ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 ユニバーシティ
 エニシダが創設した大学。将来のフロンティアブレーン候補を探すために設立され、ブレーン以外にもポケモンに関わる職業訓練が豊富。
 中にはポケモンを利用した幼児教育を行う人間を育てる『教育学部保育学科』の様なものも。


SP4.ダブルバトル、エルト&ヴァイオラ!

 大学内 ホール

 

 「それでは皆さん、ペアを組んで下さい」

 新入生達が大学の広大なホールに集められた。今からどうやら、新入生によるダブルバトル大会が行われるらしい。学部学科に囚われず、ペアを組んでの大会だ。

 「ゴメン、他の人と組んで」

 ヴァイオラは友人からの誘いを蹴って、あるものを探していた。保育科に進学した彼女は普段から動き易い格好を心掛けているので、デニムのホットパンツに長袖のシャツとラフな服装だった。

 「余ってる人は……」

 ヴァイオラが探しているのは、ペアを作る時に余ってしまった人。そういう時に余るくらい性格に難がある人と組めるくらいじゃないと、保育士には成れないと断定したからだ。

 「いた」

 そして見つけた。周りの人との距離が開いている。コートを着てフードを被った男性だ。ヴァイオラはそのコートに見覚えがあった。

 「ハイドさんのコートと同じだ。もう売ってないはずなのに」

 知り合いとたまたま同じコートを着ていた。ともかく話すきっかけは掴めた。ヴァイオラは彼に話し掛ける。

 「あの、私とペアを組んでくれませんか?」

 「な、何ぃ!」

 ヴァイオラが声をかけると、男性は物凄く驚いていた。近くで見ると、ハイドのコートと同様の傷があったりと見覚えのあるコートだった。右胸の刺繍にハッキリとハイドの名前が刻まれていた。

 「このコート……」

 「知り合いがくれたんだ」

 「もしかしてウバメのハイドって人?」

 「おう。知り合いなのか?」

 共通の知り合いから話が弾んだ。これはラッキーだ。ハイドが愛用のコートを贈った、キンセツの育て屋の孫とは彼のことだったのだ。

 「あ、私はヴァイオラ、ヴァイオラ・ヴァイオレットっていうんだよ。みんなはヴィオラって呼ぶけどね」

 「俺はクラサキ・エルトだ。イッシュ式の名前なんだな」

 カントーやジョウト、ホウエンとシンオウでは苗字が最初に来て名前が後のカントー式が主流であるが、元々カロス人のヴァイオラは名前が最初に来て苗字が後に来るイッシュ式の名前だ。この方式はイッシュ、カロス、オーレに見られる。

 しかしながら、エルトは人種的にカントーやジョウトのそれと異なるみたいだ。フードで顔が隠れているが、何とか見える部分だけでも判断ができる。

 「私はヒワダに住んでるけどカロス人だからね。あなたもカロス人なの?」

 「……カロス人なのか。よくわかったな、俺もなんだ。いろいろあってじいちゃん達に引き取られたんだよ。本名はエルト・ダナスティで戸籍もこっちの名前だがな」

 エルトもカロス人であることがわかった。なかなか奇遇な出会いである。

 「ダブルバトルの経験は?」

 「一応ある。だがマルチバトルは無いな」

 エルトはタッグバトルの経験が無いようだ。タッグバトルとはトレーナーのペア同士で戦うダブルバトルである。通常のダブルバトルが1人のトレーナーが2匹のポケモンに指示を出すのだが、タッグバトルでは1人1匹のポケモンを出す。そのため、連携を決めるにはポケモン同士は元よりトレーナー同士の連携も必要だ。

 「じゃあ、一回戦で出すポケモンを決めましょう。私は何出そうか? 今手持ちにいるのはハッサムとヤンヤンマとテッカニンかな?」

 「ハッサムはとくせいが何で、技は何を覚えてる?」

 「とくせいはテクニシャン。技はシザークロスとつばめがえし、つるぎのまいにかげぶんしんかな?」

 「待てよ……そのハッサムを出してくれ。あと忘れさせるならどの技がいい?」

 

