週一で1話くらいのペースだと思いますが、お付き合いして下さる方は、お付き合い下さい。
第1話 魔王の旅立ち
法輪都市イアハイム──今この都市では前代未聞の出来事が起こっていた。
市民が放浪バスの前を開けてずらりと左右に並び、一本道を創っている。その列は最後尾が見えぬ程に続き、終わりなんてないように見えた。
放浪バスに乗っている乗客たちは、何事かと窓に手をあて顔を近付ける。
乗客たちが見たものは、市民の道を当然のような顔をして、悠然と歩を進めている一人の若い男の姿だった。
彼の容姿は、肩の高さで切られた赤みがかった黒髪、赤ワインを思わせる深い赤の瞳。体格は細くも太くもない、正に武道家のような筋肉質な肉体だ。
若い女性たちから、ほぅと熱を帯びた吐息が漏れる。
彼女らを虜にしているのは、容姿もさることながら彼の纏う雰囲気に他ならない。
傲慢と称されても仕方ない程に、彼の纏う雰囲気は暴力的であり、野性的だった。
普通の男であれば、どんなに容姿が良かろうとも敬遠されているだろうが、この男はその雰囲気を完璧に自分の容姿と調和させていた。
その危うさと全てをねじ伏せるような男らしさが、火遊び好きな女性の心に火を灯している。いや、もしかすると、優秀な遺伝子を残そうとする人間の本能に直接訴えかけるような抗い難い魅力が、女性を虜にしているのかもしれない。
そんな彼の名は、ルシフ・ディ・アシェナ。
法輪都市イアハイムにある侯家と呼ばれる七つの武門の内の一つ、アシェナ家の長男である。
ここイアハイムでは、王の死後、新王を七つの侯家の中から民政院という民衆によって選ばれた政治家たちが選出する。
現在の王はマテルナ家の家長であり、イアハイムは彼に治められている。
つまり、アシェナ家であるルシフは王でもなければ、王家でもない。他の人間と違う部分があるとすれば、次期王候補の一人という点だけだ。
しかし、現王が死ななければ、それは何の意味もないゴミ同然の肩書きに過ぎない。
にも関わらず、まるでこの都市の王であるかのような──いや、たとえこの都市の王であっても市民が道を創るなどと大それたことはされないだろう。
何故このようなバカげた事が起こっているのか?
簡単な話だ。ルシフという人間そのものが、市民にとって最大限に敬う相手だからだ。
ルシフは五年前に、王に対してある提案をした。
その内容は武芸者の選別。
今までは武芸者というだけで、都市から援助を大なり小なり受けられた。
何故都市が援助をしてまで武芸者を大事にしているかというと、この世界には汚染獣と呼ばれる武芸者にしか倒せない存在がいて、武芸者を多く都市に抱えておけば、それだけ汚染獣を倒せる確率が高くなると考えられているからだ。
それに都市同士で戦争を行う場合もあり、その時にも武芸者は勝つために必要な主戦力となる。
武芸者は抱えれば抱えるほど良い。これがこの世界の常識である。
だが、ルシフの考え方は違う。
はっきり言って、武芸者は剄量が全てといっても過言ではない。
どれだけ鍛えようが汚染獣の子供すら殺せない武芸者もゴロゴロいるし、並の汚染獣ですら、基本的に多数の武芸者が協力して倒す始末。
汚染獣すら倒せぬ武芸者など不要!
雄性体の汚染獣とまともに戦えてこそ、武芸者と名乗る資格がある!
