こんなみっともない俺をアインはどうせ笑って……パァン。叩かれた。
アインは先程までの侮蔑的な表情から打って変わって、怒りと悲しみを孕んだ真剣な眼差しで俺のことを睨んだ。
「おい、レイ。それだけはマジで洒落になんねぇぞ。いくら現実から目を逸らそうと、それだけは俺が許さねぇ」
もう、ダァとか、よぉとかアインは言っていなかった。ただでさえ惨めな気分だったのに余計に情けない気分になる。
叩かれた頬が熱を帯びてジンジンと痛んだ。
「なんだってんだよぅ。あ、あんだけおれのことばかにしてぇ、こんどはぼーりょくかよぉっ! ズズッ……死ねよぉぅ……ううぅ」
俺は涙で歪む視界をぐりぐりと擦りながら、しねしねと連呼する、さながら幼児のように、喚き泣き散らす。
「なあ、レイ、お前、曲がりなりにも一緒に旅してきたんだろ? リリアに森で会って、カラトスの街に着くまで、片時も離れずに行動していたじゃないか。なら、何故お前は気付かない? リリアに会ってからリリアはお前のことを何と呼んでいた? 命果てようとするまさにその時、お前のことを何と呼だんだ! 答えろ、レイッッッ!!」
俺は何がどうだか分からないまま、リリアと会った日の記憶をもう一度呼び起こす。リリアが俺を何と呼んだ?
あのね、パパとママが見当たらないの、お兄ちゃん、知らない?
お、お兄ちゃんはデリカシーがないね。
お兄ちゃん、あったかい。
リリア、もう大丈夫だから、お兄ちゃんは、い……
お兄ちゃん。お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、あれぇ?
「リリアは、お前の妹だ」
アインは、ただ、呟くようにそう言った。
「違う」
まず俺の口をついて出てきたのはその言葉だった。
「違う、違う違う、違う違う違う違う違うッ! だって、あいつは密猟監視官で、俺を騙して貶めてそれで俺は処刑されそうになって、それなのにあいつが俺の妹な訳ねぇーだろっ!」
「密猟監視官は密猟者を逮捕したりなどしない。その場で殺すのが規則だ。だがお前は生きている。リリアがその気なら、お前は既に死んでいるんだよ。だがリリアはお前を殺さなかった。これがどういうことか分かるか?」
アインは毅然と俺を見つめて言う。閉口した俺に、アインは続ける。
「いいか、真相はこうだ。お前がまだ幼い頃、リリアは義理の父親の手によって、密猟監視官に仕立て上げられた。それは義理の父親であり、レイの実父でもある彼が、リリアを人間に殺されたくないと望んだからだ」
俺とリリアは、母が同じで父が違うらしい。母がエルフで、父が人間なのが俺。父がエルフなのがリリアなのだそうだ。