ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 トレーナーカード
 ポケモントレーナー アッシュ
 10歳 男
 シッポウシティに現れた謎の少年。髪型がモノズに似てる。ポケモンと話せる能力があるらしいが……?
 手持ち
 ポカブ♀(マイン)

 保育士 ヴァイオラ
 3番道路にあるサンヨウ保育園で保育士の実習をしている大学生。虫タイプが好きで、何気に(非公式だが)初の女性虫使い。手先が器用で工作好き。
 手持ち
 ハッサム♂
 ハハコモリ♀
 以下不明


2.ポケモンの子、アッシュ

 シッポウ博物館 講義室

 

 「では、この場でアッシュ君の『ポケモンと話す能力』についてまとめます」

 シッポウ博物館には勉強に来た科学者や学生により詳しく展示資料の情報を伝えるため、講義室を設けている。そこでキダチは、講義室の椅子に座るベルと白衣を着た女性、アララギ博士にアッシュの能力について解説する。

 「まず、ポケモンはトレーナー指示を聞くことが出来ます。ここからおそらく、ポケモンは人間の言葉を理解出来ると考えられます」

 講義室の前にはスクリーンが降ろされ、それに様々なバトルの映像が写される。シンオウリーグにて激闘を繰り広げるエレキブルとゴウカザル、優勝者のダークライを唯一撃破したジュカイン、イッシュのとある町で市民が撮影したカイリューとリザードンの空中戦。どれもトレーナーとポケモンが一体となった名勝負だ。

 「しかしその逆はどうでしょうか? ポケモンが言いたいことを人間は理解できないのです。長い時を共に過ごしたポケモンとでも、トレーナーはだいたいの気持ちしかわかりません。ましてや、初めて会ったポケモンの言葉など尚更です」

 「なのに、アッシュ君は初めて会ったギャロップとゼブライカを言葉巧みに誘導して喧嘩させた……」

 アララギ博士は資料を読みながら話を進める。資料には2年前、イッシュに現れたポケモンの言葉を理解する青年、Nの情報が書かれている。ポケモンの言葉を理解する研究をしてる博士達は、Nを目撃した人間からの微細な情報でそのメカニズムの解明に挑んでいる。

 「仮説によると『外国に行った時、そこの言葉がわからなくてもしばらく暮らせばわかる様になる』のと同じ仕組みみたいね。それが人間とポケモンの間で成立するかは不明だけど」

 アララギ博士はイッシュ地方にNという存在が現れたことから、専門外である分野の情報も精力的に集めていた。Nとアッシュの能力は似てるが、何か違う気もした。

 「トウコから聞いたんだけど、Nはポケモンと話せるのを両親に気味悪がられて捨てられ、ポケモンに育てられたの。そういう点では、Nの能力は生れつきであるのに対して……」

 「アッシュ君は両親のポケモンと遊んでるうちに身についたみたいですねえ」

 ベルがアッシュから聞いた話だと、両親のポケモン達に育てられたためポケモンの言葉がわかるのだとか。頭が柔軟で人間の言葉も覚束ない時期に、人間よりポケモンの方と触れ合ったことでポケモンの言葉がわかる様になったと見られる。

 Nはポケモンと話せることで両親に捨てられたが、アッシュは両親が構ってくれないからポケモンと遊んでるうちに話せる様になった。

 「Nは才能、アッシュ君は環境のせいか……」

 キダチは二人を比較して呟く。両親が最初から人並みに愛情を注いでいれば、アッシュもポケモンと喋れないまま成長していたはずだ。子供が求める親からの愛情を、ポケモンに求めた結果芽生えた能力であるといえる。

