しばし沈黙が流れる。ロメリは気まずそうに口を開き、また話し始める。
「……だから、証拠には困らなかったの。それで、私たちの悪事を免罪にさせたってわけ。
それにね……村の人間が死んでいなかったらアンタは助からなかった。皮肉なものね」
ロメリは物憂げにつぶやく。
「……国は、俺が裁判所に訴えるとは思わなかったのか? 俺が、密猟をせずに、国の不正を糾弾するとは考えなかったのか?」
俺は声に憤りをあらわにする。正当な手段ではなく、密猟によって村を守ろうと考えてしまった自分に対しての怒りだ。
エルフを狩り続ければ、あわよくば裕福な暮らしができると高望みしてしまった己の強欲に対しての怒りだ。
初めからこうしていれば……村を守れたかもしれないのにっ……。
「パパから聞いた話なんだけどね、5年前、帝国がアンタの村を調査した時、村の戸籍は老人と、生まれたての赤子しかいないことになっていたのよ。でも実際にはアンタがいた、調査ミスね。だから国は配給打ち切りを決行したのよ。5歳児の子供が国の不正を暴けるわけないし、他はろくに動けない老人だけだったからね」
情けない話だ、俺はもう20歳にもなるというのに。行動を起こせなければ所詮5歳児と変わらないではないか。
俺は愚鈍な己の存在を呪わずにはいられなかった。
しかし、疑問なのは、俺が生まれた時にはまだ、俺の家族が村にいたはずだということだ。母はその後すぐ死んでしまったが、それもカウントされなかったのだろうか?
まぁ、ずさんな帝国の戸籍調査など、あてにならないのも当たり前か……。
俺はそう思い直すことにした。
斯くして、俺は牢獄を脱した。手枷を外され、解放されたというのに、途方もない閉塞感と、締め付けられるような感覚が、俺の体を支配していた。
俺はこの新たな枷と共に生涯歩んでいかなければならないのだろうか? 先を歩くロメリの背中に答えは書いていなかった。
「おーい、ロメリ、ツヴァイの嫁が産気づいた」
俺は妊娠したエルフの腕を柱に括り付け、暴れないように固定させる。
垂れてきた裾をまくりあげ、額の汗をぬぐった。
産湯に使う水を汲もうと外に出ると、容赦ない日差しが俺の背中を炙ってゆく。
疎らに点在する雲は、陽を隠す役割を果たさず、力なく流れてゆくばかりだ。
俺は手で即席の日傘を作ると、忌々しげに空を仰いだ。
ここに来てもう1年になる。
出所したあの日、ロメリは行く当てのない俺を家に迎えてくれた。
こき使える下っ端が一人増えた、などとロメリは言っていたが、実際は俺の身を案じてくれていたのだろう。全くロメリは本当に素直じゃない。だが、ロメリさまさまだ。
「産気づいたのはどの子って? て言うか、つがいのことを嫁とか婿とか呼ぶの止めなさいよ、気ち悪い」
ロメリは足早にこちらに歩み寄ると、俺を睥睨し、一通り罵声を浴びせてから建物の中へと入って行った。
まぁ、これがロメリだ、しょうがない。俺は軽めに諦めのため息をつく。
するとロメリが、唐突に建物の中から顔を覗かせると、
「そうだ、もう産湯は私がやっといてあげるから、あんたは離れの屠殺場に行ってきてくれないかしら。罪付きの殺処分を依頼されたのよ。じゃ、お願い」
思い出したようにそう言うと、俺の返事も待たずに、再び顔を引っ込めた。
屠殺場には、ジミーと言う気さくな老人がいる。
昔は帝国の騎士だったらしく、老人に似合わず重量感のある頑丈な体格をしているが、お喋りなもんだから少々違和感がある。だが、その分会話が弾むので俺はジミーが好きだ。
屠殺の手伝いは初めてではないので、特に嫌がる理由もない。俺は足取り軽く屠殺場に向かった。