おとなのおねえさん アーシェ
謎の美女。何故かアッシュの事情を知っていたり、奇妙な点がある。ヒカリを無理矢理置いてけにしてレイジの下に。彼に気がある様な発言もしてるが、本気かは不明。
手持ち
アバゴーラ(プロト)
コンテスト会場
アッシュとヒカリはコンテスト会場の控室にいた。まもなく、一次審査が始まるというところだ。
「緊張してきた」
「大丈夫大丈夫」
「ダメだぁ、もうおしまいだあ……」
アッシュはヒカリの『大丈夫』を聞いて一気にネガティブに陥る。ヒカリが大丈夫と言う時ほど危険だと、シンジに言われた結果だ。
「本当にあいつ、どんな教え方したのよ」
ヒカリとアッシュはコンテストに向けてドレスアップしていた。ヒカリはアッシュと会った時に来ていた海賊の服装。アッシュはヒカリが昔使ってたドレスを取り寄せ、それを着ている。
「今回のコンセプトは『女海賊と囚われの姫君』! 優勝は間違い無し!」
ヒカリはアッシュの髪を丁寧に梳かし、額の火傷をファンデーションで隠して完璧な女装を施した。手枷などのアクセサリーでアッシュの立場を明確に示している。
「練習した通りにやれば大丈夫大丈夫!」
「マチルダも自信あるみたいだから、多分ね」
アッシュはマチルダのボールをカプセルに入れた。そこにシールを貼っていく。これはシンオウのコンテストで一般的に用いられる『ボールカプセル』というアイテムだ。シールを貼ると、ボールからポケモンを出した時に特殊効果が付く。
「開会式だよ」
控室のモニターには開会式の様子が映されていた。ステージ中央でギターを掻き鳴らすのは、タチワチジムリーダーのホミカ。
『イエーイ! 魂を震わせるコンテストの始まりだ! 優勝者にはトキシックエンブレムを贈呈!』
「このトキシックエンブレムを手に入れたら、ボクのエンブレムは3個だね」
アッシュは今まで手に入れたエンブレムを、エンブレムケースで確認する。サンヨウで手に入れた『トライエンブレム』、シッポウで勝ち取った『ミュージアムエンブレム』。『ビートルエンブレム』はお預けだが、イッシュラリーの予選通過が近付く。
『そして今回は、なんとミクリさんが特別審査員に来てくれた! そしてサプライズなプレゼントもあるぜ!』
ホミカは特別審査員だというミクリにマイクを渡す。ミクリは元ルネジムリーダーにしてホウエンリーグチャンピオン、そしてコーディネーターという異色の経歴を持つ凄腕だ。
「ミクリさんはミクリカップっていう大会を各地で開いているの。イッシュラリーでも大会を開いているのは、イッシュにコンテストを広めるためなの」
「凄い人なんだね」
ヒカリは何度かミクリカップへの出場経験もあり、優勝もした。イッシュにはポケモンコンテストが無く、著名なコーディネーターによる活動でコンテストを広めてる最中だった。
『皆さん、こんにちは。私が今日来たのは、イッシュにコンテストの魅力を広めるためです。そこで、このコンテストの優勝者にはイッシュコンテスト界の未来に期待し、リボンを贈呈します。このリボンはどのグランドフェスティバルでも使うことができます』
「ええ?」
「リボン?」
ヒカリはリボンと聞いて仰天する。アッシュはそもそもリボンを知らなかった。画面に映し出される紫色のリボンを見て、首を傾げる。
「リボンは5つ集めるとグランドフェスティバルっていう大きな大会に出られるの。うぅ、緊張してきた」
「やっぱり大丈夫じゃないじゃん」
ヒカリはリボンがかかった大会と知り、急に緊張した。アッシュは大丈夫が完全なフラグとして機能してることに旋律した。
「武者修業で来た大会にリボンが出るだなんて……」
「元々手に入れる計算じゃないなら、ここでリボンを逃しても大丈夫!」
「どうせならリボンは欲しい!」
アッシュが何とか緊張を解そうとするも、なかなか上手くいかない。ポケモンとの交渉は得意でも、相手が人間だと同じ様にいかない。
