「そもそも、お前の昔話なんて聞いてやってたのは、ジミーの話との整合性を確かめるためみてぇなんだ。お前を拉致る前に、どうしても本人の口から喋ってもらう必要があったからなぁ」
アインは手をひらひらさせながら言う。
そうか、俺の長い長い昔話は、所詮単なる答え合わせに過ぎなかったという訳か。なら、俺は半ば自らこの状況を作り出してしまったようなものではないか。もう、笑うしかない。
「……なぁ、レイよぉ、ジミーはいやに、エルフの肩を持つと思わなかったか?屠殺なんて物騒なことしてる割にはよぉ。実はジミーもなぁ、エルフ側に通じていたんだよ、人間でありながらなぁ。まぁ、エルフの屠殺をやってりゃあ、エルフに通じてるとは思われないわな。だから、エルフ側もジミーが屠殺することに関しては黙認していたんだ。まぁ、情報を流してもらえるなら、それくらいは我慢するだろう。
そしてジミーは、屠殺処分になったエルフを殺さず密かに育てていたんだ。勿論全部じゃない、数十匹に一匹、ロメリに気付かれないように、こっそりと、だ。そしてその中の一匹が俺だったという訳だ。ラッキーだったぜぇ、本来なら俺は、精力が弱まった種エルフとして一生を終える予定だっんだからなぁ!そして俺は、ジミーハウスで言語を習う傍ら、俺をおもちゃにして遊んだハーフエフ野郎の話を聞いた。そうだよ、テメェだよっ!
……俺ははらわたが煮えくり返る思いだったよ。俺の生きがいはお前への復讐になった。まぁ、今違うがな。アインを未だに名乗っているのは臥薪嘗胆ってやつだ。お分かりかな?」
アインの口調はすっかり元の調子に戻っていた。もう、何も言い返すことはできなかった。
「まぁ、別にお前が信じようが信じまいが、本当はどうだって良かったんだ。お前がこれを聞いて何を思おうが、どうせ何も行動できやしないんだ。憤慨し、俺に殴りかかることも、リリアの墓を建て死を悼むことも、立って歩くことすらなァ!」
そう言ってアインは悪どい笑みを浮かべる。俺は歪み切ったその笑顔に、本能的な恐怖を覚えずはいられなかった。
「これから……お前は俺をどうするつもりなんだ?」
できるだけしたくなかった質問が、つい口をついて出てしまった。するとアインは、よく聞いてくれた、といったような嬉しそうな表情を浮かべる。
「なァ、知ってるか? エルフだってなぁ、生きるためにはビオロシンが必要なんだぜェ? 人間と違って摂取しなくても体内で生産することができるってだけでなァ! だがよォ、自分が生成してる量ほど、生きる為には必要ねえんだ、つまり作り過ぎちまうってことだな。だが、人間にはその余剰生産分も必要だ、だから人間はエルフを捕え、食し、養殖を行っている訳だ。しかしよォ、ハーフエルフは生存に必要な分しかビオロシンを生成しないんだ。興味深えだろ、つまり、肉の中にほとんどビオロシンが含まれていないハーフエルフは人間の捕食の対象にはならないってぇことだ」
そこまで言ってアインは俺の反応を伺う。俺は無言で先を促した。
「これがどういうことか分かるか? もし、エルフが人間と積極的に交配を続ければ、生育の早いハーフエルフは瞬く間に巷に溢れ返るだろう。人間とハーフエルフの個体数が仮に並んだ時、エルフ肉を毎日食い続けなければならない人間と、そんな必要もなく、人間から捕食される心配もないハーフエルフ、どっちの方が優位性が高いと思う? そう、当然ハーフエルフの方だ」
アインは俺の回答を待たずに言う。
「そしてハーフエルフとエルフの交配も行われるようになり、そうなれば必然的にエルフの個体数は減少を始める。エルフの個体数が減少すれば、もちろん人間の個体数もどんどん減少していく。エルフの養殖は天然物の血が減っていくから次第にできなくなる。そうすれば、更にハーフエルフ同士での交配が進み、人間とエルフは淘汰され、ハーフエルフだけが残る」
そうか、確かに、食う義務も食われる心配もないなら自分の子供をハーフエルフにしたいと思う親が現れても何ら不自然ではない。
「人間は当然この状況を危惧した。だから人間は、徹底的に異種間配合への弾圧嫌悪の思想を民に浸透させ、後世へと継承するように仕組んだ。ハーフエルフは生まれたと判明した瞬間殺され、その家族も過激な迫害を受け、共同体を追いやられた。そして今日でもその思想は人間全体に行き渡っている。だから今でも人間の安寧は揺らいでいない訳だ」
アインは両手を広げ俺に意味ありげな視線を送る。
「何が言いたい?」
俺は不安を隠しながらアインに問う。
アインは仰々しく目を見開くとガタリと立ち上がった。
「俺には野望がある。エルフも人間もいなくなり、ハーフエルフだけが地上で豊かに暮らせるようになる世界の構築だ! 食う食われるの醜い関係であった人間とエルフが、ひとたび手を取り合い血混ぜることによって理想的な社会を実現することができるんだよ! これって素晴らしいことだと思わないか?」
アインは目をキラキラと輝かせ、少年のように夢を語る。
そして、いきなりクッと首の角度を変え、俺の隣をアインは見遣る。
ゾクッとした。今までのアインの話で頭がいっぱいになり、その存在を忘れていたが、確かに俺隣には全裸で鎖に繋がれているラリッたエルフの雌がいたのだ。
「レイ君、俺の野望に、君は協力して、くれるよねッ?」