日差し照る昼時。そして白熱のレースから3日後、俺は悩んでいた。
睨んでいるのは、俺が福引で当てた、イナズマランドパークのペアチケットだ、カップル用の。
俺と黄名子はこのチケットを手に入れる為にレースに参加した、それ自体は優勝できずチケットを入手することは叶わなかったのだが、その後引いた福引で当たるとは思ってもいなかった。
あのレースで手に入れた場合であれば行こうと思っていたから、その必要がなくなった時に俺はもう行くことはないと決めたのだ。だというのに、こんな形で手に入ったチケットに不意をつかれ動揺してしまい、黄名子には「まぁ、考えておく」と軽く返事だけをしている。
これは俺が当てたもの、行くも行かないも俺の自由だろう。ただ、これを手に取った時の黄名子の心底嬉しそうな顔を見た後に、そんな酷いことが出来るわけがない。結果あいまいな返事だけしておいて、場を流しているというわけだ。
「行くか行かないかって行ったら・・・まぁ黄名子となら行ってみたいが・・・それでも・・・」
それでも、井吹。あいつにだけはバレたくない。バレれば確実に何か言われるし、天馬達にもすぐに広まる。もし井吹にバレたのなら神童さんの身柄を引き渡してでも情報の拡散を止める、それくらい嫌だ。
でも、黄名子の事を、あいつがすごく行きたがっている所に連れて行ってやれたらきっとすごく喜ぶだろう。それが見られるなら、俺の私情くらいは目をつぶるか・・・?
『京介ー!スイカ切ったけど食べるー?』
どっちつかずの自分に嫌気が差し始めた時、1階のリビングから、母さんの呼ぶ声が聞こえた。スイカか、さっきから考え事ばかりで疲れている頭に糖分を送るのは悪くない、頂くとしよう。
1階へ続く階段をおり、リビングの扉を開ける。
「ありがとう母さん、丁度甘いものが欲しかったんだ」
「このスイカ甘くておいしいやんねー!おばさんもう一個ちょーだーい!」
「いいわよー、どんどん食べてね、京介も早く食べなさい」
「あぁ。じゃ俺は自分の部屋で食べるから一個貰ってくな」
「なら後で黄名子ちゃんに届けてもらうから待っててね、二人仲良く食べるのよ?」
「俺がここにいたくない理由分かって言ってるよな!?」
俺の家に黄名子がいるのはもうさほど驚かないし、一緒にいることが嫌なわけじゃない、ただ、この迷っているタイミングで出会うのが気まずいのだ。
「聞いて欲しいんよおばさーん、最近、剣城うちの事避けてる気がするやんね。うち寂しい!」
「まぁかわいそうな黄名子ちゃん!でも安心して、京介は見た目は怖いけど本当はとても優しい子だから、きっと照れてるだけよ。どうせいつも内心黄名子ちゃんの事を」
「だぁあああぁーっ!!分かったから止めてくれ!ここで食べる!」
急いで椅子を引いて乱暴に座る。そして、目の前においてあるスイカをひとつ掴んで、一口食べる。ほどよい甘さが口に広がり、熱くなっていたテンションを少し落ち着かせた。
落ち着いた所で、黄名子に答えが分かりきったような質問をしてみる。
「なんで黄名子がここにいるのかは聞かないが、お前やっぱり、あの遊園地行きたいんだよな。だったらやっぱり」
「んー?どっちでもいいやんね」
「いっし・・・って!違うのか!?」
ほんの確認のつもりだったのに、予想外の答えが返ってきて思わず聞き返す。
「うちは剣城と行きたいけど、剣城が行かないっていうならうちも行かないやんね。そんなにわがままじゃないよーうちは」
黄名子があっけらかんと言ってのけ、再びスイカにかぶりつく。多分その言葉は強がりなんかじゃないだろう、心からそう思い、言っているものだと思う。その理由に、俺は思い当たるフシがあった。
「(もしかしてこいつ、まだレースの時の事気にしてるのか・・・・)」
3日前、チケットを求め参加したあのレース、あの時にちょっとした事故があった。山を走っている途中に足を滑らせ、黄名子と共に坂道を転がり落ちたのだ。
幸い黄名子に怪我はなく、俺が左足を少し痛める程度で済んだ、もちろん軽い怪我なので、もう痛みなどない。しかし黄名子は、自分がそのレースに俺を引き込んだせいで起こってしまった事故だと、思い込んでいるのかもしれない。
