銀の星   作:ししゃも丸

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第2話

 二〇一三年 四月某日 765事務所

 

 765プロ。そこで宛がわれた机の上でノートパソコンと向き合って仕事をする人間が一人。

 

「んー」

 

 カタカタと慣れた手つきで文字を打ちこんでいるのはこの765プロ所属のプロデューサーであった。

 現在昼休みのため、ここにいるのは彼一人。事務の小鳥も休憩に入っていた。

 まあ、彼が買って出て留守番を引き受けたのだが。

 アイドル達も今日は平日のためまだいない。学校に通っていない自分の担当アイドル四条貴音は小鳥と一緒にランチタイムだ。

 学校に通っていないは語弊があった。正確には、すでに卒業している。

 

「もう四月か、早いな」

 

 貴音がデビューして早四ヶ月。

 彼は外の景色を見ながらその間のことを思い出し始めた。

 

 

 

 二〇一二年 十二月 番組収録から翌日 765事務所 

 

 昨日の生放送から翌日。清々しい気持ちで出社したらすでに貴音がいた。顔は不機嫌で腕を組み仁王立ち。理由を聞く前に貴音が、

 

「なんですぐ返事をよこさないのですか!」

 

 朝から怒られた。清々しい気持ちはどこにいったのやら。

 なんですかその顔はと付け足されて言われた。

 結論から言えば、後日またおやじの店にいくという約束で手を打った。

 

 その日の765プロはかなりの電話が鳴った。当然昨日の生放送で突然現れた新人アイドルを取材するためだろう。予定通りだった。予想外と言えば、小鳥ちゃんだけでは手が足りなく律子までもが電話の対応していたことだろう。

 まず初めに、社長との旧知の中である善澤さんに取材をしてもらった。というより、社長がすでに手をまわしていたらしい。流石だ。

 後はまとめて言えば、アイドル雑誌やそういう特集を放送したりしているテレビ局とか。

 某ヤングの週刊誌でグラビアの仕事等の打診の電話もあった。とにかく効果は絶大だ。

 特に大きな収穫と言えば……。

 

「貴音、お前の歌を作りたいっていう作詞家のとこにいくぞ」

「え?」

「「え?!」」

 

 突然の発言に貴音、その場にいた小鳥ちゃんと律子驚いていた。

 お昼前、私用のスマホに連絡があった。相手は歌田さんだった。電話にでると、

 

『四条さんの歌を是非作らせてほしいっていう人がいるんだけど、どうする?』

 

 当たり前のことを聞いてきたのでもちろん、今すぐいきますよと返した。

 早速手を回したのか、それともその作詞家が彼女経由で言ったのかはどちらでもよかった。

 その日、すぐに貴音を連れ作詞家の下へ訪ねた。

 こちらの都合もあり、一時間ぐらいしか打ち合わせができなかったが満足していた。

 後日、とりあえずではあるが作詞ができたのことで、双方時間を合わせながら曲を調整していった。また、ダンスの方も軽口さん、衣装の方を山崎さんに依頼した。

 仮ではあったが後にタイトルは〈フラワーガール〉と正式に決まった。

 

 

 

 同年 十二月下旬

 

 クリスマスが近づく中、世間は大忙し。貴音本人はどう思っているかはわらかないが、クリスマス当日にサンタコスで売り子をすることになった。アイドルの仕事なのかは意見がわかれるが、知人が経営しているケーキ屋からオファーが来た。。知人には話してないのだがこれは偶然だった。もちろん引き受けたし、その日生放送でテレビ局も取材にくるとのことだったので当然了承した。

 サンタコスの貴音を恥ずかしがる本人の前でたくさん撮ってやった。

 

 仕事が終わり、お礼でケーキを貰ったので皆でクリスマスパーティーを事務所でやった。

 ケーキは美味しかった。

 

「お姫ちん、可愛かったよ」

「そうそう!」

 

 仕事の内容なのかそれとも、俺が写真を撮ったのが原因かはわからないが不機嫌で、黙々とケーキを食べていた貴音。そんな彼女に亜美と真美がからかっていたが無反応であった。

 

「ケーキも美味いが俺、シュークリームのが好きなんだよ」

「あら、そうなのですか。では私が食べて差し上げます」

 

 そう言ってひょいっとケーキを盗られた。

 やはり、機嫌がよくない。他の子たちから色々問われたが原因はさっぱりだった。

 そんな時、まさかの今多さんからの連絡がきた。

 

『あ、プロデューサーはん? あとで正式に俺が司会やってる番組から連絡いくと思うんやけど、今度の収録に貴音ちゃんに出てもらうから』

 

 早速だ。あの人も手が早かった。

 翌日にその番組のテレビ局から出演のオファーがあった。特別ゲストでの出演となった。

 

 後日談というわけではないが、パーティーが終わって帰宅したあと貴音に、

 

 《なんで機嫌が悪かったんだ?》 

 

 デリカシーがないと言えば否定できないが、気になって仕方がなかったので聞いた。すると返事がすぐに来た。

 

 《教えてあげません》

 

 結局謎のまま終わった。

 

 

 同年 十二月下旬 番組収録日

 

 この日は今多さんが司会を務めているレギュラー番組に出演する日だった。年内最後の収録であり年末スペシャルとして後日放送するらしい。出演する人達も有名な人ばかりなのによくこんな時に収録できたなと思った。

