イエローランドに上陸した天馬たちは、咲坂に案内されながら、桜城中学校に向かった。イエローランドのアスファルトの道は綺麗に整備されていた。ところどころにテニスコートやバッティングセンター、体育館などが見られ、スポーツ好きにはこの上なく整えられた環境だった。天馬の住んでいた稲妻町のものにそっくりな河川敷もあり、子供たちが遊んでいるのが見られた。遠くに、「スポーツと教育の島イエローランド」と書かれた巨大な旗が見える。
「本当にいい環境だなぁ。ここならサッカーの練習もはかどりそう!」
「気のせいかな、なんかグラウンドやコートが大きく見えるような…」
天馬が感激する中、信助は不思議そうに首を傾げた。
「多分、人が少ない分、大きく見えるんだと思いますよ」
信助の疑問に答えたのは、咲坂だった。
「そういえば、イエローランドは人口が少なめなんですよね」
「ええ。中学校に行ったらびっくりすると思います。人数が少ない割に学校がすごく大きくて、教室や寮が空き空きなんですよね」
そう話しているうちに、バロック風の豪奢な門が見えてきた。中学校の正門だろう。そばには教諭と思われる男性が立っていた。プレートに、いかめしい書体で、学校名が校章とともに刻印されている
_______ウィスルフレー国立桜城中学校。
「ついにきた…ここが桜城中学校…」
天馬は生唾を飲んだ。ここが天馬の新しい学校。天馬たちは寮に泊まることになっているから、新しい家でもあった。
咲坂は、男性に近づいて行った。
「犬飼先生、世界教育特殊開発機関日本少年サッカー大使の皆様をお連れしました」咲坂が緊張気味の顔で言った。
「ありがとうございました、咲坂さん。ここから校長室までは私が引率します。列の最後尾からついてきてください」
男性教諭は優しく咲坂に笑いかけると、天馬たちに向き合った。
「はじめまして、世界教育特殊開発機関日本少年サッカー大使の皆さん。私は犬飼良一と申します。皆さんの中で1年生の担当で、桜城中学校生徒指導部部長です。皆さん、新しい生活で不安があるでしょうが、すぐに桜城中学校での生活を楽しめるよう、全力でサポートします。よろしくお願いします」
犬飼はそう言うと、再びにっこりと微笑んだ。
天馬は犬飼の媚びのない笑顔に好感を抱いた。
「それでは、まず皆さんを校長室まで案内して、そこで学校の説明をします。手荷物はここに置いてください。説明の後、皆さんを寮まで案内します。寮まで行った後は自由行動にします」
*
校長先生の説明を聞いた後、天馬は寮に向かった。生まれて初めての寮。天馬はワクワクした。
「松風くんの部屋は1302号室になりますね。3階の西端から二番目になります」
犬飼先生から鍵を受け取り、天馬は階段を上がった。
寮棟の構造は普通の学校と同じような感じだった。東西に延びた廊下の南側に、教室の代わりにドアがいくつも並んでいる。違いは、北側に窓がなく、他の生徒と共同で使う風呂とトイレがあることだった。紺色の絨毯が敷かれた廊下を進んでいくと、指定された部屋にたどり着いた。天馬はドキドキしながら、金文字で「1302」と刻印された黒橡色のドアを開けた。
部屋は個室で、5畳半ほどの広さだった。勉強机とベッドの後は小さいクローゼットしかない、とてもシンプルな部屋。洗練されたモノトーンカラーのデザインがなんともお洒落だ。天馬は一発でこの部屋を気に入った。クローゼットを開けてみると、制服とサッカー部のユニフォームが入っていた。
宅急便で寮に届けられた着替えをクローゼットに、さっき校長室で配られた教材を机にしまうと、天馬はユニフォームとサッカーボールをひっつかんで、寮を飛び出した。初日に、サッカー部の様子を見ておこうと思ったのだ。寮棟を出、グラウンドに入り、サッカー部を探した。
しかし、さっきクローゼットに見つけたはずのユニフォームを着た者はいなかった。
「おかしいなあ…サッカー部がグラウンドにいないなんて…今日は練習ないのかなぁ?でも、他の部活は練習してるし…」
天馬は首を傾げ、グラウンドを走り周った。隅々まで探してみたが、サッカー部らしき生徒はいない。
「あの、サッカー部ってどこで練習してますか?」
天馬は水筒に水を汲んでいた、陸上部のマネージャーと思われる女子生徒に聞いてみた。
「ああ、サッカー部はいつもはグラウンドでやってたんですけど、ほとんど全員がWESCAの命令で転校しちゃって…今は確か2、3人しかいないそうですよ」
「えええ〜!?」
驚いた。サッカー部に2、3人しかいないなんて…WESCAはどれだけの生徒を転校させてしまったのだろうか。
「だから私、どこで練習してるのか知らなくて…」
「そうですか…」
仕方ない。諦めて他を探そうと思ったときだった。