 そんなこんなでヴァイオラとエルトのペアは作戦を決めた。そして一回戦の時間が来た。大学にはポケモンリーグセキエイ本部と同じ造りのフィールドがあり、フィールドチェンジが可能だ。

 しかし今回はノーマルなフィールドでのバトル。残念な限りである。2人の一回戦の相手は一般的な大学生だ。ルールは4対4のタッグバトル。ただの大学生と見くびるなかれ、大学に行ける様な奴は相場、リーグ経験者かスクールの優等生と決まっている。

 「これより、ヒワダタウンのヴァイオラとキンセツシティのエルト対コガネシティのタシロとタマムシシティのナシロの試合を始めます」

 審判が対戦相手の出身地を読み上げるのはお約束。やはり都市部にリーグ経験者が集中しやすい。ヴァイオラが手元の端末で対戦相手の情報を確認すると、やはり彼らは何度もリーグに出場している強いトレーナーであるとわかる。

 この端末は大学の生徒に支給される『電子学生証』である。この様に対戦相手のデータを確認したり、自分のポケモンのコンディションをチェックできる。

 「行け、ハッサム!」

 「任せたシリウス!」

 まずはヴァイオラ&エルトペアの初手。ヴァイオラがハッサムを繰り出し、エルトがジュペッタのシリウスを出した。ハッサムの弱点は炎だが、ジュペッタはそれを補えない。どういう作戦なのだろうか。

 「ふむ、なるほど道具はそうなのか」

 シリウスが手振り身振りでエルトに何かを伝える。ジュペッタのとくせい『おみとおし』だろう。

 「出てこい、シャンデラ!」

 「頼んだぞ、デンチュラ!」

 一方、相手チームは互いの弱点を補完し合う構成。シャンデラは自身の弱点であるゴーストに対しては同じくゴーストで対応出来るが、水と悪はそうもいかない。だからこそのデンチュラだ。

 「試合開始!」

 「ハッサム! バレットパンチ!」

 試合開始と同時にヴァイオラのハッサムがデンチュラにバレットパンチをかます。ハッサムははがねのジュエルを持っており、テクニシャンと合わさって強力な先制攻撃になった。

 「馬鹿な! こいつ、さしたる戦績も無いのに!」

 「虫のことなら誰にも負けない!」

 一撃でデンチュラが倒れる。相手は大した戦績を持たないヴァイオラが虫ポケモンの弱い部分を知り尽くし、そこを突いたことに驚きを隠せなかった。所詮、戦績など虚仮威しに過ぎない。リーグに繰り返し出場して箔を厚塗りする作業に勤しんだ彼はそれを忘れていた。

 「デンチュラ、戦闘不能!」

 「ジュペッタごときでは何も出来まい! シャンデラ、オーバーヒート!」

 もう一人がハッサムの危険性を考え、シャンデラにオーバーヒートを撃たせる。

 「ハッサム、羽を広げて!」

 しかしヴァイオラはハッサムに羽を広げさせ、オーバーヒートが出す上昇気流に乗って飛行させた。

 「ありえん!」

 「ハッサムは炎にだけは弱い。対策はバッチリね」

 弱点対策を施したヴァイオラのハッサムは完璧の一言。オーバーヒートを見事回避した。

 「シリウス! トリックルーム!」

 「なんだと?」

 シリウスのトリックルームでフィールドの時空が歪む。しかし、遅いポケモンがシリウス自身しかいない環境で何の意味があるのだろうか。

 「このトリックルームは味方の強化では無いッ! 我々の妨害ッ!」

 「ハッサムの先制技は相変わらず早く出るってわけかッ!」

 トリックルームは素早さの遅いポケモンほど早く動ける空間を生む技。しかし先制技だけは変わらず早いままなので、バレットパンチを覚えたハッサムはトリックルームの影響を受け難く、元々遅いジュペッタは単純に強化されてしまう。