 「で、アッシュ君は今どうしてるの?」

 「ポケモンセンターにいますよお。ポカブ、ミジュマル、ツタージャから初めの一匹を選ぶ様に言ってあります」

 アララギ博士はアッシュの動向をベルに聞いた。初めて会った時からベルの連れてたポカブと仲良くなっていたので、彼女はアッシュがポカブを選ぶだろうと考えていた。トレーナーに渡すポケモンは人に慣れさせるため、ベルを初めとする助手達に預けていたのだ。アッシュが仲良くなったポカブもその一匹である。

 「じゃあ、アッシュ君に会いに行きましょうか」

 アララギ博士とベルは講義室を出た。博物館から出て、しばらく歩くとポケモンセンターがある。ポケモンセンターの池にアッシュはいた。地下鉄で発見された時のボロボロな服ではなく、動き易そうな新しい服を着ていた。

 オレンジのパーカーにベージュのハーフパンツと、標準的な子供服だ。ベルが自宅などから自分や幼なじみのトウコが着なくなった服を持って来たのだ。初めはチェレンのお下がりで大丈夫だと思っていたら、アッシュが想像以上に小柄だったので自分のを持ってきた。パーカーがベル、ハーフパンツがトウコからのお下がりとなる。

 「いいかい? 同じ池にいるんだから仲良くしないとダメだよ? スジの色が違ってもね」

 「はーい」

 「わかりました」

 アッシュはそこで、2匹のバスラオと話していた。隣にはポカブ、ミジュマル、ツタージャもいる。バスラオはそれぞれ、身体に入ってるスジの色が赤と青で違う。

 バスラオには赤と青、2つの色のスジを持つものがいる。赤いスジを持つバスラオと青いスジを持つバスラオは仲が悪いのだが、今は大人しい。

 「二人が帰ってきたぞ」

 「あ、ベルさんにアララギ博士」

 ポカブに促されて、アッシュはベルとアララギ博士を向く。本来姿を見ただけで喧嘩する2匹のバスラオが大人しいことにアララギ博士は驚いていた。

 「あらら、驚いたわ。バスラオがこんなに大人しいだなんて」

 「喧嘩ばかりしてポケモンセンターの人も困ってたので、仲直りさせました。2人とも、なんで喧嘩してたのかわからなかったようです」

 アッシュは喧嘩してるバスラオを仲裁したのだ。そんな芸当、本当にポケモンと喋れない限り不可能だ。

 「3匹の中からポケモン、選んだ?」

 「はい、この子にします」

 アララギ博士はポケモンを選んだか聞いてみた。アッシュはポカブを抱き上げて答える。アララギ博士の予想通りとなった。

 「やっぱりか」

 「ほら、私達はまだ出会って日も浅いし」

 選ばれなかったミジュマルとツタージャもその選択には納得した。その言葉はアッシュにも聞こえていた。

 「ゴメンね。君達もいいトレーナーに会うんだよ」

 2匹にアッシュが詫びたのを聞き、アララギ博士はその2匹をモンスターボールに戻す。

 「決まりね。あ、ポカブにニックネーム付ける?」

 「名前なら聞きました。マイン、だそうです」

 アララギ博士がニックネームについて聞くと、アッシュは既にそれを決めていた。決めていた、というよりはポカブから聞いた名前であるらしい。ベルが連れていたポカブの名前はマインという。

 「両親から貰った名前だそうなので、ボクが変えるわけにはいきません」

 「そう。ポケモンって自分の名前持ってるのね」

 ポケモンは親から自分の名前を貰うらしい。それがポケモン全てに共通したことなのか、それともポカブのマインだけ特別なのかは不明だ。

 「はい、じゃあこれがポカブ……マインのモンスターボールだよお」

 ベルからアッシュはマインのモンスターボールを受け取る。アッシュはそれから赤いレーザーを出し、マインをボールに戻した。これである程度の準備は完了だ。リュックもアッシュのそばにあり、そこに必要な道具が入ってる。

