ベテラントレーナー タイガ
『同じ日、この世に生まれ、共に育ったポケモン』を手持ちにしているベテラントレーナー。修業の岩屋や地下水脈の穴に出没する。どのくらいポケモンを大事にしてるかは、手持ちに懐くことでしか進化しないクロバットとカビゴンがいる時点でお察し。
あんまりに強すぎて、面と向かって待機してても誰も勝負を仕掛けて来ないくらい。だから対戦相手の確保に暗闇での待ち伏せを強いられてるとの噂。
手持ち
カビゴン♂
クロバット♂
ギャラドス♂
クリムガン♂
ギガイアス♂
ドリュウズ♂
ポケモントレーナー デント
サンヨウシティジムの元ジムリーダー。水タイプのポケモンを連れたトレーナーの相手をする。イッシュを旅して経験を積み、トレーナーとしての実力を積んだ。イッシュラリーではサンヨウシティにてタイプ相性の知識を試す『トライエンブレム』の試練を監督する。
手持ち
ヤナップ
ナットレイ
マラカッチ
イワパレス
マッギョ
サンヨウ保育園
「も、もう食べられない……」
「そんなんじゃ大きくなれないよ」
朝日が照らすサンヨウ保育園の遊び場。そこでアッシュはポカブのマイン、そしてモノズ達と山盛りのきのみを目の前にしていた。
「何してるの?」
「ああ、アッシュが小さいからなるべく食わそうとな」
そこへヴァイオラが通りかかる。アッシュとヴァイオラは二人で協力し、サンヨウ保育園に子供達が来なくなった原因であろうモノズ達の大繁殖を止めたのだ。翌日にサンヨウシティへ事件の解決を報告しようと、二人は誰もいない保育園に泊まった。アッシュもエンブレムをサンヨウシティで得るために同行を決めていた。
現在、アッシュはモノズ達がお礼に持って来たきのみを食べているのだが、如何せんアッシュが少食のため、あまり食べれてない。そもそもここまで山盛りだと、普通食い切れない。
「うーん。やっぱり昔からしっかり食べないと胃が小さくなって少食になっちゃうのよね。欠食児童が少食で必要な栄養を取れない悪循環に陥ってるね」
ヴァイオラはマインの言葉が聞こえたわけではないのだが、昨日のうちにアッシュからだいたいの事情を聞いていたので状況は把握出来た。
「アッシュ、そんなんじゃブルジョワバーガーのキングサイズとか絶対無理だろ」
「これから敵になるかもしれない人がやってる店に金を落とす義理はないでしょう」
一緒にアッシュとモノズ達を見守ってたハッサムとハハコモリは、最近急に勢力を伸ばしたハンバーガーのチェーン店に話題を移す。ブルジョワバーガーはリベレート団を率いるブルジョワ伯爵のブルジョワ財閥が経営している。名前のおかげでまるわかりだ。
「こんなんで子供の気を引こうってんだから世話無いよねー。なんでこれで勢力伸ばせるのか」
「怖っ!」
ヴァイオラはエプロンのポケットから一枚のシールを取り出す。黄色いシールであるが、一つ目の何かが不気味に笑う表情を印刷してある。アッシュは本能的に恐怖を感じた。都会のソウリュウシティ出身であるアッシュはブルジョワバーガーも目にしたことがある。
「『不気味な笑い』シールだけは勘弁です!」
「ターゲットの子供の反応がこれだもん。この辺に無くてよかった。さあ、行きましょう」
このシールをオマケにしたマーケティング部門は何を考えているのか。ヴァイオラはアッシュが怯える様子を見て首を傾げる。ともかく、出発することになった。
「モモンとか痛み易いから、お前らで食べちまえよ」
「気持ちは十分受け取ったよ」
マインとアッシュはモノズ達にそう言って、別れを告げる。食べ切れなかったが、冒険に役立つきのみはいくつか貰っておいた。ヴァイオラとアッシュ、マインの2人と1匹はサンヨウシティに向けて歩き出した。昨日倒れた育て屋のおじいさんもサンヨウシティにいる。
「サンヨウは近いね」
保育園がサンヨウシティに近い位置にあるので、サンヨウシティには歩いてすぐ着いた。ポケモンの形に刈り込まれた植え込みが並ぶ噴水の広場を抜けると、中心街に出た。
「あれ? 子供達は?」
しかし、辺りを見ても子供の姿が無い。ヴァイオラは不思議に思った。保育園に行かないなら、子供達はサンヨウにいるとばかり思っていたからだ。ヴァイオラが子供を保育園に預けてる保護者を見付けて話かける。
「あの……子供達は?」
「夢の跡地に出掛けたまま行方がわからないのよ! きっと、たまに大量発生するスリーパーの仕業だわ!」
保護者の話を聞いて、ヴァイオラはスリーパーで有名な逸話を思い出した。スリーパーが催眠術をかけて子供を多数さらう事件がいくつかあった。
「あ、チョロネコだ。子供達はどこにいるの?」