「いや、
他の女子生徒が言った。
「裏庭…?」
「寮棟の裏側にありますよ」
「ありがとうございます!探してみます!」
天馬は急いで裏庭に向かった。
*
裏庭はグラウンドに比べて暗く、人影も少なかった。
「誰もいなさそうだけど…
あれ?あそこにいるのは誰だ?」
天馬は視界の端に一人の少年をとらえた。
少年は、木に長いゴム紐でくくりつけたサッカーボールを思いっきり蹴り飛ばした。ゴム紐が伸びきると、ボールが少年に向かって戻ってくる。少年は目を見開き、舞い戻ってきたボールを狙った。
「やあっ!」
少年は足元に戻ってきたスピードのあるボールを蹴り返そうとした、
のだが、
「!? うわあっ!」
蹴るタイミングを計れずに、思いっきり空振りしてしまった。
「くっ!」
少年は悔しそうに歯ぎしりすると、ボールを元の位置に戻し、もう一度ボールを蹴りだした。
ボールが唸りを上げて飛んでいき、かなりのスピードをつけて戻ってくる。少年はもう一度ボールをよく狙い、
「てあっ!」
今度こそ当たった、と思ったが、
「あっ、蹴り損ねた…!」
ボールが明後日の方向に飛んでいってしまった。
ゴム紐につながれたボールが、その方向のまま、スピードを出した状態で戻ってくる。
「うわあ〜!」
変な方向から不意に飛んできたボールを見極めきれず、ボールは少年の頭に激突した。
「いっつう…」
少年は痛そうに顔をしかめた。
天馬は思わず、少年に駆け寄っていた。
「大丈夫!?結構思いっきり当たったよね!?怪我してない!?」
「え?あ、ありがとう…えっと…き、キミは…?」
「オレは松風天馬。今日、転校してきたんだ。サッカー部に入ろうと思ってグラウンドを探したけど誰もいなかったから、場所を聞いてみたらキミが裏庭にいるかもって言われて…」
「転校…?あ…!」
怪訝そうだった少年の顔が、ぱあっと輝いた。
「今日、先生がWESCAの大使の人が来るって言ってたけど、キミのことだったんだね!松風天馬くん!噂は聞いてるよ!」
「えっ、キミ、オレたちのこと知ってるの?」
少年は首を激しく縦に振った。
「もちろん!だってキミたち雷門中は、ウィスルフレーでも超有名だもん!FFIV2とかさ、俺、めっちゃ興奮しながら見てた!」
「あの試合、見ててくれたの!?」
「うん!すっげえ感動した!夢みたいだよ!本物の松風天馬に会えるなんて!」
「ありがとう!キミの名前はなんていうの?」
「あっ、ごめん。興奮して自己紹介忘れてた…。
俺の名前は
「よろしく!
そういえば、今のサッカー部って2、3人しかいないって本当なの?」
天馬が尋ねると、東風谷は申し訳なさそうに顔をしかめた。
「うん…みんなWESCAに引っこ抜かれちゃって、他の学校に行っちゃった。今残ってるのは俺と、1年生2人。でも、今日は2人とも部活休んでて、俺1人で練習してたんだ」
「そうなんだ…」
天馬は残念そうな顔をした。
「ねえ天馬くん、早速で悪いんだけど、お願いを聞いてもらっていい?」
「どうしたの?」
「キミの必殺技が見てみたいんだ。俺、ディフェンダーなんだけど、まだ相手が必殺技でボールを持っていく感覚がわかってなくて…ちょっと、ドリブルの必殺技を見てみたいんだ。どんな風にボールが動くのか」
天馬の顔が輝いた。桜城中学校にきて初めてのサッカーだ。
「わかった!じゃ、ボールもらうね!」
「うん!」
東風谷はボールを天馬に渡すと、天馬と十分な間合いを取った。
天馬は新鮮な空気をいっぱいに吸い込んだ。
「よし、行くよ!」
「わかった!」
東風谷の言葉を合図に、天馬は東風谷に突っ込んで行った。
ここ数日なかった感覚が、脚に蘇る。
「…!は、速いっ!!」
東風谷が驚いたような声を上げた。
それを境に、天馬は一気にスピードを上げる。
東風谷との距離が、ものすごい速さで近くなる。
東風谷に後数メートルまで近づいたところで、天馬の周りに緑色の旋風が巻き起こった。
「《そよかぜステップ》!!!」
東風谷の周りを美しい動きで旋回しながら、東風谷の体をかわす。
「うわあ!」
東風谷の感嘆の声が聞こえた。
そのままの勢いで、天馬は一気に裏庭を駆け抜けた。
東風谷は天馬に拍手を送った。
「すごいすごい!さすが雷門中!!」
「えへへ…オレも久しぶりにサッカーできて楽しかったよ」
二人はもっとサッカーしたかったが、運悪く今日の部活の終了時間がきてしまった。旅の疲れもあった天馬はここで練習を止め、二人は寮に戻ることにした。
読んでくださった皆様ありがとうございました!!!!
最後の方がthe☆雑でございます!
本当にごめんなさい!
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