ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 トレーナーカード
 アリス
 14歳 女
 騎士の格好をした少女。厳格で毅然としている。美しい金髪と陶磁器の様な白い肌を持つ美少女である。
 騎士の名家出身で、はがねタイプのポケモンの使用を宿命付けられているが、なるべくはがねタイプでもかわいいのを選んだとか。ドレスの様な鎧も似た理由。
 手持ち
 ルカリオ♂
 クチート♀
 エアームド♂
 エンペルト♂


8.スカイアローブリッチの騎士

 スカイアローブリッチ

 

 アッシュとシンジはヒウンシティに向かう予定のハツネを一時的に仲間に加え、旅を続ける。一行はスカイアローブリッチに差し掛かった。

 この橋はイッシュにある5つの橋でも一番長いことで有名だ。ちなみに5つの橋とサザナミのマリンチューブを全て渡り切れば『ブリッチエンブレム』が貰える。

 すでに日は暮れ、夜の橋はライトアップされている。出発地点であるヤグルマの森の暗さに反比例して、ヒウンシティはやけに明るい。

 「車が通っているが…大丈夫か?」

 「心配はないだろう。乗用車やトラックはリベレート団の安上がり重機より排気ガスが少ない」

 シンジが心配したのはアッシュのこと。彼はヤグルマの森で重機の出す排気ガスを吸い、かなりダメージを受けていた。問いに答えたのはエルトだった。

 「何故貴様がいる」

 「買い物にだね」

 エルトは買い物の為にヒウンへ行くのだという。エルトの姿を見ていたハツネはアッシュに向かって呟いた。

 「なんかいちいち口を聞いちゃいけない気がする……」

 「ベルさんは『目が怖いだけ』って言ってたけどね」

 ハツネはエルトを完全に不審者扱いしていた。先程はあまりにピンチだった上、ヴァイオラもいたので助けを求めたが、普段なら絶対話し掛けたりしないだろう怪しい雰囲気がある。

 「なんだろ、イケないお薬してる人みたいな感じがするのよね」

 「いろいろあるんだよ、きっと」

 こうして話してみると、アッシュは外見に惑わされずに公平に人を見る力がある様に見える。実際はアッシュがポケモンに重い比重を置くので、人間に対して細かい関心を持たないだけである。

 「橋を全部渡ればエンブレムか。温いな」

 「でも時間かかりますね。シンジみたいに強いとジムリーダーからエンブレム貰った方がいいかも」

 エンブレムの価値はベテランのシンジと新人のアッシュでは異なっていた。確かに橋を渡るだけで予選の8分の1がクリアできるなら楽だ。だが、見た目の気軽さに反して時間がかかる。

 一行はダラダラ進んで橋の真ん中に差し掛かる。すると、そこで奇妙なものを目にした。まず初めに、シンジがその存在に気付く。

 「なんだ?」

 トレーナーの様にも見えた。傍にルカリオを従えていたからだ。シンジは図鑑を開いてルカリオの情報を確認する。

 『ルカリオ。はどうポケモン。ナパーム弾が大好物。超能力の研究を手伝うとその命が終わってしまう、情けないポケモンだ』

 「なに? 図鑑が壊れたか?」

 図鑑はおかしな説明を読む。シンジは図鑑が壊れてしまったみたいだ。よく見ると、図鑑が1世代前のものである。アッシュの図鑑と違う。厳選であれだけ酷使すれば、壊れるのも頷ける。

 『ルカリオ。はどうポケモン。あらゆるものが発する波導をキャッチする能力をもつ。人の言葉を理解できる』

 アッシュの図鑑が正しいルカリオの解説を読み上げる。トレーナーは徐々に一行に近づく。そのトレーナーは妙な服装をしている少女だった。

 金髪碧眼の美少女であるが、鎧を纏っている。ドレスの様なデザインの鎧で、防具なのに可憐さを感じる。長い金髪がライトで照らされ、夜風になびく。肌は陶磁器の如く白い。まるでお人形、とは彼女を指すのだろう。

 「なんだよ」

 少女はエルトの顔を覗き込む。身長としてはエルトより頭一つ小さいくらいで、シンジとハツネよりは大きい。彼らより年上でエルトよりは年下くらいの年代だろうか。

 「……」

 「ぎゃああ!」

 少女は黙って、エルトを取り押さえた。突然の事態にアッシュ達は騒然とする。一行に緊張が走った。

 「この目、間違いない。『お元気になるキノコ』の常習者か!」

 「なんだそれは?」

 少女は何らかの薬をやってる中毒者だとエルトを断定し、高速したのだ。シンジも聞いたことないキノコだが、エルトは知っていた。

 「タネヒネリ島原産のキノコだ。食べるとお元気になるけど強い幻覚作用と中毒性がある。ブルジョワ財閥が社員にまで使わせて影の資金源にしてるんだ。だから俺は使ってない!」

