銀の星   作:ししゃも丸

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スカウト編4

 

 

あなたはサンタクロースを信じますか? と問われたら、いい年をしたおっさんがサンタクロースを信じているなんてありえないだろと答える。

子供のころは、事前にアレが欲しいと言っていた物が翌朝には枕元に置いてあるのを何回か体験した。たしかに、その頃は信じていたのかもしれない。ただ、それがサンタクロースではなく、自分の両親であることをいつしかプロデューサーも気付いていた。

記憶が正しければ親が年に一回しかしない事を毎年やっていたかと言われれば違ったはずだ。クリスマスが近づくにつれ自分が欲しい物を口にするか、親が決まって「クリスマスは何がほしいの?」と、笑顔で聞いてくるものだ。

そう、これは一種の冬の風物詩とも言える。

十二月になればスーパーやコンビニ、また広告にもそれはある。オードブルのセットとか、ケーキのご注文はお早めに等々。近年ではそれらを見る度に「ああ、もうクリスマスか」と呟くものだ。

面白いのが、クリスマスが終わればすぐにそれは終わり、今度はおもちとか、かまぼこがずらりと並ぶのだからある意味日本ならではの光景である。店員はきっと大変だと思うが同情はしない。

ふと気付けばその風物詩はなくなり、それに対して自分も何も言わなかった。きっと、それは少し大人になったのかもしれないし、ただ単に、物より現金を求めるようになったのかもしれない。

それでも大人になった今でも嘘偽りなく言えるのは、プレゼントをもらったことは本当に嬉しかったと言うことだ。現物はもうこの世に存在しないのは許してほしい。

俺には子供はいないが、それ以上に手間のかかる子がいる。我がアイドル部門のアイドル達である。若い頃はクリスマスなど馬鹿にしていたプロデューサーであったが、今では切っても切れない行事でもある。

CM等が一番多い仕事であり、次にあるのが規模で言えば目玉であるクリスマスライブ。後者に関しては可能な限り所属しているアイドル全員のライブで、各自のスケジュール調整、レッスンの打ち合わせ等々。細かいが比較的楽な部類である。

前者に関しては、アイドル部門発足当時は色々想定していたが、今では考える必要がないぐらい簡単なのである。特にクリスマスのあとには正月関連のCM、初詣や初売りがメインのためこれも同時に行うため手間がかからない。プロデューサーはこの二つの行事に関しては、まさか適任が見つかるとは当初思ってもみなかったのである。

この二つを担当するのがイヴ・サンタクロースと鷹富士茄子の両名。

さて、一度は考えたことはないだろうか。サンタクロースってどんな人なのかと。もちろん俺にもあった、とプロデューサーは語る。白い髪とヒゲ、赤い衣装を身に纏った太ったおっさんを誰もが想像する。

奇妙な話であるのだが……。彼女、イヴ・サンタクロースも特徴的な白髪である。

生来のものと思われるのでアルビノの辺りだと推測はしている。さらに、疑いたくもなるようなサンタクロースという家名。

諸君、驚くなかれ。彼女は本物のサンタクロースなのだ。それを裏付けるかのようにブリッツェンというトナカイもいる。よく見るトナカイと比べると嘘くさい姿ではあるが。

彼女と出会ったいま、もう一度サンタクロースを信じるかと問われたら、

「サンタクロース? ああ、信じるよ。だって、俺のアイドルがそうだからな」

と答えることだろう。

 

 

二〇一三年 十二月二十四日 346プロダクション オフィスビル

 

今日はクリスマスだということはもちろん知っている。プロデューサーはそれを頭の片隅において仕事に集中していた。

この時点で多くのアイドルをオーディション、現地でのスカウトにより確保していた。予想以上の成果である。アイドルとしての素質は十分だし、将来が楽しみな子ばかりである。といっても、本格的に行うのは年が明けてからだった。特に都民ではない子が多く、未成年がほとんだ。女子寮はすでに完成しているので衣食住は問題ない。あるとすれば学業の方だった。

転校手続き等は比較的スムーズに進んでいた。芸能関係の仕事している子を今では多くいるので特に難しくはなかった。一番問題だったのが丁度受験シーズンの子で、これは少し頭を抱えた。

