「だがなぁ、お前の態度はリリアには誤算だったんだよ。それは自分が想像以上に商品として兄に見られていたという事実だ。表面上繕ってはいたが、兄の眼差しは、頭の毛から足の先までを金として換算し、悦に浸る者のそれだった。リリアはそこで、自分の言葉が兄に届かないことを悟ったんだ。兄を、国の不正を糾弾するように誘導することなど、出来っこないのだと。
だが、このままでは国の不正を糾弾することができない。そうなれば、兄はこれからも密猟を続けるだろう。
悩み果てたリリアはロメリを利用することにした。
リリアは父にまず、レイをかくまってやってほしい、但し、表面上は密猟者の逮捕という理由で拘束してくれ、という旨のことを伝えた。レイが、宿に自分を置いてロメリの養殖場に肉を売りに行った時のことだ。あの時リリアは、実は父と連絡を取っていたのさ」
!!俺がロメリの養殖場から帰ってきた時、確かにリリアは姿を消していた。あれは父とコンタクトを取っていたのか!クソ!なまじリリアがすぐ見つかったから、あまり気にしていなかった。何て俺は馬鹿なんだ!
俺は自らの注意力の無さを嘆き、低く唸る。
「そしてリリアは、ロメリと接触を取った。養殖場に放り込まれ、レイが父に拘束された後のことだ。リリアはロメリにこう言った。 『捕まったレイを助けたければ、そしてあなたが捕まりたくないなら、村への国の不正を調べ、そして国を脅しなさい』 と。
ロメリは密売をしていた。父の権力が大きいおかげで逮捕までは至っていなかったが、時間の問題だった。同時に、ロメリはレイのことが好きだった。レイも自分も助かるためには、リリアの言う通りにするしかなかったのだ。
そしてリリアは、ロメリが村へ調査を向かわせている間、兄の安全を確認する為にお前の独房を訪れていた。心当たりがあるだろう? 兄に不信感を募らせないよう、わざわざ悪役を気取ってまでだ。
そしてロメリは国を無事脅すことに成功し、お前は牢から抜け出した。これで村も兄も救われた、そう思ったリリアだが、リリアは一つ、大きな勘違いをしていた。リリアもまたレイと同じく、村に多少の備蓄肉があると考えていたのだ。初めはただの推測だったが、お前が備蓄肉があると言っていたことで誤った確信を抱いてしまっていたのだ。だが、実際には備蓄肉は無かった。さすがのリリアも村人が付いていたウソまでは気付けなかったのだ。
リリアの努力虚しく村は滅び、後にはお前だけが残った。だが、それでもいいとリリアは思った。愛する兄が生きていてくれた、それだけでもリリアは堪らなく嬉しかったのだろう。その証拠にホラ、道中、リリアは常にお前に甘えていたし、死に際になってもリリアはお前に生きて欲しいと願ってたじゃないか」
お兄ちゃんは、い……。きっと生きてと言おうとしたのだろう。そういうことだ。
「あぁぁぁっぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌ダッ。そんなのが事実なんて俺は認めナィィ!!リリアのあれは、キャラ作りだったんだろォ?全部全部嘘なんだろォ?
俺は叫び、アインの会話を妨害しながら耳を塞ぐ。もう何も聞きたくなかった。もう何も知りたなかった。いや、俺はきっと、そんな醜い自分自身を肯定したくはなかったのだろう。
だがアインは、そんな俺の胸中を見透かすかのように、俺の叫びが疲れて止むのを待つと、間発入れずに再び話し出す。
「ロメリは、リリアが村を、お前を救おうとしていたことをお前に伝えようとはしなかった。お前の気持ちがリリアに向いてしまうことを恐れたためだ。よく言えば乙女心というやつだろうな。そしてお前は最後までリリアの想いに気付くことは無かった。わかるか? 最後の最後までお前は何一つ理解できていなかったんだ。父の行為も、リリアの厚意も、ロメリの好意すらなぁ」
アインはそう言って一つ溜息を吐く。長話を終えて単に疲れているのか、俺の愚鈍さを呆れているのだろうか、俺には判断する術はない。