 「嘘を付くな。キノコを使わずにそんな狂った目ができるか!」

 エルトは生来より持った目付きが原因で少女に中毒者と間違われていた。アッシュはとりあえず、少女に説明する。

 「この人は元々こういう人なんです」

 「そうなのか? ……ふむ、確かに何も持ってないな。お元気になるキノコは中毒性が高いから、中毒者は常に切らさない様に持ち歩くものだ」

 少女はエルトのコートを探って、キノコが無いことを確認すると、彼を解放した。騎士の様な彼女は、この橋でキノコを取り締まっていたのだろう。

 「間違えてすまないな。だが、騎士は安直に謝ったりはしない」

 「謝ったぞ」

 「私はイッシュリーグ四天王、カトレア様の一族にお仕えする者だ。名前はアリスという」

 シンジの追及をかわし、アリスと名乗る少女は自己紹介を済ませた。カトレアに仕える人間らしい。特殊な能力を持つ一族ゆえ、コクランの様な執事以外にもいろいろ護衛がいるのだろう。

 「おい。カトレアにそんな護衛がいるとは聞いてないぞ?」

 「……私が勝手にお仕えしてるだけだからな。本人にお会いしたのはほんの数回だ」

 しかし、実際はアリスが勝手に仕えてるだけであることがシンジの問い掛けで発覚した。驚愕の事実にアッシュとハツネが驚く中、エルトは頭の中から情報を引きずり出す。

 「君は『クラウンナイト』の一族だね?」

 「クラウンナイトだと?」

 「はがねタイプを専門とする騎士の一族だよシンジ君。一族で決まった主を持たず、各々がこれぞと思った主に仕えるんだ。君は四天王のカトレアさんに仕えたんだね?」

 エルトの質問にアリスは頷く。こんな感じで勝手に仕えても問題無い一族なのだ。

 「しかし惜しむらくは君のお兄さんがブルジョワ伯爵に仕えてることだ」

 「兄が伯爵に仕えた理由は知らぬが、そういう一族だ」

 またも驚愕の事実がエルトから。これから戦うべき敵にそんな厄介そうな一族の人間がいることも発覚した。リベレート団全体が雑魚な分、厄介の一言では片付かない相手になるだろう。

 「問題はそのお元気になるキノコだ。ここで取引されてるのか?」

 「ああ。ヒウンからシッポウへの出入りを防ぐ必要がある」

 シンジはキノコについてアリスに聞いた。シッポウへ至る唯一の道であるスカイアローブリッチでキノコの取引がされる可能は高い。それでアリスは見張っていたのだ。

 「もしかしたらトラックで沢山運んでるかも」

 「まっさかー。そんな大胆に……」

 アッシュは下の車道を眺めて、そんなことを言ってみる。ハツネも車道を覗き込んでみたが、そんな大胆に運ぶわけもない。そう思っていたら。トラックが橋のフェンスに激突して単独事故を起こした。

 そのトラックが横転した時、荷台から怪しげなキノコが沢山出て来た。

 「あれは……お元気になるキノコ!」

 「「本当に運んでた!」」

 アリスがお元気になるキノコだと判別する。本当にトラックで大量運搬してたのでアッシュとハツネはこれ以上になく驚いたとか。

 「しまった、やっちまった!」

 「待ちなさい!」

 アリスは逃げ出す運転手を追うため、歩道から下にある車道の横転したトラックへ飛び降りる。彼女のルカリオも後を追う。

 「車道に降りる階段があるな」

 「行ってみましょう!」

 シンジとハツネも歩道の隅にある階段を見付けて、下に降りる。エルトも降りたため、歩道にはアッシュだけが残った。

 「ルカリオ! はどうだん!」

 アリスがルカリオに指示を出し、はどうだんで運転手を足止めする。直撃した運転手は倒れた。エルトは一歩間違えば自分も同じ目に合っていたとわかると、青ざめた。

 「うわー」

 「さあ、観念なさい」

 「やめてくれええ! キノガッサ! 助けてくれ!」

 運転手は必死に抵抗するも、ルカリオに取り押さえられる。しかし、運転手は自らのキノガッサを呼んで助けを求める。荷台から零れたキノコの山を掻き分け、キノガッサが複数姿を現した。