が、これもなんとクリアした。どうやったかは企業秘密である。

距離的に厳しい子以外はスカウトしてからすぐにレッスンを行っている。仕事はまだ与えてはいないのでプロデューサー達の負担はさほどない。

ようするに、いまは比較的早く仕事が終わり、さらにそのまま帰宅できて、自由な時間が使えるわけで。

プロデューサーたるもの、アイドルとのコミュニケーションはしっかりとしている。彼が独身で、アイドルにも相手はいない(いては困るのだが)。

つまり、アイドルといっても一人の女性だ。年少組は家族や友人達と、寮で暮らしている子達はパーティーを。で、大人組は……言うまでもない。

仕事を終わらしてデスクの周辺を整理し、問題ないかチェックする。時計を見て時間を確認。プロデューサーはコートを羽織り、バッグを持って部屋を出た。

今から行けば丁度事務所でパーティーが始まっているころか。

彼には今日やるべきことがあった。

先日の765プロのクリスマスライブの一件で彼女達との関係にヒビが入り、気まずいまま今日まで来てしまっていた。プロデューサー自身もこのままではいかないと思いつつもどうすることもできずにいた。

そんな時、春香がクリスマスパーティーをしようという話を耳にした。彼女の願いを叶えるべく全員のスケジュールを調整し、なんとか全員が集まれる時間をつくることに成功した。赤羽根と律子にはもちろん伝えてあるが、参加するとは言っていない。

彼自身、罪滅ぼしというわけではないがささやかなクリスマスプレゼントを用意していた。それを今から受け取りに行くのだ。

 

「あ、いたいた。プロデューサー君、ちょっといいかしら?」

「お疲れ様です、チーフ」

 

待っていたと言わんばかりのように川島瑞樹と高垣楓が声をかけてきた。

 

「二人ともどうしたんだ? いや、想像はつくが」

「なら話は早いわね」

「折角のクリスマスを自宅で一人過ごすのは忍びないですから」

「他にも今西部長に武内君にちひろさんも誘ってるわよ」

 

豪華なメンツだと思いつつも、他にもアイドル部門には独身の男共がいたような気がする、と一瞬だけプロデューサーは思っただけですぐに気にしないことにした。

 

「俺としても君達と親睦を深めたいんだがね。今日は生憎先約があるんだ。また今度一緒に行くことにしよう」

『……え!? それってつまり!』

 

これはもしや! と色恋沙汰の話になると急に騒ぎ出す少女のような感じで二人は言った。

 

「君達が思っているようなことじゃない。それじゃあ、お疲れさん」

 

二人はそのあと、三人と合流して先程の事を報告したが、

 

「それは……ないねえ」と今西が言うと。

「私もないと思います」と武内も言い。

「ありえません!」とちひろがジョッキを叩きつけながら否定した。

 

なやかんだでそのあとも、プロデューサーには恋人とか妻、愛人がいるのではと、本人が居ないことを良い事に盛大にクリスマスの夜を楽しんでいた。

346プロを後にしたプロデューサーは一度自宅に戻り雪歩の誕生日プレゼントを取りに戻った。今日が彼女の誕生日だということはもちろん知っていたし、貴音や美希だけではなくアイドル全員にはプレゼントを贈っていた。

自宅を経由して、知人が経営しているケーキ屋に立ち寄り予約してケーキを受け取る。各自ケーキを持参してきそうな気がしたが、ショートケーキやチョコといった定番系辺りだと予想してフルーツが一杯のタルトケーキにした。しかもホールなので十分足りる事だろう。ただ、翌日の体重がどうなろうと彼には関係のないことだ。

765プロの事務所の前までくると電気がついていることから、またパーティーはやっていることがわかった。プロデューサーは事務所の入り口まで辿り着くと、彼から見て扉の左側にプレゼントを置いた。

やっぱり、このまま帰ろう。

直接渡すことも考えたがプロデューサーはそれを実行しなかった。当初の予定通り、入口を叩いて彼はそのまま事務所を去った。

クリスマスだけあって外は人で賑わっていた。ざっと見渡せば恋人同士か夫婦のような二人組が大勢いた。別に嫉妬しているわけではないが、いざ目にすると自分が惨めというか、カップルが多く行きかう大通りで、哀愁漂わせながら男が一人歩くのは耐えられない。

大通りから外れ、人通りが少ない道を通る。街灯が照らす道を一人歩く。

意外なのが彼以外に人が歩いてこないことだった。まるで、これが独身男性の末路と言わんばかりのようにも思えた。

十二月なので、寒いのはたしかなのだが今日はやけに寒い。天気予報では雪が降るとは言っていなかった。こんな日をホームレスはどう過ごしているのかとなぜかプロデューサーは思った。ニュースで凍死した話は聞かないのできっと彼らなりの秘密スポットがあるのだろう。それとも、ダンボールだろうか。

そんな事を考えながら歩いていると、ふと道の向こう側。プロデューサーの前方10メートルぐらいだろうか。街灯が照らしている丁度真下にダンボールが見えた。目を凝らしてよく見てみると、そのダンボールにはどこかで見覚えのあるみかんのマークがあった。

なんだ、あれは。

さらに目を疑うモノがあった。角がある謎の生物が一緒に傍にいるではないか。プロデューサーはこの場から立ち去るか、それとも前に向かって歩くのか考えた。

彼は前に向かって歩き出す。恐怖よりも好奇心が勝った。

少しずつ距離を縮めていくと、ある違和感に気付いた。街灯があるといっても陽は落ちているのでしっかり見えなかったのだが、気付けばそれはダンボールを身に着けた……。

(女……? 日本、いや、外人か?)

