誰かが自分の名前を呼んでいる。

 その響きは、初めて聞くはずなのにとても心地よくペロロンチーノの心を満たす。

 

 この声はきっと自分の返事をずっと待っている。

 行かなくてはいけない。何故か切実にそう思った。

 彼の意識は覚醒し、暗闇に光が満ちる。

 

 目を覚ました時、彼が感じたのは全身を覆う気だるさだった。

 

 「ぁぁぁぁぁ、なんだ、ここは……?」

 

 辺りは暗く、遠くには星が瞬いている。どうやら屋外に倒れているようだ。

 自分の頭に入ってくる膨大な感覚に違和感を感じながらも、痛む体をなんとか引き起こす。

 

 「隊長!バードマンが目を覚ましました!!」

 

 すぐ隣で誰かが叫ぶ。そちらを向くと魔法使いの格好をした青髪の美少女が目を剥いてこちらを見つめていた。

 

 (うわっ、なんだこの子!コスプレだよな?めちゃくちゃ完成度高いし、可愛ぃ!っていうか、露出しすぎじゃないかこれ!エロい!そして可愛い!)

 

 ペロロンチーノが心の中でガッツポーズをしながら美少女の胸元を凝視していると、自分の片腕になにやら鎖のようなものが絡まっていることに気付く。

 

 (なんだこれ、今から縛りプレイでも始まるのか?)

 

 残念な予想をしながら、邪魔な鎖をほどくため思いっきり腕を一振りする。

 すると予想だにしないことが起こった。

 何故か予想以上にリーチの長かった腕が近くにいた美少女の腹部に直撃したのだ。美少女はそのまま物凄い勢いで吹き飛んでいく。さらに巻き付いた鎖は外れるどころか、その鎖の先に繋がっていた倒れていた男ごと巻き込み一瞬でどこか遠くへ飛んでいく。

 そして吹き飛んだ美少女はそのまま地面に叩きつけられ、何度も地面をバウンドした後ゴロゴロと転がっていき、ピクリとも動かなくなった。

 

 

 「ふぇ……?」

 

 一瞬の静寂。そして、集団がざわざわと騒がしくなったかと思うと、こちらを凄い形相で睨んできた。なんだか危なっかしい武器みたいなものを構えてる人もいる。

 

 (え、えええええええ!??何今の、何が起こった!俺がやったの!?っていうかあの女の子大丈夫!?全然動かないんですけど……!て、うわっめっちゃ睨まれてる!ごめんなさい、わざとじゃないんです!)

 

 ペロロンチーノは倒れている美少女の心配をしながら、両手をあげて自分を取り囲む集団を見渡す。さっきの美少女に負けず劣らず意味不明な格好をしている集団だった。

 巨大な盾を構えた筋肉の塊みたいなおっさんや、真っ白な甲冑やローブを付けた髪の長いイケメン。

 って、あれは女子高生の制服じゃないか!しかも眼鏡っ子!今の時代にこんなフォーマルな女子高生の格好は希少価値だぞ!まさに画面の中から出てきたようだ……。そして何より、可愛い!故にエロい!グッジョブ!

 ん?あっちにいる人が着てるのはまさか、チャイナドレス!一体どんな美少女が……てババアじゃねぇか!似合ってないにもほどがあるって!ぁぁぁ、嫌なもの見た……。 

 

 ペロロンチーノが悪夢のような光景に頭を抱えていると、その老婆の後ろに妙に気になる人影が見えた。

 それはゴスロリを着た小さな少女だった。老婆に隠れて顔は見えないが、服装といい雰囲気といいペロロンチーノの趣味に信じられないくらい合致している。

 

 そしてその容姿は、ペロロンチーノが夢にまで見たある少女とそっくりだった。

 

 そんなことはあるはずがない。彼女はゲームの中の存在で、自分の理想を体現したあの少女はユグドラシルの終わりと共に消滅したはずだ。だからきっとこれは他人のそら似に過ぎず、夢にまで見すぎて、似た格好の少女に彼女を投影しているだけなのだろう。

 

 そうはいっても、はやる気持ちを抑えきれずペロロンチーノはその少女の顔を仰ぎ見る――そして、瞠目した。

 

 (嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!)

