ロボコップを作った博士とヒロインの曖昧な関係


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pixivにupしているものを手直しと推敲を加えています。


ロボコップ デネット・ノートン

 デネット・ノートンは後悔してはいなかった、あの事件が終わった後、もしかしたらオムニコープ社の存続は難しく、自分はここから追い出されるかもしれない、いや、そうなっても当然だと思っていたのだ。 

 だが、世間は、それが、どんなに難しくて不可能に近いか知っていた。

 社長のレイモンドが退任し、新しいトップが決まるまでの間は大変だった。

 その後、驚いたことに政府はロボコップ、アレックス・マーフィのメンテナンスを直接、依頼してきた。

 簡単なことではないとわかったのだろう、それに、これはアレックス自身からの依頼でもあった、一度、裏切った自分を彼は憎んでいる、だから、もし今度、裏切ったら躊躇いなく銃を向けるだろう。 

 相手が無抵抗な人間でも、Redマークをつけていてもだ、ロボットだが、人としての感情と意識を持っているのだ、彼は。

 ノートンは自分に誓った、彼を二度と裏切らないと。

 

 

 「週末だよ、キム」

 助手のキムに声をかける、今日の彼女はいつもと違って朝からなんとなく落ち着かない様子だとかんじていたせいかもしれない。

「ありがとうございます、でもデートじゃないんです」

 誰もが、そんな風にいうんだよ、恋をしている最初の頃はとノートンは胸の中で小さく笑った、彼女は優秀な助手だ、しかもまじめすぎるくらいだ。

 その為か、多少、融通がきかないときがある、いや、これは欠点ではないかもしれない。

 だが、若い女性なのだ、たまに、週末ぐらいデートの予定があっても不思議はない。

 「今日は、これくらいにしよう、キム」

 アレックスのメンテナンスをすませて、今日の仕事は終わりだ。 

 

 外に出ると夜風が冷たく感じられた、時計を見ながら安心する、これなら十分、映画の開演には間に合う筈だ。

 最近、公開されたロボコップの映画は現在のオムニコープを舞台に作られたもので、社内でも観ている人間が大勢いた。

 強制されている訳ではないが、観ておいたほうがいいという空気が社内に漂っていた。

 正直、忙しくて映画館に行くなど遠慮したいところだ、だが、珍しい事に今回に限って連れがいた。

 

 待ち合わせの時間に遅れるのは珍しくなかった、ずっと昔、いや、若いときからだ、木を漬けているつもりなのだが。

 医者になって、オムニコープ社で働くようになってからとういうもの仕事は時間通りに始まり、終わるということがない、仕事に関するならまめに連絡をいれたりするが、それ以外のことになるとデネット・ノートンという人間は、てんで駄目だった。

 大事な約束、デートの待ち合わせを何度、キャンセルして相手を怒らせただろう。

 数え切れないほどだ。

 結婚した最初の頃、これで自分も研究所に寝泊まりすることもなく、人間らしい生活が送れるなどと甘い感傷に浸っていたこともあったが、それは意外にもあっけなく裏切られて、結婚生活はほどなくして破綻し終わりを迎えた。

 お互いが悪かったのか、自分があまりに至らなすぎたのか、彼女が愛したのは自分の仕事の代価、世間並み以上の給料と贅沢な暮らしだったのか。

 今となっては分からないし、知ったところでどうなる訳でもない。

 だが、そのことがあるから失敗は繰り返さないようにしようと思うのだ。

 けれど、そう思いながらも、人はどこかで過ちを繰り返すのだ。

 

 

 映画館の入り口では文庫本を片手に一人の女性が立っていた、東洋人なので目立つのか、男が熱心に話しかけている。 

 ベネットは近寄り声をかけた。 その様子に男は肩を竦めて立ち去った。

 

 「待ったかね」

 返事の代わりに女はにっこりと笑い切符を鞄から取り出した。

 「人気あるみたいです、博士」

 「だろうね、ネットでも噂になっている、ところで、その呼び方、博士というのは」

 「そうですね、すみません」

 謝る事はないと言いながら、さあと促すように映画館の中に入った。

 

 「仕事は慣れたかね」

 「まあまあというところでしょうか」

 曖昧な返事だった、自分の助手のキムの友人である女性と、何故、二人で映画に行く事になったのか、正直なところ、本当に不思議だった。 

 

 

 席に座るとコマーシャルが流れていた。

 アレックス・マーフィ、ロボコップである彼の活躍に世間が共感し、思うところがあったのか、最近になって自分の肉体を提供し、彼のようになりたいという人間、志願者が現れた。

 マーフィは体の殆どの機能を失ったことで新しく生まれ変わる必要があった。

 だが、志願してきた人間は五体満足だ、最初は矛盾を感じずにはいられなかった、だが、大きな理由がある。

 一つには警察の取り締まりが厳しくなってきたせいだ、そして犯罪者達が、対応した武器や道具を用意し始めたことだ。 

 半年前、体の殆がサイボーグ化された犯罪者が起こした事件が引き金だ、警察のロボット達は抵抗しない人間に銃を向けたり、危害を加えてはならない、ロボット法の大三原則があらかじめプログラムされているからだ。

