銀の星   作:ししゃも丸

32 / 60
幕間劇 シンデレラ・パニック!?

 

 

 それは誰が言いだしたのか。

 いや、誰かではなく、誰もが疑問に持ち、つい口に出してしまったことだったのかもしれない。

『プロデューサーって、謎が多すぎない?』

 そんなことも相まって、非公式で行われた「346プロダクション 社内で気になる男性ランキング」では堂々の二位である。ちなみに一位は美城会長。

 女性社員たちの中ではその話で持ちっきりで、それはもちろんアイドルも例外ではなかった。

 といわけで。

 現在346カフェでは偶然仕事もレッスンもないアイドル達が集まっていた。

 

「最近プロデューサーの話題で持ちきりなわけだけど……。あたしたちが知ってることってどのくらいあるのか、お姉さん気になってしょうがないのよ!」

 

 元婦警という驚きの肩書を持つアイドル、片桐早苗が他のアイドル達に話を振った。この手の話題が大好きな彼女は興味津々であるのだ。物足りないのはビールを片手に騒げない事だろうか。

 

「えーと、推定で身長が180から190センチで」と藍子が。

「歳は今年で32歳ですね」とまゆが。

「け、血液型は知らないな……」と栽培しているきのこを片手に輝子が。

「……出身地も、知らないよね……」と輝子の隣に座る小梅が。

「わたしたちアイドル部門のチーフプロデューサーですよねぇ」と愛梨が。

「わたしのサイキック師匠(マスター)でもありますね!」と裕子が。

「あと! プロデューサーはとてもいい人だと思います!」と茜が。

「あれですよ、筋肉モリモリマッチョマンのプロデューサーです」と菜々が。

 

 アイドル達が思い浮かぶことを上げたが、思いついたのがこれぐらいだという現実にがっくしと彼女達は肩を落とす。特に最後のはあまり伝わっていなかったようで。伝わるのは大和亜季ぐらいであろう。

 

「ほんっとうにこれぐらいしかないのよね……」

「あの、早苗さん……」

「なに、藍子ちゃん」

「私もプロデューサーさんのこと気にならないって言ったら嘘になりますけど、どうしてそこまで知りたいんですか?」

「なにって、面白いからに決まってるじゃない!」

 

 ドヤ顔で早苗は言った。

 

「それにまゆちゃんだってもっと知りたいわよね?」

「否定はしませんけど。どうしてまゆの名前が出るのか気になりますね……」

 

 笑顔で言うまゆの表情はどこか寒気を感じさせるほどであったが、早苗は気にせず話を続けた。

 

「それによ! 向こうはあたしたちのあんなことや、こんなことを知ってるのよ! 不公平じゃない!」

 

 公式HPや雑誌等に載せる自分達の趣味とか特技、それにスリーサイズまでも知られているのだ。アイドルなので仕方がないと言えばそうだ。しかし、それでは納得がいかないのだと早苗は言う。

 早苗の意見に彼女達も否定はなく、むしろ同意するところではある。が、早苗のようにそこまでして知りたいというほどでもなかった。ていうか、直接聞いても教えてくれないと思うからだ。

 

「なんかこう、ないの? とっておきのネタ」

「ネタって、プロデューサーを脅すんですか?」

「やあね、物の例えよ例え。でも、それもいいわよねえ。それで毎回飲み代を払ってもらおうかしら。菜々ちゃんだってその方がいいでしょ?」

「な、何を言っているんですか!? ナナは17歳なんでっ、お酒は飲めないですよ!」

 

 必死に否定する菜々であったが、一部というか大半のアイドル達は察していたのであえて何も言わなかった。言葉にするだけが優しさではないのだ。

 すると向こうから川島瑞樹と高垣楓がやってきた。

 

「あら、あなた達なにやってるの?」

「なんだか、盛り上がってますね」

「あ、瑞樹ちゃんに楓ちゃん! 実はカクカク」

「シカジカ」

「マルマルということなんですね。なるほど、それは確かに気になりますね。あ、瑞樹さんってチーフのこと前から知ってるって言ってませんでした?」

「え、そうなの! そういうことはもっと早く言ってよ瑞樹ちゃん!」

 