 この日驚いたのが、俺が挨拶や打ち合わせに参加している間、自分ですでに出演する人達に挨拶周りを貴音が済ませていたことだ。

 有言実行とはまさにこのことかと思った。この日を境に、貴音は自分から挨拶回り等を自らし出した。

 で、収録開始。

 番組内容としてはバラエティー番組という至って普通なやつだ。年末特集という奴で色々とコーナーを設けていた。

 今多さんや他の出演者たちも気を使ってくれたのか貴音をフォローしてくれているように思えた。

 しかし、収録中あることが起きた。いや、至って普通なのだが今後に影響した内容だと思う。

 それは食べ物のお題になって貴音に話が振られたときのことだ。

 

「そう言えば、貴音ちゃんって好きな食べ物とかあるん?」

「そうですね。強いてあげるなら……らぁめんですね」

「意外やわぁ。なんていうかもっと別のを想像しとったわ。なんか拘りとかあるん?」

「いえ、特には。ただ最近……かっぷらぁめんに嵌っておりまして」

「わかる。コンビニ行くと偶に限定とかあるとつい買っちゃうわ、俺」

「そうなんです! 私もそれで最近よくコンビにいったり……あ、これはおふれこでお願いします」

 

 残念だがそれは編集されずそのまま放送された。

 今思えば、ここ最近見覚えのないカップラーメンの写真が送られてきたのはこれかと納得した。

 

「そう言えば、貴音ちゃん今度CD出すって聞いたんやけど」

「あら、ご存知でしたか」

「そりゃあ勿論、ワイは貴音ちゃんの大ファンやで!」

「発売は未定なのですが、現在頑張ってれこーでぃんぐしていますので楽しみにしていてください!」

 

 こんな感じで今多さんは現在収録中のCDの宣伝もやらしてくれた。

 全体的にいい感じで収録を終えることができた

 後日、番組が放送され意外にも好評であり、番組の方から準レギュラーとして今後も出演してほしいとの打診あった。こちらとしてはねがったりかなったりだった。

 

 

 同年 十二月三十一日 大晦日

 

 その日は事務所も休業という形になっていた。他のアイドル達もレッスンもなく自宅や実家で過ごしたことだろう。貴音もこの日は、仕事は入っていないのでのんびりできたはずだ。

 対して俺はあちこち動きまわっていた。先の放送で貴音の好物がラーメンと知って某テレビ局が話を持ちかけてきたのだ。その番組は平日の午前十時から十二時までの生放送を行っている番組だった。月曜日から金曜日のどれか一つの枠に貴音をメインにしたコーナーを設けたいとの話だった。撮影は前もって行い、放送日は毎回出演してもらうとのこと。実質、レギュラー番組への出演オファーだった。

 コーナーの内容は貴音とゲスト一人を招いて各地にあるラーメン店に赴きそれを貴音が食べて評価するという至ってシンプル内容であった。

 もし、好評だったら定期的にそのコーナーを生放送できるかもと言っていた。

 俺はその話に乗った。放送開始は来年の一月頃になった。

 余談だが、当然今回の紅白歌合戦には参加することができなかった。

 ただ、来年なら貴音を含む765プロ全員が出場できることを願った。

 

 

 二〇一三年 一月

 

 お正月に関しては、貴音には仕事が入っておらず、あるとすれば今回も俺の方だった。

 年末に話していた貴音のコーナーの件もそうだし、グラビア雑誌の撮影、雑誌の取材等オファーが立て込んでおりスケジュール調整やらで二日目から仕事はじめだった。一日だけでも休めたのはよかったと思っている。

 また、この一月に関しては他のアイドル達もレッスンを再開。小さな仕事であるがそれぞれに合った仕事を割り当てたりした。

 

 一月の大きな出来事としてまず一つが貴音の初のデビューシングルとなる〈フラワーガール〉の発売。その間にかなりの宣伝をしていため初動からかなりの枚数を売り上げた。翌週のランキングではTOP10以内には入っており、最終的にはTOP3にランクインした。

 後日、某音楽ショップで発売記念のミニライブを開催。平日ながらも多くのファンや立ち寄った人が見に来てくれた。

 

 次に月曜から金曜日のお昼の番組で、貴音は水曜日に専用コーナーを受けさせてもらえることが正式に決まった。これが貴音の初めてのレギュラー番組となる。

 放送されたのは今年初の放送日(年が明けて第二週目のこと)。収録は前もって行われた。収録日には律子も後学のために連れてきた。

 初のゲストには、グルメ番組等でよく出ているタレントの岩塚さんに出てもらった。もちろん、俺が頼んだ。こういう時に今までの経験や交友関係が役に立つ。

 律子にも見習ってもらいたい。

 ちなみにコーナーのタイトルは「お姫ちんのらぁめん道」である。内容はゲストとともにラーメン店に赴き、貴音が食べて評価するだけである。ゆくゆくはリスナーからのリクエストなども取り入れる予定になっていた。

 

「そういえば、なぜお姫ちんなのですか?」

「あれ、貴音ちゃん知らないの? ネットとかじゃ貴音ちゃんのあだ名がお姫ちんで有名だよ?」

「なんと、面妖なこともあるものです」

 

 この収録後に知ったが原因は小鳥ちゃんだった。俺自身も亜美と真美がそう言っているのを聞いていたから二人かと思ったが3チャンネルなんてやっていないと言っていた。

 初回放送は普通で次回から意外にも辛口な評価をし始めたことから徐々に人気が出始める。

 ゲストともいい感じでトークをしたりもしていたので順調な運び出しとなった。

 ただ二月に入って、第五回目の放送で伝説を作った。

 