 「速いポケモンしかいない!」

 次に相手が出したのはスターミー。地面対策だったが、速さが裏目に出た形だ。

 「ハッサム、バレットパンチ!」

 「スターミーがッ!」

 バレットパンチを受け、スターミーはそこそこのダメージ。一撃で倒せなかったが、スターミーもハッサムに有効打は与えられない。

 「シリウス、シャドークロー!」

 そしてシリウスのシャドークローがシャンデラに直撃。シャンデラは倒れた。

 「シャンデラ、戦闘不能!」

 「スターミー、じこさいせいだ!」

 ダメージをとりあえず回復して立て直すべく、スターミーはじこさいせいを選択。トリックルームが切れるのを待つ作戦だ。

 「行け、コジョンド!」

 スターミーの弱点対策に入れたコジョンドも速いポケモン。トリックルームを見抜けなかった彼らの負けだ。

 「シリウス、もう一度シャドークロー!」

 スターミーはシリウスのシャドーで倒れた。エスパータイプにゴースト技は効果抜群だ。ジュペッタは速くこそないが攻撃力だけならゴースト最強クラスだ。技もシャドーパンチの様な強力なものが無いのだが、シャドークローとはいえ弱点を突いて放てば無論、強い。

 「スターミー、戦闘不能!」

 「馬鹿な、リーグベスト8の俺達が何も出来ずに負けるだと?」

 結局、デンチュラとスターミーを出したトレーナーは技を満足に出せず終わった。敗北を恐れてじこさいせいを選んでしまったため、一矢たりとも報えなかった。ジュペッタのシャドークローはスターミーに痛手であり、じこさいせいも意味を成さないのだから高い特殊攻撃力からサイコキネシスなりハイドロポンプなりを放った方がまだマシな結果に終わっただろう。

 「ハッサム、つばめがえし!」

 「コジョンド、戦闘不能!」

 テクニシャンから撃たれたつばめがえしは必中にして高威力。コジョンドがトリックルームに戸惑っていたため防御姿勢も取れずに敗北した。トレーナーが何か声を掛けていたらコジョンドも冷静さを取り戻しただろう。

 「よって勝者! ヒワダタウンのヴァイオラとキンセツシティのエルト!」

 「やった!」

 「若干ながら愛が足りない」

 エルトは何事かを呟いた。非常に奇妙なことだったのでヴァイオラも聞き返してしまう。

 「愛?」

 「ポケモンの愛だけがこの世界で裏切らない唯一のモノだ。さて、彼らを労うとするか」

 エルトはジュペッタとハッサムに歩み寄った。自分のポケモンだけではなく、ヴァイオラのハッサムや相手のポケモンにまで労いの言葉と今後のアドバイスをしている。

 

 その後も2人は勝利を繰り返し、遂に決勝へ駒を進めた。その対戦相手はヴァイオラがコンビを組むことを断った友人のユウヒとワインレッドの髪をした女の子だ。全身に包帯を巻いており、つなぎを着ているが上半身ははだけて黒いタンクトップが覗く。

 髪も綺麗でスタイルの良い美人だが、どうしてそんな人物が余ったのか。

 「奴か」

 「知ってるのエルト?」

 「最近、大学内でわざと色んなポケモンに攻撃されては悶絶して喜ぶ強者だ。ロゼという名前らしい。噂によると手持ちはドサイドン、モジャンボ、オノノクスか。ピーキーな能力のポケモンが好みとみた」

 「それって変態の間違いじゃ……」

 ユウヒはヴァイオラに断られて余ってしまったのか、そんな変態と組む羽目になった。しかし互いに余り物には福があったのか、決勝まで来れた。

 「決勝はポケモンが倒れる度にフィールドチェンジを行います。最初は岩のフィールドです」

 岩のフィールドが出現し、ここが最初の舞台になる。フィールド利用も重要になりそうだ。

 ヴァイオラとエルトはそれぞれ、ヤンヤンマとジュペッタのシリウスを出した。一方、ユウヒはキノガッサ、ロゼはモジャンボを繰り出した。

 「頼んだわよベネリ! 負けたら私をおしおきしていいから!」

 「こいつ……出来る!」

 早速、ロゼとエルトが睨み合う。愛とか言ってしまうエルトとおしおきを望んでる様にしか見えないロゼはもしかしたら気が合うかもしれない。トレーナーに呼応する様に、シリウスとモジャンボのベネリも睨み合う。