 楓の言葉に早苗だけではなく、他のアイドル達も興味を示した。

 

「前って言ったって……ねえ? 知っているといっても、私がアナウンサー時代の話よ?」

『うんうん。それで?』

 

 声を揃えて言う彼女達に瑞樹は負けたのか、小さなため息をついて椅子を持ってきて座ると話し始めた。

 

「ぶっちゃけるとね、プロデューサー君って以前どこかのテレビ局に居たっていうのは知ってるのよ」

「テレビ局、ですか? それって、番組のプロデューサーでもやっていたんですか」

 

 まゆが聞くと瑞樹はそうよと答えた。

 

「なんでも凄い優秀だったらしいわ。だから他の局とか引っ張りだこだったみたい。ただ彼、そんなに長く所属してなくてあちこち異動してたのよ。私も風の噂ってやつだけど、その時はフリーでやってたって噂を聞いたわ」

「へえ―……プロデューサって前から、凄かったんだね……」

「さ、さすがは親友だな……。ま、まぶしいぜ……」

「じゃあ、その間にアイドル事務所にもいたってことですかね? ナナが出会ったのはプロデューサーがここにいる時ですから」

「そこのところ瑞樹ちゃん知らないの? その情報ってすっごく役に立ちそうだけど」

 

 それを言うなら脅迫のネタに役に立つの間違いであろう。

 

「さすがにそれはねえ……」

『ん―――』

 

 彼女達の、346プロアイドル部門の初期メンバーで一部の人間からは一期生と呼ばれる世代のアイドル達は知っているのだ(ちなみにCPは三期生らしい)。

 それは名刺である。

 そう、プロデューサーの名刺だ。彼が346プロに来たばかりは765プロの名刺を代わりに使っていたのだ。ご丁寧に事務所の電話番号に彼の携帯の番号がしっかりと。

 しかし、それに気付く者はいなかった。あのまゆですら、大事に保管しているのにも関わらず思い出せないでいた。

 みんな腕を組んで悩んでいると、ブリッツェンと共に346プロのサンタ系アイドルであるイヴと現人神系アイドルの茄子がやってきた。

 

「あれ、みなさんどうしたんですかぁ?」

「なんだかとてもお悩みのご様子ですが……」

「あ、イヴちゃんに茄子ちゃん! ちょっとプロデューサーの秘密とかなんでもいいから知らない!?」

 

 何がなんでも彼の情報を得ようと必死な早苗であった。

 

「そうですね……わたしが出会ったのは去年の初詣の時ですけど……。ん――? なにかあったような……」

「頑張って茄子ちゃん! イヴちゃんも何かないの!?」

「ええぇ、わたしですかぁ? ん―、そうですね……」

「ぶも」

「え、ブリッツェン。何か知ってるの? うん、うんうん」

 

 ブリッツェンの言葉がわかるのかというツッコミはなく、イヴが耳を傾けて聞いていた。

 

「ああ! そんなこともありましたね!」

「なになに、イヴちゃん何かとんでもないネタでもあるの!?」

「実はわたし、プロデューサーと一緒に寝たことあるんですよぉ」

 

 瞬間、時間が止まった。

 思考も身体もほんの一瞬だが止まった。世界もついでに止まった。動いていたのはイヴとブリッツェンぐらいであった。

 時が動き出すと、声には出さないがみんなおろおろと慌て始めた。年齢で分けると、大人組は寝た意味をそっち方面に捕えており、学生組は顔を赤くしているところを見えればそういうことで、ちびっこ組はあまり理解はしていないが驚いた様子。

 代表して早苗が彼女に尋ねた。

 

「寝たの? プロデューサーと?」

「はい、困っていたわたしを家に入れてくたんですよぉ」

「直接!?」

「お、お姉さんもこれにはビックリよ……」

「ちなみにイヴちゃん。どうだったの?」

「瑞樹さん、それは小さい子がいる前で聞くのは……」

 

