インフィニットストラトス-仮初めの称号《004》   作:ドカン

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 重箱のフタを開けると湯気に混じって甘いタレの香りが鼻孔をくすぐる。つやつやと白石のように輝く白米の上に、年代物の楽器のような重厚な焼き色の魚が載っている。箸を通すとまるでプディングのように魚の身がほどける。タレのからんだ米といっしょに口に運ぶ。

(やはり、やはり素晴らしいものです。あの悪魔の魚からこのような至福の味を創りだすとは。まさしく東洋の神秘。おなじ島国でなぜかくも差がついたのか)

 ヴェロニカは昼食のうな重をゆっくりと食べていた。IS学園にやってきて良かったことといえば食事である。IS学園にはあらゆる国から生徒が集まるため、食堂では世界中の料理を食べることができる。それも形だけのものではなく、本場の人間が食べてもうなるほどの料理ばかりだ。

(悔しいですが、これは先輩の言っていたとおりかもしれませんね)

 国を出る前に情報局の同僚たちが言っていたのだ。よその国の料理に慣れると帰国してから食事に困るから気をつけろと。さすがに故郷の味には勝てないだろうと思っていたが、入学してすぐにヴェロニカの舌は世界の美食に屈服してしまった。ヴェロニカは毎日いろんな国の料理を食べているが、英国料理はめったに食べることがない。

 特に日本料理がヴェロニカのお気に入りだ。ヴェロニカの祖母は日本人で、もともと日本食には馴染みがあったのもある。中でもこの鰻重はメニューに上がると必ず食べるくらい気に入っている。

 そもそも、ヴェロニカはウナギが大嫌いだった。英国にはウナギのゼリーという料理があるのだが、これが味はともかく見た目がよくない。小さな頃にこれを食べて気分が悪くなって以降、ヴェロニカは終生ウナギを食べないと誓った。

 その誓いはIS学園に来てすぐに破れた。食堂で鰻がメニューにあがったとき、馴染みのある日本食だからという理由でヴェロニカはそれを頼んだ。大変気に入ったのだが、自分のたべた魚があの悪魔の魚だと気がついたのはずいぶんあとだった。

 鰻重を半分ほど平らげたところで肝吸いをすする。器と手で隠すようにしながら食堂の中を観察する。

 食事中も任務は続行中だ。セシリア・オルコットに不審な目を向けるものがいないか、服に虫を付けるようなそぶりをするものがいないか。注意しながら鰻を楽しむ。注意するのはセシリア・オルコットよりも彼女に対してなんらかの動きを見せるものだ。というよりも、最近はセシリア・オルコットに視線を送るのが危険になっている。

 セシリアは学園で唯一の男子である織斑一夏と近しい。見たところ完全に惚れているようだ。それは別にセシリアに限った話ではない。学内の生徒は多かれ少なかれ織斑一夏という存在が気になっている。世界中でたった一人のIS適性のある男性。IS学園に入学するような女子からすればスペシャルな存在に見えるのだろう。

 その織斑一夏と近しい生徒の一人に、ラウラ・ボーデヴィッヒという少女がいる。銀髪眼帯という特徴的な容姿の美少女で、独逸の代表候補生である。この少女が問題だった。歩き方や視線の運び、カンの鋭さなどから見て、明らかに一流の戦争屋だった。ヴェロニカがわずかに視線を送っただけでもその気配を敏感に察知する。ヴェロニカが番犬ならばラウラは軍用犬だ。もし戦えばISならば勝負にならない、生身での戦いでも分が悪いだろう。

 下手に織斑一夏の周囲を監視してラウラに感づかれてはたまらない。セシリアが織斑一夏とくっついているときはヴェロニカは他に気を配ることにしていた。

 鰻重を食べ終えたちょうどそのとき、ヴェロニカの携帯が鳴った。画面を確認すると、織斑千冬とあった。

「もしもし」

『ラブロックか。さっき市街で爆弾騒ぎがあった』

「本当ですか、被害は?」

 口元を隠しながら話す。

『いや、幸い爆発前に保安部が処理した。だが情況からみて数日以内に設置されたものには間違いない。他にも爆発物がある可能性もある』

「私は何を?」

『まだそんな段階ではない。本格的に手が足りなくなれば上を通じて正式に要請する。一応そういう騒ぎがあったとだけ伝えておく。その情報からお前がお前の権限の中でどう動くかは自由だ』

