ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 トレーナーカード
 アイドル テンマ
 今話題のイケメンアイドル。代表曲は『君にクイックボール』。電気タイプのポケモンを好む。


19.船上の再会、レントラー!

 ブルジョアジー号

 

 ジャスミンに連れられ、豪華客船ブルジョアジー号に乗ったアッシュ。彼を追い、ヒカリとハツネも船に乗り込んだ。

 「停泊中はアミューズメント施設になるから出入りは自由みたいね。客室以外」

 「大丈夫大丈夫!」

 リベレート団の罠ならアッシュが危ない。一応様子見で来たのだ。後ろからハルカとマサトもヒカリとハツネを追う。

 「別にコソコソしなくてもいいかも」

 「お姉ちゃんもだよ」

 4人は段ボールを被って船に先入していた。どこぞのソリッドな蛇も真っ青なスニーキング能力でジャスミンとアッシュを追う。

 「あ、レストランに入った」

 「まどろっこしい! 普通に追い掛けましょう!」

 ついにハツネは飽きて、段ボールを捨てて普通にアッシュを追跡した。それを皮切りに全員が段ボールを脱ぐ。

 一方、アッシュはジャスミンに連れられてレストランのテーブルについた。丸く、中央に回転する台がある奇妙なテーブルにアッシュは興味津々だ。

 「あ、来たよ。あの人」

 ジャスミンがもう一人をテーブルにつける。若い男性で、アッシュは彼に見覚えがあった。制服を着た銀髪の男は、ヒオウギを襲った謎の集団のリーダー、ギンだ。

 「今日は君に話があるんだ。まずはこれを見てくれ」

 ギンはアッシュにある資料を手渡す。学校のパンフレットらしく、綺麗な建物が写っていた。

 「これは我々エリートスクールのパンフレットだ。君には才能があるとジキル博士が見抜いたのだ。是非、来てくれたまえ」

 「嫌です」

 ギンはアッシュを自分達の組織に引き込もうとした。アッシュは詳細を聞くまでもなくすぐに断る。

 「高い学費も、君くらい才能があれば奨学金が出るから心配はいらない。悔しいが、私より才能があるから学費はただになるそうだ。」

 「あなた達がポケモンに変な機械を付けてヒオウギを襲ったんですよね? その仲間になんかなりたくありません」

 ギンはアッシュの懸念が学費にあると思って話を進める。しかしアッシュは、それが理由ではなかった。

 「ポケモンを上手く使う才能が君にはある。よいか、エリートスクールに入るにはまず、ポケモンが道具に過ぎない……」

 「マイン!」

 ギンが話を進めていくと、アッシュは有無を言わさずチャオブーのマインをボールから出す。

 「ポケモンは道具じゃない!」

 「才能があってもこの原則がわからないようでは、才能が無いのと同じだ。見せてやる、ガブリアス」

 ギンはガブリアスを出し、アッシュに立ち向かう。ガブリアスにはブースターが大量に取り付けられ、素早さが極限まで高められている。

 「ガブリアス、ドラゴンダイブ」

 「マイン、つっぱり! 出鼻をくじいて!」

 ドラゴンダイブを発動するガブリアスに対し、マインはつっぱりでガブリアスの鼻先を叩く。すると、ガブリアスはつっぱりの威力に反して後退し、そのまま倒れた。

 「馬鹿な!」

 「ガブリアスはマッハで飛べて、一瞬の加速で速くなる。だからその瞬間を叩かれると、弱い技でも自分のスピードが乗ってそれがダメージになるんだ」

 アッシュはトモダチにガブリアスがいた。彼から聞いた自分の弱点がこの戦術を生み出したのだ。マインのつっぱりは弱いが、ガブリアスはマッハでそこへ激突した。それも自分が意図しない形で、ブースターのせいで制御し切れない加速でだ。

 「まだ調整中のガブリアスではなんともならんか……。まあいい、元々新入生を迎えにいくついでだ。あの新入生はジキル博士が最高の才能と表したほどだ」

 ギンはガブリアスをボールに戻す。このガブリアスもラグラージ同様、調整中らしい。

 「凄いな、お前」

 「マインが上手く鼻先狙えたから倒せたんだ」

 ポケモンと話せることが、マインを勝利に導いた。だが、アッシュは弱点を突かなくてもあのガブリアスを倒せた気がヒシヒシとしてならない。

 「いいだろう。なら、本気で貴様を叩きのめ……」

 「出来るかよ」

 ギンの言葉が遮られる。アッシュの前に現れたのはエルトだった。エルトとギンの間に緊張が走る。何か因縁がありそうな間柄だ。アッシュは2人を見比べ、あることを思い出す。

