かつて、富める者から奪いポケモンに分け与えた伝説の盗賊『灰色の疾風』ブレイド。彼はイッシュ地方、竜の里から秘宝『サザンドラの瞳』を盗もうとして行方をくらませた。
サザンドラの瞳とはどのようなものか。文献によればサザンドラの眼球ほど巨大な紫の宝石だそうだ。この秘宝には悪とドラゴンの力が篭められ、サイキッカーなどの超能力を退けることができる。また、悪とドラゴンの力を高めるとされる。
この秘宝が放つ光を自らの瞳に閉じ込めれば、その力が瞳に宿る。そしてひとたび封じた光は来世にも引き継がれる。自分の親族に紫の瞳をした人がいない、のに自分の目は紫。そんな人は前世でこの秘宝に触れたのかもしれない。
レイジの育て屋
「あらかたクロスケの支配は解放したな」
「でも、戦艦アルセウスが気になるの。特に主砲の『裁きの大砲』が」
シンジとイヴはトバリシティに戻り、育て屋のリビングで地図を広げていた。クロスケが買収した戦艦アルセウスは馬鹿性能ながら主砲だけは強い。馬鹿な戦艦に積まれた故に汚名を被り、製造が停止した主砲を得るためならアルセウス購入も理解できる。
「裁きの大砲?」
「電気で動く大砲よ。5年前は私達がバッテリーを破壊したから使えなかったの」
イヴはその時の話をした。クロスケが戦艦アルセウスを持つなら、弱点について話した方が後々便利だろう。
5年前 ソオノタウン 谷間の発電所
オリジナルイヴの野望を止める為、八賢老を倒すため、イヴとエルトはハクタイシティに向かっていた。タタラがいるミオシティに行くには、ハクタイシティの役場で通行許可を貰う必要がある。サイクリングロードを使えば早いのだが、そこも同じく許可がいる。
なので、ソオノ経由でハクタイを目指すことにした。その途中、谷間の発電所に立ち寄ったのだ。
「風力発電の発電所だなぁ。ソオノの電気を全て賄っている」
「でも、ソオノがなんだか暗いわね」
イヴは先程通ったソオノタウン全体が停電したみたいな暗さだったのを思い出す。ポケモンセンターも機能していないので、困っていたところなのだ。
「原因はここにありそうだよなぁ。どうせ八賢老だろうしよぉ」
エルトは発電所の中に入って様子を見ることにした。イヴは外で待っていることに。八賢老関係ならエルトが倒すだろう。
「あら?」
近くの岩場に腰掛けたイヴは、フワフワと飛んでいるフワンテに気付いた。確か、町で噂を聞いたことはある。今日はフワンテが来る金曜日なのか。
「ん……」
フワンテは自然にイヴへ近寄り、頬擦りをする。アインやルカの件といい、どうやら彼女はポケモンに懐かれ易いらしい。
「まぁ! その子が誰かに懐くだなんて……」
「どなた?」
そうしていると、ある少女が草むらの影から姿を現した。伸ばした緑の髪に緑色の服を着た、しとやかな印象の少女だ。歳はエルトやゲンと同じくらいに見えた。彼らより年上にも見えたが仕草による補正も考えればそのくらいだろう。
「あ、私はモミ。この辺りに住んでいるの。この子はよくここに来るけど、人には懐かないわ」
「そう、かな?」
モミからフワンテにまつわる話を聞くが、この印象からはそうも思えない。モミはしばらく考え、何かを思い出したように言う。
「確か、聞いたことがあるわ。伝説の大盗賊『灰色の疾風』の話。人間には尊大で傍若無人だけど、ポケモンには信頼されたって。でも最後にイッシュの秘宝『サザンドラの瞳』を盗んでから行方が……」
「その手の話はお腹いっぱいです」
既に自分がクローンでいっぱいいっぱいなのに、これ以上面倒な話は抱え込みたくない。まさかその盗賊と関係があるとか言われたら、イヴはパンクする。
「え? 新聞に取られた写真がイケメンだから世界中の女の子の憧れになってるけど、もしかしてそこまで熱狂するタイプじゃない?」
「たしか、この前の新聞にその人がいなくなって40年近いって話が……」