 俺は番組スタッフと第五回目の収録日の打ち合わせに出向いていた。この頃にはすでにリスナーからのリクエストや実際にお店からもぜひ家に来て評価してくれといった手紙、メールなどが数多く寄せられていた。

 ただ、今回いくことに決まった店はどうにもおかしかった。

 あらかじめスタッフが確認しにいくのだがどうも味は上手くもなし客はあまりいなかったとのこと。

 なんでこの店に選ばれたかと言うとどうみても何枚もの手紙やらメールを、名前を変えて送りつけてその店を指名してきていたからだ。

 結局スタッフと相談した結果、

 

「とりあえず行ってみて、本当に駄目だったら後日別のところで収録しましょう」

 

 ということになった。

 結果、収録当日。

 差し出されたラーメンを一口食べた貴音はドンと箸を叩きつけ、

 

「これを作ったのは誰です!」

 

 目の前にいるにもかかわらず、某漫画みたいなことを言いだした。そして、ネチネチとこのらぁめんはらぁめんではない、らぁめんの冒涜だとか言っていた。あと、ダシがどうとか、麺はああだと言っていた。

 当の俺は、撮影している店の端で腹を抱えて笑っていた。

 

「あははは! あいつが怒ってるの初めてみたわ!」

 

 そして、それは無修正で放送され話題を呼んだ。生放送で出演中の貴音も司会や出演者たちに色々言われていた。生放送で、

 

「本当に不味かったの?」

「ええ、まったく。かっぷらぁめんのがマシなくらいです」

 

 それがファンや視聴者が興味を持ったのか実際にその店に行き、やっぱり不味いと評価を下した。

 その後、あの店はひっそりと閉店したそうな。

 まあ、結果的にこれのおかげでコーナー事態は好評で今も放送がされている。

 

 

 

 同年 一月二十一日

 

 今日は、貴音の誕生日である。

 俺自身、当日なって気付いた。プレゼントを渡した方がいいのか頭を悩まされていたのだが、

 

「あなた様、今日は何の日かご存知ですか?

 

 まさかの催促と来た。

 俺は咄嗟に、

 

「あ、ああ。貴音の誕生日だろ。俺はお前のプロデューサーだからな。もちろん、覚えているよ」

 

 嘘をつきました。プレゼントはちょっと訳ありで時間がかかるからと付け足して。

 

 ヤバイヤバイ、どうするよ俺! 

 貴音に何をプレゼントする、あれかカップラーメンを一箱まるごと買ってくればいいか?

 いや、だめだ。きっと見抜かれている。

 どうしよ……。

 

 そう思いながらスマホで〈月 ペンダント〉と検索した。貴音と言えば月をイメージするし、ペンダントのような無難なものでいいかと思ったからだ。

 

「ムーンストーン?」

 

 検索して出てきた中に初めて聞いた単語だ。商品ページを流し読みでみて、これだと思いすぐに行動した。

 

「ちょっと営業で外回りに行ってくるから」

「え、プロデューサーさん?!」

 

 聞こえぬフリをして飛び出した。

 とりあえず、有名なパワーストーンを販売、制作している店に向かった。というかあってよかった。

 そこで、店内に入りお店の人と相談した。希望している形を伝えた。

 

「で、レインボーの奴で、ペンダントにしてもらいたいんですが」

「レインボームーンストーンのペンダントですね」

 

 実際にはホワイトラブドライトなんですよと説明されるが知ったことではない。

 三十分もかからず話は纏まった。

 値段はそれなりにしたがそれどころではない。どうせ、金なんて生活費と食費ぐらいしか使ってないし、こういう時に使わなくては。

 

「では、お渡しできるのは数日後になります」

「あ、お願いします」

「にしても、送る相手は恋人ですか? 相手の方が羨ましいですよ」

「へ? ああ、そんなようなもんです」

 

 適当に誤魔化した。

 後日、ペンダントを受け取り貴音に渡した。

 とても喜ばれた。なんていうか、達成感があった。おかしな話だが。

 だが、翌日。

 

「あの……あなた様?」

「どうした、急にかしこまって」

「この頂いたペンダントの……意味を知っての上で、私にプレゼントしてくださった……のですよね?」

 

 多分、意味とかを自分で調べたのだろう。パワーストーンには色々意味とか効果があると聞いたから、それでだろうと思った。けど、俺は全然知らないので正直に言った。

 

「え、知らん」

「……!」

 

 足を踏まれた。少し痛かった。事務所にいた女性陣には白い目で見られた。

 

「え、なに。俺、頑張って選んだのに。酷くない?」

「プロデューサーさん、最低です」

「小鳥さんと以下同文」

「自分もあれはないと思うぞ」

「知らずに送るとはある意味凄いわね」

 

 上から小鳥ちゃん、律子、響、伊織の順で言われた。

 

「キミ、ちょっとお話しようか」

「え、社長。仕事の話ですか?」

「……そうだね。今度、そういった仕事を私もみつけてこよう」

 

 社長にまで呆れられた。

 その日、帰宅してからムーンストーンの意味を改めて調べて頭を抱えた。

 〈ムーンストーンの石言葉〉、女性性をサポート、月のエネルギーを取り込む、感覚、感受性を高める……幸せな結婚をもたらす、愛を伝えることをサポート、永遠の愛。

 〈ムーンストーン こんな方におススメ!〉、感性や直観力を高めたい、高い理想、人に何か伝える、芸能関係の職業……永遠の愛を願う方。

 

