アインが言うには、つまりこういうことらしい。
ハーフエルフの成長スピードはエルフと同じで人間の約四倍だ。ということは、実際の一年の四分の一の日数を一年だと教え込めば、表面上は人間と同じペースで歳を取っているように見せかけることが可能だ。
「じゃあ、何故村人たちはそこまでして俺を人間だと思い込ませようとしたんだ?」
「本当おめぇは馬鹿だな、ハーフエルフがどんな扱いを受けてるのか知らねぇのか? エルフの血が人間の血が混ざりゃあよォ、両サイドから迫害を受けることなんざ自明の理だろうが。
エルフの肉を食べさせ、エルフを家畜と見なす価値観を教え込んでまで、お前を人間として育て上げたのは、お前を愛していたからに決まってるだろうが! 村の老人はお前が可愛くて可愛くて仕方なかったんだろうよ! ハーフエルフとして一生惨めに暮らさせるなんて、とてもじゃねえが出来ないだろうさ」
うそだよ。村のみんなは俺にウソついてたってこと? そんなアホなァァ。俺は人間だろ? 汚らわしいエルフの血なんて混じってないだろォー。……いや、待てよ、アインが出まかせを言っているだけかも知れない。諦めるのは早過ぎる。惑わされるな!
「でも、それじゃあ、証拠としては不十分過ぎるだろ? 確かに俺は一年が三か月だって教えられたさ。でもエルフは嘘つきだってことも教えられた。一年が十二か月だってことも、そもそも俺がハーフエルフかどうかだって、お前が出まかせを言っているだけかも知れないじゃないか!」
耳は長くも尖ってもいない。眼の色だって普通に黒だ。大丈夫。俺は人間だ。
「ふん、そうか。ところでよォ、お前、腹減ってねぇか?」
何の脈絡もなく、アインは話題を切り換える。言い返せなくなったようだ。俺はニヤリとわずかにほくそ笑んだ。
だが確かに、俺はもう二日間も飲まず食わずだ。このままでは身が持たない。アインは俺を餓死せるつもりなのだろうか?
「そうだな、確かに腹はペコペコだよ、ようやく何か食わしてくれる気になったのか?」
俺はすました顔で言う。さっきは少しだけ動揺してしまったが、所詮エルフの浅知恵などこの程度だ。戻ってきた余裕が表情に出る。
「そうだよなァ、腹減ってるよなァ。二日間何も食っていないんだからなァ」
アインは、同情を寄せるようにうんうんと頷く。何か含みのある言い方だ。一体それがどうかしたのだろうか?
するとアインは突然目を見開いて驚いたような顔をすると、わざとらしく「あれぇ?」という素っ頓狂な声を上げた。
「じゃあよォ、じゃあよォ、何でお前は生きているんだ? あれれぇ? おかしいよなァ、人間は1日107g以上のエルフの肉を食わなきゃ生きていけねぇんじゃなかったのかァ?」
ア、……。一瞬、俺の思考が停止した。すべてを知られてしまったような気分だった。心の奥の秘密まで何もかもこじ開けられてしまったような。眼前の景色が白に帰ってゆく。意識が朦朧とする。
ナゼ、オマエハイキテイル?
それは、人間では、ないから。
いくら否定をしようと試みても、自らがそれを証明してしまっている。
俺は丸二日間も、エルフの肉を食わずに生存した。生きてしまった。
「うぅ、あぁぅ、あぁ、……うそだあぁぁ……」
先程の虚勢も醜くすべて消え去り、後には全裸ですすり泣くハーフエルフの雄だけが残った。ちなみに、アインに刺された傷が治っていたのはハーフエルフの治癒力によるものらしい。
アインはいつから取ってきていたのか、木の丸椅子に腰かけ、俺の姿を鑑賞している。
見世物にでもなった気分だ。いや、実際そうなのかも知れない。
「くそ、こんなことになったのも、全部リリアのせいだ。あのアマさえいなけりゃ、俺はもっと順風満帆な人生を謳歌できていたのにィ」
俺はついに責任転嫁をし始めた。もうそうでもしなければ、惨め過ぎてやってられなかった。リリアよりも本当は自分が憎かった。