「はっ、はっ、はっ…」
ある日曜日の夕方、暗くなり始めた頃。天馬は自主練として、東風谷と信助と剣城と一緒に、桜城中学校の外周をランニングしていた。あたりは静かで、心地よく涼しい空気が辺りを満たしていた。
天馬たちが桜城中学校に転校してから、1週間が経った。天馬たちはだいぶ新しい生活に慣れてきたところだった。寮の設備は一通り使ったし、広い学校の中で迷うこともなくなった。信助のように、食事の後に眠くなってうっかり女子の寮に入ってしまうこともなくなっていた。
「よし、今日はこの辺で」
天馬はそう言うと、正門の前で止まった。
「お疲れ様〜」
「ああ、お疲れ」
信助と剣城はまだまだ余裕がありそうな顔をしていた。しかし、
「ぜはあ…ぜはあ…ふう…ふう…」
東風谷は苦しそうな息を漏らしていた。とっくに体力の限界を迎えていた。
「徹、大丈夫?」
天馬が心配そうな顔で、東風谷に手を貸す。
「大丈夫…ごめんね…俺だけこんなにトロくて…みんなの脚引っ張っちゃって…」
徹は申し訳なさそうに言った。
「そんなことない。徹は1人でもすごく練習頑張ってたじゃないか。今朝だって、俺たちと一緒に自主練させてくれって言ってきたし。そんなに努力してる人が、チームの脚を引っ張るなんてことないよ」
天馬が徹を励ました。
「そうそう!それに、ちゃんとついてこれてたじゃん!」
信助が続けた。
「ありがとう…」
東風谷はまだ息切れしていたが、嬉しそうな顔で答えた。
「ほら、これで汗を拭け。早く寮に帰るぞ」
剣城がハンドタオルを差し出しながら言った。
「うん…ありがと…」
徹がそう言って、ハンドタオルを受け取ろうとした時だった。
「オイおめえら!俺たちの縄張りで何してるんでい!!」
突然、ドスの効いた声が聞こえた。
「誰だ!?」
天馬たちが声のした方を見ると、そこには学ランを着崩した男が4人立っていた。見るからに不良だった。
「うわ…第二中の奴らだ…」
東風谷が嫌なものを見るような目で言った。
「第二中?」
信助が東風谷に耳打ちで聞いた。
「うん。この辺にある、もう1つの中学校。ここら辺を根城にしてるこいつらみたいなボンクラがうようよしてるんだ」
「そこのロン毛!今おめえなんつった!」
東風谷がバツの悪そうな顔で答えると、4人のうちで肥満体質の男が、東風谷を睨みつけた。
「…」
東風谷は固まった。4人の男が天馬たちに近づいてきた。
「あ?今おめえなんつったって聞いてんだよ。あ?なんつったんだよ!」
「や、やめろよ!」
天馬が仲裁に入ろうとした。
「何だ天パー。俺たちとやる気か?」
「別にやる気なんて…」
「さっさと答えろや!」
「うっ…」
面倒なことになったな。天馬は突破口がないかと考えた。無駄な争いはしたくない。
「やる気がないならこれをおめえらの学校に捨てとけよ。そしたらそのロン毛が言ったことも見逃してやらあ」
そう言うと、肥満体質の男はポテトチップスの空袋を天馬たちに投げつけた。
「ええ〜、そんなの自分でやりなよ!」
途端に信助が抗議の声を上げた。思わぬ信助の反撃に、天馬は焦った。
「ちょっ、信助!下手に挑発したら…!」
「なんだそこのチビ!俺たちなめんなよ!俺たちぁ第二中のサッカー部トップクラスだぞ!?おめえらみてえなヤワなんざ瞬殺だかんな!!」
長身の男が啖呵を切った。
「えっ、サッカー部!?」
天馬は驚いた。この人たち、サッカー部なんだ。どう見ても何かの部活に入っているように見えないけど。
「まあタカ、そう焦んなや」
「番長!」
タカと呼ばれた長身の男は、慌てて脇に退いた。そこには、金髪の、天馬より少し背の高い番長格の男が立っていた。
「そや、この際やからサッカーで決めようや。わいらとサッカーバトルせい。おめえらが勝てばわいらは帰ったる」
天馬は少し安堵した。サッカーに勝てば帰ってくれるんだ。しかし、今度はタカが口を開いた。
「ただし俺らが勝てば、ロン毛とチビは俺たちがしばく。ついでに天パーとそこの幽霊みたいな白ノッポも」
「ええ〜!?」
天馬は思わず声を上げた。なんでオレが巻き込まれなきゃならないんだ。剣城なんて何もしてないじゃないか。すると、