イヴが数日前に読んだ新聞に、その人の話題があった。伝説の大盗賊『灰色の疾風』ことブレイドは何十年も前に行方不明になっていた。親交があった炭鉱の社長、ヤーコンのインタビュー付きで。クロガネ鉱山でタタラを探す時地下へ潜ったのは、イヴがこの記事でヤーコンの人となりを知ったからだ。
「で、一人でここに来たの?」
「えっと、もう一人いたんだけど、今は発電所に……」
モミと話していると、発電所に向かったエルトが気掛かりになる。何か妙なことはしていないだろうか。
その瞬間、発電所が爆発した。
「してた!」
「は、発電所が……!」
イヴとモミがそこへ急ぐと、エルトは誰かを追い掛け回していた。
「あれは!」
「ジョン! 逮捕されたはずなのに!」
エルトが追い掛けていたのは、コトブキテレビの司会者、ジョン。国際警察の協力で捕まったはずなのに、何故ここにいるのか。
「クソめ! せっかく警察から逃れてここに潜伏したのに! ついでに戦艦アルセウスのバッテリーも充電していたのに! バッテリーが壊れたじゃないか!」
「知らへん知らへん」
どうやら警察から逃げて来たらしい。エルトとモウカザルのハナコに追われ、ジョンは息を切らせて走る。ポケモンは没収されたのか。
「このガキめ! パルシェン! ジュゴン! ギャラドス!」
「ハナコ、マッハパンチ!」
と思いきや、ポケモンを出して応戦し始めた。しかし、ハナコのマッハパンチでパルシェンとジュゴンが早速倒れた。
「逃げるぞ、フハハ!」
ジョンは残るギャラドスに乗って近くの小川を上る。川の周りの道は厳しく、走ってもなかなか追い付けそうにない。
「ラド! 頼む!」
「フワンテも行ってくれるの?」
エルトはムクバードのラドを出して追い掛けさせる。イヴも先程懐いたフワンテを後に行かせた。
「こっちに近道があるの。先回り出来る!」
モミが2人を近道に誘い、先回りすることに。ギャラドスは追って来るラドとフワンテを振り切れず、突かれたりシャドーボールを撃たれたりしてボロボロだった。
「チッ、せっかく留置所にファンがいて逃がしてもらえたのに!」
留置所の警備員がファンだったおかげで逃げられても、エルト達からは逃げられなかった。しかし、見覚えのある建物があったのでそこへ逃げ込もうとする。
「ここはタタラの製鉄所か! 匿ってもらおう!」
そこはタタラの所有する製鉄所。ブイゼル達が働かされており、人間の労働者はいない。
「誰かいないのか!」
製鉄所に入り、ジョンは従業員を呼んだ。しかし、いるのはブイゼルのみ。人件費が惜しくて人間はいない。
「おいそこのお前! 金は弾むから助けろ!」
その中で、動く人影がいたので、ジョンは小切手にサインだけして好きな額を書かせようと渡しにいく。だが、その人影の顔を見て恐怖した。
「従業員だと思った? 残念、俺です!」
「お の れ エ ル ト!」
ジョンは邪神復活を目論む者と対峙する忍者みたいに叫んだ。エルトは即座に小切手を奪い取る。
「やったー臨時収入だ! これでじいちゃん達になんかお土産買っていこう!」
「貴様返せ! 後どうやって先回りした!」
「ケーケーのテレポートで。製鉄所さえ見えればテレポートできるんだよ」
エルトはイヴやモミを置いて、ケーシィのケーケーでテレポートしてきたのだ。
「チッ、ならこのサイドンで!」
「ブイゼル達、やっちまいな!」
ジョンはサイドンで応戦したが、エルトが働いていたブイゼルを味方に付けていたので勝ち目はなかった。多くのブイゼルが火傷しており、チーゴで作った軟膏で治療したら懐いたのだ。
「逃げるしかないのか!」
ジョンが製鉄所から逃げ出す。それでも草むらからココドラが襲撃してくる。そして前からイヴとモミが追い付いた。
「俺にはボスゴドラがいるし、こいつらがどんな餌好むかは知ってんだよぉ! 観念しなぁ!」
ココドラ達はエルトが餌付け済み。前門のイヴ、後門のエルト、そして左右にココドラ。完全に詰みである。
「フワンテ! シャドーボール!」
「ぐべ!」
トドメはシャドーボール。モミに至っては警察を呼び始めていた。自分がジョンなら諦めるしかない陣形だった。