 だが、犯罪者達にはそんな法則や決まりなど関係ない、くそくらえだ、自分達が助かり、逃げるためならお構いなしで、どんなことでもする。

 関係ない人間、子供や老人が巻き添えになるどころか、それを盾にして逃げようとするのだ。

 

 「この街の平和と安全を犯そうとする凶悪な犯罪者達は増えています、暴力と自由を野放しにさせることが何を意味するのか、自由と安心、平和な街を脅かす彼らの存在は」

 映画のスクリーンから流れてくる音楽と警官達の勇士、それが何を意図しているのか明かだ、あからさますぎないかとベネットは思った。

 自分は決して反対している訳ではない、だが、心から賛成しているとも言い切れない。 アレックス・マーフィの存在は犯罪者に、とって抑止力になっているのは確かだ。

 だが、犯罪を増長している部分もある、それが今の現状だ。

 

 ノートンはちらりと隣を見た、彼女の視線はスクリーンに視線が釘付けになっている、これを見てどう思っているのだろうか。

 

 「興味深い内容でしたね、」

 映画館を出ると感慨深そうに彼女が呟いた、思うところがあるのだろう、映画の中でオムニコープ社は間違いを犯したが、新しい再生に向けて歩き出しているという姿を、強くアピールしていた、それは悪い事ではない。

 いや、問題があるとするなら、今の犯罪者と彼らを取り巻く環境だ。

 「志願者が増えるでしょうか、他の国でも導入を考えているようです」

 「君の国、日本もだろう」

 「犯罪が増えてますから」

 それに関してはアレックス・マーフィ、ロボコップの存在がと言いかけてベネットは躊躇った、話題が暗くなってしまうと感じたからだ。

 勿論、大事な事には違いない、だが、その前に自分には話さなければいけない大事なことがあった。

 軽く息を吸い込んだ後、近くの公園を散歩を、少し歩かないかとベネットは誘った。

 

 

 「ミス・きざくら、私は君の直属の上司でもない、だから、こんな話をすることを不快だと思うなら聞き流してくれたらいいんだ、いいかね」

 前置きをして、決して君を非難している訳ではないのだと言いながらノートンはベンチに座った。

 「君はミス・クラインとは親しいようだ、とてもね、だが誰が見ているかわからない、特に社内では」

 彼女が自分の隣に腰掛けるが、顔を見ることはせず話し続けた。

 「彼女は顧問弁護士でレイモンドとも親しい関係だった、会社の為にはよくないことも、法の目をかいくぐって悪い事もだ、彼女が監獄行きにならないのはわかるかね」

 「博士」

 自分の口調は不自然ではないかと思いながら、君はバイセクシャルかねとノートンは尋ねた、ヨーロッパや北欧に比べて東洋やアジアには少ないと聞いてたからだ。

 「彼女は、ミス・クラインは頭がよくて、しっかりした頼れる人です」

 勿論だとベネットは頷いた。

 そうでなくては弁護士などという仕事は務まらない、女性となれば尚更だ、リズ・クラインは女性は権力志向が強く、男性顔負けで、しかも独身だ、いや、だからなのだろうか。

 「口を出すつもりはない、恋愛は自由だからね、ただ、誰が見ているかわからない、クラインは、彼女は敵も多い、たとえ、社内であってもだ」

 「すみません、もしかしてキムが」

 「彼女は友人として君を心配している、言い出しにくいようで私に相談してきた」

 すみません、静かな声に、自分が彼女に対して非道い事をしているような気分になった。

 

 

 数日前の対話を思い出す、頭脳明晰、切れ者と呼ばれるだけあって、リズ・クラインは回りくどい言い方はしなかった。

 「あなたに嫌がらせをしたかったの、ベネット・ノートン博士」

 それが最初の一言だった。

 しかも、最初の出だしはフルネームだ、視線と口調に冷たさと嫌みを感じるのは気のせいだろうか。 

 

 「ミス・クラインは社の為に今まで随分と貢献してきた、私はそれを知っているし、認めている、だが、正直、善人とはいいがたい、つまり、君自身が傷つく可能性もあって、キムは、そのことを」

 友人として心配しているのだと言いかけた言葉に何故か口ごもってしまい、どんな言い回しをすればいいのかと迷った。

 不意にノートンは黙り込んでしまった。

 まるで、患者に最後通告でもするような気分なのはどうしてなのか。

 それも希望を抱いている相手にだ、どうして、そんな気分になるのか。

 「私は君の上司ではない」

 自分が何を言おうとしているのか、わかるだろうか、落ち着けと言い聞かせ、ゆっくりと首を傾けて隣を見た。

 リズ・クラインには何も言い返せなかった、情けない事だが、今もだ。

 嫌がらせ、確かに、これは、それ以外のなにものでもない。

 金髪美女の高慢な勝ち誇った表情を思い出した、同時に別れた妻の顔もだ。

 二人が笑っているような気がした。

 「博士、気分でも」

 隣を見ると黒髪の女性が気遣うように少し不安げな表情で自分を見ている。

 「ミス、きざくら、私のことはデネットで、その、ここは職場ではないのだから」

 自分の言葉に不思議そうな顔をするが無理もない。

 口元に手を当てて落ち着くんだと自分に言い聞かせると同時にリズ・クラインの笑っている意味ありげな顔を思い出した。

 ノートンは軽い目眩を覚えた。

 

 確かに、これは嫌がらせだと。

 


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