「みんな凄いなぁ」
一次審査が始まり、次々とコーディネーター達が演技を披露する。アッシュはその様子をモニターで感嘆しながら見ていた。
「もうすぐボク達の出番だよ」
「よし、いつも通りやれば大丈夫!」
出番が近付き、ヒカリも意を決してステージに向かう。控室を出てステージに立つと、客席は観客で埋め尽くされていた。コンテストのステージはバトルのフィールドと同じもので、特別な仕掛けはない。
「次、シンオウ出身のベテラン、ヒカリと新進気鋭の新人アッシュ!」
ホミカのアナウンスで演技がスタート。2人ともボールを投げてポケモンを出す。
「ミミロル、チャームアップ!」
「トーゴ!」
ヒカリはミミロル、アッシュはゴーゴートのトーゴを出す。ミミロルとトーゴのボールカプセルには花びらのシールが目一杯貼られていた。
「トーゴ、はっぱカッターで花びらを上へ!」
アッシュの指示で、トーゴがはっぱカッターを上空に放つ。そのはっぱカッターが、花びらを空へ持ち上げる。
「ミミロル、れいとうビーム!」
ヒカリがミミロルにれいとうビームを使わせる。舞い上がった花びらと葉っぱにビームが当たり、凍った花びらがアッシュとヒカリの周りに舞い降りる。
「オーッと! これはボールカプセルの演出を見事に利用! 2人ならカプセルの演出も2倍だ!」
ホミカの実況も手伝い、会場は大いに盛り上がる。出番を終えたアッシュとヒカリは控室に戻る。
「ふー、緊張した」
「始めての割には上手くいったじゃん!」
アッシュもトーゴも、これが始めてのコンテスト。緊張も当然。しかしながら、演技をやり遂げて見せた。偏に、ヒカリが指導した功績も大きい。
全ての演技が終わり、一次審査の結果が出る。アッシュとヒカリは見事に通過した。
「よかった」
「私がいればこれくらい当然よ!」
ヒカリは新人の頃に一次審査を抜けることに苦労したことを棚上げし、自慢げだ。単なる慢心では無く、着実に演技を熟す経験と自信から来た発言であった。グランドフェスティバル経験者として、一次審査で落ちる様なことがあってはならない。
「とにかく次は二次審査だね!」
「二次審査はマチルダが出るんだろ?」
アッシュはトーゴに意気込むが、二次審査に出るのはレパルダスのマチルダ。ヒカリのポケモンはポッチャマである。
「二次審査はトーナメント方式のコンテストバトル! ポケモンはバトルごとに変えてもいいのよ。最初の内はポケモンが疲れないように、あたしはマンムーで突破するわ!」
「じゃあ、ボクはマインを出そう」
しかし、最初の内はポケモンが疲弊しない様に力で相手を圧倒した方がいい。特にアッシュは手持ちが3匹のみなので、ポケモンが疲弊しやすい。
その後、2人はマンムーとチャオブーのマインで戦いを突き抜けた。コンテストバトルは通常のバトルと異なり、制限時間とポイントが設けられている。それでも、相手を戦闘不能にすれば勝てるのは変わらない。
順調に勝ち進み、アッシュ達は決勝へ駒を進めた。控室で決勝の相手を見たアッシュは驚いた。
『決勝戦 ヒカリ&アッシュVSハツネ&アリス』
「ハツネとアリスさんが決勝の相手なの?」
「知り合い?」
知り合いも何も、アッシュがよく知る2人が相手だった。ハツネはまだしも、アリスがコンテストに出場しているのは驚きだ。
「一次審査の出番が近くて演技見てなかったなー。二次審査も出番が近くて偵察出来なかったのは不運ね」
「ハツネはエイパムとユンゲラー、アリスさんはルカリオを持ってるよ」
運悪く、ヒカリは一次審査の出番が近くハツネとアリスの演技を見てなかった。アッシュが2人の手持ちを知っているのだが、アリスはルカリオの他にもいるに違いない。
「でも、エルトさんによればアリスさんは鋼タイプの使い手だって」
「だったらあたしはマグマラシで行くわ」
スタンバイしていたポッチャマが、ヒカリの言葉を聞いてずっこける。水タイプのポッチャマの攻撃は鋼タイプに通り難い。