「余計なこと言うな!わいはこいつらとサッカーがしたいだけや!!!」
番長格の男が、タカを怒鳴りつけた。男の目は、熱意に燃えていた。この男のサッカーへの思いは、嘘ではないように見えた。天馬のこの男への嫌悪感は、すぐに消えて無くなった。
「…わかった。サッカーバトルだ!」
天馬が4人の不良を見据えて言った。
「上等だ!ボクたちと勝負だ!!」
「俺たちの力を思い知らせてやる!」
信助と東風谷もやる気だ。
「…とりあえずはグラウンドに入るぞ。こんなところでお前らと一緒にいたら補導されるかもしれんからな」
剣城は相変わらず冷静に、客人を校門の中に入れた。
*
サッカーバトルは4人対4人で、先に一点を決めた方が勝ちというルールで行うことになった。天馬たちはちょうど、フォワード、ミッドフィルダー、ディフェンダー、ゴールキーパーが1人ずつのパーティだった。どうやら向こうもそうらしく、ポジションの人数的にはイーブンだった。
向こうのチームからキックオフだった。
肥満体質の男が、タカにパスを送った瞬間、天馬はタカに突っ込んで行った。
「(まずは様子見しよう)
はあああああーっ!!」
天馬はタカの足元に狙いを定め、一気に滑り込んだ。
ザンッ!!
「があっ!」
タカが派手な音を立てて転ぶ。天馬が見事なスライディングを決めた。
「天馬!」
剣城が合図を送る。間髪を入れず天馬は剣城にパスを送った。刹那、
「ハンッ」
番長格の男がすぐさまパスのコースを遮り、ボールを奪った。
「!?」
剣城は驚いたように目を見開いた。どうやら地元の中学生であることに油断していたようだ。
番長格の男はそのままゴールに向かっていく。天馬と剣城は急いでゴールに下がろうとするが、男は思いの外足が速かった。
「…!させるか!」
猛スピードで突っ込んでくる男に、徹が立ちはだかった。しかし、男がその巨体からは想像もできない身軽さで、宙返りを決めた。瞬間、ボールが分裂する。
「《イリュージョンボール》!!」
「!?うわあっ!!」
無数に目の前を飛び交うボールに徹が戸惑ったすきに、男は徹の脇をすり抜けて、あっという間に徹を抜いてしまった。ゴールに一直線に突っ込んでいく。
「信助!!」
天馬は信助に警戒するように彼の名を呼んだ。信助の顔がさらに険しくなり、完全にゴールキーパーの体勢に身構える。
男はそのままの勢いでボールを真上に蹴り上げると、自身も高く跳躍し、横方向に回転を始めた。男の周りに炎の渦が舞い上がる。
見たことのある、光景___
「《ファイアトルネード》!!!!」
男はボールに向かって思いっきり足を振り下ろした。ボールが炎の弾丸と化し、唸りを上げてゴールに突き刺さる。
「ファイアトルネードだと!?」
剣城が驚いたような声を上げた。無理もない。1人の不良に見える少年が、あの豪炎寺修也の必殺技、ファイアトルネードを完璧な動作で放ったのだから。
しかし、百戦錬磨の信助はこのくらいでは動じなかった。信助はボールの動きをよく見極めると、落ち着いた動きで飛んできたボールをそのまま受け止めた。炎を帯びたボールの勢いが急速にしぼむ。
「剣城!いっくよ!」
信助はかなりゴールに近づいていた剣城にボールを投げつけた。剣城が受け取り、ゴールに向かって電光石火の如くコートを駆け抜ける。
しかし、いつの間に体勢を立て直し、剣城に追いついた番長格の男が剣城の行く手を阻んだ。
剣城は難なくかわしたが、男はしつこく剣城にくっついてくる。剣城は天馬にパスを回した。しかし、天馬がパスを受け取ろうとした瞬間。
「であっ!!!」
男が、ほんの一瞬の隙を巧みに狙い、天馬にタックルを食らわせた。
「うわあっ!」
不意を突かれた天馬が一瞬よろめいた隙を狙い、ボールは再び男に渡った。
「さすが松風天馬。だが、わいもそろそろ本気でいくで!」
そう男が叫んだ刹那、男から紫色のオーラが舞い上がった。それはすぐに、1つの形に変わる。
「化身!?」
天馬は思わず叫んだ。まさかこの男が化身を出せるとは思っていなかった。
「てあああああっ!![鉄騎兵ナイト]!!!!」
