プロローグ
彼の名前はイースレイ・シトリー。
72柱であるシトリー家の次期当主であり、魔王をも超えると言われた存在であるイースレイの物語だ。
イースレイ・シトリー、彼はシトリー家の長男としてこの世に生を受けた。当時のイースレイの父と母は初めてできた子供に歓喜の声を上げた。何しろ男が生まれたのだ。これでシトリー家はひとまず御家断絶という事はなくなる。初めての息子であり、次期シトリー家の当主となるイースレイは両親から厳しく、だけども愛をもってイースレイを育てた。そして、そんなイースレイは父と母の期待に応えるかのように育った。イースレイは世間で言う神童、天才と呼ばれるタイプであった。かといっても彼も最初からそう言われていたわけではない。イースレイは父と母から教えられたことをそのまま真似することを苦手とし、10教えたとしたら1しか理解することができなかった。そんなイースレイの才能が開花したのは若干10歳の頃だった。
イースレイの父は自分たちのやっていることを真似ることができないイースレイに頭を悩ませていた。座学や礼節、マナーは問題ない。むしろほかの子供よりもわきまえていると言ってもいいだろう。しかし、魔力関係の事に関してはイースレイに一切の進歩が見られなかった。魔力が少ないわけではない。むしろ並よりも多いと言ってもいいだろう。それなのになぜかイースレイはうまく魔力を物質に変換することができないのだ。
そんな時に父はイースレイに「イースレイ、私が教えたものが難しければ一度自分で考え魔力を何かしらの物質に変換してみなさい」その一言がきっかけであった。イースレイは今まで父に教えられた魔力変換法を一切無視し、イースレイが考えた独自の魔力変換法を使い魔力を練った。するとどうだろう、今までコップに入れるような氷しか造れなかったイースレイの魔法陣からいくつもの氷の槍が放たれる。そのあまりの威力に地面は抉れ小規模なクレーターがいくつも造られた。このことには流石の父も驚きイースレイを褒め称えた。
イースレイは想像力が豊かだったのだ。それ故に何かしらの決まった形の物を具現化させることの方が簡単にできたのだ。たんに氷を造れ、水を造れと言われても氷や水を創造するのは難しいだろう。氷は小さな氷しか見たことがなく、水には決まった形がないのだから。
それからイースレイの成長は早かった。次々と新しい形を造りだしその魔力は操作することも容易となった。さらには自分自身で新たな魔法を造りだしはじめた。それこそ並の悪魔が使用することすら難しいものから簡単に使うことができる魔法と幅広くにだ。
その功績は悪魔の上層部にも認められ一目置かれている。
そして月日は流れイースレイには一人の妹ができた。
名前はセラフォルー・シトリー、元気な女の子だ。新しく生まれた子供が女の子だという事に父と母はその場で小躍りしそうなほど喜んだ。イースレイも初めてできた妹に興味を示し、兄らしく妹の世話を手伝ったりもした。
この時のイースレイの歳は48、階級は最上級悪魔になりたてだった時期だった。この若さで最上級悪魔になったという事で冥界中に名前を轟かせた。
セラフォルーが生まれて10年の時が流れた。
セラフォルーは最近になりようやく魔力を使った勉強が始まった。なぜ10歳まで魔力に関する勉強をしてこなかったかというと、それは貴族としての礼節やマナーを学んでいたという事もあるが、それ以上に初めての娘だ。父と母はセラフォルーを蝶よ花よと大事に大事に育てた。ちなみにイースレイがこの歳の頃には既に礼節やマナー、貴族が何たるかを叩き込まれていた。そして魔力に関する勉強もとっくに始めていた。最もこのころのイースレイは才能が開花する前の天才と呼ばれる前の頃だ。このころのイースレイは周りの悪魔達からは欠陥品とまで呼ばれていた。悪魔の中でも多くの魔力を保有していながらそれを使うことができない欠陥品、その頃のイースレイはそう呼ばれていた。それでもイースレイは周りの声を気にせず自分を高めることをやめなかった。その結果最上級悪魔まで昇りつくことができたのだ。そんなイースレイが今はセラフォルーに魔力について説明もとい講義をしているのだ。人生諦めなければどうにかなると言う物だ。
「ねえねえお兄ちゃん、どうやって魔力を物質に変換するの?」
セラフォルーは魔力による多少の身体強化は使えるが、魔力を変換させることができないでいた。元々器用な者は幼少のころから魔力を物質に変換させることができる者もいるが、それはあまりよろしくないとされていた。幼少の頃に自分の感覚で独自に魔力の使い方を覚えてしまうと、その我流な操作方法が癖になり、魔力の消費量が多くなったり、非効率的な魔法陣の構成をしてしまうからだ。
「いいかいセラフォルー、魔力を具現化させる為に大事なことはイメージすることだよ。自分で考えた物をイメージし、それを造りだすんだ」
「いめーじ?」
セラフォルーは可愛らしく首をかしげながらオウム返しする。
「そう、イメージだ。そうだね……それじゃあお手本を見せてあげよう」
そう言うとイースレイは掌から氷で造られた西洋剣が造りだされる。
「わぁー!綺麗な氷の剣だ!」
セラフォルーは無邪気な笑顔でイースレイの氷剣をキラキラとした瞳で見つめる。イースレイはその視線をくすぐったそうにしながら解説を始める。
「これは家にある剣をイメージして造った物だ。イメージが強ければ強いほど魔力もそれに応え、より大きく、より早く、より強力に具現化される。セラフォルーは私と違って純粋で真っすぐな子だからすぐにできるようになる」
イースレイの言葉にセラフォルーは頭に?を浮かべながら話を聞き続ける。イースレイはセラフォルーの表情を見てまだ難しかったか、と笑いを浮かべる。
「え~っと、とにかくいめーじすればいいんだよね?」
「そうだね、セラフォルーのイメージしやすいものを想像してみるといい」
それからセラフォルーはうーんっと目をつぶりながら魔力を高めていく。すると掌に収まるほどの小さな氷をその両手に生み出す。イースレイは自分が教えた後すぐに魔力を具現化させることができたことに少し驚いたような顔をする。やはりイースレイの妹だ。その才覚は並の悪魔を凌駕している。
「ぷっは~、できたよお兄ちゃん!」
セラフォルーはまるで褒めて褒めてと言わんばかりにピョンピョンとその場で跳ねる。
「そうだね、セラフォルーは賢くていい子だ。よくできたね」
「えへへ~」
イースレイが頭を撫でるとセラフォルーは満面の笑みで喜びを表す。
「さて、それじゃあもう一度やってごらん」
「うん!」
イースレイに言われるがままにセラフォルーは再び氷を造る為に集中し始める。