真相 序1
「そして俺は、この後まもなくロメリと結婚し、今に至るという訳だ」
俺は長々しい自らの過去話をそう言って締めくくった。
アインは俺の話を終始真剣に聴いていてくれた。ただ、その顔が不機嫌そうにも見えたことに、一抹のわだかまりが残った。
「そうかい、じゃあ今もエルフの養殖を続けてるってぇことか?」
アインは俺の目を見据えて俺に問いかける。
何故だか俺は、尋問される容疑者になっているかのような錯覚に陥った。
「ああ、そうだな」
目を細めて笑顔を繕いながらも、アインの眼底に潜む凍て付くような眼差しに恐怖を覚えずにはいられなかった。
俺は反射的に視線を逸らす。
「な、なあ、アイン。そろそろ店を出ないか?」
俺はこの変な気まずさを何とか紛らわそうと、親指でクイクイと出口を指した。
「……あぁ」
アインは何か別のことを考えているような、無意識な返事をする。腹の底から湧き上がるような高揚と緊張を俺はわずかに感じた。それは次第に違和感となって俺を包む。
逃げ出すように開け放った店の扉は重々しくギィギィと音を立てた。
外に出ると肌寒い空気が頬を叩いた。あれだけうるさかった夜の喧騒も、いつの間にか消え、普段通りの冷たい雰囲気が街全体を支配していた。
闇夜を照らす明かりは、疎らに点在する街灯と、一番閉店の遅い先程の酒場の灯し火だけだ。
ふっと悪寒が走った。外気温とは裏腹に汗は留まる所を知らず、背中を、頭を、首元をじわじわと濡らしていった。
ドスッと鈍い音が響いた。異物が侵入する不快な違和感と共に、神経を抉るような痛みが全身を巡っていく。背中を濡らす液体は、今度は汗ではなさそうだ。
「ぐぅ、あっ、はぁぁ、あ」
体を無理に捩り、後ろを振り返る。
そこには、至極無表情のまま、ナイフを前に突き出しているアインの姿があった。
「く…そ、アイン、てめー」
プルプルと痛みで震えながら、精いっぱいの怒りを宿した眼差しで、俺はアインを睨む。
アインは動じないどころか、今度は、空いた左手で首を絞めてきた。……ぼうっと、する。クソ、意識が……、ああ、死んだ……。薄れゆく意識の中で俺の目が最後に捉えたのは、冷ややかに笑うアインの憎たらしい表情だった。
「おい! 早く来るんだ! お前は仕事をしなくてはならない」
男は幼い少女の手を引くと、靄の中に連れていった。
「嫌! 放して、お父さん! 私……ここにいたいよ! 助けて!」
俺は少女を助けるべく猛然と走り出す。
「そいつを! 放せよ!」
男は少女を連れて悠々と歩いてゆく。手を引かれながら少女は寂しげな顔でこちらを見詰める。どうしようもできない諦めが入り混じった、でも少しだけ助けをまだ求めているような、そんな複雑な顔だった。
二人はゆっくりと歩きながら白みがかった靄の中へと消えていく。どんなに走っても決して追いくことができない、どうしようもない無力感に俺はついに足を止めた。
いや、もし俺が足を止めなければ、追いつけたかも知れないのに。