 「あ、ポケモンセンターでこんなの貰ったんですが……ボク、字が読めなくて」

 アッシュがベルに渡したのは『イッシュラリー』と書かれたパンフレットだ。アッシュはなんと、字が読めないらしいのでベルが代わりに読む。

 「これはイッシュラリーって読むんだよお。最近、ヤーコンさんが主催して開催されたの。トレーナー登録の時に参加も登録済ませたから、もう参加出来るよ」

 「イッシュラリー?」

 アッシュは首を傾げる。何もかも初めてのことで、よくわからないみたいだ。ベルはパンフレットの中身を読み進める。

 「一次予選はイッシュ各地を回って、様々な条件を満たすことで『エンブレム』を獲得するんだよお。8個あれば予選突破ね」

 「エンブレムを集めるの?」

 「パンフレットにエンブレムの入手方法が書いてあるから。えっーと、最初はサンヨウシティのレストランでタイプ相性について学べば手に入るエンブレムがオススメかな?」

 ベルはまず、サンヨウシティに行くことをアッシュに奨める。

 「サンヨウシティね。このまま3番道路を真っすぐ行けばいいのよ」

 「わかりました! 早速行ってみます!」

 アッシュはアララギ博士から道を聞いて出発した。彼の旅はこれから始まるのだ。

 

 そんなわけでアッシュはシッポウシティのゲートをくぐり、3番道路に出た。大きな泉のある、のどかな道路だ。しかし、何かの卵をカゴに入れ、道路を爆走する人々がいてのどかさぶち壊しだ。

 「マイン!」

 アッシュはボールを投げ、ポカブのマインを出した。ボールの操作は一通り理解した。ボールから出たマインは、爆走する自転車を見て呆然とした。

 「ありゃあ……変態かい?」

 「変態?」

 アッシュはポケモンと話せる能力を有するが、一般的な知識に関しては人より少ない。マインの発した言葉の意味を理解出来てなかった。

 「ああいう奴のことをいうのさ。卵抱えて自転車で爆走とくれば紛うことなき変態だ」

 「なるほど。でもたくさんポケモンいるね。居心地悪そうだけど」

 変態はさておき、アッシュは前髪を上げて辺りにいるポケモンを眺める。実に様々なポケモンがいるが、どれも非常に居心地が悪そうだ。まるで、そこが本来の住家でないような。

 「おい見ろよ! アッシュにそっくりだ!」

 「髪型だけだよね」

 マインは橋を歩くモノズ達を見つけた。アッシュは登録の時に貰ったポケモン図鑑を開いた。図鑑はトレーナーカードと合わせ、身分証明書になる。

 「生息地、3番道路」

 『3番道路に棲息するポケモンは、ヤンヤンマ、メガヤンマ、ハーデリア、ムーランド、チョロネコ、ハトーボー、ケンホロウ、ゼブライカ、ミルホッグ、タブンネです。水上にはバスラオ、ヘイガニ、シザリガー。釣りをすることでトサキントやアズマオウ、大量発生でイルミーゼやバルビートが出現します』

 「モノズ、出ないみたいだよ?」

 アッシュは図鑑の音声認証で機能を呼び出し、3番道路に出現するポケモンを確認した。そこにモノズの名前はない。辺りを詳しく見ると、他にもミニリュウやフカマルなど、棲息地リストにいないポケモンが複数いた。

 「そういえば……あの自転車の人達、なんか同じバッチ付けてなかったか?」

 「同じバッチ?」

 マインに言われ、アッシュも自転車の変態達を確認した。左目こそ潰れているが、残る右目の視力は高い。マインの言うバッチをアッシュはすぐに見つける。ひらがなやカタカナも覚束ない彼には解らなかったが、そのバッチはアルファベットのLをデザインしたものだ。

 「あの人達、タマゴから生まれたポケモンに図鑑かざして何してるんだろ? 生まれたポケモン、逃がしてるし」

 「あの人達が気になる?」

 アッシュ達が橋の上から不審な人物達を観察してたら、一人の女性が声をかけてきた。エプロンを付け、紫色の髪をポニーテールに結っている。ポニーテールはその髪型がポニータの尻尾に似てることから名付けられたらしい。

