この度、ホドモエシティジムリーダー、ヤーコン主催でイッシュを巡るラリーの開催が決定しました。
一次予選の受付は各地のポケモンセンターで行います。腕に自信のあるトレーナーは是非、奮ってご参加ください。予選の内容は受付完了と同時に通知します。
プロローグ 観覧車の中で
ニューキンセツ 観覧車
ホウエン地方にある町、キンセツシティ。その地下に存在するのが地下都市ニューキンセツである。
キンセツシティでは子供の数に反比例して遊び場が少なく、それが社会問題になっていた。これを解決すべく、カラクリ大王と呼ばれた人物の先祖が建設したのがニューキンセツである。町全体が巨大な遊園地になっているのだ。
「前にも言ったと思うけど、ボクは観覧車が好きなんだ」
緑色の髪をした青年が、ニューキンセツにある観覧車に乗っていた。髪は長めで、後ろで結んでいる。中性的な外見に理屈では説明できない魅力を秘めていた。向かいには彼以外に誰かが座っているのか、青年はそちらに向かって話す。
「まさかこんな場所で君に会えるなんてね。トウコ、君は世界を見てどう思った?」
観覧車のゴンドラは高度を上げていく。ポケモンの背中に乗って空へ飛べるこの世界では高いところの景色に希少性が無いのか、観覧車は地方に一つずつ程度しかない珍しい乗り物だ。青年もポケモンの背中から見る高い景色は見慣れていたが、それでも観覧車から眺める風景が好きだった。
何よりこのゆっくりと地上から離れる感覚、一定の道筋を一定の速度で辿る観覧車は、青年が興味を寄せる数学の式に似ていた。
「ポケモンとトレーナー、二つの世界が混ざり合って鮮やかな色を織り成す。その数式は美しい」
観覧車は頂上に達した。後はただ、下に降りるだけだ。
「ボクは一度イッシュに戻るよ。少し興味のある噂を聞いたからね。ポケモンの話じゃなくて人間の話に興味が沸くなんて、ボクも随分変わった」
青年の言葉に、向かいの人物は意外そうな表情を見せる。以前出会った時、青年はポケモンの話にしか興味の無い人間だったのだろうか。
「なんでも、ポケモンと話せるトレーナーがいるらしいね。うん、ボクと同じだ。だけどそれが本当か、それともただプラズマ団がボクの代わりを使って2年前と同じことをしようとしてるのか。ボクはトモダチと確かめに行くよ」
観覧車は一番下まで降りた。青年は立ち上がり、ゴンドラから出る。彼の向かいに座ってた人物もゴンドラから降りて、青年とは違う方向へ歩き始めた。
再開した二人は、また別の道を歩く。
数週間前 イッシュ地方 バトルサブウェイ
イッシュ地方は地下鉄が張り巡らされ、非常に便利な足として市民に重宝されている。しかし、一部の路線はポケモントレーナー達が集うバトルサブウェイという特別な列車が運行している。しかしながら、一般にはバトルサブウェイなど縁が無い人間の方が多いだろうからこの場でのバトルサブウェイの説明は割愛させて頂く。
バトルサブウェイでサブウェイマスターをしているノボリは、自分達に挑戦できる条件を満たしたトレーナーが現れない限りは地下鉄の車掌をしている。弟のクダリとは双子故にそっくりだが、見分けがつく様に配慮して自分が黒い車掌服を着てるので従業員が混乱することは無い。
彼の今日の仕事はシッポウシティに着いた終電を車庫に戻せば終わりとなる。地下鉄の車庫はカワナタウンが有名だが、始発をわざわざカワナタウンから取り寄せていては面倒なので各地の駅に車庫がある。
車庫に地下鉄を戻す前に、ノボリは車内の忘れ物や居眠りで終電に気付かない乗客がいないか確認する。ソウリュウシティの様な大都市から来る地下鉄なので、酔っ払ったサラリーマンが車内で寝てることも多い。特に、この地下鉄はライモンシティ、ヒウンシティと大都市ばかりを通過するのでその可能性が高い。
車内を忙しなく駆け回る影にノボリは気付いた。シャンデリアの様な姿をしており、フワフワと浮いている。彼のポケモン、シャンデラだ。小さくて小回りが利くため、地下鉄の雑務を良く任せている。
「どうしましたかシャンデラ?」
何やら慌てている様子なので、ノボリはシャンデラが来た方向へ足を進める。車両を次々に移動した末、ノボリが見つけたのは一人の乗客。まだ幼い子供らしく、やけにボロボロの服を着ていた。前髪が伸び、目元は隠れている。後ろ髪も背中まで伸びていて、ボサボサであることから単純に切ってないだけらしい。
「お客様、終電ですよ」
不審に思ったノボリはその子供を揺り起こす。しかし、子供は目を覚まさない。シャンデラが慌てていたのはこういうことか。ノボリは納得した。
「とりあえず、ポケモンセンターにでも連れていきますか」
彼は子供を抱えて地下鉄を出る。その子供は妙に軽く感じた。ノボリは自分自身であまり鍛えられてないことを自覚していたから、この軽さには尚更違和感を覚えた。酔っ払いなどは大抵、ポケモンに運ばせている。イワパレス辺りならその程度、ちょちょいのちょいだからだ。
ノボリは車掌という仕事の性質上、いろいろな人と出会う。この奇妙な子供のこともすぐ忘れてしまうだろうと彼は考えていた。しかし、この子供を忘れられなくなる日が来ることをその時ノボリは知るよしも無かった。