 「あ、なんか似てると思ったら……兄弟なのかな?」

 アッシュはギンを見た時、誰かに似ていると思った。その時は誰かよくわからなかったが、今ならハッキリとエルトに似ていたのだと思い出すことができる。

 「こんな兄がいることが、私の人生最大の汚点だ!」

 「ほう。こちとら、たった2年後に生まれただけの貴様など弟だなどと思った日は無い」

 本当に兄弟だったらしく、エルトが兄、ギンが弟とのこと。確かに、エルトの方が幾分か大人に見える。エルトが如何におかしな目付きをしていたといえ、大学生と高校生の雰囲気は決定的に違う。エルトが20歳なので、ギンは18歳か。

 「聞いたぞ、我々の精鋭部隊であるエレメント17を壊滅させたんだろ? それもポケモンでは無くトレーナーを傷付けてな! まともに戦ったら勝てないとわかってなのか?」

 「負け犬の遠吠えが耳に心地好いな。ポケモンを道具扱いする奴らなど人間として扱うものか」

 立場としてはエリートスクールにいるギンの方が上だろう。しかし、どうも気迫はエルトが勝っている。周りの温度が何故か上昇し、陽炎が発生する。

 「私が相手をするまでもない。行け、左右の騎士!」

 「両手に花の間違いじゃないのか?」

 ギンは双子の少女を前に出してエルトを迎撃する。彼女達はそれぞれ、ダゲキとナゲキを繰り出す。

 「アッシュ、そこのダゲキとナゲキに話かけてみろ」

 「え? わかりました」

 エルトに言われ、アッシュはダゲキとナゲキに話かける。簡単に2匹はアッシュまで寄ってきて、トレーナーに対する愚痴をこぼす。

 「何よりメシがマズイのなんの」

 「薬みたいな味がするんだ」

 「これならどう?」

 アッシュはメシがマズイというダゲキとナゲキに普通のポケモンフーズを渡す。すると、非常においしそうに2匹はそれを食べた。

 「あいつらを裏切ってこちらに付けばこれが毎日食えるわけだが、どうする?」

 エルトの問い掛けに2匹は顔を見合わせ、トレーナーである双子の少女に向かい直り、臨戦体勢をとる。

 「くっ、エレメント17時と同じか!」

 「全く使えない!」

 彼女達はボールを出してダゲキとナゲキを戻そうとするが、2匹が自らのトレーナーを殴ったり投げたりして抵抗した。

 「ぎゃあっ!」

 「ぐあぁ!」

 ポケモンの力で殴られたら一たまりもない。少女達はそのまま床に倒れ、動かなくなる。

 「ポケモンだってトレーナーを選ぶ権利はある。だからモンスターボールで絶対捕まえられるわけじゃないんだ」

 ダゲキとナゲキの抵抗を目の当たりにしたアッシュは、ポケモンにも意思があることを再確認した。それを忘れて何がエリートか。

 「チッ。調整中のポケモンばかりで戦うのもあれだ。今回は見逃してやる」

 ギンは上から目線でその場から立ち去る。双子はその場に放置だ。アッシュはチェレンとの戦いに敗れたギンが調整中と言っていたのを思い出す。

 「あなたのポケモン、いつまで調整中ってやつなんですか?」

 「才能無き者になどわからん」

 ギンはそれだけ吐き捨ててレストランを去る。その発言は『負けを認めるのが嫌だから調整中と言い訳してる』としか取れなかった。

 「やあ、お待たせ。何かあったの?」

 それと入れ代わりに、若い男性がレストランに現れた。その姿に、レストランに潜伏していたハツネが仰天する。驚きが声になっていない。

 「あ、あなたは、あのアイドルのテンマさん?」

 「そうだよ。よくわかったね」

 何とか声を出す。どうやらハツネはテンマのファンらしい。アッシュはその隣にいるポケモンを見て、声が出ないほど驚いていた。

 「レントラー!」

 そのポケモンとは、レントラーのことだった。間違いなく、アッシュが2年前に別れたレントラーだ。ポケモンの言葉がわかる副作用なのか、一見するとどれも似たり寄ったりなポケモンの個体をアッシュは判別出来る。エルトでさえ、複数いるクロバットの判別に初めのうちは耳に付けるタグを使っていたほど、ポケモンは個体ごとの判別が困難だ。