「ボクは予定通りマチルダで」
アッシュはハツネのユンゲラーを警戒してレパルダスのマチルダを出すことに。エイパムはノーマルタイプなので、不利ではない。
作戦を決めた2人は控室を出る。マインとトーゴが凹むポッチャマを慰めていた。
「決勝戦を戦うのは、こいつらだ!」
決勝のステージに立ったアッシュとヒカリを待ち受けたのはホミカのアナウンス。まずは、ハツネ達がステージに立つ。
「初登場! イッシュのコンテスト界を牽引する存在になるのか? 可能性の種、ハツネ! その相方はこいつ! 冷たく輝く鋼を纏いし、華麗な乙女! 鋼鉄の花、アリス!」
早速二つ名の付いたハツネとアリス。ハツネとアリスはドレスアップをしてないが、アリスの鎧は普段着ながらドレスアップに劣らぬ可憐さを誇る。
「相手は有名なコーディネーターのヒカリとアッシュね!」
「一度コンテストをしたかったのだ。礼を言うぞハツネ」
アリスはコンテストに出てみたかったらしく、ハツネがその背中を押したらしい。次に、ヒカリとアッシュが入場する。
「グランドフェスティバル経験者! イッシュに堂々登場! シンオウの氷雪、ヒカリ! その相棒は幻影の姫君、アッシュ!」
幻影とは言い得て妙である。アッシュは男だからだ。しかし、男でありながら一般的な女性を越える可憐さを持つアッシュは凄いかもしれない。ただ栄養失調のせいで華奢なだけでもあるが。
「さあ、どんなポケモンが飛び出すのか? バトルスタート!」
ホミカが決勝の火蓋を切る。ハツネとアリスがボールを投げた。
「行くよ、ドリル!」
「我が主の敵を掃う剣となれ、エンペルト!」
ハツネがモグリューのドリル、アリスがエンペルトを繰り出した。アッシュはモグリューの存在に驚いた。
「新しくゲットしたの?」
「そうとも! ベトベターとベトベトンに追っ掛けられて大変だったんだからね!」
ハツネは新たにゲットしたモグリューで戦いに望んだ。アリスのエンペルトは強敵になりそうだ。実況のホミカは図鑑でエンペルトの情報を確認する。
『エンペルト。こうていポケモン。ジェットスキーに負けない速度で泳ぐ。翼の縁は鋭く流氷を切断する』
「マチルダ!」
「マグマラシ、チャームアップ!」
アッシュとヒカリが自分のポケモンを繰り出す。悪タイプのレパルダスであるマチルダは水鋼タイプ複合のエンペルトにダメージが通り難く不利だが、マグマラシならダメージが大きい代わりに等倍のダメージを相手に与えられる。
「さあ、魂を震わせろ! バトルスタート!」
ホミカの合図でバトルが始まる。始めに仕掛けたのはマチルダ。アッシュの指示を聞かずにエンペルトへ突撃する。
「おっーと! アッシュのレパルダスが指示を待たずに仕掛けた! ターゲットはエンペルト!」
マチルダのねこだましがエンペルトに直撃。エンペルトは怯んだ。
「指示をしないだと?」
「ボクはまず、アリスさんのポケモンにねこだましをするよう事前にマチルダに指示してたんだ!」
指示無しの行動に驚くアリスだが、アッシュは事前に指示を出していた。バトルが始まる前から仕掛けをしていた。
マチルダは即座に目標をドリルに移し、バークアウトで攻撃する。驚愕していたドリルはバークアウトを受ける。この一連の動きでハツネとアリスのポイントは大きく削れた。
「コンテストバトルでは、相手を倒せなくてもポイントを無くせば勝てる!」
ヒカリはコンテストのルールに乗っ取り、強敵エンペルトを切り崩す作戦に出た。エンペルトがメタルクローを放つ瞬間、マグマラシが華麗に回避。
「進化前とはいえ油断するな! ヒカリのポケモンは進化前とは思えないくらい強いぞ!」
アリスの忠告でエンペルトは作戦を切り替える。ハイドロポンプでマグマラシを狙う。しかし、マグマラシは慣れた動作でこれを回避する。
「コンテスト独特の動きだ。闇雲に撃っては自滅する!」