 『試合開始!』

 「キノガッサ、ジュペッタにキノコほうし!」

 「かかった!」

 試合開始の合図と共にユウヒがキノコほうしを使わせる。しかし、すでにエルトは罠を仕掛けていた。シリウスが眠らないのだ。

 「なんで?」

 「シリウスのとくせいは『ふみん』! 今までは『おみとおし』のふりをしていたのさ!」

 ジュペッタのとくせいは『ふみん』と『おみとおし』の2つ。エルトはずっと、シリウスのとくせいがあたかも『おみとおし』であるかの様に演技していたのだ。

 「ただ、モジャンボの方が遅いからトリックルームは使えないけどな」

 「ヤンヤンマ、エアスラッシュ!」

 キノガッサはヴァイオラのヤンヤンマのエアスラッシュを受けてしまう。効果抜群だが、何とかギリギリで耐えた。

 「シリウス、どろぼうだ!」

 シリウスはキノガッサから何かを盗む。おみとおしが出来なくても、大方何かは持っているだろうと予測出来たのだ。

 「キノガッサ、戦闘不能!」

 どろぼうの一撃は効果いまひとつながら、既にギリギリだったキノガッサは倒れた。

 「ベネリ、パワーウィップ!」

 モジャンボのベネリがパワーウィップでヤンヤンマを落とす。虫、そして飛行タイプの草タイプ半減効果で威力は大幅に減ったはずだが、ヤンヤンマは倒れた。モジャンボは相当鍛えられている。

 「戻ってヤンヤンマ、お疲れ。頼んだわ、フライゴン!」

 ヴァイオラの2体目はフライゴン。虫好きな彼女には珍しくドラゴンタイプだ。ジョウトで育ったヴァイオラは父親とデボンコーポレーションとの商談のためホウエンに来た時、虫になるだろうとナックラーを捕まえていたのだ。ダイゴから貰ったメタルコートも含め、ホウエン出張はヴァイオラの戦力を著しく上昇させた。

 「行け、ガブリアス!」

 ユウヒの2体目はガブリアス。しかも色違いだ。ポケモンというものは同じ種類でも色が異なる個体が存在する。それを色違いと呼ぶ。通常の色を『第一色』と呼び、それと異なるがその中で最も多い色を『第二色』と呼ぶ。大抵の色違いは第二色に分類されるが、稀にトリトドン系統の様に生息地の違いで第二色が発生する場合もあり、その色違いは『第三色』以降に分類される。基本的にここへ分類されるのは西のトリトドン系統の色違い、ブルンゲル系統のメスの色違いだ。

 「色違い。しかも第三色!」

 「よく気付いたわね。褒めてつかわす!」

 ユウヒのガブリアスは紺色であるべき部分が黒である。色違いが第二色に分類されるポケモンで、第二色とも違うカラーリングをしたポケモンは目が飛び出るほど貴重だ。色違いという名称は基本的に第一色以外に適用される。

 「フライゴン、だいもんじ!」

 「ベネリっ!」

 ヴァイオラはフライゴンにだいもんじを指示。とりあえず相手を倒す作戦に出た。効果は抜群なので、モジャンボのベネリは倒れた。

 「モジャンボ、戦闘不能!」

 「ああ、なんて激しい炎技なの? 私が受けたかった……!」

 ベネリをボールに戻したロゼは身体を強く抱きしめ、顔を赤らめて息を荒くする。完全なる変態だ。

 「ソーコム、頑張って!」

 ロゼの2体目はオノノクスのソーコム。ドラゴンが場に3匹という、見るものを圧倒する試合になった。

 「というわけでげきりん!」

 そして容赦無きガブリアスのげきりんがシリウスを襲う。赤いオーラを纏って激突されれば、さすがに耐え切れず、シリウスは倒れた。

 「ジュペッタ、戦闘不能!」

 「戻れシリウス! 後は任せておけ、こいつにな! キンセツ最強の龍、ボーマル!」

 エルトの2体目はボーマンダだ。登場の『いかく』でガブリアスとソーコムの攻撃力が落ちる。物理アタッカーには致命的だ。

 「フィールドチェンジを行います。え…エニシダさん? いいんですか?」

 全員の2体目が出揃ったところで、審判がフィールドチェンジを行う。その時、無線で連絡が入る。理事長のエニシダからだ。審判は意を決した顔をし、フィールドの扉を解放した。