 楓は止めようとしているようだが、目はちらちらと行ったり来たり。彼女も気になって仕方がないらしい。

 

「どうって……プロデューサーのベッドは暖かくて気持ちよかったですよ? わたし詳しくはありませんけど、プロデューサーって結構いいところに住んでるんですよねぇ」

「……もしかして、寝ただけ?」

「そうですよ。他に何があるんですかぁ?」

「よかったような、よくなかったような……。なんだが、お姉さん複雑」

「わかるわ」

 

 期待したものが得られなかったことに落胆した一同であったが、早苗はふとあることに気付いた。

 

「ちょっと待って。じゃあ、イヴちゃんってプロデューサーの住んでる所知ってるってことよね!?」

『たしかに!』

「え、知りませんよ」

『……』

「どうしてよ! だって、プロデューサーの家に泊まったんでしょ! だったら家じゃなくてもある程度周りの建物とか風景で特定できるじゃない!」

「その……夜中だったこともあって覚えてないんですよ― ! 翌日もプロデューサーに朝早くから色々連れ回されて、周りの風景とか見る余裕とかなかったんですぅ! あと、その日が初めてわたしが日本に来た日でもあるので、全然土地勘とはわからないんですけどね!」

 

 あの日は暗く、タクシーに乗って彼のマンションまで行ったのはちゃんと覚えているイヴ。しかし、今言ったことの他に覚えているのは、なんだか家賃が高そうなマンションで、部屋もすごくよかったことぐらいだった。

 

「もうぉ! これじゃあ結局振りだしに戻っただけじゃない!」

「ま、そうそうプロデューサー君の秘密なんてわかるとは思ってなかったわ」

「ところで、イヴさん。まゆ、もうちょっとそのお話を詳しく聞きたいんですけど?」

「え、まゆちゃんなんだか怖いよ?」

「あの……」

 

 そんな時、茄子が手をあげて言った。

 

「どうしたの茄子ちゃん?」

「わたしたちではわからないなら、知ってそうな人に聞けばいいんじゃないでしょうか」

「それって誰よ?」

「それは――」

『それは?』

 

 

 で、

 

「どうして私、みんなに囲まれているのかわからないんですけど」

 

 ちひろは声を震わせながら言った。

 茄子が挙げた人物は彼女のことだった。休憩に入ろうとしたちひろを早苗が拉致して、346カフェから場所を移して、彼女達の待機ルームへと連行したのだ。

 

「なに、ちょっと質問に答えてほしいだけよん」

「質問に答えますから早くしてくださ―い! ただでさえ、一日に数回しかない貴重な休憩時間なんですよ!?」

「わかった、わかったわよ。それじゃあ、聞くわね……。ちひろちゃん、あなたプロデューサーの個人情報知ってるわよね?」

「知りませんよ、私」

「嘘言わないの! 事務員であるちひろちゃんなら彼の秘密の一つや二つ知ってるでしょうが!」

 

 バンッ! とテーブルを叩く早苗。その構図はまさに警察の取り調べのようである。

 

「本当ですよ! そもそも担当が違うんです! うちは個人情報の管理にはすごく気を使ってるんですから!」

「あら、そうなの? その割には私達アイドルのプロフィールとかは公開するわよね」

 

 と瑞樹が横やりを入れると、他の子達もうんうんと頷いていた。

 

「それはあなた達がアイドルだからです」

「それもそうよね」

「論破されるの早いですよ瑞樹さん……」

「特に重要人物に関しての個人情報は徹底的に総務部に管理されてるんですから!」

「なにそれ初耳」

「私だって存在だけですよ。なんでも、会社にとって有益な人間がそのリストに載るらしいって噂です」

「それにプロデューサーも入ってるんですか?」

「あの人はかなり特殊だから……」

 