「やっちまった……」

 

 よりによって自分が担当するアイドルにだ。

 

「ちょっと待てよ。もしかして……」

 

 流石に俺もそこまで鈍感ではなかった。俺にこのことを聞いていたということはつまり……。

 まだ出会って二ヶ月。されど二カ月。人が恋をするのには十分か。

 俺はLI○Eを使って、

 

 《今日はすまなかった でもこれだけは言っておきたかった》

 《……なんですか》

 《すごく、似合ってたぞ》

 

 返信は来なかったが俺は続けて最後にこう送った。

 

 《あとそれを選んだことについてはご想像にお任せします》

 《なんですか、それは!》

 《黙秘します》

 

 あとはその繰り返しだった。ていうか、疲れた。色々な意味で。

 今でも俺は、貴音が向ける想いから目を逸らしている。

 

 

 

 同年 二月

 

 

 二月に起きた主な出来事があるとすればまずラジオ番組を持つことになったことだろうか。

 午後十五時からの三十分の番組。

 先月から話はあったのだが予定が埋まっており、枠が空き次第出演の許可は頂いてた。のだが、とある番組が急遽降板。その空いた枠に滑り込んだ形になる。

 ラジオ番組自体はこの先の765プロにも大きなプラスとなる。他のアイドル達の宣伝にもなるからだ。

 

 他の子達もCDデビューが決まり、順次収録から発表されることになった。この時点で律子いい感じにプロデューサーとしての仕事が板につき始めてきた。

 

 二月下旬頃だったか。〈フラワーガール〉の売り上げも今の所順調で次のセカンドシングルについて視野に入れていた時のことだ。

 765プロ宛に別の作詞家から連絡を貰い制作を開始した。

 二月は全体にみても問題なく進んでいたと思う。

 

 

 

 同年 三月

 

 

 この三月には大仕事があった。三月末に某県、某アリーナで行われるミュージックフェスティバルに参加することになった。話は少し前からあったのだが。

 数多くのアーティスト達が参加するこのライブは貴音にとってもいい経験だ。それに勉強にもなる。

 今回はセカンドシングルとして発売予定である新曲の〈風花〉を歌うことに決めた。

 初のアリーナライブということもあり貴音も十分気合が入っていた。

 俺はと言えば、〈ビヨンドザノーブルス〉に代わる衣装を知人のスタイリスト共に意見を交わしていた。

 

 そして完成したのが黒と白をメインにしたドレス(モバマスのSレア銀色の王女である特訓後の衣装をメインに、特訓前の衣装を足した感じの衣装をご想像ください)。

 アイドル衣装のようなドレスではなく、ドレスのようなアイドル衣装と言った感じか。

 質感も本物のドレスのようだった。

 

「あの……どうですか?」

「あ、ああ。すまない、あまりにもその……見惚れてた」

「あ、ありがとうございます」

 

 互いに何故か照れていた。

 見惚れていたのは本心だ。ある意味四条貴音という存在を真の意味で表しているような感じがした。本当に王女のようだった。

 この時、記念に何枚か撮った。一番のお気に入りだ。貴音は俺が一緒に写っているやつがお気に入りらしい。

 あとはこの姿の四条貴音を100%活かせるステージを作らなければならない。

 実際に会場でスタッフと打ち合わせ。あまりにも手がかかり過ぎて律子に少し貴音を任せたぐらいだ。だが、いいものができた。

 

 そしてライブ当日。

 会場は満員御礼。各アーティストのファンが訪れていた。もちろん、貴音のファンもいる。後になって気付いたが、紫色のサイリウムを振っていたのがそうだった。

 貴音の番は丁度真ん中と言ったところだ。

 待っている間、

 

「練習では観客がいなかったとは言え、流石に緊張してきました」

「それだけか?」

「いえ、緊張以上に興奮しております。興奮というよりは……わくわく。と言えばいいのでしょうか」

「それでいいんだ。お前はその気持ちで歌ってくればいい。勝負とかじゃないんだ。楽しくやろう」

「はい」

 

 貴音の番が回ってきた。

 ステージの真ん中に立つ貴音を天井のライトが照らす。

 普通なら歓声が起きるところだ。だが、それはなかった。誰もが貴音の姿に目を奪われていたからだ。

 ドレスを纏ったことでさらに強調された高貴さ。そして、四条貴音が放つオーラ。そして、気付いている者がいるかわからないがその胸に光るペンダント。

 会場にいる観客にスタッフ、この会場にいる全員が貴音の創りだした幻想に囚われていた。

 

 音楽が始まると同時にステージ背後のスクリーンや照明が動き始める。

 《風花》とは晴天時に雪が風に舞うように降ること。あるいは積雪が風によって飛ばされ、ちらつく現象を意味しているらしい。

 が、俺は逆に夜空に浮かぶ月とそこに花が舞う様子をイメージしたモノに仕上げた。

 自分でも会心の出来だと思う。

 歌っている貴音はアイドルとは思えない存在に思えた。

 気付けば歌い終わり、音楽も止まった。

 歓声もあった。それよりも拍手の音の方が何倍も大きかった。

 

 そして、ステージから帰ってきた貴音をスタッフらか拍手して迎えた。頭を下げながら俺の下へやってきて、王女のように問う。

 

「どうでしたか、私のステージは?」

「とても素晴らしいものでしたよ、王女様(プリンセス)

 

 従者のように俺は頭を下げた。

 

「それ、つけてやったのか」

 

 胸元に光るムーンストーンペンダントを見て聞いた。いつのまに……。

 

