遊戯王5D'sタッグフォース 満足の意志を継ぐ者 作:ゾネサー
「そう…旅に出るの」
旅の準備を終えたコナミはネオ童実野シティを出る前に恵と話をしていた。
「やっと俺の道が見つかったんだ。色んな人にデュエルの無限の可能性と楽しさを思い出して欲しい…そのために俺は旅に出るぜ」
「デュエルの楽しさ…」
「そうさ。遊星や幸子…そして恵とのデュエルで気付くことが出来たんだ」
「私の…?」
「あの時のデュエルで恵はデュエルが本当は楽しくてワクワクするものってことを忘れていた。きっとそれは未来の人達もだ…」
恵はシンクロモンスターの力に溺れてしまった未来の人々のことを思い返した。そこにあったのはデュエルで楽しもうとする姿ではなく、シンクロモンスターという力を振るうことばかりに楽しさを追求する姿だった。
「…そうかもしれない。だけどそれを今の人達に伝えても…」
「意味はある。恵達の未来で遊星が残した伝説が人々を突き動かしたように、今の人達が残した意志は未来に受け継がれるんだ」
「…!不動遊星が残した意志をゾーンが継ぎ、そして私もゾーンの意志を継いでいる…。意志は…受け継がれる?」
「ああ。俺はそう信じてるぜ」
「…私も信じている。あなた達が作り上げる未来は…絶望の未来ではないことを」
「恵……」
「私はモーメントに代わる永久機関を完成させるために不動遊星の手伝いをすることに決めた。だから一緒に行くことは出来ないけど…あなたの活動が未来に繋がることを信じている」
今までゾーンの命令によって動いていた恵は一人の人間として新たな道を歩むことを決めていた。
「そっか…恵も道を決めたんだな」
コナミは前方にある二手に分かれたレーンを見つめながらDホイールに手をかけた。
「さあて…あんまりここに残ってると名残惜しくなっちまうからな。そろそろ行くぜ」
「あ…」
コナミはDホイールにまたがり、モーメントを起動して出発の準備を整えた。
「…そうだ!恵、お前との約束はちゃんと覚えてるからな」
「…!」
「俺が旅に出てもデュエルをしてたら必ずどこかで会えるはずだ。その時に約束は果たすぜ…恵とまた楽しいデュエルをするって約束はな」
「コナミ…」
コナミは右手の小指をフック状に曲げ、恵の方に突き出した。
「これは?」
「指切りしようぜ。俺が万が一にも約束を破っちまわねえようにな」
「…こう?」
コナミが差し出した小指に恵はそっと自分の小指を絡ませた。
「合ってるぜ。…恵の指、冷たいな」
ロボットである恵は人間が持つ体温を持っていないため、手の温度も低かった。
「…大丈夫」
「え?」
「あなたの手が…温かいから」
たとえ体が冷たくとも、恵は温かい笑みを浮かべていた。
「そ、そっか。…じゃあ行くぜ。指切りげんまーん…」
互いに絡め合わせた小指を上下に振り、恵はコナミの口上を引き継ぐように言葉を紡いでいった。
「嘘ついたら……
「ええ!?」
指切りを終えた恵はそっと指を離した。
「私はあなたが約束を破るとは思っていない。だから…」
恵が少し恥ずかしそうにそっぽを向く。
(恵なりの冗談か…。やっぱり恵はロボットじゃなくて人間なんだな)
「大丈夫だぜ、恵。俺も約束を破る気はねえからさ。…さてと、今度こそ行くとするかな」
「…コナミ、私はあなたに会えて本当に良かった。あなたのおかげで…変わることが出来た」
「きっかけを作ったのが俺でも変わろうと思ったのは恵自身だぜ。だけど…俺もお前に会えて良かった!…じゃあ、またな!」
「…!……行ってらっしゃい」
「ああ!行ってくる!」
行ってらっしゃい、という言葉には元気な状態で旅立ち、再び戻って来て欲しいという意味が込められている。恵の言葉に押されるようにコナミはDホイールを走らせた。
「…!」
その時コナミのデッキから2枚のカードが光を放ち、精霊として姿を見せた。
「エンシェント・ホーリー…それに銀龍」
「どうやら私達もお別れのようです。長いこと精霊界をカイバーマン様に任せすぎました」
「そっか。お前達にはダークシグナーと戦った時からずっと助けてもらってるもんな。今まで…ありがとうな」
「いえ、私達も人の持つ可能性を垣間見ることが出来ました。私も銀龍も…あなたと共に戦えたことを誇りに思っています」
エンシェント・ホーリーの言葉に賛同するように、銀龍が咆哮を上げた。
「私達は精霊界から人の歩む未来を見届けていきます。そして祈りましょう、未来が希望に満ち溢れていることを……」
「ああ!俺達は絶対に希望を掴み取ってやるぜ!」
エンシェント・ホーリーはコナミの言葉を聞くと、ゆっくりと頷いた。そして銀龍と共に光に包まれ…精霊界へ帰っていった。