「了解しました」

 珍しいことだ。IS学園がヴェロニカに対してこういったことをするのはめったにない。何か事故があってもよほどのことでないかぎりあとになってから知らされる。

 当然といえば当然である。ヴェロニカは少々事情は特殊とはいえ、所詮は一介の学生でしかない。IS学園側から容認されている活動はセシリア・オルコットの身辺警護に関することだけだ。それ以上の行為もヴェロニカは行っているが、それはあくまで『黙認』であって公的に認められた活動ではない。

 ヴェロニカ本人も、自分が身辺警護以上の役に立つとは思わなかった。同世代の中では優秀であると自負しているが、一人で何でもできると思えるほど自惚れてもいない。街にはMI6の仲間が多く潜伏している。ヴェロニカがでしゃばらなくても彼らが既に動いている。

 あくまでヴェロニカはセシリア・オルコットの身辺警護が任務なのだ。それ以外ではただのIS学園の生徒。それに英国も、セシリアのためだけに入学枠をひとつ潰したわけではない。

 ISは戦争兵器と一般的には考えられているが、MI6ではこの兵器は諜報や護衛の現場にこそ向いていると見ている。将来的にはISを要人警護の要にする計画だと耳にしたこともある。女王陛下を始めとして、英国には守らなければならない人物が数多く存在する。だからこそヴェロニカをIS学園に入学させ、大切なISを一機ヴェロニカの専用機にしたのだ。最先端のIS技術を身につけて帰るのもヴェロニカの任務である。

 そのヴェロニカにわざわざ情報を回してくる。これをどう判断するべきか。

(猫の手も借りたいのか、それとも試されているのか)

 何にせよ、何もせずに動かないというのはヴェロニカの性に合わない。食器をカウンターに返すと、ヴェロニカは食堂を後にした。

 携帯を取り出すと『ユニバーサル貿易日本支局』へと電話をかける。

「ヴェロニカです」

『あら、ヴェロニカ。学生生活はどう? 友達はできたかしら?』

 ユニバーサル貿易はMI6が隠れ蓑に使っているダミー会社だ。IS学園にいる間はヴェロニカはここの帰属となる。

「それなりには。食事が美味しいのが嬉しいですね」

『恋人は……できるわけないか。女子高だものね。あ、でも例のスペシャルがいたか』

「話したことほとんどないですよ、それに彼にはセシリア嬢が熱を上げていますし。そもそも、任務中に色恋にかまけるようなことはしません」

『優秀なエージェントは恋も任務も両立するものよ。それで、なんの用?』

「さっき街で爆弾が見つかったとか」

『あら、情報が速いわね。場所はショッピングモールの駐車場。処理したのは学園の保安部よ。さっきから電話が鳴りっぱなし。もう勘弁して欲しいわ』

「私はどうしましょう」

『いつもどおりよ。学園で何かあれば知らせて』

 予想通りの答えだった。あくまでヴェロニカはお飾り、『仮初めの四番』。必要とされてはいない。

「了解」

 通話を切る。ほんの少しだけむっとしたが、ここででしゃばるほどヴェロニカも子供ではない。

(なら、私は私の縄張りを守るとしましょう)

 IS学園の中は生徒と関係者以外は入れない。学園の中の調査はヴェロニカにしかできない任務だ。

 ヴェロニカは物陰に隠れISを起動させた。黒とグレイで構成された無機質な配色。流線型のボディは殆ど素体のような簡素さだった。特徴的なのは両肩の上に浮いている金色の球体である。

 MI6特殊装備開発局が試作した第3世代型ISG・E(ゴールデン・アイ )である。情報戦・諜報戦に特化した機体であり、戦闘能力という意味では現行のISの域を出ない。その名の由来となった金色の球体はまさしくこのISの両眼であり、あらゆる情報を収集・処理して搭乗者にダイレクトに伝えてくる。

 だが、現在このISの能力の大部分は封印されている。その気になれば単機で国家レベルの機関と情報戦ができる機体を、機密だらけのIS学園の中に置くわけにはいかないからだ。この封印の解除にはIS学園とMI6双方の承認が必要となる。

 ヴェロニカがG・E(ゴールデン・アイ )を完全起動させることは滅多にない。普段の虫取り程度なら部分起動で十分なのだ。だが、広範囲の情報を精査するとなると完全に起動させなければ難しい。

(こういうときに電磁迷彩は便利ですね)