「はい。で、どうですか?」

 

 文字ではなく、俺の言葉で聞きたいのだろうと察した。

 

「ああ、よく似合ってる」

「ふふ、ありがとうございます。あなた様――」

 

 こうして、ライブは終わった。

 この日を境に〈銀色の王女〉という異名がつき、〈銀色の王女 四条貴音〉と呼ばれることになる。

 つまりそれはトップアイドルの領域に一歩踏み込んだと言うことになる。

 しかし、まだだ。まだ、これからだ。今はトップアイドルという長い階段を一段上っただけだ。

 アイドル、トップアイドルとしてもまだまだ四条貴音はこれからだ。

 だからこそ、俺が――。

 

「もっと上へいくぞ、貴音。付いて来れるか?」

「愚問です。そちらこそ、わたくしに振り回されないでくださいね?」

 

 もっと光輝くステージへ連れて行こう。それがプロデューサー()の仕事だから。

 

 

 

 同年 四月 現在

 

 

 こうして、現在に至る。まあ、他にもっと色々あったんだが、ここでは割愛しよう。

 今765プロの現状としては、貴音を先頭に他のアイドル達が活躍している状態だ。

 四月の時点で全員CDデビューは行っているし、まだ小さな仕事が多いが彼女達はそれをこなしている。

 律子もプロデューサーとして問題ないレベルまで育った。本人も色々と今後の活動について考えているように思える。

 若い子が自分から進んで行動していることになんだか嬉しい気持ちがあった。

 

「さて、仕事に戻るか」

 

 窓の景色から再びパソコンに戻る。にらめっこの開始だ。負けるのは自分の方だが。

 そんなことを思いつつ仕事を進める。

 すると事務所の出入り口の扉が開いた。そこには彼と同じようにスーツで身を包んだ男が一人。最近この事務所に入り浸っている男。

 

「ただいま、戻りましたー。あ、。お疲れ様です」

「ご苦労さん、赤羽根。で、アイドル達の取材はどうだ?」

「はい、今の所バレずに順調ですよ」

 

 赤羽根(見習い)P。社長が見つけてきた765プロの新しいプロデューサーだ。

 四月から正式に765プロに入社。現在、社長が与えた最初の仕事が、765プロに所属するアイドル達をインタビューすることであった。765プロのアイドル達に密着取材という内容でカメラマンがしばらく同行すると皆にも伝えあり、まだ彼が新しいプロデューサーだとは知られていない。

 知っているのは社長、小鳥、プロデューサー、律子、そして貴音の五人。

 貴音には彼が前もって伝えていた。所謂、担当贔屓というやつだ。

 

「あとは貴音と先輩だけです」

「はあ? 俺もか?」

「いいじゃないですか、律子も撮ってますし。社長にも、是非やってくれたまえって言われたんですし。なんなら貴音と一緒に撮りますか?」

「別にどっちでも構わん」

「じゃあ、一緒に撮りますね」

 

 なんともいい笑顔で喋るなと思った。プロデューサーが今の彼を評価すると好青年、コミュニケーションは問題ない、ちょっと年上のお兄さん、仕事方面ではちょっと不安と言ったところだ。

 カメラマンと偽って接しているのにも関わらず、彼女達とは円滑なコミュニケーションが取れていると思っている。今の所順調であった。

 まだ、彼に自分がだいたい今年いっぱいでいなくなることを伝えていない。

 彼のことをプロデューサーとして改めて紹介するときに伝える予定になっている。

 

「む」

「?」

 

 再び事務所の扉が開いた。お昼を食べに行っていた小鳥と貴音が戻ってきた。小鳥の手には青いマークがあるビニール袋をぶら下げている。

 

「プロデューサーさん、今戻りましたよ。コンビニでおにぎり買ってきましたけど……。あ、赤羽根さんも帰ってきていらしたんですね」

「二人ともお昼食べてきたんですか?」

「はい、赤羽根殿もお疲れ様です」

「ええ。貴音ちゃんと一緒に。赤羽根Pは?」

「俺も外で済ましてきました」

 

 お昼を済ましていないのはプロデューサーだけだった。その理由は、現在も止まらず動かしてパソコンに打ち込んでいるのが理由だ。

 先程まで少し最近ことを思い出しながらサボっていたが。

 小鳥は袋ごと彼の机の邪魔にならないところにおいた。

 

「プロデューサー、ここに置きますね」

「ありがとう。お釣りは取っておいてくれ」

「ふふ、わかりました」

 

 赤羽根はそのやり取りを見てカッコイイなあと思っていた。実際には、また買いだしを頼むからと言っているのだが、入社したばかりの彼にはまだその意図は読めていなかった。

 

「プロデューサー、お茶でも淹れましょうか?」

「ああ、頼む」

 

 了承を得て貴音は給湯室へ向かった。

 入社したばかりの彼でも最近わかったことがある。

 貴音って先輩にいつもお茶入れてるな……と赤羽根は給湯室に向かう貴音を見て思った。

 貴音は他のアイドルと違って平日も事務所にいることが多い。今日みたいにお昼や休憩のときに事務の小鳥ではなく貴音自身がプロデューサーにお茶を入れているところを赤羽根は度々目撃していた。

 一方、プロデューサーは仕事を一旦やめ、遅い昼食を始めた。

 

「む……」

 

 おにぎりが入っている袋を順番通りに開ける。上から下に一周し、横を引っ張る。海苔が少し残ってしまった。悔しい。よくある光景だが気にせずもぐもぐと食べ始める。

 