長い白い髪。あまり見ることのない髪の色だ。

しかし、なぜこんなところでダンボールなんて身に着けているのか。声をかけるべきか、立ち去るべきなのか。どう行動するべきか考えていると、

 

「……え?」

「あっ」

 

彼女と目が合った……。

 

 

帽子と唯一身に着けている下着、そしてダンボール。ブリッツェンをホッカイロのように抱きしめながら、イヴ・サンタクロースはやっと自分を助けてくれそうな男性に一方的に事情を説明していた。

 

「で、日本にやって来たのはいいんですけど……。サンタ狩りに出会ってしまって、あ、サンタ狩りというのではね、わたし達サンタが配るプレゼントと身ぐるみを剥いでいく恐ろしい人たちなんですよぉ」

「はあ……。サンタ狩り、ねえ」

 

噂には聞いていたが本当に自分が出会うとは。イヴは数十分前のことを思いだした。

プリッツェンが引くソリに乗りながら街の上空を走っていると、突如謎の集団が襲いかかってきた。突然のことでソリはそのまま今いる辺りに墜落し、私は囲まれた。

(ヒャッハ――!! 今年もサンタがやってきたぜぇ!!)とサンタ狩りAが言った。

(へっへっへ。このプレゼントはオレ達が頂いていくぜぇ!)とサンタ狩りBが奪い。 

(ついでに身ぐるみも剥いでいくぜ!!)とサンタ狩りCに服を奪われた。

(帽子だけは残しておいてやるぜ、俺達は紳士だからな)とサンタ狩りDが言った。

(それじゃあ、また来年に会おうぜーーーー!!)とサンタ狩りEが言い、彼らは去っていた。

そして、残された私は近くに捨てられていたダンボールを身に纏い、ブリッツェンと共に誰かが助けてくれるのを待っていたのだ。

しかしこの人は、折角最初から説明しているのにあまり分かっていないような顔をしているような気がするとイヴは思った。なんて言えばいいのだろうか。そう、こういう顔はアレだ。呆れているような顔をしている。

 

「あのぉ、もしかして……。信じてません?」

「身ぐるみを剥がされたのは信じるが、最初の件辺りは正直信じられん」

「本当にわたし、サンタなんですよ! ほら、帽子だってありますし、それにブリッツェンもいます!」

「コスプレのじゃなくて? それに、そのトナカイ。すっごい、頼りなさそうに見えるんだが」

「そんなことありません! このブリッツェンは凄いんです! ね、ブリッツェン?」

「ぶも」

「……」

 

トナカイの鳴き声など滅多に聞いたことがないプロデューサーは疑いの目を向けた。なにせ、目はなんだか漫画みたいな目をしているし、鼻からでっかい鼻水を垂らしている。信じろと言われても、そう簡単に頷けるものではなかった。

 

「お願いしますよぉ。信じてくださいぃー」

「わ、分かった。百歩譲って君がサンタだと信じよう。で、君は俺に何を求めてるわけだ?」

「助けてください!」

 

曇りのない目で嘘偽りなく言うイヴに、彼はやっぱりかと言わんばかりに頭を抱えた。

 

「お願いしますよぉ。ソリまで盗られちゃって帰れないんです……。ほんと、なんでもしますから!」

「ん? 今、なんでもするって―――」

 

突然、電話が鳴った。

 

 

イヴが必死に懇願している最中、プロデューサーはポケットからスマホを取出し画面を見た。「765プロ」、そうあった。

『ぷ、プロデューサーさん。わたし、春香です』

 

春香が電話をかけてくるのは予想外だった。いや、電話すらかかってくるとは思っていなかった。彼は少し動揺したが、取り乱さず応えた。

 

「春香か。……どうした。何か問題でも起きたか?」

『はい。大問題です。折角のクリスマスパーティーなのにプロデューサーさんがいません』

「それは……そのだな」

『わたし達も色々……思う所はあります。でも、最後なのにしこりを残したまま別れたくないんです!』

「わかった、わかったよ。俺の負けだ」

 

諦めた。それもすぐに。結局のところ、春香達と同じことを考えていたわけで、それを子供が中々謝れないように、自分はそれと同じレベルだったということだ。自分と半分ほどの少女に言われてやっと動くのは大人として恥ずかしいとプロデューサーは思った。