 封印状態のG・Eに残されている機能の1つである。ISの周囲に電磁的な結界を張って身を隠すものだ。本来ならばISの知覚すらも完全に誤認させることができるが、今G・Eでは人間や監視カメラ程度しか騙せない。

 ヴェロニカが専用機を持っているのは他の生徒には秘密になっている。見るからに普通のISではないG・Eを見られるわけにはいかないのだ。

(何もないとは思いますが、爆弾は囮で手薄になったIS学園を狙うって可能性もありますしねー)

 黄金の眼が学園全体の情報をかき集める。収集した情報は感覚へと編纂され、搭乗者へと直接流し込まれる。光学情報は視覚に、音波情報は音に、空間情報は気配に、空気中の物質は匂いに。

「んっ……」

 溢れ出すほどの情報の洪水にヴェロニカの脳が軋む。軽い車酔いのような状態に陥るが、ヴェロニカはそれを気合で押さえ込んだ。

 封印状態のG・Eだからこんなもので済んでいるが、本来はこの比ではない。英国で初めて乗ったとき、ヴェロニカは降りてからしばらく歩けなくなったほどだ。それに比べれば軽い眩暈など痛くも痒くもない。

 今のヴェロニカには学園の全てが視えている。庭木にとまる小鳥から廊下での立ち話まで全て把握できる。見えてくるのはいつもどおりの日常ばかりだ。任務ならともかく、意味のない盗み聞きは趣味ではない。何もないのなら早く打ち切ろうと思った時、寮舎の付近に不審な影を見つけた。

(寮舎の陰に誰かいる……機械音……それに、この匂いは……)

 ISを待機状態に戻す。軽い眩暈を振りきって、ヴェロニカは寮舎へと走った。

 

「動かないでください」

 寮舎の裏。うずくまって何かをしていた人影に音もなく近づいて隠しナイフを突きつけた。学園内に銃器は持ち込めないので玩具みたいな刃物しか武器はない。刃先で首筋をなでるようにしながら相手のことを観察する。

 IS学園の制服。長い赤毛の白人女性。リボンの色からして二年生。名前は思い出せないが、アメリカからの生徒に該当する生徒がいたはずだ。

「両手を上げて、ゆっくりそこから離れなさい」

「誰だてめぇ」

 悪態をつきながらも赤毛の少女は両手を上げて立ち上がった。足元には黒っぽいナイロンのカバンが転がっている。さっきGEで見た通りなら、早急に処理する必要がある。

「答える必要はありませんね。私の命令にだけ従いなさい」

 焦りが出る。カバンの中身はまず間違いなく爆弾である。市街での爆弾騒ぎは囮で、こちらが本命だったのだ。

「両手を頭の後ろで組んで這いつくばってください」

 テロリストが本物の生徒として在籍していたのだろうか。それとも、制服だけを着た偽物か。とにかく拘束してしまおうと、制服の隠しポケットから、拘束用の特殊バンドを取り出す。

 その一瞬。赤毛の少女が動いた。首筋に突きつけていたナイフに、自分からぶつかってきたのだ。自殺ともとれるような行為にヴェロニカは目を見張る。だが、ナイフから伝わってきたのは肉を裂く感覚ではなく、硬い何かにぶつかるものだった。

 赤毛の少女がヴェロニカのナイフを持った手を掴んだ。そのままくるりと回るように逆肘を突き込んでくる。赤毛がはらりと舞って少女の首元があらわになる。赤毛の少女は首に革のチョーカーを巻いていた。チョーカーには。金属製のスタッズがあしらわれている。少女はナイフをこれに当てることで防いだのだ。

 ヴェロニカは腕を捕まれ肘鉄を避けきれなかった。肘がみぞおちにめり込み、一瞬息ができなくなる。その隙をついてヴェロニカは地面に組み伏せられた。ナイフを持っていた手をがっちりと極められて身動きがとれない。ヴェロニカも習得している拘束術に近い。ただのテロリストではない。あきらかに訓練された人間の動きだった。

「はい没収ー。はン、チャチなナイフ」

 極めた手からナイフがもぎ取られる。背中の上に乗った赤毛が勝ち誇ったように言った。

「じゃああたしの番だぁな。てめえは誰だ」

「人にものを尋ねるにはまず自分から名乗るのが礼儀ではないでしょうか?」

「あいにく育ちがわるくてなぁ、いきなりナイフつきつけてくる相手に払う礼儀は身につけてねえ」

「こちらもテロリストに名乗る名前は持ちあわせていませんね」

「あぁン? あー……、あぁ」

 ヴェロニカの言葉の何が引っかかったのか、赤毛は何かを考えるような気配を見せた。その隙をつき、ヴェロニカはポケットからペン型スタンガンを取り出した。後ろ手に赤毛の足に突き付け、思い切り引き金を引く。