 「2年前にソウリュウ周辺で見掛けてね、珍しいからゲットしちゃったよ」

 「そうなんですか」

 テンマは電気タイプ大好きで有名なアイドル。それが功をそうしてアッシュとレントラーを再会させる手助けになった。

 「元々君のなんだろ?」

 「正確にいえばお父さんのポケモンでした。今はテンマさんの手持ちなんですよね? ボクは気にしないで、そのままレントラーをよろしくお願いします」

 アッシュはレントラーをテンマに預けることを即決した。何よりレントラーが元気そうで、テンマの下にいることが幸せそうに見えたためである。

 「アッシュ…見ない間に大きくなって……」

 「レントラーも元気だった? ボクはいいから、君は君のしたいことをしてよ」

 ハハコモリとレントラーに頼り切りだった頃のアッシュと違い、今は多くのトモダチがいる。彼らがいなくても、アッシュはやっていけるだけの強さを得たのだ。妙にアッサリした再会はその証なのか。

 「旅の目的が無くなっちゃうけど」

 「イッシュラリーがあるじゃねぇか」

 ハハコモリとレントラーを見つけ、早速旅の目標をアッシュは見失う。マインの言うイッシュラリーも、アッシュはついで程度にしか考えていなかったのだ。

 「旅が終わっても、どうしようも無いんだよねー」

 帰る場所の無いアッシュは、ポケモンセンターの支援を頼って旅から旅への暮らしを余儀なくされている。後はソウリュウシティに帰るだけだが、帰っても自宅があるわけではない。

 「そうだ。ホドモエシティで元プラズマ団の奴らがポケモンを元の持ち主に返す活動をしているぞ。あと、アララギ博士がプラズマ団やリベレート団の活動で野生に放たれたポケモンの保護活動を始めたんだ」

 そこでエルトが新たに旅の目標を与える。バラバラにされたポケモンとの繋がりを取り戻したアッシュ、今度は他の人々とポケモンの繋がりを取り戻す助けをすることになった。

 「どちらも、ポケモンと話せるお前の力が必要なことだ」

 「うん。ボク、やってみるよ!」

 新しい目標を得たアッシュは意気込む。ポケモンと話せることで両親に虐待された彼だが、今度はその力が人の役に立つ時が来たのだ。

 「そうね。ヒウンの下水道にいるベトベトン、野生じゃ覚えてない炎技覚えていたのよ。プラズマ団に賛同してポケモンを逃がした人がいたのかな?」

 ハツネはモグリューのドリルを捕まえた時のことを思い出した。古代の抜け穴へ行く時ヒウン下水道を通り、ベトベトンやベトベターに追いかけられたのだ。

 「ねえアッシュ、旅が終わったら私のとこに来ない? 弟弟としてね」

 「へ?」

 しかしそんな決意を鈍らせる者がいた。ジャスミンが後ろからアッシュに抱き着き、そんなことを囁く。家族のいないアッシュには甘い誘いだった。

 「アッシュをたぶらかさない!」

 「だってアッシュがかわいいんだもん。持って帰りたい」

 ハツネはジャスミンを糾弾するが、彼女は意にもかえさない。ジャスミンに密着されて、アッシュは相当オロオロする。アッシュといえ、年頃の男の子。こんな美人のお姉さんに密着されたら内心穏やかではないだろう。

 「離せ! アッシュを離せ!」

 ボールから出て来たシャルルがジャスミンの頭をゲシゲシ蹴るが、全く効いていない。

 「おいアッシュ、そこ代われ」

 トーゴはそんなことを言っていた。

 「じゃ、今天はアッシュ、私と寝るから。一緒にお風呂入って寝ましょうね。ルリリとヨーテリーも雑巾みたいな臭いするから洗ってあげるね」

 「へ? えぇ?」

 ジャスミンはアッシュとシャルル、そしてボールから出て来たヨーテリーのソミュアを連行する。コトネというトレーナーがマリル一族は汚れると雑巾みたいな臭いがする法則を発見したというが、ヨーテリー一族も同じなのだろうか。

 「無念……!」

 トーゴは本気で悔しがった。何せ、ずっとルックスだけ見ても美人か微妙なのに性格まで難のあるカタリンナとシラコのところにいたのだ。本物の美女を見るのはこれが初めてでテンションがおかしくなっていたのだろう。

 「全く、罠だったらどうするんだ……」

 マインは好戦的な性格であるが、その実慎重でもある。全く気楽なアッシュとミニポケモンズの無警戒さに呆れていた。

 「まあまあ。こっち来てちゃんこでも食いねえ! 俺はジャスミンのエンブオーなんだ」

 そこにジャスミンのエンブオーが現れる。目の前に出された食べ物の数々に、マインは罠の可能性も忘れて食らいつく。

 「罠は?」

 辛うじて普段通りを保っているのはレパルダスのマチルダだけとなった。

 「お、ハルカとヒカリもいたのか。すっかり大きくなったな」

 「お姉ちゃんの知り合い?」

 エルトはハルカとヒカリを見つけて話し掛ける。かつての知り合いらしい。エルトはホウエンにいたから、ハルカとの接点くらいはありそうだ。しかしヒカリとの接点は見えてこない。

