少し間が空いてアインがドカドカと小屋の中に入ってきた。
「レイよォ、幼い少年をあんまいじめるもんじゃねぇぜぇ」
アインはいつものノリで、白々しく俺にそう話しかけてきた。
「オィ! ふざけんなよテメー! どういうことだ、これはッ? 早く出せ、コラ、オイ人権の侵害だッ、絶対訴えてやるからな!」
俺は二日間も留めに留めた憤慨を、ここぞとばかりに喚き散らす。
「ダハハハァ、人権だぁ、笑わせてくれるなよ、レイ君。じゃあよォ、お前が今まで養殖してきたエルフ達は、一体何権を侵害されていたのかなァ?」
アインは豪快に笑いながら俺に問い返す。目は笑っていない。
「あぁ? あいつらだって人間様の役に立てて死ねるんだから本望だろうよ! 僕の肉、食べてくれてありがとう、って言ってるよ! きっとな!」
俺も負けじと言い返す。MAXになった怒りのボルテージが俺の言動を加速させていく。
「そもそもお前は何なんだよ、いきなりこんな仕打ちをしやがって、ふざけんのも大概にしろよ、お前一体何もんだ?」
するとアインは不敵な笑みを浮かべると、
「俺が何もんか? ハハァそりゃないぜ、レイ君。あんたが俺の名前、付けてくれたんだろォ?」
何を言っている? 俺が名付けた? 俺とコイツが出会った時にはもう、コイツにはアインという名前が付いていたじゃないか。
「馬鹿を言うな、俺は誰かの名前を付けたことなど……」
そこで俺は少し違和感に気付く。名付け……どこかで……あ!
「お前……まさか……」
「そう、そのまさかだよ。アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーア……全部お前が名付けてくれたんじゃねーかよォ」
確かに俺は昔、養殖場の種エルフに名前を付けて遊んでいた。だが、まさか養殖エルフが市井に紛れているとは思うまい。
「そうさぁ、俺はロメリの養殖場で養殖されていたエルフ、整理番号«01»番だよォ、まァ、正確には種付け用だったがなァ」
そう言ってアインは身に着けていた作業服の袖を肩まで捲る。すると、01と打たれた烙印の痕があらわになる。熱で変色した肉の隆起が、痛々しさを主張していた。
続いて、アインは首元まで伸びた癖のある金髪を両手で持ち上げる。するとそれまで隠れていた耳が俺の目に映る。その耳は、エルフ以外にはあり得ない耳だ。再び怒りが込み上げてくる。
「ふっざけんなッ! じゃあテメェはエルフの分際で俺を騙してたってことかよ! 死ね、クソが! 何調子こいて人間様とちゃっかり会話しちゃってる訳? テメェはおとなしく養殖場で雌とパコついてりゃぁいーんだよ! アア? オイ!」
激しく体を動かし、全身で憤りを表現する度、それに合わせて鎖をガチャガチャと音を立てて揺れる。俺の生命がアインに握られている証拠だ。喚けばそれだけ虚しくなる。だが、それ以上に今は怒りが勝っていた。
「あぁ、そォかい、人間様に逆らってそりゃあ悪うござんした、だがよォ、それならお前に謝る道理はねェぜ? だってよォ、お前はそもそも人間じゃねェんだからなぁ!」
そう言ってアインはガハハァと笑う。