「はい、お茶です」

「ん……。ありがとう」

 

 貴音が淹れてくれたお茶を飲みながら食事を続ける。

 赤青黄の三色をしたのが彼専用の湯呑である。ちなみに小鳥のは、心技体と書かれている。

 

「貴音、確かこのあとはラジオの収録があったな」

 

 プロデューサーが確認も兼ねて聞いた。

 

「はい。いつも通り三時からですけど、なにか?」

 

 左腕にある腕時計を見て時間を確認。時計の針は一時を周ったところだ。

 

「赤羽根、今から撮るか」

「そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?」

「なに、収録までの時間潰しだ。貴音もいいな?」

「わたくしはかまいませんが……あなた様、それはよいのですか?」

 

 貴音の視線が机にあるパソコンに向けられた。

 

「あと少しで終わる」

 

 そう言って五分ほど経って終わった。すでに大体の事は終わらせていたからあとは社長の机の上に出しとけばそれで終わりだったのだ。

 

「じゃあ、二人とも一緒に撮りますね」

「俺は構わんが……」

「私も構いません」

 

 ちらりと貴音の方を向いて確認しようとしたがそんなことは必要なかった。

 その後。二人は事務所のソファーで並んで座り、赤羽根の(二人の)密着取材が始まった

 撮影は十五分程で終わった。その最中、小鳥がにやにやとみているのがプロデューサーは気になって仕方がなかった。

 二人はそのあと十四時前に事務所を出て収録に向かった。

 

 残った小鳥と赤羽根はと言うと、

 

「音無さん、アレが先輩と貴音の普通の光景なんですかね?」

「そうですよー。あ、別に悔しくなんてないですよ。ただ、昔からの知り合いがなんだかんだ自分と一緒で独り身だったのに、いきなりそういう事に発展したことを面白がってるけど実はちょっと恨めしいとか思ってませんから。ええ、思ってませんから! でも、本当は貴音ちゃんが羨ましいとか、プロデューサーさんの馬鹿って……何言ってるの私?!」

 

 なんて返したらいいのかわからない。聞いてない振りをしよう。そう思った赤羽根は自分の机に座り、全員分撮り終わったビデオの編集を始めた。

 

 

 数日後。

 765プロ事務所内では約二名を除く全員が集められていた。その二名とはプロデューサーと貴音である。もう少しで帰ってくる連絡はあったのだが待ちきれず、それは始まっていた。

 それは、赤羽根が彼女達に密着して撮っていたビデオである。

 そして、高木社長が種明かしを始めた。

 

「実は何を隠そう彼が、我が765プロ三人目のプロデューサーなのだよ!」

 

 えー! と驚きの声が事務所に響き渡る。

 カメラを態々構えていた赤羽根はようやくカメラを置きその素顔をみんなに見せた。

 

「赤羽根と言います。皆、よろしくお願いします!」

「ふぅ、これで私も先輩面できるわー」

「律子さん、それプロデューサーさんの前で言ったら何をさせられるかわかりませんよ?」

「う、それもそうか……」

 

 がっくしと肩を落とす。

 自分もまだまだ一人前とは言えないことを思い出し、その野望は潰えた

 

「ということは私達本格的にアイドルとして活動ですか!」

 

 春香が満面の笑みを浮かべ視線をから赤羽根から社長に移す。

 

「ああ、そういうことになる。すでに彼からある程度の仕事内容は覚えてもらっているから明日から君達と一緒に活動することになる」

「あの、赤羽根Pも誰かの担当を持つんですか?」

 

 千早が手をあげて質問してきた。

 

「いや、一応今の所は貴音君を除いた全員になる。簡単に言えば、全員のユニットである〈765エンジェル〉の担当ということになるね」

 

 765エンジェルとは、貴音を含んだ全員のユニット名である。これもプロデューサーが今後のことを考えてのことだった。元々、社長自身もこのユニットで活動する予定であった。

 

「あ、皆さん。丁度貴音さんの番みたいですよ! あ、プロデューサーもいますよ!」

 

 やよいの声につられ皆の視線がテレビに再び注目する。そこにはプロデューサーと貴音が一緒に座っていた。

 

「にしても、プロデューサーには悪いけどやっぱりこうアレだよね」

「うぅ、私も最近プロデューサーの指導のおかげで慣れてきましたけど……やっぱり怖いです」

 

 真と雪歩の意見に同意するように皆がうんうんと頷いている。大人組はどちらかというあははと苦い笑いをしていた。

 

 ――あなたにとってアイドルとはなんですか?

『そうですね。それに関してはまだお答えできません』

 ――どうしてですか?

『それは、私がまだその答えを探しているからです。アイドルとはみなの象徴、偶像と言えば簡単です。ですが私の、となると話は別です。ですから私は、この先にその答えを見いだせればと思っております』

 

 おーと歓喜の声があがる。

 

「お姫ちんはいう事が違いますなぁ」

「やっぱり、トップアイドルは違うねぇ」

「そうかしら。こういうのって私は大事だと思うわよ? 自分の持論ってやつ」

「デコちゃん、プライド高いもんね」

「デコちゃん言うな!」

 

 そんな中事務所の奥からその当事者が帰ってきた。

 

「ただいま戻りました。……ああ、例のやつですか」

「あれ、貴音は知っていたのか?」

「ええ、あの人から聞いてましたので」

「あー! ずるいぞ、一人だけ先に知っているなんて!」

「そう言われましても……」

 