 「赤ん坊の頃はよく抱いてあげたもんだがな」

 「子供嫌いなのに?」

 ハルカはエルトが子供嫌いなのに自分を抱いたと発言して困惑する。年齢は10歳くらい離れているから、子供嫌いさえなければ不自然な話ではない。

 「センリさんのジムに行った時だな。子供嫌い克服の為に」

 「結局治らなかったんですね」

 センリがエルトの子供嫌いを克服する為に抱かせたみたいだが、効果は薄かった。現在進行形で子供嫌いが続いている。そこに実習を終えて追いついたヴァイオラが話に加わる。

 「エルトの子供嫌いは弟のせいだもんね」

 「どういうことです?」

 「両親が才能のある弟をエリートスクールに通わせる為にエルトを働かして身体壊したのよ。こっそりエルトの内臓まで売るし。親に甘えてる子供を弟に重ねちゃうのね」

 ヴァイオラによれば原因は弟のギンにあるという。年齢が近いせいでエルトが兄になったのはまだ親に甘えたい歳。それなのに「兄だから」という理由で早期の自立を促して甘えを切り捨てた。甘えられる弟に対して甘えさせてもらえない自分。この兄弟での扱いの差がエルトの性格を大きく歪めた一因である。ていうか内臓って。

 「ヒカリくんに関しては会ったの4年前だろう」

 「あー、いたなー。お母さんの知り合いに」

 エルトはアッシュの母親であるシラコとの因縁からヒカリの母、アヤコと面識がある。コーディネーター資格を剥奪されたシラコがコンテスト委員会に立て篭もった時、その解決に動いたのだ。

 その後、エルトがシンオウを訪れた時に再会したというわけだ。

 「あ、そうだ。アッシュが連れていかれちゃったのよ」

 「大丈夫じゃない? アッシュって無理に自立してるみたいだし、あの人がお姉さんにでもなって甘えられる相手が出来れば、エルトみたいに歪む心配も無くなるわ」

 ヒカリはジャスミンに連行されたアッシュを心配したが、むしろヴァイオラにとっては歓迎すべきことだった。自立は段階を踏んでさせないと子供の性格を歪ませる。

 テンマはキョロキョロして、いなくなったレントラーを探す。

 「ねえ、レントラーは?」

 「ジャスミンと一緒に行ったぞ。何だかんだアッシュが心配なんだろうな」

 エルトはレントラーがジャスミンについていったことをしっかり見ていた。

 

 ブルジョアジー号 VIPルーム

 

 「ふう、誰かさんのせいで熱死了だったね」

 「……?」

 「死ぬほど暑いって意味だよ」

 エルトのせいで気温が馬鹿みたいに上昇したレストランから脱出したジャスミンはアッシュとシャルル、ソミュアとレントラーを部屋に連れ込む。シャルルは旅をするだけあり、ジャスミンが時折混ぜるシェンロン地方の方言を理解した。

 「私、シェンロン地方ってところから来たの。方言がまだ抜けなくて」

 「シャルルがわかるみたいなので大丈夫です」

 一瞬首を傾げたアッシュにジャスミンが説明する。シャルルがいなければシェンロン地方の言葉などわからなかっただろう。カタカナ語として多用されるイッシュの方言と違い、シェンロン地方の方言はあまり共通語に入っていない。

 「もう、汗でベトベト……。一緒にお風呂入りましょ?」

 「あ、はい…」

 目線を合わせる為にしゃがんだジャスミンに見据えられたアッシュは断れなかった。ジャスミンに脱衣所に連れていかれ、服を脱ぐ。自分で脱いだのがせめてもの抵抗だ。

 「少し肉付いた」

 以前はガリガリで骨張っていたものの、並の痩せてる子供くらいには回復した。少食もいくらか改善している。

 「……」

 「さあ、入りましょう」

 ジャスミンもチャイナドレスを脱いで、バスタオルを巻いただけの姿になる。母親とすらお風呂に入ったことがないアッシュは、異性の身体が自分と違うことに今まで気付いてなかった。