つまり、百人の並の武芸者から武芸者という地位を剥奪し、一人の強い武芸者の援助をこれまでの何倍にもする。
強い武芸者などそうたくさんはいない。援助を何倍にもしたところで以前と比べれば、かなりの金額が浮いた。
その浮いた金額を市民の給料に割り当てるようルシフが進言し、市民は裕福な生活をすることが出来るようになった。
更にイアハイムで抱える武芸者の人数を二百人に制限。一年に一回だった武芸大会を月に一度に変更し、常に武芸者は競い合わなくてはいけない環境をつくり、武芸者の質の向上を継続的に行う仕組みを確立。
その内の百人をルシフは徹底的に指導し、町の警備にあてた。これにより、武芸者の地位を剥奪された人間の犯罪は減少し、以前よりも遥かに治安が良くなった。
武芸者が少なくなっても、ここ五年間であった戦争には全て圧勝しているし、汚染獣に襲われても秒殺している。
都市の安全及び治安と、市民全員の生活水準の向上の両立。
これこそが、ルシフが市民に敬われている理由である。
今までとは比べものにならないくらい、暮らしやすくしてくれた相手を慕うのは当然だろう。
「本当に行くつもりかね?」
放浪バスの前まで来たルシフの前に、この都市の王が市民の列をかき分けて立つ。
ルシフは無言で王の顔に視線をやった。
その顔には汗が浮かび上がり、強張った表情をしていた。
自分を恐れているのだ、この王は。
反応を窺い、怒らせないよう必死に言葉を選んで、小動物のように身体を微かに震わせている。
ルシフは内心で眼前に立つ人間を嘲笑った。
(何の威厳もなければ、先見の明もない、市民の人望すら集められんこんな男が『王』とは……)
表情にその感情は出さず、あくまで無表情でルシフは口を開いた。
「くどいですね……俺が行くと決めたんです。
それを邪魔するなら、たとえ『王』でも容赦出来ませんよ?」
王と呼ばれた男は息を呑む。
普段の彼ならばここで黙り、放浪バスに乗る自分をただ見送るだけだろう。
しかし、今日は違った。
「だが……! 今更ツェルニなどという学園都市に君が行くメリットはあるのか!?
君の能力はすでに学ぶものなど何もない領域にまで昇華されている! 正直な話、君が得るものは何一つとしてないぞ!」
ルシフという人間を知っているなら、それは誰もが感じる疑問だった。
まずは知識の方だ。
ルシフは幼い頃から、学者や教師を家に呼んでもらい、自主的に知識を積み重ねていた。
ルシフはいわゆる天才であった。
十を数える時には、イアハイム中の誰よりも知識を得て、誰も彼には教えられなくなった。
それでもルシフの向上心は留まることを知らず、ルシフは図書館に通い、自己流で自身の知識を深めていった。
次に武芸の腕。
ルシフは剄を使える人間だった。それも並大抵の剄量ではない。どの
更にルシフは、剄技の仕組みを使用者の剄の流れから理解する特技を持っており、ありとあらゆる剄技を見ただけで使えた。
ルシフはその才に甘んじることなく、知識と同様に幼いころから鍛練を続けた。いつも死線に身を置き、死にかけたことも幾度もある。そうやって常に自分を限界に追い込み、独力で自身の剄の扱いを高めた。
今のルシフは、武芸の本場といわれるグレンダン以外の都市であれば、最強の武芸者として君臨できるだろう。
だからこそ、ツェルニなどという学園都市に行く意味が分からなかった。
ルシフは目の前の男に少し感心した。
怯えながらも果敢に向かってくる気概。この男にはこんな一面があったのかと少しだけこの男の評価を改めた。
「まさかとは思うが、私の娘に手を出すつもりでは……」
ああ、とここでルシフはようやく得心がいった。
娘を守りたいという意志の強さが、男の恐怖心を凌駕させたのだろう。
ツェルニにはこの男の娘が通っているのだ。
娘の名はダルシェナ・シェ・マテルナ。
王の娘でありながら、武芸の才能が大したことないせいで劣等感を感じ、気弱な性格になっている三つ年上の女性。
「ご冗談を……。俺があんたの娘をどう思っているかなど、あんたが一番よく知ってるでしょう」
ルシフからのダルシェナの印象は、いつも誰かの影に隠れて怯える愚か者という印象だ。
ルシフはダルシェナと一対一で話したことが一度としてない。常にダルシェナはルシフとの間に誰かしらの障害物を置き、その障害物を盾に話す。ちなみにその障害物によく選ばれていたのが、ダルシェナの父親、つまりここにいる男である。
ルシフにとってダルシェナという存在は、己を最大限にイラつかせる存在だった。故に、ダルシェナに対して恋愛感情などこれっぽっちも持ち合わせていない。
しかし、第三者の目で見れば、わざわざ王の娘がいる学園都市に行くのは、娘を使って良からぬ事を企んでいるのでは──と考えるのが自然。
この都市の王が焦れたように叫んだ。
「最近の君はおかしいぞ! 一年前に君のお気に入りをツェルニに入学させたり、君らしからぬ意図の分からん行動ばかりする!
