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周りの目を気にしつつ、隣を歩いている井吹が手を繋ごうと伸ばしてくる手を手刀で払いながら
歩く。気を抜けばスカートすらめくりにこようとしてくるので、一瞬たりとも油断できない。
「なぁ神童、少しはガードを解いてもいいんじゃないか?」
「今ガードを解いたらお前に心の傷を負わされるから断る」
ガードを解けと言いながらも攻める手を休めない井吹。俺達の並び立つ隙間30cmで繰り広げられる戦いは過激さを増すばかりだった。
「お、ついたぞ神童。中々洒落た装飾じゃないか」
井吹が手を止め、目的のアトラクションを指差した。愉快な音楽と共に大きなティーカップが縦横無尽に回るそれは、コーヒーカップと呼ばれる遊園地の定番の乗り物だ。
「コーヒーカップはそこまで並んではいないんだな」
「皆ジェットコースターやお化け屋敷、絶叫系でも並んでるんだろ。一応それがここの目玉だしな」
先ほど乗ったジェットコースターは20分程度は待ったが、ここは5分程度で入れそうだ。確かにここ、イナズマランドパークは絶叫系が人気だと聞いているし、井吹の言うとおりそっちに客が流れているのかもしれないな。
「なんであれ並び時間が短いのは幸いだ、さっさと並ぶぞ井吹」
「ん?珍しいな神童が自分から並ぼうとするなんて」
「別に。ただ諦めただけだ、早く来い井吹」
「おう、今行く拓m―――悪かった悪かった、だからその拳を下ろせ」
仕方なく振り上げた拳を下に下ろす、このまま脳天に落としてやりたいのも山々だが、ここはグッと我慢だ。
短めの列の最後尾に並び、俺は内心笑いを抑えていた。
俺がこれに抵抗せずに並んだのにはある理由がある、それは井吹に少し仕返ししてやろうと考えているからだ、ジェットコースターに無理やり乗せられた仕返しを、女装を強行した恨みを。
それはコーヒーカップのギミックがあるからこそ出来る仕返しだ。カップに乗り込むと同時に、何気なく俺が回転バーを独占する、その後は簡単、全力でそれを回すだけだ。俺が占拠しているバーに掴まれない井吹は遠心力によって苦しむだろう、俺はバーを掴める分井吹よりダメージはかなり減るはず、俺がジェットコースターで味わった苦しみと同じ、それ以上の攻撃を食らわせてやる。
そんな計画を立てて、ついに実行の時。係員の誘導により俺達はステージ上のカップへ乗り込んだ。
「しかし懐かしいなコーヒーカップだなんて、子供の頃乗ったっきりだ」
そんな事を言いながらさりげなくバーを手の平で撫で、強く握る。
「俺は昔ばあちゃんがよく連れてきてくれた、流石に大きくなってからはないけどな」
井吹はそんな俺の意図に気づくはずもなく、悠長な態度で席に座る。バーにつかまろうとする気配もないし、これならいける・・・!
「やっぱり周りは小さな子供が多いんだな、俺達みたいなカップルも少しはいるが」
「カップルというな気持ち悪い」
「片方が女装している男子2人グループとカップルって言われるのはどっちがいいんだ?」
「究極の質問すぎる・・・!」
井吹の今の質問は、俺にとっては崖から落ちるのがいいか落とされるのがいいかと聞かれているようなものでしかなかった。
苦悩に震えた時、ブザーが鳴った、アトラクションの作動を知らせる合図が。ようやくだ、これでやれる、井吹に借りを返してやれる。
「しかしアレだよな神童」
井吹が何か言っているが俺はもう気にしない、カップが回りだすと同時に回転バ-を右に全力で回す、ただそれだけ!
「コーヒーカップのこのバー」
3・・・2・・・1・・・いくぞ!