 

 理性がそれを否定する。しかし何よりも彼の直感が真実を告げていた。

 ありえない。でも、自分だけはそれが事実だと分かる。

 勘違いのはずがなかった。

 何故ならその姿を誰よりも見続けたのは自分だったのだから。

 

 「――シャル……ティア?」

 

 ずっと思い続けた少女、シャルティア・ブラッドフォールンが、確かにそこにいた。

 

 「シャルティア!シャルティア!シャルティアぁぁ!!」

 

 ペロロンチーノはシャルティアに向かって走り出す。

 既に彼の頭に今までの混乱などなく、その目にはシャルティアしか映らない。自分に武器を突きつける集団を乱暴にかき分け、向かうは自分の理想の少女。

 絶対にありえないはずの状況。でもこれが夢じゃないという、確かな実感があった。

 

 「――撃退しろ」

 

 冷たい湖面のような声が響く。

 その声に応ずるように集団が動きだし、自分の前に立ちはだかる。

 

 「邪魔だ!どいてくれ!」 

 

 立ち往生していると、すぐに立ちふさがった集団が割れるように二つに分かれペロロンチーノの前に視界が開けた。

 

 自分の前に道のように開かれた空間の先に、シャルティア・ブラッドフォールンは立ち、こちらを見つめていた。

 3mほどの距離を空け、ペロロンチーノとシャルティアは向かい合う。虚ろな目とぼんやりとした表情で、どんな感情を抱いているのかは分からない。

 

 「シャルティアっ――!」

 

 ペロロンチーノは思わずシャルティアへと手を伸ばす。その手が届くことはないが、シャルティアが何か反応してくれることを期待して。

 

 

 そして、シャルティアはそれに応えるように嗤い、

 ――清浄投擲槍を一閃した。

 

 

 「がああああああああ!!!!!!!!」

 

 

 閃光がペロロンチーノの体を貫通する。強烈な痛みと共に、傷口からは甚大な量の血が噴き出る。視界が暗くなり、生命力が失われていくとこに本能が恐怖という警鐘を鳴らす。

 

 (何だ、何だ、何だ何だ何だ何だ何だ!!!)

 

 思わず傷口を見ると、致命傷を負ったはずの場所はすでに血が止まっており、穴も少しずつ塞がっていっていた。

 そして――気付く。

 

 (この体はっ……何だ!!?)

 

 そこにあったのは毛で覆われた化け物の姿。痛みによる混乱と共に、ペロロンチーノは正常な思考を失い、それがかつてのアバタ―の姿であることにも思い至らない。

 

 「ぐっ!」

 

 グサリとペロロンチーノの背中に槍が突き立てられる。振り向くとそこには先ほどの長髪の男が警戒に満ちた目で自分を仰ぎ見ていた。

 思わず暴れるペロロンチーノの背中に巨大な翼が広がり、乱暴に翼がはためく。それだけで猛烈な激風が発生し、勢いよく土埃が巻き起こった。 

 

 

 (……ここから逃げないと、殺される!)

 

 

 ペロロンチーノはそのままの勢いで地面を離れ、空へと逃げる。

 

 しかし混乱と共に集団の方に向き直ったペロロンチーノの目に、嗤いながらランスを構えたシャルティアが猛スピードで自分へと迫ってくるのが映った。

 ペロロンチーノの表情が恐怖で歪む。

 

 「やめろ、シャルティア!やめてくれ!!」

 

 本当は今すぐにでもその体に抱きつきたかった。しかし本能がこの少女は危険だと叫ぶ。

 ペロロンチーノは両手を前に出して、こちらへ向かってくるシャルティアを静止する。 

 

 しかし、その声がシャルティアを止めることはなかった。

 