しかし、先程からうるさい。「あの……聞いてますか? お願いだから無視しないでくださいよぉ」と、イヴが胸を叩いて邪魔してくる。電話しているのがわからないのか。

 

『それじゃあ!』

「ああ、行く……。――ちょっと待て!」

 

ブリッツェンが突然走り出した。「あ、どこにいくのブリッツェンーーー!?」と、イヴが大声で追いかけた。

不味い。非常に不味い。

あのトナカイが向かっているのは大通りに出る方角である。トナカイならまだしも、彼女がそこに入ったらとんでもないことになってしまう。撮影され、きっとすぐにネットに広がってしまうことだろう。

それだけはなんとしでも阻止せねば。

彼はすぐに追いかえるために全速力で走り出した……が、

 

『あなた様』

『ハニー』

 

鋭く、冷たい声が耳に入る。どうやら、イヴの声をスマホが拾ってしまったようだ。優秀過ぎるのも困ったものである。

 

『あなた様。御一人ではないのですか?』

『それも女の人と一緒なの』

 

恐ろしいと感じていても、今は目の前の事をどうにかしなければならなかった。

寒い。

こんな真冬の、遅い時間になんで俺は一人の女と一匹のトナカイを止めるために走っているのか。どうすればいい。

そうか。そうすればよかったのか。

つまり、俺が彼女を助ければあのトナカイは止まるのか。彼は何故か悟りを開いたかのように答えを見つけた。

 

「今はそれどころじゃ――おい、わかったからそのトナカイを止めてくれ!」

『トナカイ? あなた様、何を言っているので――』

「一時間以内にはそっちに行く! またあとでな!」

 

強引に通話を切った。あとが怖い……。

そのあと、なんとかトナカイを止めることに成功したプロデューサーは、イヴに羽織っていたコートをダンボールの代わりに着せた。無いよりはマシと思いつつも、コートの下には下着以外身に着けていないのだ。

(下手したら、俺がそういうプレイをしていると思われる……)

最悪の結末が脳裏を過った。彼はイブの手を引っ張り、近くのタクシーが止めてある場所に向かう。

タクシーはすぐに見つかった。問題はそのあとだった。

 

「○○区にある××のマンションの前まで。全速力で頼む!」

「あの……お客さん。言いにくいんですが、ペットはちょっと……」

「ペット? ああ、ブリッツェンのことですか」

「へ、トナカイ。それにその子……」

 

イヴの違和感に気付いたドライバーのおっさんはじっと彼女を見た。しかし、それをプロデューサーがブロックし、おっさんの前にある物を渡した。

 

「これでよろしく頼む。他言無用だ」

「はい、喜んで!」

 

大量のチップという金を渡しようやく問題は解決した。

そのあと何も問題はなくマンションに辿りつき、自室へとイヴとブリッツェンを招き入れた。

部屋に入るなりイヴは驚いていた。珍しいのだろうかと思っていたが、

(煙突がないからだろうか)

ふとそんなことを思った。

 

「へぇー。日本の部屋ってこんな感じなんですねぇ」

「別に日本に限った話ではないと思うが……」

 

言いながらプロデューサーは寝室へと向かった。クローゼット開けてクリーニングに出して戻ったばかりのYシャツを一着取りイヴに手渡した。

 

「あの、これは?」

「とりあえず今日はそれを着て我慢してくれ」

「ありがとうございますぅ」

 

Yシャツをイヴに手渡すと、彼女はすぐにコートを脱いだ。彼は咄嗟に後ろを向いた。ちらりと彼女の白い下着が見えたのはしょうがないと自分に言い聞かせる。

音からして多分Yシャツを着たのだろうと判断して振り返る。そこにはぶかぶかのYシャツを着たイヴが「わあ、大きいですねぇ」と言いながら立っている。

プロデューサーが所有する服にはジャージなどもある。それなのになぜYシャツを選んだのかと、この場にあの二人がいたら問い詰めるに違いない。ただ、彼もれっきとした一人の男であるという証明である。本能がそれを選んだのだ。

(ナマで見ると……破壊力がすげぇな)

女性の裸Yシャツをなにで見たかは言うまでもない。

 

「あと、俺はこのあと少し出かけなければいけないから、その間はここで待っていてくれ」

 

寝室のとなりにあるもう一つの部屋。そこには貴音と美希のコスプレ衣装があったのだが、冬ということで衣装は押入れにしまって炬燵を導入した。ストーブと炬燵をつなぐ、商品名は忘れたがトンネルと呼んでいるそれを使って暖かい空気を炬燵に送り込む。態々この部屋のためだけにもう一台テレビを購入した。気付いたら美希が家庭用ゲーム機を持ちこんでおり、プロデューサーも暇なときはそれで遊んでいた。