「あっ! てっめ、この」

 電撃にひるんだ赤毛が極めていた腕を離した。ヴェロニカはそのまま地面を這うようにして赤毛の足元から抜けだした。柔道の寝技の要領で背後にまわりこみ、蛇のように四肢をまとわりつかせる。そのままチョークスリーパーで首を絞める。

「が……く」

 数秒で赤毛はがくりとうなだれた。失神したのかを何度か確認してから、ヴェロニカは赤毛の手足を拘束した。

 携帯を取り出し、保安部に直接連絡を入れる。

「こちらヴェロニカ。寮舎裏で不審者を拘束しました。爆弾とおぼしき不審物も確認」

『了解。少し時間がかかるかもしれんが何名か向かわせる』

 連絡をいれてようやく一息つく。今になって考えてみると赤毛に接触する前に保安部に連絡をいれておけば良かったのだ。めったにない緊急事態ということで気が焦っていたのだろう。

 この生徒が何者かは気になるが、今は爆弾の方が重要だった。生きている爆弾だとすれば保安部を待っている余裕はない。

 ヴェロニカはポケットから筆箱を取り出した。中に入っているのは筆記用具に偽装した工作用具だ。これくらいなら普通に隠し持てばいいと思うのだが、凝り性のQがわざわざ作って押し付けてきたのだ。

「ま、待て」

 カバンを開けようというそのとき、背後から赤毛の声が聞こえた。

「もう起きたのですか。丈夫ですね」

「く、このクソガキが……。あったまいてえ」

「良いところで起きてくれました。私は今からこの爆弾を解体しようと思うのですが、構造を教えてくれると助かります。貴方も自分のしかけた爆弾で死にたくはないでしょう?」

 ゴールデン・アイを使えばすぐに解析できるが、この女の前で使うわけにはいかない。吐かないならもう一度失神させればいい。

「だからちげえっての。あたしもその爆弾を見つけてバラそうとしてたとこだったんだよ。それを早とちりしやがってこの腐れアマ」

「はぁ? ……証拠はあるんですか?」

「あたしはお前を知っている。MI6所属のエージェントだな。名前はたしか……ベロニカ・ラブロック」

 ヴェロニカは思わず息を飲んだ。自分がMI6の諜報員だということは教師でも知っているものはほとんどいない。いや、英国でも内密になっている情報だ。それを知っているこの女は何者だ。

「けけけ、誰だお前ってツラだな。アメリカ出身でてめえと同じような身分ってだけでわかんねーの?」

「……CIAですか」

 上司からCIAのエージェントも学内にいるとは聞いていた。だがヴェロニカは名前も顔も知らされていない。この赤毛は知っていたのにだ。単に組織内の立場の違いなのかもしれないが、それがカンに触った。

 米国の情報機関であるCIAは古くからMI6密接な繋がりがある。史上何度も共同作戦を行って来た。IS学園のことでも上の方では協力体制ができているのだろう。

「面白くありませんね」

「面白くねえのはこっちだ。さっさとこれ外せ」

「名前と、身分を証明できるものを見せたら開放しましょう」

「ドロシー・ペトレイアス! 身分証は制服の胸ポケット! 学生証の裏に隠してある」

 赤毛の制服を漁るとたしかに学生証が出てきた。革のケースの裏側をみると、CIAの紋章の入った身分証も見つかる。この赤毛はたしかにCIAの職員だった。

「ったく。イギリスの情報局は躾がなってねえな」

 手足の枷を外してやるとドロシーはそう悪態をついた。ヴェロニカは無視して爆弾に向かう。

「で、これなんですが」

「あぁ、さっき軽く見たよ。時限式でまだ時間には余裕がある。寮に生徒が戻ってから爆発するようにしてあるんだろうな。光学センサーとかはなかった」

「あぁ、大体わかりました」

「解体の経験あんのか?」

「この造り、欧州では最近いちばん流行りの爆弾なんですよ。爆弾テロっていったら大体これですね。訓練だけですけど私も何度か解体したことあります」

「へぇん」

 ヴェロニカが爆弾を解体しはじめると、ドロシーは横であぐらをかいて座り込んだ。ヴェロニカの持っている工具セットを興味深そうに眺めている。

「なぁ、これ設置したのどんなやつだと思う?」

「テロリストなんでしょうが、IS学園ねらいとなると想像がつきませんね」

「この国はそういうのとはあんまり縁がないし、国のとばっちりってよりは学園側がまいた種だわな」

 軽口を叩きながら次々とセンサーを黙らせていく。爆弾の構造がシンプルなのもあるが、この手際の良さは並大抵のものではない。ヴェロニカ・ラブロックは『仮初めの四番』だが、それでも英国の少女たちの中から選びぬかれたエージェントなのだ。