「全力で回すのってガキっぽくないか?」
「――――っ!」
力を入れ回そうとした腕に急ブレーキをかける。そうしてカップは、俺が力を入れる事なく、ゆるやかに回り始めた。
「なん・・・だと・・・?」
「ん?いや、こういうの全力で回す奴って子供っぽいよなって」
手を回転バーから静かに離す、井吹の今の一言で俺の動きは完全に止められてしまった。まさか井吹の奴・・・俺の策略に気づいた?いや、見る限りそういった様子は見られない、椅子に深く腰かけ、周りをのんびり見ている。
「実際に子供が回すのは普通だが、俺達みたいな中高生が全力でやるのはな。そう思わないか?神童」
「あ、あぁ・・・そうだな・・・くっ」
ゆるやかに回るカップの中で時間が流れる。こいつ・・・無意識に俺の行動を封じてきたのか、子供っぽい、ガキっぽいと俺に意識させ、この回転バーを回させないように。
こうもはっきり言われた後に回せば、自分は幼稚であると宣言したようなもの。井吹の前でそんな事をすればネタにされるのは必然・・・今回の仕返しは諦めるが吉か・・・。
井吹に習い俺も深く腰かける。回す必要がないなら、俺も、次々と変わっていく景色でも楽しんでお―――――
「俺は回すけどな!」
「ぐぅっ!?」
突如、猛スピードで景色が変わっていった。体はカップの側面に押し付けられ、首はカップから飛び出しながらもかろうじて踏ん張る事が出来た。
「井吹・・・っ!?お前なにをぉ・・・!」
「おいおいどうした神童!楽しむ時に楽しむ方がいいだろ!ガキになろうぜ!」
ノリノリで、回転バーを壊さんばかりの勢いで回し続ける井吹。速・・・すぎる・・・気持ち悪・・・。
「や・・・やめぇ・・・井吹ぃ・・・!」
「はっはーーー!ひゃっほーーーー!!!」
体が壊れそうな程に強い遠心力、それ以上俺は何も考えられず、ただただ耐えた。
何かが聞こえた、恐らくブザーだろうか。アトラクションの終了を告げる合図と同時に、カップは徐々に回転を弱めていった。
「ふぃー・・・。お、大丈夫か神童、だいぶやつれてるな」
「誰の・・・せいだと・・・おうぇ・・・」
コップのふちに力なくもたれ掛かりながら何とか会話をするが、正直それが限界、もう足腰に力が入らない・・・・。
「歩けるか?」
「無理かもしれん・・・・・・」
「かといってこのままだと他の客の迷惑だしな・・・仕方ないか。神童、少し我慢しろよ」
「・・・?何を――――っ!?」
腿の下に滑り込むように手が入ってくる、続けるように背中にも。その後、不意に体が宙に浮く感覚を覚えた。
「よっと、やっぱり軽いな神童」
「おいぃ!止めろ井吹!前側で運ぶのだけは止めてくれ!」
「何いってるんだ、町内会のイベントの時も抱いてやっただろ」
「嫌な事を思い出させるな!」
そのままカップから降ろされ、井吹は出口から外に向かって歩き出した。井吹に抱えられているというのに、眩暈と疲労で抵抗できない・・・!
『あの、彼女さん大丈夫ですか?』
「心配しないでくれ、ちょっと酔っただけだ」
係員が俺を抱いて歩く井吹をみて心配したのか話しかけている、やはり周りの人間からは俺は女なのか・・・そう思うと余計に体が重くなった。
「ほら大丈夫か拓美、あっちのベンチで休むぞ」
「だから俺っ・・・私は大丈夫だから早く降ろしてくれ・・・ないかなぁっ・・・!」
係員の視線がある為、仕方なく一人称を私にする。声も裏声にしなきゃいけないのが本当に辛い・・・。
「(井吹・・・覚えてろよ・・・!)」
「(望むところだ神童・・・)」
周りに気づかれないよう小さく毒づき、にこやかに笑いながら俺達は、目で火花を散らした。
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「ん、止まったか。どうだ黄名子、要望通りに全力で回してやったが」
「ぐるぐるするやんねぇ・・・・」
「なんで酔うの分かってて全力で回せって頼んだんだ・・・」
「そっちの方が楽しいから・・・」
「それだけの為に体を張るなよ、肩貸してやるから行くぞ」
「あそこの彼氏さんは彼女さんにお姫様だっこしてあげてるのにうちは肩・・・」
「よそはよそ!うちはうちだ!」
「剣城お母さんみたいやんね・・・」
「アホな事いうな。ほら掴まれ」
「ありがとー・・・」
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酔った黄名子を休ませる為、またベンチで休憩を取った後、今度は目的地を決めずに歩く。
「ジェットコースターは苦手なのにコーヒーカップは大丈夫なんやね剣城」
「コースターは速いし高いだろ、コーヒーカップはただ回るだけだしな」