男の頭上に、黒い馬のような形をした化身が現れた。
「はあっ!!《ギャロップバスター》!!!」
なんと男は、その位置からロングシュートを放ってきた。黒馬の嘶きが戦場に轟く。
だが、今回は距離があるため、信助も応じるための余裕が十分にあった。すぐに、信助の頭上に、青と黄色のオーラを纏った神のような化身が現れた。
「[護星神タイタニアス]!!!!」
信助は今回もしっかりとボールを見極め、守護神の手でしっかりとボールを抱き抱えた。
ボールは天馬に渡った。
「(もしかしたら、こいつら全員化身使いかもしれない…!オレも油断しちゃダメだ!!)」
そう思った刹那、天馬の背に紫色のオーラが舞い上がる。それは赤と青の翼を持った魔神の姿に変わった。
「[魔神ペガサスアーク]!!!!」
天馬は化身・ペガサスアークと共に、フィールドを駆け抜けた。
「行かせるか!!」
さっきの男がナイトを纏って、天馬に近づいてくる。しかし、
「やあっ!!!」
「がっ!!!」
今回は天馬が男を弾き飛ばした。すぐさまゴールに向かい、神速の一撃_______
「《ジャスティスウイング》!!!!」
青い光を纏ったボールが、疾風の如くゴールに飛び込んでいった。
「ああああああーーっ!!!!」
ゴールキーパーの男は天馬の化身技に臆したのか、自らゴールから退いてしまった。天馬のジャスティスウイングが、あっけなくゴールに突き刺さった。
「よしっ!オレたちの勝ちだっ!!」
*
「…あっはっはっはっはっ!!」
突然、番長格の男が笑い出した。
「えっ、どうしたの?」
天馬は驚いたように尋ねた。男はまだ笑いを堪えられないように言った。
「あっはっはっ…いやー、おもろかった!こんなに楽しいサッカーしたんは久しぶりや!!やっぱ本物のサッカーは格が違うわい!おめえらとサッカーバトルして正解やったわ!!」
男は天馬に握手を求めた。
「驚かしてすまんかったな。桜城中に松風天馬が転校してきた聞いて、居ても立っても居られなくてな。わいは第二中のキャプテンの
「そうだったんだ!こっちこそよろしく!」
天馬は菊池と力づよく握手した。
「ほんまにおめえらはええチームやな。おめえら、聖セバスティアヌス祭は出るんか?」
「え…聖セバスティアヌス祭?」
天馬は何のことかわからなかった。
「なんや、聖セバスティアヌス祭知らんか?」
「知らない」
天馬たちは首を振った。
「聖セバスティアヌス祭っちゅうんは、WESCAが主催する、ここら辺のサッカーのフェスティバルや。ウィスルフレー中の中学校が集まる、サッカーの大会。オープン参加で、当日参加もバッチリオーケーの大会やねん」
「へえ」
「どれぐらいのレベルの人が出るの?」
信助が尋ねた。
「まあ、WESCAが世界中から中学生たちをウィスルフレーの学校に引き入れてるさかい、もちろんサッカーの実力の強い人もぎょーさん来る。最初は弱いところばっかと当たるかもわからんが、勝ち進めば世界大会レベルになると言ってええんちゃうか」
「「世界大会レベル!?」」
天馬と信助が驚いた。まさかFFIV2レベルの試合が、ウィスルフレーでもできるなんて!
「わいらも参加するさかい、どこまでわいらが行けるか知らんが、もし当たった時は覚悟しとき。今日のリベンジしてやるさかい」
「うん!オレたちも負けないよ!」
菊池は、天馬と力強く拳を交わした後、取り巻きと共に帰って行った。
「聖セバスティアヌス祭か…」
「天馬!もちろん参加するよね!」
「うん!世界レベルの人と戦えるんだ!オレたちも黙ってちゃいられない!!」
「すぐに熱くなるところは全然変わってねえな」
剣城が呆れたように言った。
「だって…オレたちの新しいサッカーがそこには待ってるんだ!だったらオレは…誰よりも早くオレたちの新しいサッカーに会いに行くんだ!!!」
天馬はそういうと、星が見え始めた空を仰いだ。
「待ってろよ!聖セバスティアヌス祭!!!!」
これ以上は出せない声で叫んだ。
読んでくださった方ありがとうございました!!!!
関西弁でおかしいところがあったら教えてください。
次回もよろしくお願いします!!!!!!!!