 響に言われるのも仕方がないと思いつつ赤羽根に横目をやりつつ。

 

「と、ところで貴音。先輩は?」

「車を置いてくるからと、先に来ましたので。もう少しで来ますよ」

「あら、丁度そのプロデューサーさんの番みたいね」

 

 あずさがそう言うと皆が貴音の時よりテレビに食いつき始めた。

 

 ――あなたにとってアイドルとは?」

『え、俺にも同じ質問するのか? まあ、そうだねー』

 

 滅多に自分のことを語らないプロデューサーの、先程伊織が言った持論ってやつが皆きになっていた。

 ザッと少し画像が乱れたが誰も気にしない。

 

『答えになっていないが、俺がプロデューサーである限りアイドルをプロデュースする。そんな関係かな。自慢じゃないが、どんな子でもプロデュースしてみせるさ』

 

(嘘つき……)

 

 美希は声に出さず吐いた。顔は暗い。まるで、目の敵にしているようにテレビに映る彼をみていた。

 

 ――どうしてプロデューサーになられたのですか?

『忘れたよ。気付いたらプロデューサーになってた』

 

 それみて苦笑する者が二人。社長と小鳥はなにやら懐かしむように見ていた。

 するとその彼がやってきた。

 

「ただいま戻りました……って、なんで俺を見る」

 

 その場にいる全員が帰ってきたプロデューサーをみる。

 亜美と真美が彼の前までやってきた。亜美がマイクを持っているかのように真美に聞いた。

 

「どうしてプロデューサーになられたのですか?」

「忘れたよ。気付いたらプロデューサーになってた(キリッ)」

 

 本人の時よりかなりポーズや表情を盛っていた。

 そんな二人のやり取りをみて彼も察したのか腕を組んで二人を見下ろした。

 

「なるほど、なるほど。……大人をからかうのもほどほどに、な!」

「「痛――――っっ」」

 

 二人の頭をその大きな手で鷲掴みぐりぐりと頭を回す。流石に二、三回ほど回してすぐに放したが。

 

(……美希だな、この視線は)

 

 プロデューサーは誰かの視線を感じたがそれを美希だと決めつけた。というより美希だと直感した。

 それは当たっていて前にいる春香らの間からちらりと彼を見ていたからだ。

 

(そういう事も想定していたが、まだ駄目か)

 

 星井のためだと思っていても本人はそれを受け入れはしないことは重々承知していた。それでも、彼女が自らの意思でアイドルを、トップアイドルを目指すという強い意志を持ってほしいと思ったからだ。

 しかし、予想通り最初に出会った日から今日まで結局、与えられた仕事やレッスンを確実に、簡単にこなしてしまっているだけで止まってしまっている。

 プロデューサーは気持ちを切り替えて皆の前に立つ。

 

「さて社長からも言われたかもしれないが、明日から彼がお前らと一緒に活動することになる。互いに迷惑をかけることもあるだろう。それでもアイドルとプロデューサー、目指すモノは一緒だ。頑張っていこう!」

『はい!』

 

 アイドルと赤羽根も一緒に応えた。互いに頑張ってもらわなきゃ困る。そう思いつつも彼らのこの先の活動に期待した。

 

 その後、彼女達は解散した。残ったのは大人組は小鳥の入れたお茶を飲みながら今後の方針とプロデューサーのことについて話し合っていた。

 説明するとやはり驚かれた。

 

「というわけなんだ」

「酷いですよ、先輩。そういうことは先に言ってくださいよ」

 

 先程の威勢はどこへやら。弱弱しい声で彼を見つめた。

 

「それはすまない。でも、そんな焦らないでやってほしい。お前はこの業界は新人。例えるなら幼稚園生だ」

「うっ、ちなみに律子は?」

 

 んーと律子をみる。律子は内心ドキドキしながら返答を待っていた。なにせ、彼はこの業界ではそれなりに名も売れているし力もある。憧れないといえば嘘になる。

 

「入学したての……いや、卒業したての中学生?」

 

 内心、よっしゃとガッツポーズをしたが中学生と聞いて膝をついた心の中の自分が律子には見えた。

 

「手厳しいねぇ、キミは」

「まぁ、幼稚園生って例えもわからなくはないですけどね」

 

 そう言いつつも社長は彼の二人の評価はだいたい合っていると思っていた。小鳥に至ってはそんなもんかなとばっさり。

 

「けど、赤羽根にはこれから飛び級で小学、中学、高校生になってもらわないとな。覚悟しろよ?」

「はい、頑張ります!」

 

 弱弱しい態度も一変。彼の目は再び火がともっていた。

 

「若いっていいねぇ」

「で、話は律子に変わるんだが」

「え、私ですか?」

 

 そう言って彼は社長に許可を貰うような素振りをみせた。社長は無言で頷いた。

 

「社長とも相談してな。そろそろ律子にも担当を持っていいと判断していた所だ。自分でも色々考えてるんだろ?」

「えへへ、バレてました?」

 

 頬を赤く染めて頭に手をやる律子は中々可愛い。元アイドルだし当然だったが、実に勿体無かった。

 

「まあ、勘かな。赤羽根も来て、律子にも自分で色々と挑戦してもらいたいと思っていた所だからな。で、とりあえず秋月Pの意見を聞かせてほしいんだが?」

「もう、そうやって……。まあ、いいですけど」

 