 「フィールドチェンジ、次のフィールドは大学の敷地内です!」

 エニシダの指示か、戦場は大学の敷地内となった。待ってましたとばかりに、ユウヒはガブリアスに指示を出す。

 「なんの! 飛んで、ガブリアス!」

 ガブリアスは空を飛び、攻撃体勢に入る。上空から加速して攻撃力を増す作戦だ。

 「げきりん!」

 「こっちもげきりんだ!」

 ガブリアスとボーマルがげきりんでぶつかり合う。赤いガブリアスのげきりんと青いボーマルのげきりんが上空でぶつかる。げきりんで対決する2匹は大学内を飛び回る。

 「フライゴン、あなをほる!」

 「ソーコム、じしん!」

 フライゴンは穴を掘って 地中へ。ソーコムがじしんを使ったが、フライゴンはダメージも無く穴から飛び出してソーコムの背後を取る。

 「じしんが効かないなんて、あれを受けないなんてもったいない!」

 「あなたほど素直じゃないわ、うちの子! フライゴン、りゅうのいぶき!」

 フライゴンのとくせい『ふゆう』で地面技が当たらなかったのだ。ソーコムはりゅうのいぶきをダブルチョップの一撃目で弾き、二撃目でフライゴンを狙う。

 一方、大学を阿鼻叫喚の地獄絵図に変えながらガブリアスとボーマルが死闘を繰り広げる。特に、特殊技メインのボーマルが放った技の流れ弾が酷いことになっていた。かえんほうしゃがカップルを襲い、りゅうのはどうがカップルを襲う。お前絶対わざとだろ。

 「ガブリアス、げきりんをやめてでんじは! お願い言うこと聞いて!」

 大学を走るユウヒの指示を無視してガブリアスはげきりんを続けていた。エルトはバシャーモのイチローにお姫様抱っこで運んでもらいながら、優雅にボーマルと戦う。

 「あんたも楽しないの!」

 「だって走れる身体じゃありませんしおすし」

 イチローはワカシャモ時代から足を悪くしたエルトを運び続けた。イチローのレベルアップと共にエルトも成長したので、常にちょうどいいダンベル代わりになっていた。同い年の男性では軽い方で体重が40キロくらいのエルトとはいえ、全力で走ったり跳んだりすれば十分重しだ。

 「あとお前の指示は無駄だァ! あのガブリアスは技量的に自由にげきりんを解除する実力があるッ! ボーマルはさっきキーのみ使って解除したし。だが、奴は打算無しの真っ向勝負が大好きなのさ!」

 「そんなことっ…!」

 わかっている。ユウヒはガブリアスの性格をわかってはいた。だが、その性格が原因でユウヒの作戦に従わず、敗北することが多い。ユウヒがポケモンリーグで成績を残せない、最大の原因でもあった。

 「だったら、ガブリアス! 最大パワーでげきりん! ドラゴンジュエルを発動しなさい!」

 「ジュエル発動のタイミングも任意か、優秀だな、ガブリアスの方はなぁ!」

 開き直ったユウヒはガブリアスにジュエルげきりんを指示。ガブリアスもジュエルを取り出したが、色がおかしい。ドラゴンジュエルは藍色のはず。なのに、ガブリアスの持っているジュエルは茶色だ。

 「なっ、馬鹿な、かくとうジュエル?」

 「ハァーハッハッハッハッハッ! すり替えておいたのさ!」

 エルトの手にドラゴンジュエルがある。彼はドラゴンジュエルを弄びつつ、ネタ明かしをした。

 「今ガブリアスが持っているのは、シリウスがキノガッサから盗んだかくとうジュエルだ。げきりんを喰らった時にシリウスは、トリックで持ち物をすり替えていたんだよぉ!」

 「がぐっ…!」

 ユウヒは本音をいうと、ジュペッタを侮っていた。ジュペッタを知った上で侮っていたのだ。ヨノワールの様に強力な技や高い耐久があるわけでもない、ゲンガーみたいに速いわけでもない。だが、ゴーストタイプには多彩な技があった。特にジュペッタは持ち物にまつわる技を多く使う。

