連れの彼女は高級食材   作:今井舞馬

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訪問者

 それから程なくして、俺は死刑の宣告を下された。

 執行まであと3日か……。

結局、俺のしてきたことはすべて徒労に終わったということだ。

俺はやるせない気持ちで一杯になる。村のみんなに土下座して謝りたい。まあ謝ったところで村の運命は変わらないが。

ポタポタと、薄汚れた床に涙がこぼれ落ちる。

誰にアピールしているわけでもない、本音の涙だった。

村での思い出が脳裏に浮かんでは消えてゆく。

「ごめんよ……俺はもう無理だ……無理なんだよ……」

 俺はこびるように呟く。しかし、村のだれにもその嘆きは届くことはない。俺はただひたすらみじめだった。

 たった一匹のエルフの為にすべてを失った。

 もう、何も考える気力は残っていなかった。

 力なくズルズルと、壁に沿ってへたり込む。後は死刑執行を待つだけだ。無気力に、時だけが過ぎていく。

 一日に一度、最低ランクのエルフ肉が与えられる。見たくもない忌々しい品だったが、いざ口にするとおいしく感じてしまう自分が実に情けなかった。

 

 執行日の朝。

 

前日にふるまわれたタバコを噛みしめるようにふかしながら、俺は静かにその時を待っていた。

 煙を孕んだ息を吐く度に、何故だか落ち着きは薄れていく。

 あと何本、あと何本吸えば、その時は訪れるのだろうか。

 優しいことに看守は2ダースもタバコをくれたが、そんなに吸い切れる気がしない。

 生と死の境目のタバコは、何本目だ?

 カツカツと、階段を下る音が聞こえる。

 遂にやって来たか……。

 タバコの煙が不規則にゆらめく。狭い牢の中に逃げ場はない。

 俺、マジで死ぬの? イヤだ! イヤだよ! なんで俺なんだよ、他に殺す奴なんていっぱいいるだろ、リリアとか、リリアとか、あとリリアとかぁっ。

俺は人間だぞ!! 猿やエルフみたいな下等種とは違う!

「違うんだよぉ……。エルフとはッ! 格も! 価値も! そうだろ? なぁッ」

 俺はガンガンと、冷たい鉄格子を拳で叩いた。返事はない。鈍い痛みだけが悲しく俺の手の甲を伝う。

 やがて、足音は俺の檻の前で止まった。

「俺は……死ぬのか……」

 拳を床に叩きつけ、うつむきながら俺はボソリと呟く。

「何よ? 死にたくなったの? 自殺願望? なら手伝ってあげるけど?」

! その生意気な声、ロメリか?

 俺は吸い上げられるように頭をあげ、視界を広げる。

 金髪、紅眼、ツインテール、貧乳。リリアとはまるで真逆の少女。不遜な佇まいが様になっている、ロメリだ。

「ロメリィ、会いたかったぜ! けど、何でここに」

 嬉しさのあまり興奮を隠しきれないが、同時に疑問もわいてくる。

「しっ! 静かにしてよ、ほら早く出て」

 ロメリは施錠された鉄格子の扉を開け放つと、くいくいと俺を手招きした。

 やばい、天使だ。

「助けに来てくれたのか!? わざわざ俺の為に。お前は本当にいいやつだな」

 死の恐怖から解放された安堵で顔をもろもろにさせながら、俺はロメリに感謝の意を伝えようとする。

「は、はぁ? べ、別にあんたの為じゃない、私が助かるためにしてあげただけなんだから! 勘違いしないでよねっ!」

 ロメリは顔を赤らめて反論する。全く、素直じゃないなぁ。

「でもどうして助けにこれたんだ?」

 ロメリだって追われる立場のハズだ。何故ロメリは捕まらず、逆に俺を助け出すなんて芸当ができたのだろうか。

「はぁ……。ホント馬鹿ね、ちょっとは自分が置かれた状況を考えて見なさいよ」

 俺には全く理解できない。見かねたロメリが説明を始める。

「いい? そもそもアンタがエルフの密猟をしているのはどうして?」

「……養殖場を建てるためだ」

 俺は数秒考えたのち、答える。それが、ロメリの行動と何が関係あるのだろうか?

「そうじゃないわよ、もっと根本的な原因のことを訊いてるの!」

 言うロメリは実にもどかしそうだ。

「それは……肉が配給されなくなったから?」

「そうよ、それが原因でしょ、国が肉を渋って配給を止めた。村単位で肉を配給するのは義務のハズよ、国はそれを怠った。法律違反よ。だったらそれは裁判所に訴えれるようなネタにならない?」

 なるほど、確かに裁判所なら国を裁ける、だが……。

「そうしたら、俺たちもヤバくないか?国のせいでこうなったとはいえ、俺は密猟をしてるわけだし、そもそもお前はそんな事情もない、ただの犯罪者だ」

「そう、だから裁判所には行かない。国を直接おどせばいいわ。私のパパは畜産省の大臣だから、権力もあるし、簡単な仕事だったわよ」

「でも、証拠はあるのか?」

そうだ、証拠が無ければ、ロメリの父親がどんなに偉かろうが「ご冗談を」、と一蹴されるのがオチだ。

国だってそんな権力者に弱みを握られたくはない。当然だ。

「証拠なんて幾らでもあるじゃない。アンタの村にそこらじゅう転がっている死体よ。みんなもれなくビオロシンの不摂取で死んでいたわ。体に紫色の斑点が浮き上がっていたから一目瞭然ね」

 ……今、何て言ったコイツ。死体が転がっている?ビオロシンの不摂取?

 村にはまだ一か月分の備蓄肉があるはずではなかったのか?

「おい……ロメリ……村のみんなは、死んだのか?」

 俺は悲痛に満ちた表情でロメリを見つめる。

 それを見て、ロメリは少しばかり驚くと、申し訳なさそうな顔になった。

「そ、そう、知らなかったの……それは悪いことをしたわね。でも、そうよ、一人残らずみんな死んでいたわ。本当は備蓄肉なんて無かったのね、あんたを心配させないように村の人がついた優しいウソよ」

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