 「あれがキノガッサね」

 『キノガッサ。きのこポケモン。短い腕はパンチを出す時、ぐーんと伸びる。プロボクサー顔負けのテクニックをもつ』

 ハツネはキノガッサの情報を図鑑で確認する。シンジはキノガッサを見て、警戒を強める。

 「キノガッサか。キノコほうしが来るか、ポイズンヒールか、それともテクニシャンか? なら、グライオン、バトルスタンバイ!」

 シンジは考えた末、グライオンをボールから出した。まずキノコほうしで眠らされることを警戒した方がいいと判断し、ポイズンヒールのとくせいを持つグライオンを選んだ。

 ポイズンヒールは毒状態だと逆に体力を回復するとくせい。シンジはどくどくだまを持たせて毒状態を誘発し、眠りを防いだ。毒になってる間は眠らない。

 「キノガッサ、キノコほうしだ!」

 「グライオン、アクロバット!」

 シンジのグライオンにキノガッサがキノコほうしをする。しかし、グライオンは既に毒状態。眠らない。そこにアクロバットが決まる。アクロバットは本来、持ち物が無い時の方が高い威力を発揮する技。それでも、グライオンの攻撃力でタイプ一致の飛行技、草格闘タイプのキノガッサにとっては効果が抜群過ぎるので持ち物があってもパワーは充分だ。

 空中に飛び上がり、錐揉み回転しながらグライオンはキノガッサに迫る。鋏の拳がキノガッサの脳天に直撃、キノガッサは倒れた。

 「ぬるいな」

 「馬鹿な…無敵のキノガッサが!」

 運転手はキノガッサの力を過信していた。対策されればどんなに強いポケモンでも負ける。シンジは初めから催眠などの眠り技に対策をしていた。

 「じゃあこのキノガッサで!」

 「じゃ、おヒゲ。お願いね」

 次のキノガッサが出て来ると、ハツネがユンゲラーのおヒゲをボールから出して応戦する。

 「キノガッサ、キノコほう……」

 「おヒゲ、サイコカッター!」

 キノコほうしが出る前におヒゲのサイコカッターが直撃。キノガッサは何も出来ずに戦闘不能となる。

 「やったー! 勝ったー!」

 「物理攻撃が苦手なユンゲラーのサイコカッターで沈むとは、どんな育て方してるんだ?」

 喜ぶハツネと対照的に、シンジは運転手の育て方に呆れていた。いかに効果抜群とはいえ、ユンゲラーが放つ物理技のサイコカッターを受け切れないキノガッサとは一体。物理攻撃が得意でないユンゲラーは、完全に進化し切ってすらない。

 「君の育て方はキノガッサの知識が足りない、相性への配慮が足りない、技の情報が足りない、状態異常による戦略が足りない。そして何より圧倒的に」

 エルトがジワジワと運転手ににじり寄る。アリスが中毒者と間違えた目付きは運転手へ恐怖を与えている。そして彼は、ボールを空高く投げ上げた。

 「愛 が 足 り な い!」

 最後の、一文字ずつ区切られた言葉と共にエルトはグレイシアを繰り出した。グレイシアは登場と同時にあられを発動する。

 「キノガッサ、キノコほうし!」

 運転手がキノガッサにキノコほうしを指示するも、グレイシアには当たらない。グレイシアのとくせい、ゆきがくれだ。このとくせいを持つポケモンはあられが降ってる時、回避率が上がる。

 「フィア! ふぶき!」

 エルトがグレイシアのフィアに指示を出し、ふぶきを発動させる。命中率の低いふぶきは、あられが降ってる時に必ず当たる。残ったキノガッサがバタバタ倒れていく。それでも、全部のキノガッサを倒し切れない。

 「エアームド、残ったキノガッサにつばめがえし!」

 討ち漏らしはアリスが繰り出したエアームドに捌かれる。これでキノガッサ軍団は全滅した。運転手は抵抗の手段を失い、お縄についた。

 一方、歩道で待っていたアッシュはポカブのマインと話していた。あまり激しい運動をすると苦しくなるので、お元気になるキノコの問題は大人しく他の人に任せた。

 「髪伸びた?」

 「え? そうかな?」

 「ショートからミディアムくらいになってんぞ」

 マインはアッシュの後ろ髪が伸びてることに気付く。前髪は初めからモノズだが、後ろ髪は短かったはず。親代わりだったハハコモリがたまに切ってくれていたので、そこまで伸び放題じゃなかった。