何故だ!? 何故君程の人間が学園都市に通う!?」
「学園都市というものに興味があった──それだけです。別に俺は卒業までいるつもりもないですよ。飽きたらとっとと退学して、ここに帰ってきます」
ルシフは話は終わりだと言わんばかりに再び歩みを再開し、放浪バスの搭乗口に片足を乗せる。
「行ってらっしゃいませ、マイロード」
放浪バス付近で列を創っていた内の一人の男が一歩前に出て、うやうやしく頭を下げた。
その男の身なりは、全身に返り血を浴びたような赤い服装をしている。
彼は『剣狼隊』という名の、ルシフが徹底的に指導した百人からなる武芸者集団の一人であり、ルシフを絶対君主として、彼の命令にのみ従う。ルシフが個人で所有している軍隊のようなものだ。
『剣狼隊』は入れ替わりが激しく、しょっちゅうメンバーが替わり、『剣狼隊』から弾かれた武芸者は他都市に追放され、二度とイアハイムの地を踏むことは許されない。それほどまでに、『剣狼隊』は厳しいところだった。
「うむ。俺が帰ってくるまでこの都市を現状維持しろ。
出来るな?」
「出来ます!」
自信満々に頷く男の顔をルシフは一瞥すると、ルシフは放浪バスに乗った。
放浪バスの一番後ろの席で、ルシフは放浪バスが出発するのを待つ。その顔には、見た者をゾッとさせる邪悪な笑みが浮かんでいた。
ルシフにはある秘密があった。
その秘密とは、産まれた瞬間から、前世の記憶というべき別の人間の記憶と知識を持っていたこと。
そのせいでルシフは三歳になるまで、その膨大な情報を処理しきれず知恵熱と頭痛を慢性的に起こし、死にかけたことも数えきれない回数あった。
しかし、三歳になった時にピタリと知恵熱と頭痛はしなくなった。
この時にルシフは悟った。自分は神の企みを退け勝利したと!
この世に神がいるとするなら、神はルシフという人格を殺し、ルシフが持っていた別人格をルシフの肉体に宿す腹積もりだったのだろう。
だが、神はルシフの器を見誤った。
彼の器は尋常ではないくらいに大きく、その別人格の全てを彼自身の器は呑み込み、奪いとったのだ!
肝心の奪いとった記憶と知識の内容だが、ほとんどはルシフにとって無に等しいものだった。
まずこの人間の記憶の大部分を占めるのが、周りに流され続けて行動しながらも、自分の本当にしたい行動をとれない自身に対する弱さと無力さの葛藤が延々と続くだけの記憶。
そして、死の間際にこの人間は願った。
もっと力があればと。
この人間の人生には常に選択肢が無かった。こうしたいと思いながらも、こうしたら自分はこうなるだろうという恐怖から、自身の本当にしたい行動がとれなかった。
この人間の最期は、散々周りからいいように使われた挙げ句、口封じに殺されるという、ルシフからすればつまらん最期だった。
そんな記憶と知識の中で、ルシフは唯一自分にとって得をするものを手に入れた。
それはこの世界、鋼殻のレギオスの原作知識。
つまり、ルシフはこの先この世界で何が起きるか知っているし、自分の住む世界が何なのかも理解している。
ルシフがツェルニに入学する目的は二つ。
一つ目は、『廃貴族』を自身に憑依させること。これをすれば更に莫大な剄が手に入る。
二つ目は、グレンダンに存在する『天剣』と呼ばれる錬金鋼の奪取。『天剣』は錬金鋼の中で、もっとも剄の許容量の大きい錬金鋼であり、自分が唯一使える武器になり得る。
ちなみに狙っている天剣の名は『ヴォルフシュテイン』。この天剣以外の天剣を手に入れるつもりはない。
この天剣だけが、ルシフの保険となりえるものなのだ。
ルシフはある計画を胸に思い描いていた。
その計画の名は『レギオス統一計画』。
その計画を完遂させるためには、この世界で最強の存在になることが絶対条件。
「汚染獣が出たぞおおおお!」
放浪バスの外から、外を見張っている念威繰者から報告を受けた武芸者の叫びが聞こえ、ルシフは思考を止めて、放浪バスの中で怯えて縮こまった他の乗客たちを無視して、放浪バスの外に出た。
「ルシフ様! あの汚染獣は俺にお任せを!
