ここの屠殺場は家のような作りになっている。屠殺場が一般的にそうなのではなく、ジミーの個人的な趣味だ。
俺はジミーハウスと銘打たれた看板を上目に、ハウスの玄関に立った。
赤、白、黄色の三色で彩られた派手な外装も、看板の上で不敵な笑みを浮かべるドでかいピエロの作り物も、とても趣味がいいとは言えない。
こんなファンキーな館で、日夜エルフの殺戮が行われていると思うと、もはや恐怖すら感じる。
屠殺を行う庭部からは、定期的にズビィン ズビィンという重々しい音が響いてくる。
エルフは寝かしつけられているからいいものの、屠殺されるエルフの悲鳴まで聞こえてきたら、もうたまったものではないだろう。「ジミー、手伝いに来たぞ!」
庭で仕事をしているジミーにも聞こえるように、俺は大声で叫ぶ。
すると、定期的に聞こえていたズビィンという音が止まり、続いてドタドタという足音がジミーハウスの床を鳴らした。
ガチャリとドアが開くと、血まみれの老人が笑顔で前に現れた。
……これはホラーだ。小心な客なら錯乱して逃げ帰ってしまうだろう。
「お、レイ坊やん、よう来たな~。さ、はよ入り。茶ぁ、出したるわ」
ジミーはボフボフと俺の背中を叩くと、俺を客間に案内してくれた。
「……あのさ、今日は一応手伝いってことで来てるんだけど……」
俺は客間のソファーに腰かけながら、苦笑いを浮かべる。
テーブルの上では、大量のお菓子と淹れたての紅茶が、俺の賞味を待っていた。
……こんなにもてなされても困る。というよりは、こんな所でもてなされても困る、といった方が正しいだろう。
客間からは庭や、その奥に見える草原が一望できる訳で、それはつまり、エルフの屠殺がガラス越しに鑑賞できるという訳だ。
エルフの首が跳ぶところを眺めながら、優雅にティータイムを楽しむなんてことができる筈もなく、故に、ジミーのせっかくのおもてなしを無下にも出来ない俺にとって、このジレンマは拷問にも等しいという訳だ。
何とかして手伝えるような流れにしないといけない。
「今日はさ、罪付きの処分をするんだって?」
俺は台所で包丁を研いでいるジミーに話しかける。
もちろん研いでいる包丁は屠殺包丁だ。台所でやっているというのが笑えない。食われたりしないよね? 大丈夫だよね?
「せやねん、ホラ見てみ、よ~さんおるやろ、あれみんなエルフやで」
ジミーはそう言って庭に所狭しと並んでいるエルフたちを指さす。
ぶくぶくに肥えた養殖エルフとは違い、罪付きのエルフたちは痩せている個体が多く、絵面的には養殖場よりはましだ。
それに、養殖場のエルフは雄雌問わず全裸だが、処分される罪付きたちは申し訳程度に麻の布が被せられている。
「でもさ、屠殺場は畜殺が仕事だろ?食用じゃない罪付きの処分なんてどうしてやってるんだ?」
エルフの屠殺人は、ブリーダーや養殖場経営者などには及ばないものの、高給で、金には困らないはずだ。
わざわざエルフ収容所の仕事をジミーが請け負う必要なんてない。それとも、エルフ収容所の人間はそんなに人手不足なのだろうか?
「あんな、収容所の連中は人やないで。苦しんでるエルフをボコボコにしてな、飽きたら殺すねん。顔なんて膨れ上がって目も見えんようになっとった。あれは闇やでー。人間のやることとちゃう、エルフだって生きとんのや、あんなひどいことよう出来んわ」
ジミーは、怒りと悲しみが入り混じった表情でしんみりと語る。
「せやから、せめて苦しまんように、楽に死なせたろ思てな、ここで処分を請け負うことにしたんや」
行為の対象が人間ではなくエルフなので、変な奴ら程度の認識で特に気に掛けたことはなかったが……、そうか、ジミーにはそれが道徳的にも許されないことだと感じたらしい。
エルフの生殺に携わってきたジミーだからこそ、思うところもあるのだろう。俺のような一般的考え方の人間にはよく分からないが。
「エルフのおかげで俺たちは生きられている。感謝の気持ちを忘れてはいけないよな」
確かに子供の頃、俺もそう教えられた記憶がある。だが、そんなことを言い出したら養殖というシステムは非常にエルフに対して思いやりに欠ける不遜なものにならないだろうか。
感謝を忘れないように、などというのは、所詮、人間の残酷な行為から罪の意識を誤魔化すための文句に過ぎない。
そんなにエルフが可哀想なら食べなければ良いじゃないか。収容所での暴力行為より、殺して食べる方がもっと酷くないだろうか? でも、食べ続ける。口では何と言おうと食べねば死ぬから。
結局人間は自分本位にしか物事を考えることができない。なら、下手に人格者を気取るなよ、素で行こうじゃないか。あくまで捕食者は人間、エルフは家畜。家畜を家畜みたいな扱いして何が悪いんだ? どうせ最後は殺して食うというのに。
俺はそう思う。だが、今はジミーに同調するしかない、取り敢えずステレオタイプな言葉で話を繋ぐことにした。