 眼鏡をかけているが、同じく眼鏡をかけるベルより年上に見えた。

 「もしかして、サンヨウ保育園の保育士さん? あたし、ベルとここ通った時に保育園見たんだ」

 マインはベルといた時に保育園を確認していた。そこの保育士か何かだろうと予測出来たのだ。

 「私は大学の実習生だけどね。最近、なんか子供達が保育園来なくなっちゃってね。今の親過保護でしょ? だから、ここんとこ増えたポケモンのせいかなーって調べに来たの」

 「そういえば、棲息地リストにいないポケモンがいましたね」

 アッシュは先程、図鑑で調べたことを思い出す。モノズなど、リストにいないポケモンがいたのだ。やはり、さっきから橋を渡る自転車の集団が関係してるのだろうか。

 「で、その調査にはポケモンへの接近が必要だからね。ほら、段ボールでモノズの被り物作ったよ」

 保育士が段ボールで作ったモノズの被り物を出す。完成度が妙に高い。しかし、話がマッハで進み過ぎてアッシュの頭がオーバーヒートしてる。頭から煙が出ていた。頭の回転は人以下らしい。

 「ま、一回保育園来なさい」

 保育士に引き連れられ、アッシュとマインは保育園に行く。保育園の隣には育て屋があるのだが、そこの盛況具合と比べたら保育園は人っ子一人いない寂しい状態である。育て屋にはポケモンがたくさんいた。

 「やや、ヴァイオラちゃん。最近なんかポケモン預ける人多くて大変なんだよね!」

 「その忙しさを半分分けて欲しいわね」

 育て屋のおじいさんは自転車で走る人達にタマゴを渡しながら、保育士のヴァイオラに声をかける。

 「育て屋ってのは、トレーナーの代わりにポケモンを育ててくれる場所だ。ポケモンを2匹集めるとタマゴが見つかる時があるぞ!」

 「ほー」

 マインから育て屋の説明をアッシュは受ける。2人と1匹は保育園に入るが、中はガラガラ。外の遊び場にも誰もいない。

 「誰も…いませんね」

 「ええ。さっきあなた達もモノズとか見たでしょ? あれが危ないって話になって、どうやら保育園に子供を預けたがらない保護者が増えたらしいの」

 ヴァイオラによると、最近急に増えたモノズなどが危険と判断した保護者が保育園に子供を預けるのをやめたらしい。

 「図鑑、モノズ!」

 『モノズ、そぼうポケモン。なんにでも噛み付く習性。食べられるものは何でも食べる。うかつに近寄ると危険だ。目が見えないため体当たりしたり噛み付いて周りを探る。身体中生傷が絶えない』

 「確かに危ない」

 アッシュが図鑑でモノズの習性を確認すると、危険性がよくわかる。こんなものが住んでる場所に大事な子供を預けたくない。

 「それが増えた理由を突き止めて、解決すれば子供達も帰ってくるって寸法よ。実習の期間は限られてるし、このまま最終日まで暇ってのも嫌だしね!」

 彼女は実習生としてちゃんと勉強すべく、事態の解決を狙っていた。ともかく、保護者が再び子供達を保育園に預けれる様に、周辺の安全を確保するのが先決だ。

 「じゃあアッシュの出番だな。ポケモンと喋れる能力の出番だ。あいつらから事情を聞こう」

 「多分いきなりそれを教えても信じてもらえないだろうから、黙って使うよ」

 マインに能力の使用を促されたアッシュは、ヴァイオラ自身が『こいつポケモンと喋れるんじゃ?』という疑念を抱かせるよう仕向けることにした。

 早速2人は保育園から出て、先程より疲れているおじいさんを尻目にモノズ達の群れを見た。モノズ達はムーランドに教わりながら、きのみを食べている。

 「いいかい? これが食べられるきのみ、これが食べられないきのみだ」

 「ムーランドがモノズにきのみの食べ方を教えてるね」

 ポケモンと話せるアッシュはムーランドとモノズが何をしてるのかよくわかった。このモノズ達はさっきアッシュとマインが見た通り、生まれた瞬間に逃がされた。つまり、まだ親から自立してない状態で野生に返され、ムーランドが親代わりをしているのだ。