ジェットコースターが苦手だからといって、回転に弱いわけではない、俺の場合バーに掴まっていたし、カップの回転に身を委ねていた黄名子より酔いにくいのは当然だ。
「・・・・ねぇ剣城ー!」
「お腹空いただろ」
「なんで分かったやんね!」
「さっきからお前の目があの売店に向けられてるからだ」
目をらんらんと輝かせ黄名子が凝視しているのは、先にある売店だ。どうせこいつの事だから入園前のサンドウィッチは胃袋から異空間にでも飛ばされたのだろう。
「・・・何か食べるか?奢ってやる」
「いいのー!じゃうちソフトクリームー♪」
分かりきった答えを受けてポケットから財布を取り出し、黄名子と売店へ向かう。アトラクションのように列があったりはせず、すぐに注文できた。
購入したソフトクリームを受け取り、再び歩みを進める。
「剣城は次どこ行きたいー?」
「俺は特に希望はない、黄名子の行きたいところでいいんじゃないか」
「うちの行きたいところ~・・・あっ!うちあそこ行きたいやんね!」
1分もしないうちにソフトクリームを平らげた黄名子が指差す先には、遊園地なるものの定番中の定番、お化け屋敷の建物があった。
「これ作り物だろ、入って楽しいのか?」
「分かってないやんねー、ニセモノでもこういうのは雰囲気が大事なんよ!もしかしたらすごく怖いかも知れないよー?」
「冗談だろ、たかだか作り物で。・・・一応聞くが黄名子は平気か?」
「うちは今まで入ったことないから今日が初めてやんね!ホンモノのお化けはだいっ嫌いだけどニセモノには怖がらないやんねー♪」
「入って見たらやっぱり駄目だったとか言うなよ?」
俺の方は、確か幼い頃に兄さんに連れられて入って怖がっていたような記憶があるような気もするが、今はもう中学生、怖がる要素がなに一つない。入り口近くの看板に書いてあった、『お客様一人ひとりにピッタリの最高の恐怖をお届け』なんていうキャッチコピーを見て、寧ろ少し楽しみになっているくらいだ。
「うちは平気だと思うやんね!、夜一人でお手洗い行けるし!」
「まったく関係ないような気がするぞそれ」
長いとも短いとも言えない列の最後尾に着く、待ち時間は10分といった所だろうか。並んでいる間、遠くに見えるチュロスの売店を眺める黄名子を見て財布を確認する。絶対後で食べたいとか言い出すだろうから。
予想通り10分程で入場する順番が回ってきたので、俺達は入場口から屋敷の中へ足を踏み入れた。
暗幕をくぐると、外の明るさと暑さがが一転、薄暗く、ひんやりとした空気がその場に漂う。何処からか謎の笑い声も響き、世界が一瞬にして変わったような感覚に陥る、ただ怖い要素は今のところない。
「ほぅ、中々本気で作られてるんだなお化け屋敷っていうのは」
「・・・剣城ぃー・・・かえろー・・・」
「もうギブアップ!?まだ1歩目だろ!っていうか苦手なのかよ!」
いきなり衣服が突っ張ったので後ろを見てみると、一歩目以上を踏み出そうとしない黄名子が俺の服を掴んでいた。
「暗いのはいいやんね!でもこの声!剣城倒してきて!」
「無茶振りすんな!それに入場前に自分で作り物って言ってただろ!?」
「リアルに限りなく近いならそれは本物と同じやんね!」
恐怖を紛らわせるように声を張り上げる黄名子、ただこのまま止まっているのは後がつかえてしまうし、一度入ったのなら最後まで行かなきゃならないだろう。
「入ったものは仕方ないだろ、行くぞ黄名子」
「うぅー・・・手・・・握ってて欲しいやんね・・・」
「ぐっ・・・!」
なんだ、いつもの黄名子と違う・・・!いつもアホみたいに元気なのに今だけすごく萎れている、なんだかいつもより・・・いやいや、何を考えているんだ俺は!
「い・・・今だけならいいが・・・。ここを出るまでだぞ」
照れくささを隠して差し出した手を黄名子が握ったので、ようやく俺達は奥に向かって歩きだす。
足元にある僅かな照明だけが道を照らし、それ以外は暗闇の世界。どこからか聞こえる不穏なBGMはより恐怖を煽る為だろうが、それだけで俺は怖がらない、まぁ隣の黄名子は腰を曲げながら歩くぐらいすごく怖がっているので、運営側の策略としては上手く行っているのだろう。
少し歩き通路を抜けて、部屋のような場所に着いた。血のようなものがこびり付いたベットや薬品の入ったビン、台に置かれた使用済みに見える注射器や聴診器を見る限り、ここは医務室だろうか。
「なぁ黄名子・・・もう少ししっかり歩いてくれ・・・歩きにくい」
「だって怖いぃ・・・これが精一杯やんね・・・」
かなり遅い速度で歩く黄名子に話しかけるも、声を振り絞っているのが分かるくらい震えている。でも今のところ何も出ていないし、俺が冷静さを保ってさえいれば黄名子も安心して――――
―――パリンッ!
