連れの彼女は高級食材   作:今井舞馬

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嘆き

「なあ、教えてくれリリア。どうしてお前は二重スパイのようなマネしていたんだ? 人間に逆らうようなマネをさ」

 俺はその場に腰をおろすと、あぐらをかいて膝の上に頬杖をついた。

 自然と視線が重なる。彼女の青い瞳に何が映っているのか、俺には分からない。単なる人間としての俺なのか、レイ・フリークス個人としてか、あるいは……。

「人間に逆らう? あはは、レイ君は面白いこと言うね。別にエルフが人間に逆らったわけじゃないよ」

「はぁ? 現にお前は反逆罪で囚われの身、もうすぐ処分されるじゃないか」

 まったく何を言っているのだろう。

「違うよ、だって、人間がエルフに逆らっているんだからさ」

 なんと! その発想は無かった。確かにものは言い様だ。リリアは言い訳の天才かも知れない。

「お前こそ面白いな、よく言うよ、支配されてる分際でさ」

 所詮エルフの戯れ言だ。だが、そう分かってはいても、何故だか胸糞が悪かった。

「いつか人間の圧政が終わる日が来るよ。私はそのために背中に焼き印を打たれてまで人間の飼い犬なったんだから!」

 はぁ、いつになっても人間に反抗するエルフは絶えはしない。数も少なく、力も弱く、絶滅しかねないから、保護・養殖までされている存在なのだ。そんな存在であり、散発的な抵抗しか出来ない立場で何を言うか。エルフが何を言おうと何の脅威ともならない。

 しかし、そう言えばそうだ、リリアの背中には鉄の棒を押し付けられたような痕があった。あれ密猟監視官になるため、忠誠の証として押されたものだったのか。成程、本来なら人間に寝返ったエルフなど、エルフ側は再び受け入れてくれはしないだろう。だから、リリアには寝返った決定的証拠を残す必要があったという訳だ。

 まあ、二重スパイであるリリアにはあまり意味がなかったが。

 しかし、リリアもよく考えたものだ、確かに密猟監視官になれば、森の中と都市部を頻繁に往復することができる。それはつまり、情報をエルフの里に届ける好機が増えるということだ。二人組で行動していると言っても、そいつは何らかの方法で買収してしまえば良い。

 さらに密猟はエルフ側にとっても困る案件だ。それを監視できるという面でもこの職の役割は大きい。焼き印を打たれてでもなる価値はある。人間側がリリアを雇った意図としては、エルフなので密猟者に警戒されにくい、もしくは、釣られるということや、高給取りな密猟監視官の人件費削減(タダ働き)、万が一失態を演じてしまった時の責任逃れなどの用途にも利用できる、そんなところだろう。

 だが、リリアの方が一枚上手に立ち回っていたという訳か。全くもって小賢しい。

「そうか、そんな日が訪れるといいな。しかし、何でお前は捕まったんだ? 今まで上手く遣り繰していたんだろう?」

 激昂するリリアに釣られることもなく、冷静に俺は質問を続ける。

「……そう、密猟監視官なれてリリアもウハウハだったんだだけどね。レイ君のせいだよ、レイ君いたから私は責任を押し付けられちゃったんだから」

 リリアの言うことには、つまり、俺が捕まったまでは良かったが、国の弱みをロメリに突かれるは思っていなかった。だから、そのはけ口がリリアに回ってきた、ということらしい。ロメリの存在は誤算だったのだ。

 まあ、それもそうだ、ロメリが取り計らってくれなければ、今頃俺は予定通り死んでいただろう。そう思うと俺は染み渡るような生の実感を覚えずにはいられなかった。

「フン、そういうことだったのか。分かった。もういいや、じゃあな、リリアちゃん」

 そう言って、俺はジミーにOKの合図を出すときびすを返そうとした。

「待ってよ!」

 ふいに、俺の服が引っ張られ、少しバランスを崩す。振り向いて目をやると、リリアは両手を縛れたまま、俺の服をつまんでいた。

 ふと、一年前の記憶が脳裏で重なる。揚げパンが食べたい! しょうがないな……        

おいしいか? うんもいひい。

 服を引かれ、かすかに首元が締まる、あの感覚だ。何かしらもどかしい感情がこみ上げてきた。これは何だ?

「おい、まだ俺になんかあんのかよ」

 俺はほのかな邪念すらも振り払おうと、荒々しく声を立てる。

「……ねぇ、私、死んじゃうの?」

 リリアの目尻にぷっくらと浮かぶ水溜まりは、先ほどの気付け薬の残滓ではなさそうだ。

「そりゃあな。そういう運命だ」

 俺は苦い顔でそう告げる。そんな顔されたら心が痛んでしょうがない。 

「私ね、今まで生きてきて良かったことなんてなかった。エルフだってだけでいじめられて、貶さて、迫害を受けて、エルフの密猟監視官だってバカにされて! でも生きてた、耐えて耐えて情報送り続けて、いつか報われるって、きっと信じてっ!」

 言葉に感情が灯る度に、俺の服を引く手にも力が籠る。

「それなのにぃっ、もう終わり? こんなに抗ってきたのに、もう終わりなのぉっ! いやだよ、生きたいよ、まだ、いっぱいやりたいこと、あるんだからあっ!」

 だが俺は後ろを振り返らない、ただひたすら背を向けて、リリアの慟哭を聴いていた。

 もうええか~、とジミーの急かす声が聞こえる。エルフ語の分からないジミーには、俺たちの会話が理解できない。

 エルフが喚いているようにしか……いや、俺がいじめているようにも見えるかも知れない。

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