 「さっき、タマゴから生まれたポケモンを逃がしてる人を見掛けたんですよ」

 「急に増えたポケモンはそれが原因ね」

 アッシュの目撃情報からヴァイオラはポケモンが増えた犯人を自転車の変態達と断定する。引っ切りなしにタマゴを受け取っては自転車で道路を爆走し、生まれたポケモンの何かを確認して逃がす。彼らが犯人なのは確定的に明らかだ。

 「で、こいつらがなんなのかって話だが……」

 「お、おじいさん!」

 ヴァイオラが犯人の変態達が一体何者なのかを断定しようと考え始めた瞬間、アッシュが叫ぶ。なんと、育て屋のおじいさんが倒れてしまったのだ。広場を見る度、しょっちゅうタマゴが見つかり、それをトレーナーに渡していたから疲れてしまったのだろう。

 「一体何が……」

 「明らかにタマゴの受け渡し過ぎだ! 一回一回の動作が少ないとはいえ、生態系に影響が出る数やってりゃ過労死するよ!」

 戸惑うアッシュにマインが理由を説明する。預かったポケモンがいる広場を調べる度、タマゴが見つかる。それを変態に渡し続けたらそれは疲れる。自転車で爆走してるとはいえ、変態は若者なので体力があった。一方のおじいさんは高齢で体力が衰えている。

 「おら、タマゴ寄越せ!」

 「やめたげてよお!」

 それでもタマゴを孵化させ終わった変態達がタマゴを求めてやって来る。アッシュが止めるのすら聞こうとしない。しかし、マインはやけに変態達が付けてるバッチが気になった。

 「L……リベレート? お前、リベレート団とやらか?」

 「え? あのブルジョワ伯爵の?」

 マインの言葉で、アッシュはブルジョワ伯爵が逃走の間際に言ったうわごとを思い出す。たしか、リベレート団がポケモンを解放するとかなんとか。

 「そうだ。我々はブルジョワ財閥で地位を得る為にポケモンの厳選をしていたのだ! 強いポケモンを解放の戦力に寄贈すれば、地位が約束される!」

 「厳選……?」

 またアッシュのわからない単語が出て来た。変態が言った『厳選』という言葉の意味がわからないらしい。ヴァイオラがしっかり解説を入れる。

 「いくつもの中から一番いいのを選び出すことよ。こいつらは生まれたモノズ達から一番才能のあるモノズを選び出していたの。あの厳選で有名なシンジすら捕まえたポケモンから選んでたのに」

 「才能のないモノズを逃がしたせいで生態系がヤバいぞどうすんだ!」

 マインの怒りは変態達に届かない。ブルジョワ伯爵が会長を勤めるブルジョワ財閥で高い地位を得たいが為に、変態達はモノズ達を大量に産んでは逃がしてる。

 「タマゴが手に入らないならこんな育て屋潰してしまえ! モノズ、寄贈前の肩慣らしだ!」

 変態の一人がモンスターボールからモノズを出す。タマゴが手に入らないから育て屋を潰すつもりだ。モノズはサザンドラというポケモンの進化前で、強いポケモンとしてイッシュでは有名だ。だから変態達はモノズを厳選していたのだ。