 「ボーマル、りゅうせいぐん!」

 「ガブリアス!」

 「それだけで倒れるなんて思わねぇ、げきりんだ!」

 ボーマルのりゅうせいぐんがガブリアスに直撃。追撃のげきりんには、ガブリアスから盗んだドラゴンジュエルを使う。しかし、ガブリアスはりゅうせいぐんの直撃を貰ったにも関わらずげきりんでこれを迎撃。強い力の激突で大学の窓ガラスが粉々に吹き飛んだ。

 「なんというパワーァ!」

 そして両者は相打ちとなった。りゅうせいぐんで弱っていたはずなのに、ユウヒのガブリアスの力は凄まじい。

 「ガブリアス! 戻って!」

 「ボーマル、よくやった。後はヴァイオラに任せよう」

 ユウヒとエルトはポケモンをボールに戻す。エルトはユウヒの姿を見て、少し考えた。イチローの腕から降ろしてもらうと、糾弾する様な口調で言った。

 「お前、ポケモンを労わないのか?」

 「え?」

 戸惑うユウヒの足元に、げんきのかたまりが2つ転がされる。エルトからだ。

 「全く、どうりであれほど強力なガブリアスが力を発揮せんわけだ。熱くたぎる熔岩を封じた様な力を感じる……、活かせないとは全く残念だ」

 エルトはユウヒに背中を向けてフィールドに帰る。エルトはガブリアスに隠された可能性に気付いていた。

 「何故あれ程のポケモンがこいつに? 幼い頃から育てられたからか? 血縁に特別な繋がりを勘違いする人間の親子と同じなのか? 当たり前過ぎて感謝を忘れてるクチだな」

 「っ……!」

 エルトの独り言が、嫌に鮮明な響きとなってユウヒに突き刺さる。あのガブリアスはユウヒが火山地帯で卵を見付けたのだ。黒い体色を持つガブリアスは貴重で、当時はマスコミに注目されたものだ。

 このポケモンを手にした自分はきっと特別なんだ。ユウヒはそれを確かめる為にポケモンリーグへ挑んだ。ジムはガブリアスの力で快勝。強い力に慣れたユウヒは、ガブリアスが側にいるのを当たり前として捉えていた。

 「なによ、人の気も知らないで……」

 彼女の呟きはエルトにではなく、自分に向けたものに聞こえた。エルトはかつて、親友だったポケモンと離れ離れになった。それも、他に味方がいない中での親友と、救いの無い理不尽な別れだ。ユウヒはエルトのそんな事情を知らないが、エルトの事情を知る者にはそう聞こえそうなものだ。

 

 一方、ヴァイオラとロゼの戦いも終盤だった。隙を突いたフライゴンがオノノクスにシグナルビームを放った。

 「ああっ!」

 「ちょ、何して……」

 しかし、その攻撃からロゼはオノノクスを庇った。サイケデリックな色彩のビームを身に受け、ロゼは苦悶に喘いだ。気のせいか、ヴァイオラにはその喘ぎに快楽の色が読み取れた。

 「んぅ、くっ! あぅ!」

 突然の事態にフライゴンはビームをやめる。ロゼはビームを受けた体を強く抱きしめ、息を荒げる。顔を赤らめ、恍惚とした表情でだらし無く舌を出し、その場にうずくまる。

 「はあっ、はあっ、はあっ…いいビーム、ね。さっきから撃つとこ見てたら我慢出来なくなっちゃって。ねえ、もっとして」

 「何考えてんの!」

 ヴァイオラはようやく思い出した。自分が相手していたのは大学一の変態であると。ロゼはフラフラと立ち上がる。足は縺れていたが、それがダメージによるものか、あまりの快楽によるものかはわからなかった。