「「っ!?」」
静かな部屋に響く、何かが割れるような音。突然の奇襲に俺も驚いてしまったが、怖がりはしない、ただの音なのだから、驚かすくらいの威力しか無かった。
「剣城ぃーーーーー!!!怖いぃーーーーっ!!!」
「怖いのは分かったから抱きつくな!ただの音だ音!」
ただの音、音であるのに、怖い奴にとってはここまで恐怖を引き立たせるものだったらしい、黄名子が木にしがみつくコアラのように俺に飛びついてきた。よく見ると黄名子の目には既に涙が溜まっているし、早く終わらせないと持たないかもな・・・こいつも・・・俺も・・・。
「ほら行くぞ、さっさとここから出て日の光を浴びるんだろ?あと少し頑張れ」
「っん・・・分かった・・・終わったら・・・チュロス・・・」
「買ってやるから、まず離れろ」
さっさとこの場から退散すべく、黄名子を引き剥がし、手を取って部屋の出口へと足を進める。【順路】と書かれた札を見て、その奥へと進む。
『・・・・・・アゥ・・・』
「ん、なんか言ったか?」
「・・・?うち何も言ってないやんね・・・」
と、小さな呻き声のような声が聞こえたが、どうやら黄名子ではないらしい。なにか、嫌な予感が全身を駆け巡った。
ゆっくりと黄名子と顔を見合わせる、そしてまた顔を前に向ける。
『アゥ・・・ォ・・・アグァ・・・・』
「は・・・はは・・・なんだこの声は・・・止めろよ黄名子、俺を驚かそうなんて・・・」
「つ・・・剣城こそ止めるやんね・・・冗談はそのもみあげだけにしてほしいやんね・・・・」
乾いた笑いが喉を通り口から出る。俺達はお互いの姿を確認し、固唾を呑んだ。そうして静かに、後ろを見ると――――――
血に濡れた人型の何かが、ニタァっとおぞましい笑顔を浮かべ、真後ろにいた。
「ひゃあぁあああぁーーーーっ!!!」
「黄名子っ!?」
それを見た途端、黄名子が俺の手を振りほどいて部屋の奥へと一人で走っていってしまった。今一人にさせたらマズい・・・!これだけ怖がっている黄名子だ、ここの奴らはきっと全力で黄名子を怖がらせようとするだろう。
『ひぃやぁああああぁーーーーーーーっ!!!!!』
案の定、先に進んで幽霊達の餌食になったと思われる悲鳴が聞こえ、俺は急いで後を追った。
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医務室の部屋から10分程歩き続けたが、それからは驚きの連続。いきなり破れるカーテンだったり、窓の奥から迫ってくる血みどろの女性だったり、黄名子の精神をガリガリ削ってくるものばかりだった。それでも何とかここまで耐え、奥へと進み続ける。
「黄名子、そろそろ終わるぞ。よく頑張った」
「うぅー・・・終わる・・・?」
「だから元気だせ、終わったらチュロス食うんだろ。他にもなんか買ってやるから」
黄名子を元気付ける為に言葉を続ける、ちなみに今現在の黄名子は手だけでは恐怖に耐えられず、俺の左腕全体を抱きかかえている。あれほど怖がっていたので離れろとも言えず、仕方なくこの状態で歩いてきた。
「ありがと・・・うち・・・がんばるやんねっ・・・!」
そう言った後、黄名子が俺の左腕から離れ、一人で立って歩き出す。
「おっと、もう大丈夫なのか?」
「大丈夫!うち完全復活やんね!」
やっと恐怖から立ち直り、いつもの屈託の無い笑顔を浮かべる黄名子を見て安堵する、あの調子のまま今日を過ごしても楽しめなかっただろうからな。
恐らくそろそろゴール地点だろう、これだけ歩いたならもうすぐのハズだ。
「結構広かったなこのお化け屋敷」
「それ、入る前に少し思ってたやんね。お化け屋敷にしてはかなり大きな建物だなぁーって」
確かにここのお化け屋敷の建物はかなり大きかった。道中あれだけの仕掛けがあったのだ、もしかしたらジェットコースターに続くこの遊園地の目玉だったのかもしれないが、今となっては攻略まじか、恐れなどもうない。黄名子と共にゴールを目指す。
「・・・お、見ろ黄名子!出口だぞ!」
「あそこやんね!希望の光は!」
曲がり角を曲がると、通路の遥か先に日の光が見えた、きっとあそこがゴールなのだろう。先にある僅かな日光を追い、俺達は突き進む。