 「させない! ハハコモリ!」

 ヴァイオラはそれに対して、ボールからハハコモリを出す。出てきた瞬間、ハハコモリは刃の様な腕でモノズを切り裂く。

 「シザークロスですよ!」

 この口調が丁寧なハハコモリは虫タイプ、モノズは悪、ドラゴンタイプ。虫タイプの技は悪タイプに効果抜群だ。

 「馬鹿な! 厳選したモノズだぞ?」

 一撃でモノズは沈む。マインがハハコモリの強さに見とれる中、アッシュはトモダチだったハハコモリを思い出す。

 「何泣いてんのよ」

 「ハハコモリ……どうしてるかなあ?」

 オマケに泣き出してしまった。親代わりだった分、ハハコモリとレントラーに対する思い入れは強い。

 「あとあんたら、解放を英語で言いたいなら頭文字はRよ。そのバッチ作るとこからやり直し」

 「ロケット団なんてマフィアと被るからわざとだよ!」

 自慢のモノズを一撃で倒された挙げ句、付けてるバッチの間違いまでヴァイオラに指摘されたので変態は悔しそうだった。しかし、変態には仲間がいた。タマゴを求めてやって来た仲間が、次々にボールからポケモンを出す。ミニリュウやフカマルなど、モノズの他にもアッシュが見たポケモン達だ。どれも強いポケモンの進化前である

 「タツベイにミニリュウ、フカマルねえ。進化させられないの?」

 「戯れ事を! ミニリュウ、ドラゴンクロー!」

 変態の仲間がカイリューにドラゴンクローを指示する。しかし、そのドラゴンクローは受け止められた。それを受け止めたのは紅い影。両腕に鋏を持つポケモン、ハッサムだ。これもヴァイオラのポケモンなのだろうか。

 「残念! 鋼タイプはドラゴンタイプを半減するの。ハッサム、バレットパンチ!」

 ヴァイオラはハッサムに技を指示する。ミニリュウは鋏で顎を殴られ、これまた一撃で倒れる。

 「先制技は威力が低いはず!」

 変態の仲間達が騒ぐ。バレットパンチやアクアジェット、でんこうせっかに代表される『先制技』は相手より先に攻撃出来る。その特徴はスピードなのだが、威力が乗りにくいのが欠点である。

 「ハッサムの特性はテクニシャン。威力の低い技もしっかり使い熟すよ!」

 ヴァイオラによると、ハッサムの特性であるテクニシャンによってバレットパンチをしっかり打ち込んで威力を高めることができる。早さと威力を兼ね備える技へ昇華させるテクニシャンだ。

 「威力以前に進化前じゃあねぇ……」

 「鍛えようによっては勝てるってベルさんは言ってたけどね」

 マインの呟きを聞いて、アッシュはベルが見せてくれたバトルビデオを思い出す。サトシというトレーナーはトレーナーの中でも異質で、殆どのポケモンが進化してないながらも高い実力を持ち合わせている。このトレーナーといえば、リザフィックバレーで修業した切り札のリザードン、シンオウリーグでは唯一優勝者のダークライを破ったジュカイン、ポケリンガで優勝を飾ったオオスバメが話題に上がる。しかしカントーのゼニガメ消防団で活躍したゼニガメ、雷の石による進化を拒み続けるピカチュウも忘れてはいけない。