「ああ、さっき貴方が落ちていた間に保安部に連絡を入れておきました。そろそろ駆けつけると思いますけど、私は手が離せないので説明おねがいできますか」

「あいよ。っと、言ってるそばから誰か来たな」

 ドロシーが立ち上がる。ヴェロニカは解体を続けていたが、背後でドロシーの悲鳴が聞こえ、思わず振り返った。

「っ……」

 白銀の髪。緋色の目。左目を覆う眼帯。獰猛な獣のような雰囲気。

 一年最強と噂される少女、ラウラ・ボーデヴィッヒがそこにいた。赤い右目は明らかにヴェロニカに敵意を向けてきている。足元を見れば綺麗に気絶させられたドロシーが気持ちよさそうに眠っている。

「戦闘音と火薬の匂いにつられてきてみれば……貴様ら、ここで何をしている。そこの爆弾はなんだ」

「ま、待って、これは」

 さっきのヴェロニカとドロシーと同じ状況だった。自分で言うのもなんだが、もっと情況を確認してから突っかかってきて欲しい。

「IS学園でテロとはいい度胸だな。何者かは知らんが、私と私の嫁の暮らしを邪魔する者には容赦はせんぞ」

「だから違―」

「問答無用!」

 ヴェロニカが釈明する間もなくラウラは飛び込んできた。恐怖のあまりISを呼びだそうとしたのが間違いだった。GEが起動する前にラウラの拳がみぞおちに突き刺さる。身体がきれいにくの字に曲がった。さっきドロシーに打たれたのと同じ場所なのもあり、一瞬気が遠くなる。無防備に下がった首筋に向けてラウラの手刀が振り下ろされる。

「が……」

 自分が何をされたのかも分からないまま、ヴェロニカの意識は綺麗に刈り取られた。

 

「それで、ガキども。何か言いたいことはあるか」

 生徒指導室でヴェロニカ・ドロシー・ラウラが三人揃って立たされていた。鉄面皮を怒りで歪ませた織斑千冬が仁王立ちしている。

「このチビどもが勝手に勘違いして突っかかってきたんですー、あたし悪くありませーん」

 ドロシーが軽口で千冬の視線を受け流す。こうして並ぶとドロシーはかなり背が高かった。ヴェロニカ・ラウラとくらべると頭ひとつぶんは背が高い。

「ほほう。では聞くが、なぜ爆弾を見つけてから保安部への報告を怠った」

「あ、いや……その」

 千冬はヴェロニカの隠しナイフを持っていた。それを三人の前で、まるでゴムでできた玩具のように曲げてみせた。隠匿性優先の薄いナイフとはいえ、金属の塊を片手で握り潰す千冬に三人の背筋が凍る。さっきまで軽口を叩いていたドロシーも顔を青くした。

「申し訳ありません。功を焦るあまり報告を怠りました」

「次! そこの二人! よく確認せずに襲いかかる奴があるか!」

 突如自分たちに矛先が向けられ、ヴェロニカとラウラはぴんと背を伸ばして答える。

「はい。申し訳ありません教官殿!」

「教官ではないと言っている!」

「はっ。失礼しました」

 ラウラが千冬に怒られている横から、恐る恐るヴェロニカも声を上げる。

「申し訳ありません! ですが爆弾ということで早急に対処する必要があると思い、つい焦ってしまいました」

「……なぜ爆弾だと分かった?」

「は? ……あ」 

「この馬鹿者が! 学内でむやみにISを使うなと言っているだろう」

「す、すみません」

 学園内では指定の場所以外ではISの使用は禁止となってる。明確な校則違反ということで他の二人に比べてもヴェロニカはこってり絞られた。

 数十分の説教からようやく開放され、三人が生徒指導室から出るとき。千冬が言った。

「ラブロック。爆弾の処理に関しては褒めてやる。よくやったな」

「あ、ありがとうございます」

 

 

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