機龍~revival・wars~   作:西郷ゆとり

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War.2 夜明けの紅竜

War.2 夜明けの紅竜

 

 

 彼女は僕の手を引いて、走った。不思議なことに彼女の走行速度と僕の走行速度は同じで、しかも、風のように速かった。恐らく彼女の能力の恩恵だろうと思う。

 

「ドクター湯原の所にまで行きましょう。プレゼントがあるそうよ」

 

「そんな場合じゃ! 僕のせいで、みんなが殺されるんだ!」

 

「いいから、来て。ここに、もうすぐサイボーグ怪獣ガイガンが現れるの。今日の『納税』が終わると同時に、大規模な破壊活動を行う予定だったらしいわ。あなたが、動く動かないにかかわらず。ドクター湯原のたくらみが、露見していたのね」

 

「湯原のおっさんが、どうしたっていうんですか?」

 

「あなた、何も聞いていないの?」

 

 女性はすぐに立ち止まり、僕の顔を見た。そう言われても、と言う感じではあったけれど、僕は概ねしおらしく頷くことに成功したらしい。彼女は責めることもなく、優し気な笑みを浮かべるだけだった。悪戯をした僕を許す、母さんの仕草そのものだった。

 

「そう、教えない方がいいとあの人が判断したのね。なら、説明は後、行くわよ」

 

 僕は、段々と違和感を覚え始めていた。彼女が本当に母さんなら、こんなしゃべり方はしない気がする。母さんが僕をあなた、と呼んだ事はなかった。

 

 結論を言うと、彼女は母さんではなかった。名前も、素性も明かさなかったが、話している内に、彼女が家城茜でないことは、なんとなく腑に落ちて来た。母さんが生きているとは、その時まで、一切思っていなかったし、そんな淡い希望も抱いてこなかった。

 

 多少、心にしこりが残ったけれど、彼女に手を引かれるうち、そのしこりも消えていくのに気付いた。

 

 恐らく、この人は、僕に関係のある人なのだろう。だが、母さんではない。もしかしたら、クローンかもしれないし、X星人が化けているのかもしれない。だけど、そんな邪推はすぐさまやめた。そして、その邪推は、やはり、邪推に過ぎなかった。

 

 彼女は僕の味方だと、完璧に悟ることができた。彼女の微笑みは、やはり、母さんの微笑みにそっくりだったからだ。

 

 完全に同じ、とは言えないけれど……。

 

「あの……」

 

「があいぃがあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん」

「きぃどおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう」

 

 僕が安堵を感じながら口を開きかけたその時、不穏な叫び声がした――参謀の声だった。

 

 ガイガン、起動?

 

 背筋が凍った。こんな所で、ガイガンが暴れ回ったら……。

 

 サイボーグ怪獣、ガイガン。X星人のテクノロジーで造り出された全身これ全てが武器のの如き怪獣。

 

 十年前の戦闘で、機龍のアブソリュートゼロ、絶対零度砲を受けて、一時、動きを止められたものの、すぐさま再起動。機龍に手傷を負わせた。

 

 アブソリュートゼロを破壊されたのだ……。

 

「何で、ガイガンを? ジラで十分じゃないか!」

 

「恐らく、ドクター湯原の兵器が、それに適うクオリティだと思ったんでしょう」

 

 なおも、走り続けながら女性は言った。

 

「あの……」

 

「私は、エミー」

 

 名前を呼ぼうとしたが、分らないのに気付く。すると、彼女はこちらを向かずに名前を教えてくれた。よくもまあ、言葉を詰まらせただけでそこまで汲み取れるものだと思ったけれど、思えば、母さんも同じだった。

 

 僕の言いたいことを、いつも正確に分かってくれた。

 

 どんなに、不完全な情報を提示しても、だ……。

 

「エミーさん、湯原のおっさんの家とは違う方向に行っている気が……」

 

「大丈夫よ。ドクター湯原は街外れにいるから」

 

 そう言ってエミーさんが指さした方向には、巨大な更地があった。特生自衛隊の本部があった場所だ。X星人に真っ先に粉々にされた基地の残骸が、まだそこかしこに残っている。

 

 その時、爆音が聞こえた。慌てて振り返ると、巨大な生物が街を、今まさに踏みつぶすところだった。しかも、住人たちが集まる広場を、狙い澄ましたかのように……。

 

「エミーさん、皆が……」

 

 立ち止まろうとした。そんなに付き合いが良かったわけじゃないけれど、それでも、一つの共同体の中で、日々を共にした人々だった。無為に命を散らしていいはずがない。唇を噛みしめると、血が滲むのを感じた。

 

「いずれ、こうなる運命だった。あの街の革命思想を持つ大人たちは、ドクター湯原に協力していたの。彼らが死ぬのは、貴方のせいじゃない。貴方が、あの時行動を起こそうと起こすまいと、ガイガンは来ていたわ。そして、彼らは殺されていた。罪悪感があるのなら、これから貴方がすべきことを全うする力に変えて」

 

「さっきから、何の話ですか?」

 

「大丈夫、怖がらないで」

 

「怖がってなんかないです!」

 

「怖がっているわ」

 

 図星を、突かれた……。

 だから、反発し、

 むきになった。

 