もちろん俺としてはそんなこと思ってもいないし、事故が起きたのも不幸の一言で説明できるものだ。だが黄名子の中ではそれで処理できるほどの問題ではないらしい。
なるほど、ここで俺が遊園地には行かないといえば、井吹に茶化される事もなく、皆にバレる事もなく、俺のプライドは守られるという事だ。
・・・そんなもの、黄名子の楽しみを奪ってまで守る物じゃないな、くだらない。
「黄名子、今週の日曜、空いてるか。・・・その、行くぞ・・・遊園地」
「えっ?」
黄名子が呆けてスイカを口に運ぶ手を止めた。それに俺は構わず言葉を紡ぐ。
「い、いやあれだ。せっかくチケットを手に入れたから、少しは行ってみるかなと思っただけで、これペアチケットだろ?一緒に行く人他に思いつかないし、黄名子、一緒に行かないか?」
「・・・っ。行くっ!行くやんね!」
黄名子が子供のようにはしゃいでいる、ほんと可愛―――――じゃなくて単純な奴だ。俺は、やけに乾いている喉を潤すため、スイカにかぶりついた。
「良かったわね黄名子ちゃん。じゃあ、京介の我が儘に付き合わせちゃって悪いんだけど、付き添い、お願いできるかしら?」
「うんっ!分かったやんね!」
母さんもなんとなく俺の意図に気づいたのか、黄名子への話し方を変えてくれている。そんなありがたい気遣いに感謝の念を送っておく。
「(チョイチョイ)」
「・・・ん?・・・」
と、母さんが部屋の隅っこから俺を手招きしてきたので、黄名子にバレないよう、こっそりそちらに近づく。
「(どうした母さん・・・何か?)」
「(いい京介、観覧車に乗るのは暗くなってからよ。明るいと周りから見えちゃうかもだから。うまくやんなさい)」
「(見られて困る事なんかするか!!!)」
自分の子供になんて事をいう親だ・・・。とにかく、今週日曜は黄名子と遊園地へ行く、それが決まった。
・・・なんだかんだ、この結末を俺も望んでいたのかもしれないな。
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日曜朝8時、自宅の前で黄名子の到着を待つ。今日の予定は、こうして自宅前で黄名子の到着を待ち、合流。その後は電車とバスを乗り継いで1時間ほどかけて目的地に向かう。俺は特に変わった服装でもない、黒色のズボンに
紺色のシャツ、黒の上着と至って普通。あとは少し気に入ってる逆さ十字架のペンダントを身に着けてみた。
「井吹達と出くわす心配はなさそうだし、今日は一日黄名子に付き合ってやらなきゃな」
流石に同じ日に遊園地に行くなんていう偶然が起こるはずがない、黄名子と一緒ならゆっくりとした休日とは呼べなさそうではあるが。
「剣城ー!お待たせー!」
そんな事、黄名子が手を振って走ってくるのが見えた。
「別にまだ集合時間20分前だ。急がなくても良かったんだけどな」
黄名子の服装は、白色のシャツの上に、黄色の薄いカーディガンを羽織り、下は紺色のスカート。俺と同じ至って普通のコーデだが、それでもやはり、着ている人間の元がいいので良く映える。
「剣城のことだから、きっとうちが早く来ると思って、30分くらい前にはここにいたと思うんよ」
「・・・よく分かったな、だけど気にするな、別に待つのは嫌いじゃない。じゃ行くか」
「うん!」
確かに俺がここにいたのは30分ほど前、黄名子の事だから時間より早くくるだろうと予想していたのだが、逆に黄名子も俺のとる行動を予想していたらしい。
駅を目指し二人で歩く。上機嫌に歩く黄名子を見ると、俺もなんだか楽しみになってきたのかも知れない。歩みを進める足が、少し軽くなってきた。
日常に波乱などいらない、だから今日もきっと、何事もなく終ってくれる、そう信じよう。
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物足りないとは自分でも感じますが、次の話からは遊園地デート編になりますので、どうか次もよろしくお願いします。