 「2年間くらいは切れなかったけどね。そうだ、お母さんが一回だけ適当に切ったね」

 「へえ」

 髪の話をしてると、歩道の左右からぞろぞろと人が集まる。アッシュがその顔を覗き込むと、エルト以上に目の光が失われて狂っていた。

 「なに……あれ?」

 「まさか、中毒者が大挙して押し寄せて来たんじゃ…」

 アッシュが不安そうに呟く。マインは警戒を強めた。チョロネコのマチルダもボールから出る。

 「おいお前ら! そこのガキを捕まえたらこのキノコを全部やる!」

 「ええ?」

 両方向から押し寄せる中毒者に、運転手はアッシュを捕まえさせようと叫ぶ。中毒者達が殺気立ち、アッシュに飛び掛かった。

 「させるか! オーバーヒート!」

 マインがオーバーヒートで中毒者を吹き飛ばす。彼らは歩道から振り落とされ、車道に墜落する。マチルダもバークアウトで逆方向の中毒者を倒す。

 「チッ、役立たずめ。キノガッサ、あのガキを人質に取れ!」

 「まだいたのか」

 シンジが呆れた通り、キノガッサはまだいた。運転手がボールを歩道に投げ込み、アッシュを取り押さえさせる。

 「オーバーヒートの後は火力が落ちる、畳みかけろ!」

 「マイン、ニトロチャージ!」

 アッシュの指示で、マインはニトロチャージを使う。落ちているはずの火力が再び蘇る。オーバーヒートを撃つには充分だ

 「ニトロチャージの炎をスピードアップではなく攻撃に転用したか。ナイスだ!」

 「マイン、オーバーヒート!」

 エルトは素直に感心する。マインはアッシュの合図で纏った炎をキノガッサに討ち出した。キノガッサは何も出来ずに倒れる。

 「さ、無駄な抵抗はやめなさい。貴方を警察に引き渡します」

 「くそ! 俺はブルジョワ伯爵に言われたことをしただけなのに!」

 アリスに拘束され、運転手は悔しそうに暴れる。お元気になるキノコ取引にはブルジョワ伯爵が関わっていた。警察でそれを話しても、圧力で伯爵に捜査の手が伸びることはないだろうが。

 「いやー、いい暇潰しになったよ」

 「こうやって悪は栄えるのね」

 「ぬるい奴だ。だからキノコにも手を出す」

 エルト、ハツネ、シンジは歩道に戻ってくる。アリスは事後処理に車道で忙しく働いていた。彼女はおそらく、警察みたいな権限を持っているのだろう。

 「さ、ヒウンに行こう。夜も遅いものね」

 「あー、疲れた」

 「ホントですわ」

 一行は再びヒウンシティを目指す。マインとマチルダは疲れ気味だが、ハツネに早いペースでついていくので言うほど疲れてないのだろう。

 「アッシュ。顔色が悪いぞ?」

 「あはは、ちょっとビックリしちゃったから。もう平気」

 シンジはアッシュの顔色が悪いことに気付く。アッシュは歩き出したが、足をもつれさせて倒れてしまう。

 「アッシュ!」

 シンジの声に気付いたハツネ達がアッシュに駆け寄る。彼は息を切らし、脂汗を浮かべていた。シッポウシティから始まった長い一日は、アッシュの身体に支障をきたしていた。




 原作プレイバック キノガッサ

 キノガッサはルビー・サファイアから登場した草格闘タイプのポケモンである。アニメで主要な役割に就かなかったが、ハルカのアチャモがワカシャモに進化した回に登場している。
 ゲームでは凶悪な性能を持つポケモンとしてランダム対戦に君臨。複数のとくせいを持ち、それに合わせて技の組み合わせも複数あるが、共通して命中率100%を誇る催眠技『キノコほうし』を採用してる可能性がある。
 よく使われるのがとくせい『ポイズンヒール』と『テクニシャン』。『ほうし』よりはこちらを使うことが多い。
 ポイズンヒールは劇中でもシンジのグライオンが使用したとくせい。このグライオン、アニメで捕まえた個体と同一かは不明ということになってる。
 このとくせいは毒状態の時にダメージではなく回復するマゾいとくせい。これを利用し、『みがわり』で相手の技をかわして『気合いパンチ』を叩き込み、ポイズンヒールでみがわりのコストを回復する戦法がある。他の状態異常にならないので催眠ポケモンにも強い。
 しかし毒状態を逆に利用され、ベノムショックを喰らわないように。割と痛い。
 『テクニシャン』は弱い技を強くするとくせい。ヴァイオラのハッサムが同じとくせいを持つ。これを利用して先制技の『マッハパンチ』や連続攻撃の『タネマシンガン』を強力に放てる。
 しかし、いかに強力とはいえ過信は禁物。特に草タイプは弱点も多く、格闘タイプとの複合で飛行技は4倍のダメージになる。飛行タイプにはトゲキッスやムクホークなど強力なポケモンが多いので注意。虫タイプには草技も格闘技もダメージが通りにくく、虫技で大ダメージになりやすい。かそく持ちのメガヤンマとか催眠もできるので最悪の相手といえる。
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