銀の星   作:ししゃも丸

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よし、一週間以内に投稿できたな!


幕間劇 奥様の職場チェック

 二〇一四年 八月頃 美城プロダクション正面ゲート前

 

 346プロの正面ゲートは大勢の人がよく行き交う場所である。社員であったり、来賓の人間だったりと。ある意味一番目立つ場所である。今日も強い日差しが降り注ぐ中、一際人々の目を奪う存在がいた。

 美しい銀色のロングヘアに、夏にぴったりな白いワンピース、白ハットを着こなし手にはトートバックを持っている女性がいる。彼女はゲートの真ん中に立って事務所を眺めていた。

 346プロの正面にはお城のような本館があり、その後ろには大きくそびえるオフィスビルが建っているのだ。目を奪われるのも仕方がない。

 しかし本人が思っているよりも、建物より彼女の方が一番目立っていた。なにせ、男性からはまるで映画や美しい絵画に出てきそうな女性がそこにいるのだ。むしろ、自分の理想像である女性そのものであるかのような。

 そう抱くのは男性だけではない。同じ女性でありながら白いワンピースにハットを完璧に着こなしている彼女に憧れとほんの少しの嫉妬を抱かせていた。

 残念ながら彼女の素顔を見ることは叶わない。今の服装に少し似合わないサングラスをしているからだ。だが、素顔が見えずともきっと美人に違いないと誰もが思うことだろう。これで美人ではないのならとんだ詐欺だ。

 彼女は周囲の目を気にせず歩き出した。彼女の前を歩いていた人たちは自然と道を開けた。まるで王女のようである。歩き方もそう思わせるかのようにゆっくりと上品に歩くものだから、ますます王女だと錯覚させた。

 本館へと入ると、外と変わらぬ対応を誰もがした。彼女はそのまま正面にある受付へと向かっていく。

 受付をしている二人の女性社員は動揺を隠せず、慌てふためいていた。彼女達二人も346プロに所属する女優やアイドルを頻繁に見ている人間である。だからこそ、分かってしまった。女優やアイドルとういう枠組みに入るような人間ではないと。

 二人の前まで彼女がやってくると、一人が戸惑いながらも対応をした。

 

「ほ、本日はどのようなご用件でしょうか……!?」

「あの、わたく……こほん。わたし(・・・)、ここにいるプロデューサーに会いに来たんです」

『プロデューサー……?』

 

 二人は顔を見合わせた。ここ346プロでその役職を与えられている人間は多くいるが、それを指す人間は一人しかいない。

 

「あのー、もしかしてチーフのことでしょうか?」

「ちーふ?」

「あ、申し訳ございません。アイドル部門チーフプロデューサーのことです。私達はチーフと呼んでいるので」

「あ、そうなんですか。はい、わたしが会いに来たのは、そのちーふという人です」

「わかりました。アポイントは取られていますでしょうか?」

「いえ。ただ、わたしが来たと言えばわかると思います」

「はあ……。一応連絡をしてみますが、えーと、お名前をお伺いしてもいいでしょうか?」

「そうですね……。たか……ではなく、天音です。プロデューサーはわたしの兄なんです。そう言えば通じると思います」

『え゛!?』

 

 その場にいた社員全員が彼女の笑顔に呆気にとられ、さらにチーフにこんな綺麗な妹がいることに驚き、誰もが数秒ほど硬直した。

 

 冷房が行き届いたオフィスで、最高な気分でプロデューサーは仕事をしていた。彼のトレードマークのようで、存在そのものを象徴するスーツの上着も、さすがのプロデューサーも脱いでおりYシャツ姿だった。

 今は簡単な書類を作成している最中だ。簡単と言っても一つではない。同じようで、違う物をいくつも作成し、担当プロデューサー達やスタッフに渡さなければならない。その他にも、幹部や上層部に提出する報告書も作成しなければいけない。それが、チーフプロデューサーになって面倒だなと思う仕事でもあった。

 体内時計がそろそろお昼ごろだと告げたような気がして腕時計を見る。ちょうど五分前だ。

 さて、今日はどうするかとプロデューサーは悩んだ。

 外に出て外食か、それとも346カフェか、はたまた妥協してコンビニで済ませるか。これは、かなり難題だ。どれか一つを毎日選ぶのも味気ないし、かといってローテーションという手もあるが結局飽きる。しかし、どの選択肢を取ろうとも結果は同じで変わらない。どの道諦めてどれかを選ぶ。まあ、腹に入ればそれでいいのだ。

 

「よし。今日はカフェに行くか」

 