 ペロロンチーノの言葉を歯牙にもかけず、無慈悲にも突き出されたランスは突き出された両腕ごと巻き込み、腹部へと深々と突き刺さる。

 ――それはスポイトランス。ペロロンチーノが心血を注いでシャルティアへと残した思い出の武器である。

 

 「があああああああああああ!!!!!!!!!!」

 

 勢いよく流れ出る血が嗤うシャルティアの顔を染める。いつもならばそれを官能的とでも評価するであろうペロロンチーノは、その表情を見て心の底から戦慄する。

 全身を駆け抜ける激痛、強烈な死への恐怖。

 何としてでもここから離れなければ。その本能的な危機感は、ペロロンチーノに無意識にスキルを発動させた。

 

 「〈神速の飛翔〉」

 

 翼がはためき、ペロロンチーノの姿が一瞬でその場からかき消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[アルベド]

 

 

 

 

 「シャルティア・ブラッドフォールンが反旗を翻しました」

 

 アルベドはメッセージでアインズにそう報告すると、すぐにでも討伐隊を派遣できるようにアインズを迎えるメンバーを熟考する。

 シャルティアが何故反逆したのかは不明だが、どんな理由があろうともこの崇高なるナザリックに敵意を見せるなど、万死でも償えないほどの大罪だ。それが自分と同じ守護者であったとしても、向けるべき慈悲など存在しない。

 

 

 「アルベド様、失礼致します。シャルティア様のシモベである吸血鬼の嫁がナザリックに帰還し、アルベド様にご報告したいことがあると申しております」

 

 「シャルティアのシモベが?そこで待ってなさい、すぐに行くわ」

 

 おそらくシャルティアが裏切った原因に関することだろう。もしかすればシャルティアの差し金かもしれないが、シモベ程度であれば脅威にもならないはずだ。

 アルベド自ら玉座の間から出ると、念のため待機していた一般メイドや執事を下がらせ、ゴーレム等もいない場所へ急いで移動してシモベに報告を促した。

 

 「至高の御方であるペロロンチーノ様が帰還されました」

 

 「なんですって!?」

 

 それはアルベドにも予想外のことだった。

 しかし、優れた頭脳ですぐに一つの結論に至る。

 それから任務に関すること、シャルティアがペロロンチーノの下へ行ったことなどを聞くと、アルベドは二人の吸血鬼の嫁に持ち場に戻るように命じる。

 

 

 そして、背を向けて立ち去ろうとする二人の頭をおもむろに掴むと、そのまま――握りつぶした。

 グシャリという音とともに頭部が弾け飛び、首から先を失った体が糸が切れたように倒れる。

 

 

 「シャルティアの差し向けてきたものかもしれないと危険を感じた、ということにでもしておきましょうかしら」

 

 手に付着した肉片をハンカチで拭いながら、アルベドは笑う。

 

 「貴方がたはアインズ様を悲しませるだけでは飽き足らず、こうして戻ってきたかと思えばアインズ様のもとからナザリックの仲間すらも奪っていくのですね」

 

 「大丈夫ですアインズ様。悲しいことなんて、アルベドが全て終わらせて差し上げます……」

 

 その笑みは、隠しきれないほどの憎悪に歪んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

 開けた原っぱをバードマンがよろよろと歩いている。

 

 「シャルティア、なんであんなことを……」

 

 血は出ていないがその身体は傷だらけで、とても無事とはいい難い状況であった。

 そして、そんなバードマンを見つめる存在が一人。

 

 それは白銀の鎧だった。

 

 「なんだよ。あんたも俺に攻撃するのか」

 

 それに対し白銀の鎧は両手を上げ、首を振りながら答える。

 

 「君にその気がないならしないさ」

 

 その声は堅強な鎧に似合わず若い男の声だった。 

 

 

 「僕はツアー。君はもしかして、プレイヤーかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 (正気では)しばらく会えない。

 早速勘違いが進んでおりますが、これらが簡単に解決する未来が見えません。
 アインズ様、はやくなんとかして!
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