レストレーション!」
真紅の服装をした男は、錬金鋼を音声信号による記憶復元の形質変化で武器に変え、イアハイムの外縁部まで来た汚染獣に向かっていこうとするが、その行く先をルシフの右手が塞いだ。
「その必要はないッ! 俺が直々に相手をしよう」
「はっ!」
錬金鋼を元に戻した男には目もくれず、ルシフは内力系活剄、旋剄で瞬く間に汚染獣の眼前に迫る。
普通の都市ならば、今頃市民は悲鳴を上げ、我先にシェルターに行こうと大混乱が起きているだろう。
しかし、この都市の市民はむしろルシフが戦うところを見ようと、ルシフが見える場所まで移動した。
すでにルシフの手により、市民たちの中の常識が狂わされているのだ。
市民は汚染獣がルシフを殺す可能性など微塵も考えていない。ルシフの勝利を確信している。
「雄性体一期か──どれ、少し
汚染獣が歓喜の雄叫びを上げながら、突如として目の前に現れた餌に食らいつく。
汚染獣の大口がルシフを飲み込み、牙で噛み千切ろうと何度も顎を動かす。
だが、牙はルシフの肉体に食い込まず、逆に牙の方が砕けた。
金剛剄と呼ばれる剄技がある。活剄による肉体強化と同時に衝剄による反射を行うことで攻撃を弾く技。
ルシフは牙が肉体に触れる瞬間にこの技を使うことで、攻撃を無効化させていた。
汚染獣が必死に顎を動かして、ルシフをガジガジしているにも関わらず、ルシフは一切気にする様子はない。動物を可愛がるように、右手で汚染獣の顔を撫で撫でしている。
「おーよしよしよし! おーよしよしよし!
貴様、なかなか甘えるのが上手いなァ!」
当然汚染獣はルシフに甘えているわけではない。むしろ全力でルシフを噛み殺そうとしている。
汚染獣がルシフに甘えている光景が十数秒続いた後、とうとう汚染獣はルシフの圧倒的な力に屈し、顎を動かすのを止めた。
「なんだ、もう
なら死ねェ!」
ルシフが汚染獣の大口から抜け出し、汚染獣の巨体に右拳を打ち込む。右拳は汚染獣の腹を突き破り、手首の部分まで汚染獣の身体にめり込んだ。
剄を拳に集中させて、極限まで強化された拳だからこそ出来る芸当。
「光栄に思うがいい……いずれ王になる男の門出を祝福する花火になれるのだからなァ!」
ルシフが内力系活剄で脚力を最大限まで強化して、汚染獣をエアフィルターの外まで蹴り上げる。
汚染獣は空中でどんどん身体が歪に膨らんでいき、最期には花火のように爆発。汚染獣の内部に、ルシフは自身の剄を流し込んでいたのだ。
空中で咲いた緑色の体液の花を、ルシフは最後まで見届ける。
「──汚い花火だ」
ルシフは再び放浪バスに向かって歩く。
「クックックッ……フハハハハハ……」
徐々に、徐々にではあるが、ルシフの笑い声のボリュームが上がっていく。
「ハァーッハッハッハッハッ! ハハハハハッ!」
最後には高笑いしながら、ルシフは放浪バスに乗り込んだ。
汚染獣の脅威が去ったことを悟った放浪バスの運転手は、機関を回転させた。放浪バスの折りたたまれていた多足が伸び上がり、バスの車体が持ち上がる。
その多足を駆使して、バスが都市の外へと進みだす。
悪魔に更なる力を与える手助けをしていることにも気付かず、愚直に目的地を目指す。
ルシフはもう既に遥か後方に行ってしまった故郷を、放浪バスから見ようとは思わなかった。
ルシフはいついかなる時も、後ろは振り向かない。常に前を見据え、己の目的のために生きる。
次に故郷の地を踏む時は、最強の存在になり、正真正銘の王になった時以外有りはしない。
放浪バスが法輪都市イアハイムを出発して数週間後、ルシフは学園都市ツェルニに到着した。
◆ ◆ ◆
ツェルニに住む学生は基本的に寮住まいだ。ルシフもその例に漏れず、寮で暮らすことになる。
そのことについては、別にいい。最初からそうなる事は分かっていたから。
問題は、ルシフに割り当てられた部屋が二人部屋という事実。
そして、その相方が──。
「僕はレイフォン・アルセイフ。槍殻都市グレンダンの出身だ。これからよろしく」
ルシフの前でボサボサな茶髪をした少年が、右手を差し出した。少年の瞳は藍色。一般教養科の制服を着ている。
ルシフは元々部屋にあった椅子に腰掛けている。
ルシフは武芸科の制服に身を包み、剣帯には六つの様々な種類の錬金鋼が吊るしてあった。
「ルシフ・ディ・アシェナ、法輪都市イアハイム出身。
よく覚えておけレイフォン・アルセイフ。俺はいずれ王となる男だとッ!」
「えっ? あ、はい」
ルシフは戸惑いながら頷くレイフォンを見て、満足そうに笑った。