 決断すると、Wordを閉じてデータを保存、パソコンの電源をスリープにしておく。どうせ、帰ってきたらまたするのだからシャットダウンは手間だ。

 上着を肩にかけて部屋を出ようとすると、タイミングよく備え付けの電話がなった。登録してあるようで画面には受付とあった。

 はて、来客の予定はなかったはずだったが。今日のスケージュールを思い出しながら彼は受話器を取った。

 

「もしもし」

『受付ですが、今チーフにお客様がお見えです』

「誰なんだ? 今日は来客の予定は入っていないぞ」

『いえ、その……それが』

「じれったいな。はっきりと言ってくれ」

『実はその……。チーフの妹さんが尋ねてきたのですが……』

 

 聞きなれない言葉が耳に入った。

 オカシイ。オレに妹なんていない。弟はいるが、妹なんぞいない。アレか、オレを懐柔させようとどこかの事務所が仕込んだハニトラだろうか。

 いや、待てよ……。

 持ち前の直感が何かを告げた。これはきっとその類ではないと。ある一つの答えが頭の中に浮かびあがる。たが、まだ確信まで至ってはいない。

 なので、ここは話を合わせて情報を引き出すべきだ。

 

「そ、そうなのか。念のため確認したいんだが、どういう容姿かな」

『は、はあ? 容姿、ですか? その、白いワンピースに同じ色のハットを被って、少し大きめのトートバック持っていて……。あと、綺麗な銀色の髪をした妹さん、です?』

「……すぐ行くから、絶ッ対にどこにもいかせるなよッ!」

『え。あのチ――』

 

 確信どころではなかった。

 受話器を乱暴に叩きつけて部屋を飛び出す。外の暑さなど気になどならないほど全速力でエレベーターの前まで走ると、漫画のように『キキィッ!』と音を鳴らしながら止まる。何度もカチカチと下に行くボタンを連打する。しかし、エレベーターはやってこない。確認するとまだ10階。

 プロデューサーは待てずに非常階段を使った。階段の半分まで降りるとジャンプし、少しでも早く降りることを考える。

 プロデューサーはわずか数分で31階から1階へとたどり着いた。ギャグ漫画のようである。彼は非常口の扉を少し開けて周囲を確認。視線がこちらに向いていないことを確認し、すっと外へ出る。受付が見える位置までいく。そこにはたしかに、妹を名乗る謎の女性が一人いた。語る必要もないぐらい見知った女性であった。それも毎日のように顔を合わせているかのように。

(事務所に来るなってあれ程言っただろうが!)

 346プロへ移るにあたって、彼はあの二人に耳にタコができるほど言い聞かせていた。あの二人のことだ、何か理由を取ってつけてやってくるに違いないと思い先に手を打ったのだ。だが、無意味に終わってしまったようだ。

 ふぅと息を吐き、平静を装いながらプロデューサーは歩き出した。

 

「やあ、待たせてすまない」

「あ、チーフ。この子が先程連絡した――」

「まったく、アレほどここには来るなって言っただろうッ」

 

 顔は笑顔、しかし声にはとこどころ怒りを交えて強調している。

 

「あら、いやですよ兄さん。わたし、兄さんが忘れたお弁当を届けに来たんですよ? そんな風に言われるのは心外です」

「――ッ!」

「あのぉ、本当にチーフの妹さんなんですか?」

 

 受付嬢の一人が疑いながら聞いた。周りの社員も歩みを止めて、聞き耳を立てる。プロデューサーは天音の肩に手を置いて紹介した。

 

「いやね、誤解される言い方をするからオレも困っていてね。この子、俺の姪っ子なんだよ。ほんとっ、困った子だよ。ハハハッ! まあ、折角来たんだから茶ぐらい出そう。それじゃ、仕事頑張ってくれたまえ!」

 

 天音を後ろから押しながらエレベーターまで連れて行く。ちょうど戻ってきたのか、扉が開くと数名の社員が乗っており、驚いた反応した。向こうらしたら、あのプロデューサーが見覚えのない女性を連れているようにしか見えない。

 

「はい、退いて退いてー。上へ参りまーす!」

 

 強引に中へ入ると、彼らも外に出ながら扉が閉まるまで二人を見ていた。

 エレベーターが動き出したのを確認し、二人しかいないはずの室内を見渡す。誰もいないことを確認し、プロデューサーは無理やりハットとサングラスを奪った。

 

「もう、兄さんは強引なんですから」

「誰が兄さんだ!? アレほどここに来るなと言っただろうが、貴音!」

 