 ちひろはあえて言わないが、はっきり言えばこういう状況を見越しての措置だったのだろうということに気付いていた。

 プロデューサーの場合は、彼の特殊な経歴や会社が得る利益の方が大きいため必然的に情報規制が敷かれるのは当然だった。彼自身や会社もアイドル達がこういった行動を起こすことを見込んで対応を以前からしていた。もちろん、アイドルだけではなく社員も含まれていた。現にちひろも人の事は言えず彼のことが気になっているのは事実。

 ようはアイドル達が起こす騒動を未然に抑える目的である。特にプロデューサーはアイドル達から好かれやすいため特に厳重である。

 

「ぐぬぬ。結局進展なしか」

「早苗ちゃん、さすがに諦めましょ。相手が悪すぎたのよ」

「いや、まだまだ諦めないわ! こうなったら、アレよ!」

「アレ?」

「ちひろちゃん、今日ってプロデューサーいつ仕事終わるの?」

「たぶん……。今日は定時だと思いますけど……」

「あなた、まさか……!」

「ふっふっふ。そのまさかよ!」

 

 

 時刻は17時過ぎ。一部の社員たちは定時になり上がり始めるころだ。最近は仕事が落ち着いているのか、プロデューサーも定時をちょっと過ぎたくらいで帰宅できていた。

 プロデューサーが346プロの正面ゲートを出て街の方に向かって歩き出す。彼の後方10メートルの地点で謎の女性集団があとをつけていた。

 

「あの、私帰っていいですかぁ?」

 

 泣きそうな声でちひろは早苗に駄目元で聞いた。

 

「だ・め」

「ううぅ、今日は早く帰れるからゆっくりしようと思っていたのに―」

「それは残念。でも、ちひろちゃんだって気になるでしょ? 彼の秘密」

「それは、そうですけどぉ……」

「それにしても、尾行だなんて。元刑事(デカ)の血が滾るわ……!」

「あのぉ、早苗さんって元婦警さんだったんじゃ……」

 

 小さな声で藍子がツッコミを入れた。

 

「(元刑事(デカ)だけに、やることがデカいね)」

「楓ちゃん、何か思った?」

「いえ、別に」

「さ、行くわよ! みんな、お姉さんに付いてきて!」

『お――!』

 

 周りに迷惑をかけないよう小声で声をあげた。それでも、目立っているのだが。

 そして、プロデューサーの尾行作戦がついに始まった。

 現在わかっていることは、彼はタクシーやバス、電車を今の所利用していない。このことから、彼の自宅は徒歩で比較的近くと推測される。

 ただ、現在早苗達一行に小さな問題が起きていた。それは当然のことで、どうしても周囲から目立っている事だった。固まった女性の集団がこそこそ歩く姿は歩行者達の注目を集めていた。

 いくら変装をしていても気付く者はいるようで、

(あれってもしかして高垣楓……?)

(あの小さくて可愛いのって小梅ちゃんじゃない!?)

(ママ、ウサミンがいるよ!)

(こら、指を向けちゃ駄目でしょ!)

(あ、サンタのお姉ちゃんだ)

 と、それぞれ特徴的なアイドル達の正体など簡単に見破られているのだった。

 早苗達もさすがにそろそろ不味いと思い、次の行動に移そうとしたその時である。プロデューサーが角を曲がり、彼女達は走り出して彼の姿を確認しようとした。

 

「……いないわ」

「あら、ほんと」

「見失って一分も経ってないわよ!?」

「……もしかして、気付かれた……?」

「あの子も……わからないって、言ってるよ……」

「あの子って誰ですか!?」

「茜ちゃん、世の中には知らないことってあるんですよ……」

 

 プロデューサーを見失い、次の行動をどうするべき考え始めようとしたその時である。この状況を打開するため一人の少女が名乗りを上げた。

 

「みなさん! ここはわたし、エスパーユッコにお任せを!」

「ユッコちゃん、無暗にサイキックパワーを使うのは駄目だってプロデューサーさんが……」

「大丈夫ですよ藍子ちゃん! 毎回やる度にトンデモナイことが起きるわけないじゃないですか」

『(それはひょっとしてギャグで言っているのだろうか……)』

 