 煽てられて悪い気はしなかった。律子は現在考えていることを話した。

 三人のユニットをつくりたい。メンバーは水瀬伊織、双海亜美、三浦あずさの三人。ユニット名はまだ決めていないがこの三人でやってみたいと話した。

 

「成程な。あの子らはどのメンツでもやっていけるのが一番の特徴だし、一概にどれが正解というのはない」

「ライブでも、仮にそのユニットと全員でやる765エンジェルとソロの貴音ちゃん。こんな感じで回せますもんね」

「まあ、ソロに関しては貴音が一番売れているからであって、ライブでも他の子達のソロ曲は歌える」

 

 プロデューサーは律子案には賛成だった。ユニットで売るというのも今の業界じゃどこもやっているからだ。

 

「あの先輩、一ついいですか?」

「なんだ?」

「先輩の事情で貴音をソロでデビューさせるのもわかりました。他の子もソロでやらせないのも律子や俺。今後の765プロのためだということも納得しました。でも、なんで他のプロダクションもソロであんまりデビューさせないんですか?」

 

 良い所に気付いたなと赤羽根を褒めて答えた。

 

「昔はソロとかも多かったんだがな。ただ、ソロは一人。つまり、当人の実力がハッキリわかってしまうんだ。相当の実力がなきゃ最初からソロデビューできない。対して、ユニットなら一人でもファンができればその子を応援してくれる。力が付けばソロデビューもできる」

「なるほど」

 

 そう言われてみればテレビでみたアイドルはユニットが多く、ソロで活動している子はあんまり見ないなと思った。

 

「それに少し前、といっても今もだがアイドルブームが起きてる昨今。どこもソロよりユニットで出して当てたいんだよ」

「切実ですね」

「そういうこと」

 

 赤羽根は業界がかかえている悩みを知った。

 

「で、話を戻すが。まだ先になるが、この三人と貴音を除いたメンバーを赤羽根に担当してもらう。勿論、俺も補佐はするがメインはお前だ」

「はいっ」

「あれ、私の案そのまま通っていいんですか?」

「ああ。面白そうだしな」

 

 やったとガッツポーズする律子。それみて微笑む三人。

 

「それじゃあ、夜も遅いしこれで解散でいいかね?」

「ええ。俺は少し残ってやることがあるので、戸締りは俺がしておきます」

「ん、そうかね。じゃあ、頼むよ。あまり煮詰めないようにね」

「はい」

 

 

 そう言って彼を除く四人は帰宅した。

 残った彼は自分の周りだけ電気をつけてあるモノを作成していた。

 赤羽根専用に作った対策マニュアルみたいなものである。各アイドルにあった仕事とか、こういう時はこうすればいいとか、思いつく限りのことを出していた。

 彼自身も律子の時もそうであったが後輩と言えばいいのか。なんだかんだ可愛く思っていた。

 

「さと、もう少し頑張るか」

 

 気付けば、彼が自宅に帰ったのは解散してから二時間後のことだった。

 

 

 都内某所 アパート 

 

 赤羽根は自宅のアパートに帰宅して私用のパソコンである動画ファイルを開いていた。それは彼女達に密着取材をした動画であった。

 動画を再生し一番後ろ辺りをクリックして飛ばす。

 丁度プロデューサーの場面であった。実は、彼女達にみせた場面は本来のモノと違う。理由は最初に撮ったモノがみせていいものか迷ったからだ。態々、もう一度頼み込んで撮ったのだ。

 で、そのオリジナルの部分が始まった。編集してないので自分の声も出ていた。

 

『あなたにとってアイドルとはなんですか?』

『そうだな……呪い、かな。魅了されているとも言っていいがしっくりくるのは呪いだ。俺はあの日から止まったままだ。色んなアイドルを見て、育ててきた。それでも俺は――』

『すみません、先輩。やり直しで』

『ん、やっぱ駄目か』

『いえ、その……内容が見せられるものじゃないです、はい』

 

 赤羽根はこの時貴音がいなくてよかったと思った。タイミングよく彼女の電話がなり一時的に離れていたのだ。それもあってこんな内容を話したのではないかと思った。

 

「にしても先輩……昔なにかあったんだろうか」

 

 その理由を聞こうと思ったがやめた。

 ただの好奇心で聞くにはなにか違うと思ったし、なによりも自分にはその資格なんてないのではないか。そう思ったからだ。

 

「はあ。とりあえず明日も頑張ろう」

 

 明日からプロデューサーとして新しい日々が始まる。色々不安はあったがそんなことを考えている内に彼は眠っていた。

 

 

 




あとがきという名の設定補足~

※ 誕生日の話
書いてて貴音の誕生日が一月ということに気付き急遽投入。さらにプレゼントにリアルに一時間ぐらい探したり考えたりしてました。
ムーンストーンって初めて知りましたよ、私。個人的には貴音に合うんじゃないかなって思いました。




逃げたやつはアイドルだ。逃げなかったやつはトップアイドルだ。本当、アイマス世界は地獄だぜ、ふはははー。

はい、と言うわけで赤羽根P登場です。
実際に彼年齢いくつぐらいんでしょうね。個人的には大学は出ててるイメージ。20代半ばあたりだと思うんですけどね。30代ではないはず。亜美や真美が兄ちゃんって呼ぶぐらいの年齢だと思うんですが……。

今回からアニマス本編に突入です。
サブヒロインが美希という扱いなのでだいぶ先が長いですね。ちまちまと爆弾を増やしている状態ですが……。

次回ですがアニマス2話と3話が一緒です。意外と短くて一緒になりました。
また近いうちに更新できると思います。
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