 なんと、天音と名乗っていた女性は今を時めくトップアイドルの四条貴音ではないか。これは一体どういうことなのだろうか。

 

「天音なんて適当な名前まで考えやがって! 周りから変な目で見られるのはオレなんだぞ!?」

「カツラをしていない割には意外とばれませんでしたね。意外でした」

「それもそうだが、いつもの口調で喋れ! 気持ち悪いんだよ、なんだか」

「あなた様も失礼ですね。妹という設定でなりきるために口調や素振りも色々と考えたんですよ? 名前はつい先程考えましたけど」

「はぁ……。もう、怒るのも馬鹿らしい。で、何の用だ」

 

 壁に背を預けて腕を組みながら彼は尋ねた。

 

「先程申したではありませんか。お弁当をお持ちしたんです」

「だったら連絡して外で渡すとかあるだろう」

「こっちのがいいじゃないですか。夫婦みたいで」

「……」

 

 ニコニコと笑う貴音を前にプロデューサーはすべてを諦めた。

 チンと音が鳴る。どうやら31階に着いたらしい。プロデューサーは慌てて貴音にハットとサングラスを戻した。

 

「強引なんですから。もっと優しくしてください」

「いいから、その設定とやらに戻れ」

「はい、兄さん」

 

 切り替えの早さはさすがと言うべきか。ドラマや舞台などで培った技術がこんな場所で発揮されるとは思いもよるまい。

 扉が開くと立っていたのはアイドル部門担当事務員である千川ちひろであった。

 

「あ、プロデューサーさん、ちょうど探して……。あの、その方は?」

「いや、なに。オレの客だ。ああそうだ。千川、今から一時間ほど誰も部屋には入れないでくれよ! オレは遅い昼休みに入るからな」

「え、ちょっとプロデューサーさん!?」

 

 ちひろが呼び止めるのも聞かず二人は去っていった。

 

 部屋に戻り鍵を念のためかけた。これで安全だ。

 プロデューサーはソファーに腰かけた。その姿は社内で見せることはない彼のだらしのない姿だ。

 当たり前のように貴音はプロデューサーの隣に座り、バッグから弁当と水筒を取りだす。弁当の蓋をあけて、水筒のコップに冷たい麦茶を注いで準備完了。彼に箸を渡しながら言った。

 

「はい、どうぞ」

「……いただきます」

 

 弁当の中身は至ってシンプルだった。白米と肉とちょっとおまけの野菜。ずばり、これは生姜焼き弁当というやつだ。肉を一切れ掴み口に運ぶ。

 うむ。相変わらず上手い。それに、冷たくない。まるで、作りたてだ。

 

「冷めてないからうまい」

「ありがとうございます」

「……うまし」

「ふふっ」

 

 ぱくぱくと口に運ぶ。身体が、胃が、貴音の手作り弁当を求めている。

 否定できぬほど彼女の料理に毒されているのを認めるしかあるまい。気付けば弁当箱の中身は空っぽになってしまった。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様です」

 

 淹れてもらった麦茶を飲みながらプロデューサーはふとある事を思い出した。

 

「そう言えばお前、いま合宿中じゃないのか?」

 

 今年の十一月頃に765プロによる大規模なライブを行うと貴音と美希から聞いていた。なんでも大勢のバックダンサーも使うらしく、彼女達を含めた全員とライブに向けてレッスン中だった。それが原因で貴音と美希もここのところ家にいない日が多かった。

 

「今日の午前中にいつもの番組の収録があったので帰って来たんです。明日の朝にまた戻ります」

「それじゃあこのあとは暇なのか」

「そうなりますね。掃除は午前中にしてしまいましたし、帰ったらゆっくりしようと思っております」

「そうか。なら、今日は早く帰るか」

「はい、お待ちしております。それに今日は二人っきりですから、色々としてあげますよ?」

「調子に乗るな」

 

 ぺしっと貴音のおでこにデコピンをした。

 

「いたっ。もう、あなた様!」

「ほら、帰った帰った。俺は仕事で忙しいの!」

 

 貴音を追い出し、早く帰るために仕事に戻る。まさか、この時同じことが起きようとは思ってもいなかった。

 

 数日後。

 

「お兄ちゃんの妹のみ……希でーす!」

「オマエなァ!!」

「ち、チーフ?」

「あ、こいつ天音と姉妹なんだよ。似てるだろ、美人なところがな!」

「照れるの」

 

 名前は希、天音の妹という設定で美希も来襲した。

 なんだかんだで、プロデューサーは自分のオフィスに美希を招き入れた。

 