「それでいい。それから、同じ部屋のよしみとして忠告してやろう。
俺の敵にはなるな」
ルシフはそれだけ言うと立ち上がり、部屋を出ていった。
レイフォンは唖然とした表情で、ルシフが開けた部屋の扉を見ていた。そして数秒後、頭を両手で抱えてベッドに座る。
「……最悪だぁ……」
まさかあんなにも近寄り難い人間が相方なんて……。
差し出した右手も結局最後まで無視された。顔の前にわざわざ右手をもっていったにも関わらず。
「しかも王とか言っちゃってるし……」
それはつまり、自分と対等に接しないと言外に言っているようなものだ。
こちらから歩み寄ろうとアプローチしても、まともに相手をされないだろう。
何であんな人間が、よりによって自分の相方になるのか。
レイフォンは己の運のなさを呪った。
(それにしても、彼が纏っている剄は──)
レイフォンは、ルシフの剄の輝きを思い出す。
彼の剄は洗練されているが、それ以上に威圧的な剄だった。まるで、相手を屈服させることだけが目的かのように。
それに、かなりの実力者であることも間違いない。
ルシフが纏っていた剄に、乱れや無駄が全く見られなかったからだ。
これがツェルニの武芸者の標準だとすれば、注意しなくてはならない。
ルシフとて、レイフォンが剄を使える人間であることは気付いているだろう。
レイフォンは一般教養科だが、元武芸者だ。それも武芸の本場と呼ばれるグレンダンで、十二本しかない天剣を与えられた、天剣授受者という名誉を授かったこともある最強レベルの武芸者。
レイフォン・アルセイフは武芸者以外の道を見つけるために、ツェルニに入学した。
自分の武芸の腕を迂闊に見せてしまったら、何かに利用しようとする輩が現れる可能性がある。
(よし、頑張るぞっ!)
レイフォンは出来る限り、武芸者としての実力を隠すと心に決め、自身の両頬を両手で叩いて、これからの学園生活を乗り切るために気合いを入れた。
ルシフは寮の通路を不機嫌そうな顔で歩いていた。
(──最悪だ)
レイフォン・アルセイフ──原作の主人公であり、ツェルニで様々な出来事が、彼を中心に起こる。
ルシフは本来ならば、ツェルニにいない人間だ。原作知識を持っているからこそ、ツェルニに存在しているイレギュラーなのだ。
故に、出来事の中心に深く関わるレイフォン・アルセイフと関われば関わる程、本来の未来とは違う出来事が起こりやすくなる。
少なくとも『廃貴族』との接触までは、原作通りに事を進めなくてはならない。それに加え、自分が『廃貴族』を手に入れるためには、レイフォン・アルセイフの近くにいる必要がある。
(だが、四六時中不確定要素を引き起こす可能性といるのはごめんだ)
ルシフはため息をつく。
まずは自分の住む場所の変更。
これをしよう。寝る時くらいは安心して寝られる環境を整えよう。
次に、第十七小隊か第五小隊への入隊。
『廃貴族』に接触する廃都市探索任務は、原作通りならば、この二つの小隊が担当する。
出来ることなら第十七小隊への入隊が望ましい。原作は序盤、第十七小隊を中心に進んでいくからだ。
だから、入隊するために手を打つ必要がある。
それから、『廃貴族』を手に入れるまでは、自重しよう。
──この世界で最強になるのは、俺だ! 王たる俺こそが、最強の存在として君臨するに相応しい!
この物語は、ルシフ・ディ・アシェナが歩む道の軌跡。
魔王と、それに関わる者たちの闘争の記録である。
キャラ設定
・ルシフ・ディ・アシェナ
名前の元ネタは……
ルシフ――堕天使ルシファー(後のサタン)。
ルシファーは、被造物の中で最高の能力と地位と寵愛を神から受けていたために自分が神に成り代われると傲慢になり、神に反逆し、堕天した元全天使の首領。
7つの大罪の1つ、『傲慢』にあたる悪魔。
ディ――悪魔の英単語、デビルから。
アシェナ――悪神アエーシュマ。
アエーシュマは、ゾロアスター教の悪神の一人。アヴェスター語で『狂暴』を意味する。
堕天使・悪魔・悪神と3拍子揃ったキャラです。
ルシフの今現在の剄量と、武芸のセンスはレイフォンと同等。
実力はレイフォンが死ぬ気で今まで鍛練したイメージのため、全盛期のレイフォンより強い。
そのため、ツェルニに入学するために武芸の鍛練を怠り、勉学に集中していた今の鈍りきったレイフォンなら余裕で勝てる。
ただ、レイフォンとの実力差は剄の技術だけのため、ルシフの技術をレイフォンが盗んでルシフの実力に追い付く可能性がある。