 

「こ、これが日本伝統のコタツというやつなんですね! ……寒いです!」

「まだ、ストーブを付けてないから当然だ。ほれ、少ししたら暖かくなるから。て、お前もか!」

「ぶもぉー」

 

目を離した隙にブリッツェンは炬燵から頭を出していた。見た目に反して器用な奴だ。

ストーブに火が付き暖かい空気が炬燵へと送られる。寒かった炬燵の中が暖かくなっていくと、イヴとブリッツェンは緩んだ顔になり炬燵の魔力に捕まったようである。

 

「はぁー。あったかーいよー」

「とりあえず、俺が帰ってくるまでここにいること。呼び鈴がなっても出ない事。あと寝る時はストーブを消すこと」

「えー! それじゃあ寒いですよー!」

「うっ。……隣の寝室で寝て構わないよ。ただ、そこのトナカイは入れるなよ」

「分かりました。助けてもらっている身なので文句は言えませんからねー」

 

イヴは納得したようだがブリッツェンは自分だけ床で寝ることに異議を唱えているように見える。猫ならともかく、トナカイをベッドに招く人間がどこにいるのか。

プロデューサーはブリッツェンを無視して置いてあったコートを羽織る。「くれぐれも大人しくていてくれよ」と言い残し、彼は再び765プロへと向かった。

 

 

「それではあなた様、お休みさない」

「お休みなの、ハニー」

「ああ、お休み」

 

玄関でプロデューサーは貴音と美希を送ると玄関を閉め、鍵をかけてチェーンロックもしっかりとしてリビングに戻った。

765プロで無事に春香達との絆を取り戻した彼は一足先に自宅へ帰宅。一度居間を確認するとイヴとブリッツェンはおらず、寝室へ行くとイヴは彼のベッドで寝ていた。ブリッツェンは床で寝ていたので、それを見てプロデューサーは安堵した。

一息ついている中、予想通り二人はやってきた。色々あったが、予定通り二人にクリスマスプレゼントを渡すことができた。

ようやく二人が自室に戻り、プロデューサーはきっと肩の荷が下りた。

言えまい。あのいいムードの中で、寝室に見知らぬ女が寝ているのなどと。

知ったら愚痴だけでは済まされない。滅多打ち、いや、焼き討ち……! 想像しただけでぞっとする。

ソファーに座り一息つくと、寝室の扉が開きイヴが目をこすりながら出てきた。咄嗟にプロデューサーは二人がいなくてよかったと心の底から安心した。

 

「あの……。誰が来ていたんですか?」

「起きてたのか?」

 

と恐る恐るプロデューサーは聞いた。

 

「えーと、少し前に起きたので、声は聞こえただけですけど……」

「そ、そうか。それはよかった」

「よかった? 何がですが?」

「いや、こっちの話だ。で、起きたなら丁度いい。イヴ、君は明日からどうするんだ?」

「どうするって……。どうしましょうぉ」

 

聞いておいてなんだが、そう言うしかないだろうなとプロデューサーはイヴに同情した。服もない、金もない。おそらく、身分を証明する物だってないだろう。ずっとここにいさせておくわけにはいかない。いや、ここに住まわせておくわけにはいかない。

ではどうするかと、プロデューサーは考える。身分を証明する物。身分証明書、パスポート等はなんとか伝手を使えば用意はできる。しかし、そのあとはどうするかと言われると困る。

そもそもの話、イヴはソリがないと言っていたことを彼は思いだす。つまり、正規の手順を踏まず、ここ日本に不法入国していることになるのでは……。

いや、よそう。もう手遅れだ。

会ったばかりのイヴに親身になってなんとかしようと考えるプロデューサーは、ふとあるとても簡単ことに気づく。

(仕事ならあるな。それも即戦力になるやもしれん)

自分の仕事がなんだったのかと思い出す。試にプロデューサーはイヴに提案してみた。

 

「なあ、イヴ。俺から一つ提案があるんだが」

「提案?」

「ある仕事をすれば衣食住も保障されるし、なによりお金も入って君にピッタリの仕事があるんだ」

「え! そ、それはいったい……!?」

「アイドル、やらないか」

「……あいどるぅ?」

 

そのあとのことを語るならばイヴは二つ返事で承諾した。

この瞬間、「はい」と答えた時点で彼女の問題はすべて解決したといってよかった。アイドルになれば衣食住はすべて提供される。丁度女子寮も完成していたのでタイミング的にも問題はなかった。学生だらけの女子寮に数名成人したアイドルも居て欲しいと思っていたのでなおよかった。ただ、彼女が年上の女性としての威厳、まあ頼りなるかは別としてだが。