アリスは慎重にならざるを得ない。コンテストでは自分の技が外れるだけでもポイントを失う。
「ドリル、あなをほる!」
「そうか、挟撃だな!」
ハツネとアリスがコンビネーションを発揮して挟撃に移る。アッシュは冷静に、すべきことを見定めた。
「マチルダ、跳んで!」
マチルダは空高く跳んだ。これで挟撃のターゲットはマグマラシに絞られた。ドリルのあなをほるとエンペルトのアクアジェットがマグマラシに迫る。普通に考えればピンチだ。
「マグマラシ! 穴に向かってかえんほうしゃ!」
ヒカリはマグマラシに指示する。アクアジェットを回避したマグマラシはドリルの潜った穴にかえんほうしゃを放つ。コンテストに慣れたマグマラシに回避を一任する作戦だ。
ドリルが穴から燃えて飛び出す。ドリルは戦闘不能に陥った。残るはエンペルトのみ。
「ゴメン! 戻って、ドリル」
「気に病むな、危機こそ騎士の見せ場! エンペルト、げきりゅうだ!」
ハツネはアリスに詫びてドリルをボールに戻す。アリスの指示でエンペルトはげきりゅうを発動する。そして、エンペルトはマチルダと同じ高さまで跳び上がる。
「何ですの!」
マチルダをエンペルトが叩き落とす。これでマチルダも戦闘不能。
「マチルダ戻って! ゴメン。役に立てなかった」
「ポイントは削ったから大丈夫!」
アッシュはマチルダをボールに戻す。互いに1匹ずつ戦闘不能となり、ポイントは僅かにアッシュとヒカリが上回る。げきりゅうの発動でマチルダを倒す意外性からかなりのポイントを削られたが、アッシュが削ったポイントのおかげで差を作れた。
「あのエンペルト、自力でげきりゅうを発動! さすがは主の敵を掃う刃!」
ホミカが熱を入れて実況する。げきりゅうはピンチの時にしか発動しないとくせい。自分ではなく誰かのピンチを起点に発動させられるのはさすが騎士のポケモン。
「あ、マグマラシが!」
「あれは……」
それに触発されてか、マグマラシももうかを発動。特に彼はもうかの力を発動させるゴウカザルも目の当たりにしてるため、自力発動のコツを得てるのだろう。
「いっけー! マグマラシ、相手を翻弄するのよ!」
「エンペルト! 明鏡止水の領域に入れ!」
マグマラシがエンペルトを翻弄し、エンペルトは集中を高めている。互いの攻撃が当たらず、回避によるポイントの削り合いになった。
最後にかえんほうしゃとハイドロポンプがぶつかり、会場は水蒸気に包まれる。
「試合終了! ポイントの多い方の勝ちだ!」
制限時間が過ぎ、試合終了となる。会場の全員がモニターに注目する。水蒸気が晴れた時、モニターが明瞭に見える。
ポイントは僅かにアッシュとヒカリが勝った。アッシュが最初に付けた差が、勝負の分かれ目になった。
「優勝は、ヒカリとアッシュだ!」
白熱したバトルが終わり、会場も大いに湧く。すぐに授賞式へ移り、アッシュとヒカリにトキシックエンブレムとタチワキリボンが贈呈された。
「このリボンはどのグランドフェスティバルでも使えます。イッシュ出身のコーディネーターがグランドフェスティバルに来ることを心待ちにしてます」
「ありがとうございます!」
ミクリはアッシュに期待を寄せる。イッシュ出身のコーディネーターがこれからどんどん生まれるだろう。アッシュはその先駆けとなったのだ。
「残念だったね、アリスさん」
「長年の夢が叶ったよ。君と戦えてよかった」
ハツネとアリスは授賞式を少し離れたところで見ていた。アリスは騎士の名家に生まれ、その時点からコーディネーターの道を閉ざされていた。一時でも夢が叶い、満足げだ。
「あなたはミクリカップで優勝しましたね。よくぞ若いコーディネーターを導いてくれました」
「いやー、たまたま知り合っただけです」
ミクリはヒカリのことを覚えていた。ヒカリはシンオウのミクリカップで優勝し、その後もミクリカップに出場した。ミクリリボンのおかげでグランドフェスティバルに出場できた、ミクリカップが産んだトップコーディネーターでもある。