 しかし、凍えるように冷たい血が身体中を跳ねまわっていることが、それを、真実だと告げていたし、手に掻いた冷や汗も、それを肯定していた。

 

 僕は、確かに怖がっているようだと思う。考えてみれば、その通りだと言わざるを得ない。何故なら、ガイガンは、そして、あのX星人は母を、僕の越えられない幻想を、容易に叩き壊したものだからだ。

 

 ガイガンが迫って来た。

 

 とさかのようなパーツを頭から背中に張り巡らし、腕は二又のチェーンソー。全体的に暗い紫色で統一された外殻に、無数の武器が垣間見られる。赤い単眼が、鋭く、邪悪に光っていた。

 

 光が迸った……。

 

 エミーさんは慌ててスピードを上げた。直後、僕たちが先ほどまで立っていた場所に、赤く巨大な爆風が襲う。砂漠のようで、あまり変化が見られないこの世界を容易に揺るがして、僕の現実を、また破壊しようとする。

 

 十年前は、母を、今度は、僕の故郷を……。

「殺してやる!」

 

 殺してやる!

 

「殺してやる!」

 

 殺してやる!

 

 言い、思い、言い、思い。

 

 そして、叫ぶ。

 

 

「殺して、やる!」

 

 

 同時、ガイガンと反対方向、僕の背後に、何か巨大な影が差すのを感じた。振り返ると、見上げるような巨体がそこにあるのに気付いた。

 

 僕の身体より何倍も大きい機械の頭。赤い外殻、まるで竜のような形をしたそれは、照り付ける金色の光を受けて、どこか神々しい光を辺りに放っていた。

 

 それは、

 旭光と言うべきか、

 曙光と言うべきか、

 

 始まりの光が、僕の目の前で胎動している。

 

 それなのに、夕日にも似ていた。

 

「これが、貴方の機龍、MFS‐4(Multi-purpose Fighting System – 4)」

 

 エミーさんが言い始めた言葉を咀嚼する。僕はそっと目を細めて、眩しいそれを見た。

 

「四式機龍『爆裂』、これで、貴方は家畜をやめられる」

 

 その声に、僕はすぐにうなずいた。正直、事態を飲み込めない、というのが正直な感想ではあったけれど、僕は今、戦うべきなのだと分かった――戦うしかないのだと、分かった。ガイガンを、こいつで倒すのだ。

 

 エミーさんは僕を案内して、四式機龍の首の裏側に連れて行った。その間に、ガイガンが焦った様子でこちらにやって来る。距離は、一キロほど離れている。人間には遠い距離だが、怪獣の足をもってすれば、数歩で詰められる距離でもある。

 

 四式機龍の背後に設置されたコックピットは、僕が近づくと同時に、すぐに開いた。エミーさんが目を丸くするのに気付き、彼女すら予測しなかった何かが起きているのだと思う。だが、僕には気にしている暇などなかった。

 

 コックピットに乗り込み、そっとエミーさんを振り返る。彼女もすぐさま中に入って来た。コックピットまでの道に、小さな昇降用の梯子があったが、僕は無視してすぐに飛び降りた。エミーさんも続く。

 

 降り立つと同時、四方にモニターが張り巡らされているのに気付く。中央の一際大きいモニターへと歩き、その前方の操縦席にそっと腰を落ち着ける。操縦席上部には、何らかの機械があった。センサーのようなものであるのは辛うじて分かったが、もちろん、正確な用途は分らない。

 

 モニターの前に、タッチパネルと操縦桿が取りつけられていた。部屋全体を照らしているのは、非常灯とでも言うべきか極めて薄い光だったが、僕が乗った瞬間、メインの電灯が光りだし、その全貌が明らかになった。

 

 何と、全方位、外の様子が細部まで見ることが出来た。唖然とする中、前方にガイガンが迫っているのに気付いて、操縦桿を握る。

 

「待って。僕、操縦なんかできない」

 

「大丈夫。四式機龍には、意図的にAIを暴走させるシステムが組み込まれているの。その、頭の両側にある、センサーみたいなのを、頭に密着させて」

 

 エミーさんの指示に、慌てて従うことにした。正直、AIがどうこう言われてもすぐには理解出来やしなかったのだが、一杯一杯な僕にはその言葉に従う以外に道は残されていなかった。

 

「ゴジラの闘争本能が、四式機龍にもある。その闘争本能と、貴方の意思をつなげて、同化させていく。竜使、貴方ならできるはず。自分を強く保つのよ?」

 

「……分かった」

 

 僕は、そっと前方を見つめる。

 

『OKAERI RYUSI』

 

 ――お帰り、竜使。

 

「母、さん?」

 

 一瞬モニターに字が浮かび上がった気がした。しかし、それはすぐに消え去っていく。自信は無いけれど、妄想なのかもしれないけれど、僕は、母さんと一緒に戦うんだと、思うことにした。

 

 背後で、エミーさんがその場を去っていく気配がした。少し心配だったけれど、僕より場数を踏んでいそうな彼女をここで信用してあげないのは筋が通らないだろう。

 

「エミーさんなら、大丈夫だ。行くぞ、機龍!」

 

 直後、僕と機龍は一つになっていった……。

 




やっと機龍に乗りましたなあ
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