「なんでお前まで来るんだよ……」

「あれ? 貴音が言ってなかった? ミキも行くって」

「言ってない!」

「じゃあいま言ったの。まあ、それは置いておいて。はい、ミキの手作り弁当だよ!」

 

 美希に流れてプロデューサーは彼女の弁当を食べ始めた。美希が得意とするおにぎりがメインで弁当箱にはおかずがたくさんあった。

 

「うまいから何も文句が言えん……」

「えへへ」

「なあ、本当に弁当を届けにきただけだよな? 他に何か企んでるわけじゃないよな」

「疑うなんて酷いの。ミキも貴音もハニーの食生活のためにやってるの」

「う、それを言われる辛い」

「でしょー。ほらほら、もっとたくさん食べるの!」

「お、おう」

 

 その後、月に数回に渡り貴音と美希は弁当を届けるという口実に346プロにやってきてはプロデューサーを困らせた。

 当然社員だけではなく、アイドル達にもそれを目撃しひと騒動を起こすのは別の話。

 

 

 ある日の事。

 

「かれこれ数か月ほど偵察をしたわけですが……」

「いい成果が得られたとミキは思うなあ」

「同感です。では、報告といきましょうか」

 

 貴音と美希が彼に弁当を届けていたのは半分本当で半分嘘であった。真の目的は346プロへの潜入。それもプロデューサー周辺の女性関連、特にアイドルの調査であった。

 

「時間的にもあんまり遭遇しなかったけど、ミキと同年代の子は怪しいと思うの」

「大人組はあまりそういった感じはしませんでしたね。まあ、所属している人数も少ないので、今後も要注意ですが」

「それは同感なの」

 

 テーブルの上には態々買ってきた346プロダクションの特集が組まれている雑誌がある。二人は潜入して得た情報を照らし合わせながら今後の対策を練っていた。が、大半が彼のスカウトしたアイドルばかり。偶然本人を目にする機会は多々あれど、直接話すことはなかったので、実際にどういった人間なのかを知ることはできなかった。だが、二人は直感的に感じていた。「絶対にこれアレだな」と。乙女の直感は鋭い。

 ふと貴音はアイドルではなく、ある女性が脳裏に思い浮かんだ。

 

「そういえば……。一人、気になる方が下りましたね」

「え、誰なの? ミキはここに載っている子以外にはいなかったの」

「それも当然です。アイドルではありませんから」

「うーん、アイドルじゃないなら……事務員?」

「ええ。なんて言いましたか……。せ、せ……千川、とあの方が言っておりましたね」

「事務員かー。でも、事務員なんでしょ? それに苗字で呼んでいるし」

「甘い、甘いですよ美希。ほんの一瞬でしたが、わたくしは感じました。千川という方はあの人に気があります。そんな気がします」

「それは盲点だったの……。あ、事務員で思い出したけどさ。小鳥もそうだよね」

 

 小鳥も765プロの事務員であることを思いだした。二人の関係はすでに十年は経っているし、自分たちより付き合いは長い。そんな彼女もプロデューサーのことをどこかで想っているのではと睨んでいる。

 

「小鳥殿も今の関係をずるずると引っ張ってきて、もう後に引けない感じですから」

「年齢的に?」

「それを口に出さないのも一つの優しさですよ、美希。それに、わたくしたちもそうならないとは限りませんし……」

「だよねー。ハニーってば、なんで結婚をしないのか全然教えてくれないの。今年でたしか……三十二だっけ?」

「そうですよ。たしかに美希の言うように、『今は結婚する気はない』の一点張りですからね」

「ほんと、謎なの」

 

 二人はその『今は』、というのがよく分からないでいた。ならば、『何時』ならいいのだろうか。彼の年齢的に結婚はしてもおかしくはない歳だし、こんな二人の美女がいるというのになぜ断るのか。

 こちらはすでに、ばっちこーいだというのに。

 まったく理解できない。

 

「まあ、それはとりあえず置いておいて。346プロのアイドル達への対策を考えましょうか」

「賛成なの! とりあえず、ハニーのLINEでも調べる?」

「それにはまず、ロックを――」

 

 さり気無くゾッとするようなことを言いだした二人。プロデューサー本人が存じぬところで着々と二人の計画が進められていた。

 ただ一つ、二人の現状の問題としては……。

 彼の部屋で対策を練るというのは少しずれている、ということであった。

 

 

 




やっぱり貴音と美希を定期的に出さないと駄目ですね。

にしても本編よりも幕間のネタのがたくさん思い浮かんでしまう……。
色々と書きたいが時間が足りないよー。

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