翌朝、俺が目を覚ますと、リリアはすでに起きて身支度を整えていた。
「早いね~まだ4時前だよ」
俺は眠い目をこすりながら、もそもそと着替えを始める。
「ん~っ、早く早くぅ! パパとママ助けてあげなくちゃ」
ピョンピョンとその場でジャンプしながら、俺の着替えを急かすリリア。
あわてて支度を済ませ、寝室の窓を開け放つと、空はまだ濃い青色に包まれていた。
宿のカウンターで朝食のパンとチーズ、干し肉を受け取ると、リリアを連れて宿の外へと向かう。
外に出ると、朝の冷涼な空気が俺たちを包んだ。
横を歩くリリアは意気込んでいるのか、真剣な眼差しだ。いや、単に緊張しているだけかもしれない。
「ねえリリアちゃん、手、つなごっか」
リリアの返事を待たずに俺はリリアの手を取った。柔らかくて、すべすべしている。いい肌だ。
リリアは少し驚いたような顔をして俺を見上げた。その眼には戸惑いが現れている。
俺はそれに微笑んで返答し、再び目的地を目指して歩き始めた。
しばらく、養殖場を目指して石畳の道を歩いていると、リリアがようやく違和感に気付き始めた。
「ね、ねぇ、お兄ちゃん。収容所ってあっちにあるはずじゃ……」
「そうかな~? 俺はこっちだと思うけど」
リリアの手は俺に固く繋がれている。
「おっ、いい匂いだね~、さすがパン屋、朝が早い早い」
リリアは立ち止まろうとするが、俺が強引に歩き続けるので、リリアも半ば無理やり歩かされる形になる。
「ねぇ、ねぇってば!お兄ちゃんどうしたの?リリアをどこに連れてくの?」
俺は今までリリアに見せた中で一番の笑顔を作ると、奥に見える養殖場を指さした。
「え……、イヤ……どうしてっ!?」
どうして、って……なんでそんなことを言わなければならないのだろう。
自分の糧となる動物を殺すたびに、いちいち殺さなければいけない理由を説明しろとでもいうのだろうか。
「あのね、リリアちゃん。俺の村は老人しかいなくてさ」
俺は無知で単純なこの少女に、気まぐれで説明をしてあげることにした。
依然、歩みは止めない。
「何の特産物もない、閉鎖的なさびれた村だったんだ」
リリアは不安と焦りで息を乱しながら俺の話を聞いている。
「国はついに村を見捨てた。まぁ、国益にはつながらないし、当然かもしれない。そして肉の配給が止まった。そうだ、エルフ肉の配給がな!!」
俺はついに声を荒げる。
「これがどういうことかわかるか? そうだよ、死ぬんだよ! だってそうだろ?俺たち人間は毎日エルフの肉を107グラム以上摂取し続けないと死んでしまうんだからなぁ!」
リリアは目を見開いて唖然としている。本当に何も知らないんだな。幸せな奴め。
「だからね、俺には金が要るんだよ、小規模でもいい、村にエルフの養殖場を作り、永続的にエルフの肉を供給できるようにするためになァ!」
リリアはただ怯えていた。口を開き、何かを言おうとしているが、恐怖で出てこないのだろう、「ァ、ァ」と、かすれた音だけをかろうじて発している。
「それには金貨250枚は要る。そしてお前を売れば300枚だ」
そして俺はリリアを半ば引きずりながら、牧場に隣接した養殖場に辿り着いた。
「遅い! 1時間遅刻!」
ロメリはすでに、レンガ造りのこの養殖場の、分厚い鉄扉を開けて俺のことを待っていた。
入口にもたれ、腕組みをしながら怒気のこもった表情で俺のことを睨む。
「待て待て、時刻を詳しく指定した覚えはないぞ!?」
俺はあわてて弁明する。
「うるさいわね、私が来た時間が待ち合わせ時間なの!当然でしょ?」
ここまで堂々と言われると、こっちが間違っているような気がしてくるから不思議だ。
「まあ、その謎理論はともかく、お前がこんなに朝早いとは思ってなかったぜ。お前、意外と凄いんだな」
「フフン、そうよ、早寝早起きが美容健康の秘訣だもの」
そう言ってロメリは鼻高々に笑う。どうやら怒りはどこかに吹き飛んだようだ。
ちょろいな、と俺は内心鼻で笑った。