 裕子が自信満々に言う中、みんな彼女がサイキックパワーを使うたびにアクシデントが起きるのを身を持って知っていた。

 例えば、仕事中にあるアイドルのボタンがはじけ飛んだり、天気が悪かったのにいきなり快晴になったり、栽培中のキノコが突然成長したり、ライブ中にネクタイが取れたりなどなど。

 彼女達の不安など気付くこともなく、裕子はバックからあるものを取りだした。

 

「これぞサイキックアイテムの一つ、ダウジングです!」

「……それで本当に見つかるの?」

 

 早苗の不安は当然だった。ダウジングは水源や鉱脈など見つけるというものだということは知っていた。それで本当に当たるかはさておき、人を見つけることができるとは思っていないからだった。

(でも、ユッコちゃんだし)

 ある意味身を持って彼女の凄さを体感させれられた身としては、何かやってくれるだろうという期待があった。確証はないが。

 

「早苗さんも心配性ですねぇ。ま、ここはエスパーユッコにお任せを」

 

 L字型のロッドを手に取り、裕子は時計回りに一回だけ回る。これでどの方角に行ったのかを探し当てるのだ。すると、ある方向に対してロッドが反応しだした。

 

「おおっ、キてますよこれは!」

 

 裕子が声をあげて喜んでいるが、誰一人としてそれに共感する者はいなかった。なぜなら、ロッドが開いた場所は先程通ってきた道の方に反応したからだった。

 本人は興奮して気付いていないらしく、藍子が申し訳なさそうに教えた。

 

「ユッコちゃん、そっちの方向は今きた道だよ……」

「……え゛。あ、本当だ……」

「でもぉ、今回は何も起きなかったね」と愛梨が言うと、「それもそうですよね。ある意味よかったのかもしれませんよ」とほっと肩を降ろしながら菜々が言った。

「それもそうよね―。仕方がないわ、ここは……神様仏様茄子様! どうか我らをお導きください!」

 

 最終的に神頼みならぬ、茄子頼りとなるのは必然であろう。

 

「え―と。いいんですか、わたしで?」

「茄子ちゃんしかもう頼れる人はいないの! だから、お願い!」

「ううぅ、本当にプロデューサーさんに会えるかは保証できませんよ?」

「それでも構わないわ!」

「……それじゃあ茄子、いきますッ!」

 

 茄子を先頭に歩き始めた。少し遅れて裕子はダウジングが反応した方角を先程からじっと見といたのだが変化はない。付いてこない裕子に気付いた藍子が慌てて声をかけた。

 

「ユッコちゃん! 早くしないとはぐれちゃうよ!」

「あ、いま行きま―す! 絶対に自信あったのに……」

 

 最後にもう一度振り向く。が、そこにみんなを呼び止めるほどの事は依然としてなかった。裕子はため息をつきながら追いつくために走り出した。

 

 

 早苗達一向が先程の場所を離れて数分後。

 

「ねえ、貴音。今日の晩ご飯何にするの?」

「そうですねえ……。今日は春巻きでも作ってみましょうか。あの人、春巻きがお好きのようですし」

「ハニーってぱりぱりしてるというか、歯ごたえがあるの好きだよね」

「そのせいなのか意外にも煎餅が好きなんですよね、あの人」

「ミキはお菓子の方がいいの」

「お茶には煎餅、こーひーや紅茶には洋菓子ですかね、わたくしは」

「ところで、貴音は春巻きにきくらげはどうなの?」

「きくらげ、ですか? わたくしはこれと言ってこだわりはありませんが……」

「ハニーはある方がいいって言ってたの」

「それではきくらげも買いましょうか」

「ついでにケーキでも買ってくの。話したら食べたくなったの」

「あの人にはシュークリームを買ってあげないといけませんね」

「というわけでレッツゴーなの」

 

 仕事帰りの貴音と美希は早苗達が向かった方とは別の方角へと向かって行った。

 裕子はたしかに起こした。時間差ではあったが。

 