「やっと終わるやんね・・・これでチュロスを!」
「こんな時にも食べ物の話かよ」
そうやって二人笑いながらゴールへ向かって足を進める、ようやくこれで終われる。俺達は、ゴールの光を、輝く希望への活路を目指し、そして
―――――その道は、当然に閉ざされた。
「出口が・・・消えた?いや・・・」
見えていた外の光が、忽然として消えたのだ。消えたと言うよりは隠されたといった方が正しいだろうか、消え方に違和感があったので、カーテンか何かで仕切られたような感じだった。
「剣城ぃ・・・」
「泣くな泣くな!見えなくなっただけで奥に出口はある」
求めていた目的地を目前にして失った黄名子が半分泣きかけたので慌てて説明する。気味が悪いといえばそうだが、恐らくこれは、ゴールが見えた時にそれを隠す事で恐怖を与える仕掛けだろう、きっとそうだ。
「落ち着け黄名子、これが最後の仕掛けだ。ただ暗幕で隠されただけだろ?そんなもの怖くない、な?」
「そぅ・・・そうやんねっ!別に怖がってないようちは!」
『ゥアアァー・・・オヴァ・・・』
「っ~~~~~!?」
不意打ち気味に聞こえた声に黄名子が背筋を伸ばす。
俺達が歩いてきた通路を振り返ると、後方の暗がりの中、佇む人影が一つ。さっき通った時はいなかったはずなのに、そこに立っていた。
「は・・・はは・・・大丈夫だ黄名子、あいつとは距離があるから何も起きない・・・はずだ」
「はははは早く出るやんね剣城・・・」
再び前を向き、止めた足を動かす。狭い通路の中で響く3人の足音が静かな空間で反響し、更に怖さを・・・3・・・人・・・。
三度足を止め、一度だけ後ろを確認する。後ろに立つ幽霊と、心なしかさっきより距離が縮まっているように思える。
「黄名子・・・」
「剣城・・・」
『ウォボ・・ァウ・・リ・・・ア・・・』
嘆き続ける幽霊、動くその足は徐々にスピードを上げていき
『リアジュウゥウウウウゥーーーッ!』
「「逃げる(やんね)ぞ!」」
最終的に走って追いかけてきた、俺達もそれに気づき、隠された出口まで走る。
『リアジュゥハァアアアッ!ユルサナイィイイイイッ!』
「なんだその恨み言は!私怨入りすぎだろ!そこは前世の死因を恨めよ!」
「うちもうやだぁああああぁーーーーーっ!」
全速力で走りながら叫ぶ。明らかに俺達を妬んで襲ってくる霊は、やけにリアルで怖かった。
逃げながら頭で理解する、入場前にあったキャッチコピーについて。これは入場したグループの構成によって呼び掛け方を変えているのかもしれない、同年代のグループ同士なら『生贄を置いていけ』だったり、家族連れなら『子供を貰う』とか。それが男女ペアなら今のようにリア充撲滅作戦に打って出るのだろう、確かにお客様一人ひとりを見て、それにあう恐怖を提供している、たださっきの叫びにはやけにリアリティがあった、本当にリア充を妬んでいるかのような。
とにかくその後俺達は、暗幕に体から突っ込んで無事脱出し、今日一番お世話になっているベンチに、また腰を下ろした。
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『神童手を繋ごうか、怖いだろ』
『俺は霊よりこの暗闇でお前と並び歩く事に恐怖を感じているぞ』
『そうか、なら俺が怖いから神童手を繋ごう』
『俺が作り物の幽霊より怖い目にあわせてやろうか』
『止めとこう、お化け屋敷で事件なんてここの評判に悪い』
『いい判断だ。しかしさっきから前のグループがうるさいな、キャアキャア叫んで』
『そうだな。お、神童、隣の窓を見て見ろ』
『窓?・・・・うわぁっ!』
『どうだ、怖かったか?』
『・・・・・・窓に女装した変態が映ってた・・・』
『あー・・・そうだな、怖いなそれは。だが安心しろ、女装した変態は恐ろしいが拓美ちゃんは可愛――――おいおい、俺の指は180度以上は曲がらないぞ』
『このっ・・・!くそっ・・が・・・・!』
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なんだか長くなってましたがここまで読んでいただきありがとうございます。次回も読んでいただけると嬉しいです