「なにそれ?」
「小切手」
国際警察に引き渡されたジョンを見送り、一行はソオノへ戻った。嫌がらせにブイゼル達を解放し、製鉄所の機能も止めて来た。発電所も町に電気を供給し、再びソウノに活気が戻る。
「これを代えてくれ」
エルトは小切手を銀行に出した。額が額だけに、町の信用金庫ではなく巨大な銀行へ。八賢老のハサンが経営する銀行だ。それを見た銀行のお姉さんが一言。
「預金の額を越えてますが?」
「家売って借金してでも借りるってここに」
「さいですか」
見栄っ張りなジョンが専用の小切手に『記載額が預金を越えた場合、借用してでも支払う』と印刷したのが仇となる。ジョンは知らないうちに莫大な借金を抱え、貸したこの銀行も不良債権で潰れるだろう。
「部下の手柄は上司の手柄、上司の失態は部下の失態!」
「やられたらやり返す、しっぺ返しだ!」
部屋の奥でドラマティックなやり取りが聞こえたが、エルトはスルー。
大量の現金を手に入れたエルトは、それを近くで花の世話をするソオノ市長に渡した。
「これ、シンオウの復興に使って」
「これはありがたい! シンオウの役に立てるため、早速シンタロウを除く市長で会議をしましょう!」
シンタロウはヨスガ知事で八賢老。市長の決定は正しいだろう。奴を混ぜたら全てヨスガに吸収されるところだ。
ポケモンセンターも電力の復旧で営業を再開した。そこでエルトは実家に電話をかけることにした。
『もしもし。おー、エルトか。珍しくイチローを預けたから何事かと思ったぞ』
「ああ、じいちゃん。そのことなんだけど。また厄介な奴が出てね。神ほどじゃないと思うけど」
エルトがイチローを手持ちから外すのは非常に珍しいこと。それも含めて、相談したいことがあったのだ。
『なんじゃい?』
「なんか俺のことを好きみたいなんだけど、何処かおかしくて……」
エルトが人間に恋愛感情を向けられたのは始めてのこと。自分から向けた経験も無い。オマケにその相手、オリジナルイヴの恋愛感情は歪んでいて正常ではない。
『簡単じゃよ。まずは愛を受け止めるのじゃ。エルトがポケモンにしたように』
「受け止める?」
エルトは首を傾げた。自分から愛を発信しても、一方的に向けられた愛を受け止めるという経験が無かったりする。とにかく、エルトは愛を連呼する割に愛のやり取りに疎い。
『もしかしたら、その娘は不器用なのかもしれないじゃろ? 受け止めてやれば変わるかもなあ。変わらなかったらそれは知らんがのう』
「わかった、じいちゃん。俺、やってみるよ。ばあちゃんにもよろしくな」
『うむ。愛で変えてみせるのじゃ!』
エルトは電話を切る。愛は人間にも通用するのか、エルトはその愛を問われる窮地にいた。
エルトは花畑で待つイヴとモミの場所に戻った。イヴは新たに仲間にしたフワンテをイーブイのアインとルカリオのルカに紹介していた。
「この子はフワンテのガスト。仲良くね」
「おー、やっとるやっとる。じゃあ、ディアドラ!」
エルトもブイゼルをゲットしていた。解放したうちの1匹が懐いて離れないのでゲットすることにしたのだ。
「メスのブイゼルだ」
「増えたわね」
これでイヴは3匹、エルトは4匹。なかなかの大所帯になりつつある。
「よし、ハクタイに向けて出発だぁ!」
「うん」
「あ、待って!」
次の目的地へ向かおうとしたイヴ達をモミが止めた。傍らにはピンプクがいる。
「なんだよ!」
「私もハクタイに行く途中なの。一緒に行きましょう」
「仕方ないな」
こうして、イヴとエルトは仲間にモミを加えてハクタイへ向けて歩き出した。イヴの旅はまだまだ続く!
ミオ図書館の文献一号
サイキッカー達はその超能力で、エスパータイプ以外との意思疎通を試みた。その成功例が炎タイプのポケモンと話すために『革命の炎』を身につけた人々だ。
超能力で炎を操り、その揺らめきで炎タイプのポケモンに意思を伝える。繰り返すうちに、これを言葉同様無意識に扱える者も現れた。その技術の開発者は金髪だったという。