 

 その頃、茄子タイムの赴くままに進む早苗達一行。たしかに手応えはあった。

 

「あ! あれ、そうじゃないですか!」

「本当だわ!」

 

 と見つけては走り出すと、

 

「見失いました!」

「どうなってるのよ!」

 

 再び視界が消え去るプロデューサー。

 

「いましたよ、プロデューサーが!」

「でかしたっ!」

 

 見つけては見失うのを繰り返すだけでまったく進展がなかった。そして、辺りが暗くなり始めたころ、さすがに早苗もそろそろ時間的に厳しいと判断した。未成年が多いし、このまま探し続けても無駄だ。

 そんな時である。彼女達がマクドナルドの前を通りかかろうとした時、中から知った顔が出てきた。

 

『の、のあ(さん)(ちゃん)!?』

「貴方達、こんなところでなにをやっているの?」

「そ、それはこっちの台詞なんだけど……」

 

 プロデューサーと同じぐらいミステリアスなのが彼女、高峰のあだった。

 

「ねえ、のあちゃん。それ、なに?」と瑞樹が尋ねた。

「見て分からないかしら。ハンバーガーよ」

「いや、それはわかるわよ……」

 

 問題はその手に持った紙袋の大きさだ。セットを注文したときに入れるぐらいの大きさの袋に満杯の単品のハンバーガーがあるのだから気になる。しかもハンバーガーを包んでいる袋の色が違うことから単品で複数のハンバーガーを大量に買ったのだと推測できた。

 

「あの、聞いていい。どうしてハンバーガー?」

「私が食べたいと思ったものを食べる。それに何か理由がいるかしら」

「いや、たしかにそうかもしれないけど……」

「……そう。貴方達が気になるのは、わたしがどうしてハンバーガーを食べている、ということかしら。その理由は至極簡単。食べたことがない食べ物を食したいと思ったからよ」

『(い、意外すぎる……)』

「ちなみに、そんなに食べて太らない? 仮にもアイドルよ、あなた」

「それは凡人の発想ゆえにそう思ってしまう。食べるから太る。そう自然と思ってしまうから人は枷を課してしまう。むしろその逆で、食べても太らない。そう思ってしまえばいいのよ」

『な、なるほど』

『いや、それは違うんじゃ』

 

 一部の体重を気にする女性たちが声をあげると、残りの者達が冷静にツッコミを入れた。

 

「ちなみに私、食べても太らない体質なの」

『(皮肉、皮肉なの!?)』

「話が逸れたわね。結局貴方達はここで何をしていたの?」

 

 早苗はのあに簡潔にここに至るまでの経緯を話した。

 

「そう、彼をね」

「そうなのよ。さっきから見つけたと思ったら消えちゃうんだから!」

「それは当然。私達が光なら彼は影。光あるところ影あり。アイドルあるところに彼はいる。けれど、彼は捉えることの、掴むことができない影。頑張るだけ徒労に終わるだけよ」

「うっ、なんだかよくわからないけど、説得力があるわ」

「それに、こうしている間に彼との距離はかなり開いているんだから今日は諦めなさい。子供達にはそろそろここはいい所ではないわ」

「はあ……」

 

 早苗はため息をつくと小梅や輝子を始めとした未成年の子供達をみた。その多くが寮生活で過ごしていて、門限があるのも彼女は知っていたので彼女は素直に今回は諦めた。

 

「イヴちゃん、茄子ちゃん。女子寮までみんなを頼める?」

「はい、任せてください」

「大丈夫ですよ。ブリッツェンもいますから!」

「ぶもっ」

 

 平然とトナカイがいることに何も違和感を抱かなくなっていることに誰も気付くことはなかった。

 