おれ個人としてもやらなければいけないことはほんの少しで、予想通り彼女の身分を証明する書類一式とその他諸々。すぐにとはいかないがすべて用意はできた。問題があるとすれば、人事部に書類提出するときに色々と疑いの目で見られたことぐらいだろうか。

なにせ、「イヴ・サンタクロース」である。クリスマスを体現したような名前だ。疑念を抱くのも問題はない。

しかしだ。彼女はまさにその名に恥じぬ活躍をみせる。

率直に、誇張せず言うと、十二月だけで相当の売り上げをあげるアイドルである。後にプロデューサーは一部のこうしたアイドル達を「季節限定アイドル」という枠を作った。共通しているのは、担当季節以外の活動は至って大人しく、その季節になると活動が盛んになるということである。

特にイヴは、十二月のクリスマスだけあって影響力はデカい。彼女のおかげで例年に比べクリスマスにおけるケーキの売り上げが伸びたという……。

ただ、クリスマス当日の仕事はある時間帯から入っていない。なぜなら、彼女はサンタが本業(本人談)。子供たちにプレゼントを届けにいくのだ。

そして、イヴをスカウトした翌年の同じ日。

ブリッツェンが引くソリの上でプロデューサーは、人生で初めて生身で空を飛ぶのを体験した。

 

 

イヴをスカウトしてから数日後。

外から帰ってきた貴音の手にはクリーニングから戻ってきたYシャツとスーツがあった。まだこの時は、彼の寝室に入っていない貴音は、Yシャツ等はリビングの壁にかけておいていた。それをあとで、自分で仕舞っていたのだ。

意外なことに貴音は記憶力がいいのか、本人ですら正確にいくつ所持しているのか怪しいのにそれを知っていたらしく、

 

「あの……あなた様。Yシャツが一着足りないような気がするのですが知りませんか?」

「いや、知らん。数え間違いじゃないのか」

 

そのことに気付いたことを驚くが、なによりも冷静に受け答えした自分をプロデューサーは内心褒めた。

 

「はて、おかしいですね……。たしかに、一着ないような気がするのですけど……」

 

雉は鳴かずば撃たれまい。つまり、そういうことである。

 

 

 

一富士ニ鷹三茄子、そんな言葉がある。初夢でそれがすべて出てきたら縁起がいいとよく誰かが言っているのを子供のとき耳にした。毎年といっていいほどに、わたしと初めて知り合った人は「そういえば、キミの名前ってそのまんまだよね」と、口を揃えて言う。

わたし――鷹富士茄子は、一富士二鷹三茄子を表した名前なのである。ちなみに、「なす」ではなく「かこ」と読みます。

別に茄子という名前はわたしが初めてではないと両親が言っていた。なんでも、代々鷹富士家に生まれる女の子はみな「茄子」という名前を与えられたという。それを聞いたときは、その話はあまりにも信憑性に欠けると思った。もしそうなら、鷹富士家のお墓に刻まれている名前には「茄子」がずらりと並んでいるからだ。

思っているだけでよかったのだが、わたしはそれをつい口に出してしまった。すると、話を偶然聞いていたおじいちゃんがやってきて「ここ数代は男ばかりだったからなあ」と言い、お父さんがさらに「鷹富士家は基本嫁を貰うか、女だったら婿を貰うんだよ」と聞いてわたしは何故か納得してしまった。それだけ「鷹富士」という家名を大事にしているということだからだ。

まあ、先の話になるがわたしに好きな人が出来たら婿に来てもらうのは確定のようだった。

鷹富士家の人間は共通しているモノがある。言葉にするならば「奇跡」、「幸運」の二つがしっくりくると思う。わたしのことをよく知る友人は「あんたって、人生イージモードよねえ」と、羨ましそうに言っていたのだが、まさにその通りで。

幼少のころから、運がいいと感じていた。くじを引けば大当たり。トランプの神経衰弱は一回で全部当てたり。それらのようなことが頻繁に起きるのだから不思議に思うかもしれない。わたしがそれをはっきりと自覚したのは、家にあったなんだか高そうな壺を誤って壊してしまったときに起きた。どうしようとあわてふためきながら、とりあえず破片を集めようとして手に取った瞬間――壺は元通りになった。

謎の現象にわたしは意外にも冷静だった。なので、もう一度上から落として割った。手に取ろうとすると、壺は元通り

これが、鷹富士家の人間が起こす「奇跡」と「幸運」らしい。

この体質のことを聞いたのは先程の話と一緒の時で、だからといってわたしの性格が変わるとかそういうわけではなかった。

わたしはその「奇跡」と「幸運」を自覚し、むしろそれで誰が幸せになることを祈っていた。

わたしはわたしらしく、である。

ただ一つ例外があるとすれば、ちょっとした家出みたいなものだろうか。当然というべきか、地元の人達は鷹富士家のことを知っているのでそれが逆に窮屈だった。上手く言えばが、わたしをわたしとして見てくれていないのではないかと疑問を抱いてしまった。