「エンシェント・ホーリー達が俺を手助けしてくれたように、今度は俺がみんなの助けになる番だ!やってやるぜ…!」
光の残滓が左のレーンに流れていくのを横目に、コナミは右のレーンへDホイールを走らせたのだった。
そして時は経ち、コナミはある場所でスクリーンに映し出された映像を見ていた。
「ジャック!ようやくキングへの挑戦権をもぎ取ることが出来たぜ…今日でその座は俺が貰い受けてやる!」
「甘いな、鬼柳。キングの座は守り続けることでその輝きを増す。そしてキングの輝きを最大限放つことが出来るデュエリストは…そう!この俺、ジャック・アトラスだ!」
「いいや、それはどうかな!俺の満足は限界すらぶち破る!幸子やクロウもそろそろトップリーグに上がってくるんだ…悪いが俺がキングの状態であいつらを迎えてやるぜ!」
「ほざいたな!だが俺は次に遊星と戦うまで誰にも負けないと誓った!たとえ貴様相手といえども決して負けはしない!」
「へっ、ここで四の五の言っても始まらねえ!」
「ふっ…そうだな。決着はデュエルでつけるとしよう」
「鬼柳もジャックも…相変わらずだな」
コナミは懐かしむように笑った。
「続きを見てえところだが…時間だな。さて、今日もやるとしますか!」
コナミはスクリーンを閉じた。その時、コナミのいた部屋のドアが開く音がした。
「せんせー、もうみんなあつまってるよー」
「分かった!先に行っててくれー!」
「はーい!」
少女は元気に返事をし、外へ走っていった。
「先生か…色んな所回ったけど、そう呼ばれるのはやっぱり慣れねえなあ。この前の所みたいに名前で呼んでもらうようにするか」
コナミは少女の後を追うように部屋を出ていった。
「今日は子供達だけじゃなくて大人達も出来るだけ集まってもらったからな…気合い入れねえと」
コナミは赤帽子のつばを後ろに引っ張り、気合を入れ直した。
「それにしてもここは昔のサテライトに似てるな…」
集合場所に向かっているとスクラップの山が目に入り、コナミにサテライトのことを思い出させた。
「懐かしいな。あの時は捨てられたカードを拾ったりしたな…ん?」
コナミはスクラップの山の一角に一枚のカードが刺さっているのを発見した。
「…折角だし拾っておくか!」
コナミはスクラップの山に登り、カードに手を伸ばした。
「ちょっと待てええ!」
「おっと…!?」
コナミとは逆方向からスクラップの山を登っていた少年がコナミがカードを取るより先にカードを拾っていた。
「これは俺が先に見つけたんだ!」
「そ、そっか。悪かったな」
「分かればよし!」
少年は偉そうに威張った後、拾ったカードを確認した。
「やったぜ!これでデッキ完成だ!」
「…!拾ったカードで…?」
「あー!馬鹿にしたな!」
「い、いや…馬鹿にしたわけじゃねえんだ。悪い」
(そうか…この地域は規模が小さすぎるからデュエルチャリティーの対象になれてねえんだ。だからここでカードをゲットするには拾うしかねえんだな)
「ったく…。見てろよ!俺はこのデッキで世界一のデュエリストになってやる!」
「…!」
コナミは少年の言葉を聞いて、自分がデッキを完成させた時のことを思い出した。
(俺も…そう思ったっけな)
「どうした、兄ちゃん?」
「なあ、デュエル…楽しいか?」
「へ?そりゃ…もちろん!他の友達がデュエルしてるのを見てるだけでも楽しいし…それについにデッキが完成したんだ!何が出来るかすっげえワクワクするぜ!」
「…そっか。その気持ち…ずっと忘れるなよ」
「…?…うわっ!」
コナミは被っていた帽子を取ると、少年の頭に被せた。
「こいつは俺からのプレゼントだ!もし忘れそうになったら帽子の裏を見ればいい。…じゃあな!」
「あ!ちょっと!」
コナミは少年に向かって親指を立てると集合場所に向かって走っていった。
「帽子の裏…何だこれ?何か書いてある」
少年は帽子を確認すると、そこに二文字の言葉が力強く刻まれていることに気がついた。
「満足…?」
デュエルを楽しむ心を忘れなければ、限界を自分で決めつけずに自然にその先にある可能性を追い求めることが出来る。そんな尽きることのない満足の意志を継ぐ者がいる限り、彼らの未来に絶望が訪れることはないだろう。
「さあ……満足しようぜ!」
これにて『満足の意志を継ぐ者』は完結となります。今まで今作品を読んでいただき、本当にありがとうございました!
自分は今作品が初完結となるのですが、作品を完結させるというのがこれほどまで達成感を覚えるものだと思っていませんでした。自分がここまで来れたのはみなさんの温かい感想などに支えられたというのが大きいと思います。重ね重ねありがとうございました!