「のあちゃん、このあと暇?」

「時間はあいているわ」

「じゃあ大人組は反省会と称して飲みに行きましょうか」

「あの……ナナも帰っていいですかね……?」

「大丈夫よ菜々ちゃん。もし終電過ぎちゃったら、私のマンションに泊まればいいわ」

「瑞樹さん、そのご厚意はありがたいのですが……ナナはまだ未成年ですし、そもそもわたしが参加するのが当然のように話が進んでいるような気が……」

『え、いつものことじゃない』

「……」

 

 その後、菜々は早苗達一行にいつもの流れで居酒屋に連れて行かれ、毎度のごとくビールを頼んで飲むことになった。

 翌朝、菜々が気付けば瑞樹の自宅で目を覚ますのもこれまたいつも通りなのであった。

 

 プロデューサーを追跡した翌日のこと。早苗は我慢できずに直接彼に問いただすことを決意し、単身プロデューサーのオフィスへと乗り込んだ。

 礼儀、マナーを感じさせない扉の開け方をする早苗に対して、彼は驚くほど冷静で平然としていた。

 

「扉は優しく開けるものだぞ早苗」

「あら、ごめんなさ-い。つい、昔の癖で」

「お前は元婦警じゃなかったか?」

「そんなことはどうでもいいの!」

 

 ドンッと、机を思いっきり叩き身を乗り出す勢いでプロデューサーに尋ねた。二人の距離はいまにも互いの唇が触れ合うぐらい近い。

 

「プロデューサーのこと、教えてちょうだい!」

「昨日俺を付け回して何もできなかったんでとうとう痺れを切らしたか」

「……な、なんのことかしら―。早苗、わかんな―い」

「まあまあの尾行だったと褒めてやりたいが、さすがに大勢で行動していたら気配でまるわかりだぞ。あと、視線でバレバレだ」

「忍者じゃあるまいし、そんなことできるわけないじゃない!」

「それにな、茄子を使ってまでやることか?」

「なんで茄子ちゃんのことまでわかるのよ」

「プロデューサーだからな」

「プロデューサーとはいったい……」

 

 なんとも言い表せない顔をする早苗。プロデューサーは椅子から立ち上がり、腕を組みながら早苗の隣に立った。

 

「早苗、お前は具体的にオレの何を知りたいんだ?」

「それは―、その―」

 

 いざとなって早苗は何を聞きたいのかはっきりと言うことができなかった。昨日の尾行も面白さ半分、興味半分で行動していたので、いざとなって彼の何を聞きたいのかわからないでいた。

 

「自慢じゃないが……オレは味方より敵のが多いんでな。おいそれと個人情報を教えたくはないんだ。お前がどうしてもって言うなら教えてやらんでもないが……」

「それなら……どうしたら教えてくれるのかしら」

 

 不敵な笑みを浮かべたプロデューサーは早苗に迫る。一歩、また一歩と近づき、早苗は同じように後ろに下がる。

 気付けば壁まで下がっていて逃げ場はない。ドンッと彼は右手で壁を叩き、少しずつ肘を曲げていき二人の距離は目と鼻の先。

 俗に言う壁ドンである。

 この状態に追い込まれた女は逃げることは難しく、男としては必殺の間合いだ。

 早苗は自分でも気づかないぐらいドキドキしていた。かつてない胸の高鳴り、身体が熱くなっている。

 そして、彼は甘い言葉で囁いた。

 

「本当に、知りたいか?」

「じょ、条件は……?」

「――オレの女になれば全部教えてやるよ」

 

 早苗は別に男性経験がないというわけではなかったし、何も知らない純粋な乙女というわけでもない。現に彼女はアイドルなわけで、つまりはそれなりの美女ということになる。学生時代、署内でもそれなりに男達の視線を奪ってはいた、と思われるがこういう性格のためかそういうのは最初だけだった。

 何が言いたいかと言うと、男に対しての免疫はある。例えば、すごい金持ちとかイケメンに告白をされても彼女は『NO』と答える女だと誇らしく言うに違いない。だがしかし、目の前の、現在最も身近な男性であるプロデューサーに対してはそうはできなかった。

 彼には不思議な魅力がある。それは自身がアイドルになろうと決意した時と同じような感覚だ。

(近い……ちょっとこれやばいって)