「そのたまたまが大事です。その機会を得れず、引き際を失ったコーディネーターを私は知ってます。おや? アッシュ君はその人に顔立ちが似てますね」
ミクリがアッシュの顔を覗き込む。そして彼は、一つの真実に辿り着く。
「あなたはシラコというコーディネーターをご存知ですか?」
「え? お母さんがコーディネーターだったの?」
アッシュも驚愕の事実を知る。シラコはコーディネーターだったのだ。
「知らなかったんだ。あたしは自分のママがコーディネーターだった影響でコーディネーターを目指したんだ」
「詳しくは後で話そう。控室に来てくれ」
ミクリはシラコとアッシュの関係性に興味を持ち、話をすることにした。
コンテスト会場 ミクリの控室
アッシュとヒカリは、コンテスト終了後にミクリの控室を訪れた。アッシュの母親、シラコに関する話を聞くためだ。
「来たね。では話そう」
ミクリは控室の椅子に2人を座らせ、机を挟んで対峙する。机に置かれたのは昔の雑誌を切り抜いたノートだ。
「アダン先生が若いコーディネーターの情報を残しているんだ。これはその1つだ」
ノートにはシラコの記事がいくつもあった。ジュニアカップを制覇したことが書かれている。
「ジュニアカップ?」
「ジュニアカップは本来ポケモンを持てない10歳以下の子供を対象にしたコンテストだよ」
ヒカリは母親がコーディネーターだったため、そういう情報も知っていた。しかし、母親であるアヤコの方針でヒカリのコンテスト出場は10歳になってからだった。
「ヒカリ君の母親、アヤコさんがなぜ君をジュニアカップに出さなかったか。このノートがそれを示している」
「へ?」
ミクリの言葉を聞き、ヒカリはノートを読み進める。シラコが優勝する大会で、アヤコは準優勝に甘んじていることがノートから読み取れた。
「ジュニアの世界はオープンの世界より厳しい。何故かわかるかい?」
「えっと……、多分トップコーディネーターになる為に育てられた人ばかりだから、ですか?」
「正解だよ」
ミクリはジュニアカップを一般大会より『厳しい』と形容した。ヒカリが予想した通り、ジュニアカップに出るトレーナーは幼い頃よりトップコーディネーターになるべく鍛えられた者達のみ。競争する相手の格が違い過ぎる。
「そんな世界で優勝できる子供は将来のトップコーディネーターとして注目される。シラコさんもその1人だった」
「あれ? でもシラコさんの名前は聞かなかったなぁ」
「それだよ。シラコさんは一般大会に上がってから、グランドフェスティバルに出場出来てない。それこそがアヤコさんが君をジュニアカップに出さなかった理由だ」
ヒカリはシラコの名前をコンテストで聞いたことが無かった。それがアヤコがヒカリをジュニアカップに出場、それどころかコーディネーターとしての英才教育をしなかった理由に繋がる。
「シラコさんが一般大会で勝てない理由、それは演技に自由さが失われていたからだ。英才教育により難易度の高い演技を熟す力はあった。しかし発想が凝り固まって自由な発想をするコーディネーターに勝て無かった。アヤコさんも同じ理由で苦しんだからね」
「それで、ママはあたしにコーディネーターのことをあまり教えてくれなかったのね」
アヤコがヒカリにコーディネーターとしての教育を施さなかった理由、それは彼女の自由な発想を奪わないためだ。子供は自由な発想力を持っているが、そこにコーディネーターとしての知識を詰め込むことで発想力を抑圧する結果になった。
「ジュニアカップで活躍してた人、アヤコさん以外記事にいませんね。一般大会の記事見てると」
アッシュはジュニアカップで活躍したコーディネーターが悉く一般大会で敗退してることに気付いた。やはり、素人故の自由さが産む意外な演技に敗れ去っていったのだろう。