 「さ、まずは汗を流して」

 ジャスミンに言われるまま、アッシュはシャワーで汗を流す。シャルルとソミュアは自分の手持ちなので、自分で洗っておく。2匹を桶に入れて水洗いする。

 「よいしょ、っと」

 「絞らんといて!」

 「あ、ゴメン」

 シャルルを洗うと汚れた雑巾を水に浸したみたいに水が濁るので、アッシュはついシャルルを絞ってしまう。雑巾みたいに絞れるルリリの身体はどうなっているのだろうか。

 レントラーは自分で自分の身体を洗おうとしたが、ジャスミンに洗われてしまった。クロスケがよくプロのトリマーにレントラーを洗わせていたが、彼は人に洗われるのが苦手だ。

 「ポケモンセンターより広い……」

 アッシュはポケモンセンターのそれより広い湯舟を見て愕然とする。ポケモンと入るためにここまで広いのだろう。

 「サッパリしたね」

 「…はい」

 湯舟に入る時もジャスミンは密着してくる。先程とは違い、互いに風呂なので何も着ていない。距離が布2、3枚ほど分近い。

 アッシュを尻目にソミュアとシャルルは湯舟ではしゃいでいるが、正直アッシュはそれどころじゃない。身長差のせいでジャスミンに抱きしめられると胸に顔が埋まる形になる。

 「前から弟が欲しかったのよねー。リベレート団のデータを見たけど、行くとこないんでしょ? なら私のとこ来てね、いつでも歓迎よ」

 「ま、まずは元プラズマ団の人達を手伝ってから考えます」

 アッシュはジャスミンの申し出を保留にすることとした。そこまで早急に決めなければならない話ではない。

 「そう。いつでも待ってるからね」

 そのまま2人は湯舟を上がり、今日は眠ることにした。アッシュはベルから寝巻になるものを渡されていたので、それに着替える。女の子らしいピンクのパジャマだ。これが似合うアッシュは中性的これに極まるだろう。

 「ジャスミンさん?」

 「大人って物ぐさなのよ」

 アッシュはジャスミンが身体を拭いたタオルを巻いただけで寝ようとしたのには驚きを隠せなかった。

 2人と3匹は仲良くベッドに入る。ベッドは1人で寝るには非常に大きい。小さなポケモンが少しいたくらいじゃ埋まらない。

 「あ、そういえばシンジ、どうしてるかな?」

 アッシュは不意にシンジを思い出す。同じ空の下、彼は今どうしているのだろうか。

 

 サンヨウシティ レストラン

 

 「な、なんだってー!」

 同じ空の下、デントは驚愕を隠せなかった。突如現れたトレーナーに敗れたのだ。しかも自分はヤナップ、相手は不利なミジュマルでだ。オマケにミジュマルは前座のヨーテリーから連戦なのだ。

 「相性をつくがえすバトル……サトシのようだけど微妙に違うね」

 すぐに落ち着きを取り戻し、デントは目の前の少女を見据える。10歳くらいの少女は、激戦を終えたミジュマルに早速きずぐすりを使う。

 「オサフネ、ご苦労様」

 「へん、見たかい! アタイを選ばなかったトレーナー達を後悔させてやる!」

 少女はオサフネと名付けたミジュマルに話す。その仕草をデントはNやアッシュと重ねる。どうやらポケモンと話せるのだろうか。

 「ヨーテリーとヤナップもお疲れ様」

 少女は律儀にヨーテリーとヤナップも回復する。これだけ見ると心優しい女の子に見えるが、デントには引っ掛かるものがあった。まるで不要なバトルを忌避する様な感覚だ。

 「君、そういえば名前を聞いてなかったね」

 デントはエンブレムを渡すと同時に少女から名前を聞く。すると少女はしばらく小さな声で呟きながら考え、答える。

 「Nにとってトウコの代わりみたいな役割だからそこから文字りたいけど難しいわね。オリジナルがアッシュならそこから……」

 「……?」

 「私はアーシェです」

 少女は名前を答えた。

 

 「くしゅん!」

 同じ空の下、1人の美女がくしゃみをした。外はすっかり暗い、シンオウ地方トバリシティの、レイジが経営する育て屋だ。その美女、アーシェは空を見上げた。

 「冷えてきたかな?」

 アッシュと2人のアーシェが見つめる空は一つ。3人の運命が交差する日は近い。




 次回予告
 もしもし、ウツノミヤ飯店ですか? 俺はトバリシティのシンジです。シンオウ地方まで餃子を一人前……、
 何? 出前はしていないだと? お前の考えがいかに甘いか……、なになに、ブルジョワ財閥のレストランチェーンが圧力をかけているのか?
 イッシュを離れても迷惑をかけてくれる。やはり自ら動かねば何も得られないか! モンスターボール、アタック!
 次回、ポケットモンスター灰色の疾風。『掴み取れ! 共闘のサトシとシンジ!』
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