 そして、早苗は顔を真っ赤にしながらプロデューサーの領域から離脱し、

 

「きょ、今日の所は諦めてやるんだから!! プロデューサーのバカ―――!! ちくしょ―――!!」

 

 早苗が逃げ出し、開けたままの扉を彼は閉めるとしてやったと言わんばかりの笑みを浮かべながら言った。

 

「あいつも可愛いところあるんだな。意外と純粋なのか。くくっ、いいもん見れたな」

 

 仕事に戻るために椅子に座ると、ふと思い出した。

 写真に撮っておけばよかったなと。

 

 

 同日。都内のある居酒屋でいつものメンバーである瑞樹、楓、菜々、のあに早苗は今日の出来事を話した。素面で話せないのでビールを飲んで話したのかすでに酔っていた。

 

「で、プロデューサー君に弄られて逃げ出したと」

「……うん」

「早苗さんも可愛いところあるんですねえ」

「楓さん、容赦ないですよ……」

「え―? 菜々ちゃんだってチーフに迫られたらこうなっちゃうと思うけどなあ」

「え゛、ナナはそんなにちょろくありませんよ!」

「なによぉ、わたしがちょろいって言いたいわけ!?」

「実際にその通りよ」

「うっ」

「のあちゃんも言うわねぇ―。でも、仮にのあちゃんだったらどう反応するか、お姉さん気になるわ」

 

 言うとのあはグラスを一回まわした。カランと氷がいい音を奏でた。

 

「私はすべてを受け入れるわ」

「……のあさんって素でそう言えるからナナはすごいと思います」

「そうかしら? 現に私は彼に言われてアイドルになったわ。疑念が信用になり、それから信頼、そして親愛になっているだけ。なにも可笑しなところはない。彼に誘われたアイドルはみなそう思っている、そう私は思っていたのだけれど」

『……』

「あらあら」

 

 のあが言う言葉に心当たりのある女性は酔いがまわったのか顔が赤くなった。

 

「けど、私は早苗みたいにはならないことはたしかね」

「わたしを苛めてそんなに楽しいか!?」

「ええ、楽しいわ」

「うぅぅ、事実だから何も言い返せない……。店員さん! ビールおかわり!」

「ちょっと、今日ペースが早いわよ」

「いいのよ、今日はとことん飲んでやるんだから!!」

 

 そのあと言うまでもないが、早苗は家に着くまでに戻した。

 

 

 早苗達が居酒屋で飲み明かしている頃。プロデューサーは自宅で貴音と美希に最近のことを話した。

 

「アイドルに尾行されるなんて初めての経験だったぞ」

「あらあら、それは大変でしたね」

「ご愁傷さまなの」

「なんでそんなに対応が雑なんだ」

「だって、あなた様の自業自得ですし」

「うんうん」

 

 二人が自分の味方だと思っていたが違うことに気づくと、彼はちょっぴり悲しかった。

 

「自業自得って言うけどな、アイドルやパパラッチにこの関係というか生活がバレたらお前達だって大変なんだぞ」

「そう――」

「言われても――」

『ねえ?』

「……」

 

 何かおかしい。なぜ二人はこんなにも冷静でいられるのかプロデューサーにはわからなかった。なにか秘策でもあるのだろうかと思っていると、

 

「だって、バレたらバレたで」

「ミキ達的にはむしろ好都合なの」

 

 いま、気付いた。はなから自分には味方などどこにもいないことにようやく気付いた。

 世間には絶対に見せることのない笑顔をしている二人から逃げるべく、彼はすでに侵されている聖域へと逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まずはじめに、次回はちゃんと本編やります。

今回やりたかったのはCP前のアイドル達の話と貴音と美希との対比みたいなものでしょうか。彼女達は知らないけど、貴音達は色んなことを知っている感じです。

気付けば早苗さんがメインな感じになっていたのは不思議ですね……。
のあさんは前から出したかったので出してみましたが……難しい。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。