愚か也、人間。
儚き也、人間。
俺たちX星人が支配する、不条理かつ不合理な生き物。殺戮の歴史を繰り返してきた愚かな雑菌。ふっふん、あくの強い雑菌には、消毒が必要だろう。
「統制されている恩も忘れ、あんな玩具を作るとはな……」
不意に、俺は口ごもった。あの、赤いブリキ人形から、何らかのシグナルを検知した。不思議なことに、俺が感知するテレキネシスに、波長が近い。
目を閉じてやると、ある、メッセージが俺に発されているのに気付いた。
「日出処の天子、日没所の天子に、書を致す……」
ほう、中々センスのある喧嘩の売り方だ。
「我々、X星人が、もうすぐ没すると言いたいか。そして、人間が我々に代わり、再び頂点に返り咲く、と……」
笑いが止まらなかった。部下たちが怯えるのも構わず、俺は笑い続けた。総司令官には、このことを告げねばなるまい。
「下等生物如きが。がいがぁん! 攻撃せよぉ!」
腕を振り上げ、二本指を巨大怪獣に向ける。ガイガンはすぐさま攻撃を開始した。
「しかし、お遊びが過ぎるのでは? いつでも、処理ができた事態でしょう」
突然、隣の無表情な女が尋ねてきた。無視してやろうかとも思ったが、なんとなく機嫌がいいので、明確に答えてやることにする。
「いいか、倆ァAキホ;ホ憎G*」
そう呼びかける。人間には決して発音できない音声、我々は名前を呼び合う時、必ずそれを発する。倆ァAキホ;ホ憎G*は、彼女の名前という訳である。
「奴らがどうあがこうと、我々の支配は覆らん。それに、こそこそブリキ人形を作るネズミはここだけではない。他にもいる。少なくとも、あと二か所。だとすれば、見せしめをするべきだとは思わんか? 奴らのブリキ人形が、いともたやすくガイガンに解体させられる。最高の趣向だ。ふっふーん」
「上手くいけばよろしいですが」
「上手くいくだろう」
俺はもう倆ァAキホ;ホ憎G*に構わずガイガンの戦いを見守った。
しかし、
「どおおおおおおぅっ? 何なんだあのブリキ人形は?」
竜使視点
X星人参謀が地球で知らないことが二つある。
一つは、人間は強いということ。
もう一つはゴジラだ。
その精神をゴジラへと変化した機龍と僕は、大きく吠えた。同時に、四式機龍の構造が頭に流れ込んでくる。
二本の腕に、それぞれ巨大な高周波ブレードを装備、身体は前傾姿勢で、三式よりもずっと獣に近い造形となっている。バックパックは、今のところ搭載されておらず、火力に難がある。しかし、口からはフォノンメーザーを発する砲塔がある。
機龍よりはいくらかずんぐりとしていて、バランスがいい。背中、人間でいう肩甲骨、背筋、両肩、大腿部に、バーニアが配備され、そこからジェット噴射を行うことで、縦横無尽な移動が可能。
そして、アブソリュートゼロが装備されていた胸には、人類最後の兵器が搭載されている。
「負けるわけがない。そうだよな? 機龍」
そう、呼びかけると、機龍は応えるように吠えた。
ガイガンとの戦闘が始まる。
僕と機龍の首に向けて、チェーンソーの下から、ワイヤーのようなものが伸びて来た。しかし、僕はそれを、右手の高周波ブレードで切り裂き、バーニアに点火して、突進を敢行する。
空気をつんざくようなスピードだった。しかし、はっきり言ってしまえば、この挙動には不安があった。僕は、重力で潰されることはないのか。しかし、機龍は教えてくれた。
怪獣のような巨大な質量を持つ生物が、なぜ、歩行や飛行が出来るのだろうか? 自らの巨重に耐え切れず、押しつぶされるのではないか?
湯原のおっさんは、ある日その疑問にぶち当たる。しかし、画期的な研究結果が現れた。怪獣は、重力のベクトルを操ることができる。つまり、重力を捻じ曲げ、自らの質量を――言ってしまえば、軽減することができる。
理を逸す力、
常軌を逸す力、
概念を無視した力、
怪獣が怪獣足り得るに、必要な能力だったというのだ。そして、そのメカニズムを解明し、機龍は、自らとパイロットにかかる重力を、ことごとく軽減したのだ。これで、機龍のお家芸、高速戦闘が更に磨かれる。
壮絶なスピードでガイガンの背後に回り、高周波ブレードを振り上げる。爆炎を吹かしながら、バーニアが吠えた。高周波ブレードも強烈な音を立てながら、慌てて身体をひるがえしたガイガンの腕を叩き切った。
金属同士が擦れあったような、音がする。
それが、ガイガンの鳴き声だと分かった瞬間。僕は歓喜の心に支配された。獣のような衝動が怒り始める。
倒さなければならない。
倒したい。
殺したい。
そして、蹂躙したい。
左手の高周波ブレードを前方に突き出した。ガイガンは身体を捩りながら、距離を取ると、上空へ向かって大きく飛び上がった。とさかのような二枚の羽が、空気を叩き切るような音で推力を生み出す。しかし、斬られた腕の付け根から、火花と、緑色の液体が噴き出していて、どこかおぼつかない。
太陽の光をカモフラージュにしながら、ガイガンは僕の背後を取ろうと構えた。しかし、機龍は僕にそれを教え、一緒に振り返ってくれた。直後、ガイガンの目から赤い光が放射状に降り注いだ。
機龍はうめき声を上げた。僕は、機龍の背中を押すように寄り添うと、もっと彼を上手く扱えるように、機龍と対話した。
「機龍、倒したいって心だけじゃ、ダメだ。冷静に、殺意を研ぎ澄ませよう。一緒に、倒そう!」
機龍の目の下にある赤いラインが、ぽうっと光ったのが分かる。
機龍と僕は飛び上がった。
空中を大きく疾駆して、ガイガンの更に頭上に昇り詰める。ガイガンは歯噛みするようにくちばしを小さく動かした。彼我の距離は、丁度二キロ、太陽を背に、僕と機龍は浮かび続けた。
両機とも、空中に静止し、刻一刻と時間を待つ。前傾姿勢で高周波ブレードを構える僕たちと、ぶった切られた腕を庇うようにもう一本の手を掲げるガイガン。
直後、僕と機龍は突進した。
ガイガンもすぐに迎え撃つ。
交差の刹那、ガイガンの右腕が、僕と機龍の胸の辺りを切り裂こうとする。が、左手の高周波ブレードがそれを弾き飛ばし、あまつさえ、切断してしまった。ガイガンは悲鳴のような声を上げて、空中でよろめく。
爆音が響く。
命を刈り取る音だ。二本の金属の塊が、生物の外骨格をいとも簡単に切り裂く。致命傷を負ったガイガンとそれに向かい合う僕たちを、明瞭に分けるように、敗者は崩れ落ち、勝者はその場に佇んだ。
『OTSUKARE RYUSHI』
そんな文字がモニターに映されたような気がした。それは、幻だっただろうと思うけれど、幻だからって、現実じゃないなんて、誰が決めるんだろうかと思う――いや、こんなの無茶苦茶な論だってわかっちゃいるのだが。
それでも、僕は機龍の中に何かが棲んでいるのだと信じたい。
それが、例え想像上のものだとしても僕には確かな道しるべだから。
「お疲れ、機龍」
僕はモニターを撫でた……。
短めでございます。明日は長めに書こうかな~。感想をくれた方、ありがとうございます!