なので、地元の大学へは進学せず、東京の大学へと進学したのである。家族などには反対されたが言いくるめた。試験はもちろん勉強した。ただ、大学入試の試験方式はどうしてもマークシートがあり、なぜか全部当たってしまうので少し罪悪感があった。

当然だよと家族が言う中、わたしは無事大学に合格した。夢の一人暮らし、誰も知らぬ土地での生活が始まった。

過程は省くが、大学一年目の後半になるとやはりどこからかわたしの噂は広まるもので。いや、時間の問題だったかもしれない。わたしの体質目当てで色んな人間が近寄ってきた。悪い意味で。宝くじを買ってくれとかそういったものばかり。わたし自身意外だったのは、こうした欲に塗れた人間には作用しないことが判明した。

できるかどうか不安だったがわたしのことを知った上で友達でいてくれる親友ができたことだった。彼女は強いというかパワフルな子だったのでわたしの体質目当ての人間を追い払ってくれたのは今でも感謝している。

そんな一癖も二癖もある大学生活を送ること、気付けば新年を迎えてわたしは初めて地元以外の神社へと初詣に来ていた。地元以上の人だかりに圧倒されたが無事お参りを済ませて恒例行事のおみくじを引くことにした。

 

「あ。今年も大吉です。やったぁ!」

 

年甲斐もなくわたしはつい声を出してしまった。いつものことだろと言われるかもしれないが、わたしとってはやはり当たると嬉しいものなのです。

そんな時です。後ろから声をかけてきた大きな男性――プロデューサーと名乗る人に出会ったのだ。

結論から言えばわたしはアイドルになった。

彼からトップアイドルを目指さないかと問われたとき、ふとわたしは思った。いくらわたしが幸運だろうとトップアイドルには簡単にはなれないと。

自分の力で、トップアイドルを目指そうと。

友人には色々と言われた。しかし、茄子はこう言い返した。

だって、人生楽してばかりじゃつまらないから。と嬉しそうに彼女は言った。それに、気になる人も見つかったのだから。

 

 

あのおみくじの結果は結局当たったのだろうか、ふとプロデューサーは思い出した。なにせ新年早々それは当たり、鷹富士茄子というアイドルと出会った。彼女が言うには自分は幸運らしい、なのでおみくじの内容が本当なら彼女と出会ったことで今年の運勢は変わったことになる。

が、全然実感がわかないのだ。

仕事は順調、アイドル達との関係も良好、私生活……特に問題なし。

(平穏が一番といえばそうなんだけどさ)

トラブルもなく、アイドル達の仕事は順調。確実にアイドル一人一人がデビューをしてきている。これ以上何を望もうというのかと思われるかもしれない。

例えるなら……。そう、刺激。いや、実感が欲しいのだ。あのおみくじで大凶を引き、内容はあまりにも酷い有様。幸運の女神に出会ったことで自分の運勢が変わったというなら確証が欲しいではないか。

興味を示さなければいいのに、プロデューサーはどうしても確かめたくなってしまった。急ぎの仕事は特になかったので事務所を出て、近くにある宝くじ売り場へと足を運んだプロデューサー。しかし彼は生まれてから今日まで宝くじを買ったことはなく、どれを買っていいのか皆目見当もつかなかった。

スクラッチ。確かに安く手っ取り早いが、面白みがない。となると、ロトとかジャンボ宝くじになる。

(こっちでいいか)

特に理由もなくロト6を選んだ。一枚だけ購入して事務所に戻る。えんぴつをくるくると回しながら数字を考える。たった6個の数字を選べばいいだけなのだが、これが意外と頭を使う。

プロデューサーがうーんと唸りをあげていると、今回彼がこんな事をする原因でもあり、今年最悪の運勢を幸運に変えた女神――茄子が部屋にやってきた。

タイミングが良すぎる……。

自分がこうして宝くじを買って、それで悩んでいるところに彼女が現れた。まさにこれは幸運、神のお告げなのでは。

 

「あれ、プロデューサーさん。そんなに眉間に皺を寄せてどうされたんですかぁ?」

「ちょっと考え事」

「どれどれー。あ、ロト6じゃないですか。プロデューサーさんってギャンブルとかあまりしない人だと思ってました」

「いや、今回はたまたまな。まあ、運試し。あ、そうだ茄子。前に言ったよな。悪意とか欲を持ってお前にこういうことさせると当たることはないって」

「たしかにそうですけど……」

 

