「彼はリリアが密猟監視官として生きていて欲しいと願っていた。人間にとって唯一エルフの利用価値がある職業が、密猟監視官だったからだ。しかし賢しいリリアは、密猟監視官という自らの立場を利用し、エルフの自治区とコンタクトを取り、二重スパイとなって帝国の情報をエルフ側に送り始めた。エルフ達は密かに、支配からの脱却を目論んでいたのだ。
そしてリリアは幸か不幸か、帝国が自分の故郷の村に対し、肉の配給を止めるという情報を入手してしまった。そこで彼女は村へと急いだ。途中、エルフ自治区に住んでいたリリアの父と母を連れて。親族を集めて話し合いをするためだ。
しかし、村の周辺で少し目を離していた間に、愛する父と母が殺されてしまっていた。そしてリリアは驚愕した。そうだ、我が父母の肉を揚々と食しているのが実の兄だということに気付いたからだ」
アインは俺を責めるように語気を強める。
俺は思わず目をつむり、肩をすぼめる。俺という存在は、アインの眼前にただひたすら矮小に映ったことだろう。
「リリア・フリークスは強い子だった。父と母を殺され、食されてなお、村を、お前を救おうとしたんだ。打ち拉がれそうになる心を堪えてなお、だ。村を救うには国の不正を糾弾するしかない。だがいくらリリアが機密情報を押さえていたとはいえ、エルフであるリリアが国を相手に交渉できる訳がない。当事者である村の誰かに代弁してもらう他なかった。村で動ける者は兄であるレイ・フリースしかいない。
しかし、兄はエルフである父と母を躊躇なく殺した。ということは、エルフの肉を狩り、そのお金で養殖場のエルフの肉を買って村に持ち帰る、もしくは、村に養殖場を建てるための資金集めとしてエルフを殺している、ということだろう。
つまり、兄は国に不正を糾弾せず、あくまでエルフの密猟によって村の救済をしようとしているのだ、とリリアはここで理解した。
だがそれは、非常に危険な方法だ。リリアの他にも密猟監視官はウヨウヨいるし、街でも憲兵が目を光らせているだろう。見つかれば明日はない。このままでは、村の存続も、兄の身も危ない。
そこでリリアは一計を案じた。自らを無知なエルフの少女だと偽り、兄に街まで売りに行かせようとしたのだ。そして兄に、道中でそれとなく国に糾弾させるように誘導しようと考えた。そうでなくとも、街に向かう途中で兄がその可能性に気付いてくれるだろうとも思っていた。ともかく兄に行動することで何か糸口くらいは掴めるだろうと。
それに街には、自分を密猟監視官に仕立て上げた義理の父がいる。密猟監視官をまとめる立場の父ならば息子のお前を守ってくれる、そうも考えていた。お前が、街で殺されなかったのは、お前の父がそう命じたからだ」
! 俺はそこで思い出す。街で俺を拘束したのは、実の父親だったということを。幼い自分と、老人たちを残して、村を去ったあの父だったということを。
では、最初から処刑させるつもりはなかったということか? 俺を捕まえるのには何も躊躇いが無ったのに?
もう訳が分からない。しかしあの時、父は確かにこう言っていたのだ。
「お前を作ったのは間違いだった」と。それも、それさえも、俺を救うための演技だったというのだろうか?
アインは、頭を抱える俺を楽しそうに眺める。そして、知りたくもない真相を止めどなく語ってゆく。