 「あたしは順当に進化したいけどね。進化して格闘技が使えれば岩タイプにも有効だし」

 「飛行とエスパーに弱くなるけど?」

 「だったら、そこのガキを狙え!」

 マインとアッシュが他愛もない会話をしていたら、変態達がアッシュに向かって走ってきた。

 「こいつを人質にするんだ! 行け、モノズ!」

 「甘い!」

 マインはモノズの突進を回避する。何匹ものモノズが突進したが、マインには当たらない。

 「そうか、モノズの特性は『はりきり』なんだ。張り切って技の威力が上がるけど、命中率は落ちる!」

 ヴァイオラの説明にまたしても首を傾げるアッシュ。マインはそれを見て、わかりやすく説明を加える。

 「ほら、あんたさ、前髪でモノズみたいに目が隠れてるだろ? それであたしがよく見えず、突進を当てられないのさ。あんたは前髪を手で上げられるけどモノズはできないし」

 「なるほど」

 「ほら、アッシュ君もポカブに指示出してみて」

 ヴァイオラに促され、アッシュはマインに指示を出す。マインが使える技は三つ、『体当たり』『尻尾を振る』『火の粉』だ。

 「マイン、火の粉!」

 「ダメだ。ドラゴンタイプは炎タイプを半減するよ!」

 「そうか…じゃあ、体当たり!」

 マインのアドバイスを聞きながら、アッシュは体当たりを指示した。マインはモノズに体当たりをして倒す。

 「やった!」

 「クソ! だったらこれだ!」

 変態達は有らん限りのモノズやフカマルとかミニリュウやらタツベイを繰り出す。本来、トレーナーが手持ちに加えられる数を越えている。

 「どうだ! 厳選したとっておきのポケモンだ!」

 「数が多過ぎる!」

 さすがにヴァイオラのポケモン達でも捌き切れない数だ。ハハコモリとハッサムはジリジリと後退する。2匹は襲いかかるポケモン達を振り払うのでやっとだ。

 しかし、アッシュは辺りを見て誰かに声をかける。

 「おーい! みんな、力を貸して!」

 すると、変態達が厳選で逃がしたモノズやフカマルなどが大量に現れる。明らかにこちらの方が数は多い。変態達はあっという間に取り囲まれる。

 「一対一なら才能の差で負けたかもしれないけど、みんなで力を合わせれば勝てるよ!」

 「よっしゃ!」

 「あいつらを見返してやる!」

 「ムーランド先生から習った技の出番だ!」

 「おまえら必ず2匹以上で戦え!」

 「ヒャッハー! 袋叩きだ!」

 口々に互いを鼓舞したポケモンが変態達に攻撃を仕掛ける。厳選によって、変態達が求める才能に届かないとして逃がされた彼ら。しかし、どんなに才能の差があっても数という圧倒的な力には敵わない。

 「何をしてる! お前達の才能はこんなものか!」

 「そんなこと言ったってぇ!」

 ポケモン達は必ず、2匹以上のグループで敵を追い詰めた。まだ生まれて間もないポケモン同士、数を覆すだけのテクニックは持ち合わせてない。

 変態達はあっという間に捕まり、拘束された。

 

 日は暮れて、おじいさんもサンヨウシティの病院に運ばれた。集まったポケモン達も元の住家に帰っていった。

 「これで事件は解決ね」

 「この子達もここで仲良く暮らすみたいですね」

 夕日の中、元々棲息していたポケモン達と仲良く住家に帰る様子をヴァイオラとアッシュは見届けていた。とりあえず、これで事件は一応の解決となる。結局、モノズ達の危険性はそのままだが、こればかりは習性なので仕方ない。

 「よし早速明日、サンヨウに行って事件の解決をみんなに教えよう!」

 「ちょうどサンヨウに用事があるので、ボクも行きます」

 二人は明日、サンヨウシティに行くことにした。アッシュの旅は始まったばかり。これからどんな出会いが彼を待っているのだろうか。




 アデクのポケモン講座

 アデク「さあて、今回のポケモンは……」
 チェレン「今回はポケモンよりアッシュやヴァイオラの方が目立ってましたので無しです」
 アデク「ピッピカチュウ!」
 チェレン「無視ですか」
 アデク「そぼうポケモン、モノズじゃな。なんかアッシュにそっくりじゃのう」
 チェレン「髪型だけですがね」
 アデク「このポケモンは噛み付いたり体当たりすることで周りを把握するから、迂闊に近付いたらダメじゃぞ」
 チェレン「この様にあちらから近付いてきた場合は……」
 アデク「なんでこんな場所にモノズが! 逃げるんじゃ!」
 チェレン「アデクさん、行っちゃったね。じゃあ、みんなもポケモン、ゲットだよ」
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