連れの彼女は高級食材   作:今井舞馬

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殺処分エルフA

「そうか。レイ坊はよう分かっとるやないか。ほんま、偉い子やな~」

 うんうん、とジミーは満足げに頷く。

 偉い子、か……。エルフを尊ぶ素振りをすればそれは偉いのだろうか。

 俺は本心を笑顔で隠して返事をすると、紅茶を一気に飲み干した。

 結局、屠殺の手伝いはさせてもらえることになった。

 まあ、ジミーも俺の手伝いを咎めていた訳ではない。快く了承してくれた。

 庭に出て、ジミーから屠殺包丁を受け取る。

「ほれ、何でも経験や、こっちおいで」

 20匹近く並んでいるエルフの右端の個体の首にジミーは包丁をあてがう。どうやらレクチャーしてくれるらしい。屠殺を経験するのは初めてではないのだが、どうやら忘れているようだ。

 やれやれと、俺は手を振って、ジミーの方へと走り寄る。

 すると、視界の隅を、何やら見覚えのあるものが捉えた。右から数えて14匹目のエルフ。俺は慌てて走り寄る。

 汚れてはいるものの、光沢のある綺麗な髪の毛と、透き通るような白い肌、そしてこの可愛らしい寝顔は……リリアだ。

「おい、ジミー。この子は! この子はどうしてここに?」

 俺は鬼気迫る勢いで、ジミーに問う。

「え? 何、何? どないしたん?」

 ジミーも突然の俺の大声に困惑気味だ。

「この子だよ! こいつはリリアっていうんだ。一年前、俺はこいつに捕まった。密猟監視官だっんだよ、エルフのくせにな! 

 ジミーはどれどれと、リリアを眺めると、何かを思い出したように、手のひらを打つと、

「ああ! その子か、その子はなぁ~、アレや、二重スパイか何かやってん、どんな方法で監視官になったんかは知らんけど、国の情報をエルフ側に横流ししてたらしいで」

 二重スパイだと!? 一体何がどうなっている? くそ、ともかくこいつに訊いてみないことには……。

「なぁ、ジミー、俺はちょっとこいつに話があるんだ、起こしても問題ないか?」

 真剣な表情でジミーを見つめる。ジミーは弱ったな、という顔をして目を逸らした。

「え~、あ~、う~ん、まぁ、ええけど、もうあんまり時間ないで? そろそろ来んねん、役所の兄ちゃんがな、ちゃんと処分してるか確認せなあかんねんて」

 充分だ、と俺は頷いて応えると、リリアを起こしにかかった。

 屠殺されるエルフ達は、ジミーの意向で眠らされている。他のエルフの首を落とす音などで、目を覚ましてしまわないように、並大抵のことでは起きないようになっていた。

 俺がリリアの頬をぺちぺちと叩いた程度では、とてもじゃないが意識は戻らない。

「おい、ジミー! どうやって起こせばいいんだ!?」

 俺は声を荒げて言う。

「キスでもしたら、ええんちゃう?」

 ジミーは下唇を突き出し、おどけた調子で言う。

「茶化すなよ、真面目に答えろ」

 次第に己の声に怒気が籠もる。

 ジミーも流石にまずいと思ったのか、真顔に戻る。

「……あんなぁ、あんま起こしたくないねん。恐怖に怯えながら死ぬなんて、可哀想やん、眠ったま殺したるのが優しさってもんやで―、ほんまに」

 ジミーは悲しそうに呟く。

 だが、俺はそんなジミーの嫌そうな態度も無視し、ただジミーを睨み続ける。

「ふっ、も~、そんな恐い目で見んといてぇや。レイ坊モテへんぞ~、……まぁええわ、ワシの負け負け、ほい」

 そう言って、ジミーが渡してきたのは”炭酸アンモニウム”とラベルが貼られた小瓶だった。少し嗅がせるだけでガッツリ意識が戻ってくるのだという。

 早速、俺はキュポンと蓋を外すと、リリアの鼻元に持ってくる。

「ヴゲェッ、ボォ、エェッホ、ケヘケヘェ」

 この世のものとは思えないような声を上げながらリリアはようやく目を覚ました。

「うう……。何……コレ」

 まだ状況が読み込めていないようだ。先程の刺激に目に涙を溜めながら戸惑っている。

「やあ、久し振りだね、リリアちゃん」

 俺は険しかった表情を緩め、軽く笑む。

「え? レイ君? なんで?」

「何でだと思う~?」

 俺はわざとらしく問い返してみる。その一言でようやく状況が見えてきたようだった。

「私のピンチを悟って駆け付けてくれたんだよね」

 軽口を叩く余裕はあるようだ、いや、無いからこそなのか。

「俺は屠殺の手伝いに来ただけだ」

「そっか……、そうだよね。……私、捕まっちゃったんだ……」

 リリアは自分に言い聞かせるように呟く。

 悔しそうで切ない、そんな雰囲気をリリアは纏っていた。

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