 「ドクターストップ! ロゼ、戦闘不能! よって勝者、ヴァイオラとエルト!」

 「へ、変な優勝のしかた……」

 ロゼにドクターストップがかかり、ヴァイオラ達の勝利が決まる。この時点で残っていたのはヴァイオラのフライゴンだけだ。

 「まったく、なんでこんなこと……」

 「暴力を受けて、ぐっ、育ったポケモンは、暴力を、コミュニケーションの手段にしちゃうのよ。だから、私が受け止めてあげ……る、んぐっ!」

 「ロゼ!」

 遂にロゼは倒れ、ヴァイオラに受け止められる。傷が開き、包帯に血が滲んだ。身体を震わせ、相当なダメージが貯まっていたことがわかる。

 「はあっ、ああ…体のガクガクが止まんない……。ポケモンに壊されて死ぬなら、本も…」

 「ロゼ!」

 ロゼは瞼を閉じた。そのまま彼女は大学の保健室に運ばれ、手当を受けた。

 

 ヴァイオラとエルトはまだ目覚めないロゼに付き添うことにした。ユウヒだけがさっさと帰ってしまう。

 「もう! 薄情なんだから!」

 ヴァイオラは自分のポケモンがロゼを傷付けたので付き添っていた。フライゴンも心配そうに見つめる。

 「ロゼッタ・ロード。シンオウ地方のロード村出身。ポケモン性愛症候群を発症しており、治療の効果も無しか。当たり前だな」

 エルトはロゼのデータを確認する。どうやらヴァイオラとエルトではアクセス出来る情報量が違うらしい。

 「ポケモン性愛症候群?」

 「正常者様曰く、ポケモンを恋愛どころか性欲の対象にしちまう病気だってよぉ。本質は人間同士の恋愛と変わらん。ロゼの性格はこいつと後天的に形成されたマゾヒズムが原因だ」

 そんな病気があったのか。ヴァイオラは初めて知った。そもそも、医学界では病気なのか疑問視される症状なので、ヴァイオラも病気として認識していなかった。

 「上手くコミュニケーションが取れずに孤立するポケモン達を受け止める圧、倒、的、な愛!」

 「わかったからちょっと静かにしてなさい。ロゼに響くでしょ」

 エルトの解釈は半分合っていた。始めはロゼもポケモン達が暴力に曝されて育ったせいで、暴力をコミュニケーションの手段にしてしまっていることに気付いていた。それを受け入れ続ける過程で、攻撃を受ける痛みに快楽を感じてしまったのだ。

 「むにゃ…だめぇ、これ以上したら遺伝しちゃうよぉ……」

 「何の夢見てんの?」

 「ドーブル辺りと愛でも確かめあってんじゃねぇかぁ?」

 ロゼは包帯だらけでベッドに眠る。痛々しい姿の割に、寝顔は幸せそうだ。今まで受けたダメージがシグナルビームで爆発したのが、倒れた原因らしい。

 「やあ、お見舞いかい?」

 「エニシダ理事長!」

 保健室にエニシダが入ってくる。ヴァイオラはエニシダを大学の理事長として彼を認識していたが、相変わらずアロハシャツのグラサンだ。

 「エニシダさん。お久しぶりです」

 「いやー凄いよエルトくん。まさか優勝だなんて」

 「彼女に声かけられなければ危うく……」

 エルトとエニシダは知り合いらしい。育て屋に引き取られたと言っていたので、そっち方面の知り合いだろう。

 「君達に朗報があるよ。今度大学間でバトル大会があるから、優勝した君達に出てほしいんだ」

 「え?」

 突然の誘いだった。トレーナー学部やブリーダー学部ではないヴァイオラにとっては特にだ。

 こうして大学対抗バトル大会の幕が開く。ユウヒとロゼが知らないところで、物語は動き出していた。




 トレーナーカード
 ポケモンブリーダー ロゼッタ
 18歳(当時) 女
 ブリーダー学部の生徒。ポケモンの攻撃を受けることに快楽を覚える危険人物。一応、暴力をコミュニケーションの手段にしてしまったポケモンを受け入れる、そして攻撃の威力でポケモンの体調を計る意味もある。
 ダメージに気付かず、そのまま蓄積して倒れることもある。
 手持ち
 ドサイドン♂(モーゼル)
 モジャンボ♂(ベネリ)
 オノノクス♂(ソーコム)
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