「アヤコさんは他のコーディネーターが生み出した技を盗み、自分の知識と組み合わせてトップコーディネーターに上り詰めたんだ。元々、シラコさんに負け続けたからこのくらいじゃへこたれない精神力があったんだよ。一方、完全に慢心していたシラコさんはスランプを抜けれず、コンテストの世界から退いた」
母親の末路をミクリから聞き、アッシュはしばらく考えた。娘に自分と同じ苦労、そしてライバルと同じ末路を辿らせたくなかったアヤコの愛情はよくわかった。しかし、シラコは自分をどう思っていたのだろうか。
「シラコさんとパートナーのハハコモリ、今どうしてるのかな?」
「ハハコモリならルッコさんの弟の下で幸せに暮らしてます。あれ? このコンテスト……」
ミクリの問いに答えたアッシュの目が、あるページで止まる。その見開きには、シラコが引退を余儀なくされた大会の記事があった。ミクリが記事の解説をする。
「この大会でシラコさんは勝ち続けたアヤコさん敗れ、さらにアヤコさんのグランドフェスティバル出場が決まった。今まで勝ってた相手に負けたことで、かなり精神的ダメージを受けたみたいなんだ」
「でも、努力して一般大会でも勝てる様になったアヤコさんは凄いですよ」
今までの奮わない戦績が爆発した様に、ある大会を皮切りに優勝を連発し始めたアヤコ。その勢いに敗れたシラコは、まだリボンを1つも持たずにグランドフェスティバルを目指すレベルになかった。下だと思った相手への敗北が、シラコの凋落を決定的にした。
「この大会が原因で、シラコさんはコンテスト引退に追い込まれたんだ」
「エルトさん?」
アヤコがトップコーディネーターとして活躍する中、一次審査の突破すらシラコは危うくなっていた。そんな時期のコンテストを記した記事であった。そこには何故か、エルトの名前があった。
『ジュニアカップの覇者、コンテストで違反か?』
見出しにはそう書かれていた。アッシュは記事を読み進める。
『ホウエン地方のキンセツシティで行われたコンテストで、ジュニアカップの覇者であるシラコがルール違反を犯した。キンセツ大会の決勝戦、初出場のエルトと対決したシラコはミロカロスを使用、しかしエルトのワカシャモに敗れた。エルトの証言によると、「このミロカロスはこの人のポケモンじゃない。ミクリさんのミロカロスだ」とのこと。後にミロカロスはミクリのものと判明、そしてそのミロカロスは行方不明になったとして捜索願いが出されており、シラコがミクリのミロカロスを無断で使用したものと見られる』
「お母さん……」
シラコはミクリのミロカロスを盗み、大会に臨んだ。しかし、相性で不利なはずのワカシャモに敗れたのだ。盗んだ上に敗北、あまりに惨めな結末だ。だが、アッシュはシラコに同情する気などなかった。
『圧倒的に、愛が足りない!』
エルトの言葉がアッシュの脳内に響く。間違いなく彼はシラコにこの台詞を向けたはずだ。
「プライド故に引けず、いつまでも残り続けた為に起きた悲劇だ。君達は若いけど、引き際も探してほしいんだ」
「よく、お母さんのことはわかりました。また今度、エルトさんにも聞いてみます」
「そうか。シラコさんは現在指名手配中だそうだな。大変だろうけど、頑張ってね」
ミクリから激励の言葉を聞き、アッシュとヒカリは控室を出る。アッシュはハッキリと、自分の両親とどこかで決着を付ける必要性を感じた。
年表① コンテストの歴史
約22年前 シラコとアヤコがジュニアカップデビュー。
約20年前 シラコとアヤコ、ジュニアカップから一般大会へ。
10年前 子育ての為、アヤコは引退する。シラコは現役続行。同時期、ハルカ、ヒカリ、アッシュが生まれる。
8年前 キンセツ大会でシラコの不正が発覚。この前後にマサトが生まれる。
2年前 プラズマ団壊滅。
数ヶ月前 ハルカ、コンテストデビュー。グランドフェスティバルに2回出場。
少し前 ヒカリ、コンテストデビュー。ミクリカップ優勝。グランドフェスティバルに出場。
現在 アッシュ、コンテストに出場。