茄子をスカウト際に本人から自身の境遇と体質を聞いていたことをプロデューサーは思い出した。この瞬間に茄子が来ている時点で自分の運勢は変わったも同然だと判断し、折角買ったのだから捨てるのは勿体ない。

この際彼女に数字を選んで貰うことにしよう。彼女の言うことが本当ならどうせ当選なんてするはずがないとプロデューサーは考えた。

 

「なあ、茄子。適当に思いつく数字を6個言ってくれないか」

「えぇ……。まあ、プロデューサーさんなら別にいいかな。じゃあ……」

 

茄子は1個ずつ数字を告げた。4、8、15、16、23、42と、マークシートにプロデューサーはえんぴつで塗りつぶしていく。

(……? どこかで見て、聞いたことのある数字なような……)

一体それをどこで知ったのか思い出せなかった。ただ、その6個の数字はたしかに知っている数字だった。数字の順番とその意味を。

 

「プロデューサー……?」

「ん、ああ、大丈夫だ。問題ないよ」

 

茄子の声で我に返る。プロデューサーはそれから深く考えることはしなかった。

それから少し経って――。

外れているに決まっている、そう思いながら当選しているか確認してみると……当選していた。

(……どうするか、この金)

一等ではないが大金には違いない。しかし、この金を私用で使うのは何故か気が引けたので、

 

「なあ、茄子。欲しい物はないか?」

「え、どうしたんですか突然?」

「深い意味はないぞ。うん、ないんだ。ただ、そのな、ふとそういう気分になったんだ」

「急に欲しい物があると言われても……。あ、ちょうどお昼なのでご飯が食べたいです」

「よーし。なら、行くか。何が食べたい? 何でもいいぞ!」

「いいんですかー!? じゃあ……」

 

以後プロデューサーはこの資金を茄子のためではなく、アイドル達全員に使おうと決意したのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘予告

 

 

今では珍しくもなくなった海外でのロケ。今回は「346プロダクション どうぶつアドベンチャー オーストラリア編」ということでオーストラリアにプロデューサーを始め、出演するアイドル達は異国の地へと赴いていた。

ロケ終了後、一人で先に帰国することになっていたプロデューサーであったが、滅多に使わない有給を事前に申請していた彼は日本に帰国するのではなく、なんとアメリカに行くことにしていたのだ。

目的地はロサンゼルス。一体なにをしにいくというのか。

彼はシドニー発ロサンゼルス行きオーシャニック815便に搭乗。飛行機は無事空港から飛び立ちロサンゼルスへ向かう。そう、快適な空の旅になるはずだった。

飛行機が墜落するまでは……。

奇跡的に助かったプロデューサーを含めた49人の生存者は救助達が来ると思っていた。

だが、そんな彼らを数々の脅威が襲い掛かる。

生息しているはずのないホッキョクグマ。

「グォオオオ!!」

「怖いかクッソタレ! 当然だぜ、元グリーンベレーのオレに敵うもんか!」

この島に住んでいる原住民たちの目的とは。

「僕はキミの事をなんでも知っているんだよ。なんなら、キミのアイドル達今どうしているか見せてあげようか」

「どうやらマヌケは見つかったようだな……」

そして……。謎の化け物。

「見せてやろう。プロデューサー道の神髄をな!」

多くの謎をかかえるこの島で彼らは選ぶ。島で生き抜く者、島から脱出を試みる者、島の秘密を探す者……。

プロデューサーもまた一人で行動していた。島の秘密を知ることができればきっと脱出できる。故郷に待つアイドル達、そして……貴音と美希の下へ帰るために。

そんな時、彼は光る奇妙な穴を見つけた。そこで彼はある男に出会い、言われた。

「僕はジェイコブ。きみにこの島で起きることを見届けてほしい」

彼の頼みを素直に聞くプロデューサー。

果たして、プロデューサーは無事に島から脱出できるのか。

 

LOST 第一話 「プロデューサー墜落」

 

 

始まりません。

 

 

 

 





今回はイヴと茄子の話でした。茄子に関してはほぼ捏造です。
最後の数字ネタは海外ドラマのLOSTネタです。
ちょうどこの話を考案してた時ですから、去年の12月辺りにHuluでLOSTを一気に見ていたのでその時に思いつきました。、
ちなみに自分はロト6買ったことないです。
あと、この数字で実際に当たったことがあると知った時は驚きました。


とりあえずこれでひと段落です。次はシンデレラプロジェクトのメンバーの一部をある人物の視点での話の予定。ようはデレマスの前日譚ですね。

個人的にはデレマスに入る前に今い346のアイドル達で幕間をしたいですね。話の案はあるんですけど……。


では、また次回で。

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