アッシュはチョロネコを見付けて話掛ける。町に住んでるポケモンなら何か知ってるだろうと思ったのだ。アッシュならではの情報収集である。
「私はちゃんとマチルダって子供達が付けてくれた名前があるのよ」
「あ、そうなの。ボクはアッシュ。マチルダ、子供達を見なかった?」
「うーん。みんな保育園へ行かなくなってからは夢の跡地に行ってるわ」
チョロネコ、マチルダはアッシュに情報をもたらす。子供達から名前を貰ってるだけあり、仲はいいみたいだ。
「夢の跡地?」
「工場の跡よ。サンヨウの近くにあるの。今は子供達の遊び場になってる。こっちよ」
アッシュとヴァイオラはマチルダの案内で夢の跡地へ赴く。子供達は夢の跡地にいるのだろうか。スリーパーがさらったにしても、棲息地である夢の跡地が関係するはず。
「で、あなたがアッシュのポケモンなの?」
「そうだが? どうかしたか?」
「炎タイプで豚ってのは、焼豚という壮大な自虐ネタでしてよ」
「……たしかに」
マチルダはマインを見てそう思ったらしい。皮肉のつもりだったのだろうが、マインは納得してしまった。高飛車なマチルダと直線的なマインでは、妙に噛み合わない。
「あ! 見て!」
「え?」
ポケモンセンターの前を通りかかった時、ヴァイオラが何かを見付けた。ビラの様だが、アッシュは字の読み書きが出来ないので書いてあることがわからない。
「このビラは子供達の行方不明を伝えるものでしてよ。最近、夢の跡地に遊びに行った子供達が行方不明になる事件が多発しておりますの」
「保護者からも聞いたよ。もしかして……それで子供達が保育園へ来れないんじゃ……」
マチルダからの説明で、アッシュもビラの内容を知る。ヴァイオラもビラを見て、アッシュと同じことを考えた。子供達がいないのなら親も保育園へは連れて行けない。
「夢の跡地に行かなければならないのは同じね」
結局、行くべき場所は夢の跡地。一行の進路は変わらない。夢の跡地の入口に着くと、二人のトレーナーが何かを話していた。一人はサンヨウシティジムの元ジムリーダー、デントだ。緑の髪とソムリエの服装ですぐわかる。もう一人はコートを着た男性である。
「あ、タイガさんだ。こんにちは」
「おう、ヴァイオラちゃんか」
ヴァイオラはコートの男性、タイガと知り合いらしい。割と有名なデントよりそっちへ先に挨拶した。
「こんにちは、イッシュラリー参加者のアッシュです」
「やあ、君もエンブレムの試練を受けに来たのかい?」
アッシュはイッシュラリーのエンブレムに関係して、デントに用事があった。パンフレットにサンヨウシティで得られるエンブレムはデント、ポッド、コーンの出す試練にクリアすれば貰えると書いてあった。
「早速、君がタイプ相性を理解してるか見てみたいけど、今は用事が立て込んでてね」
「問題無いよデント。アッシュ君には、その用事を解決する手助けをしてもらうから」
歳が近いからか、ヴァイオラはデントに対してタメ口だった。彼女はアッシュの『ポケモンと話す能力』についてはまだにわかにしか理解してないが、とにかく事件解決の役に立つと思ったのだろう。アッシュは窮地に陥った彼女のハッサムとハハコモリを、モノズをけしかけて救った実績がある。
「そうか。俺達は行方不明の子供達を探している。ちょうど俺のクロバットも帰ってきた」
タイガのクロバットが空から降りてくる。タイガはクロバットに上空から子供達を探させていたのだ。
「タイガ、子供達はいなかったぜ」
「いなかったんだね。じゃあ、空から見えない建物の中かな?」
クロバットの言葉に返すアッシュ。その様子を見てタイガは驚いていた。同じ時、この世に生まれたポケモン達と過ごしたタイガは彼らの言いたいことなら理解出来る。クロバットが子供達を見付けられなかったこともわかった。しかし、アッシュは初対面のクロバットの言葉を理解してみせた。
長年接したポケモンとなら大抵のトレーナーが言葉を交わせる。しかし、初対面のポケモンと言葉を交わせるトレーナーというのはなかなかいない。
「お前…ポケモンと喋れるのか?」
「アッシュ君はポケモンと喋れるらしいよ。私も詳しく知らないけど」
タイガに追求されて後退するアッシュ。ポケモンと喋れる能力は実の両親に否定されたトラウマがある。代わりにヴァイオラが事情を説明する。
「僕も会ったことありますよ、ポケモンと喋れる人。あと人の言葉を話すニャースも」
デントはかつて出会った『前例』とニャースもあり、アッシュの能力をすんなり受け入れた。あのニャースを見てしまったら、大体何でも信じられる。何があってもおかしくないと思える。
「そうそう。アブソルを見たから気を付けろよ」
「そうか。町の人もアブソルを見たな。災いの予兆か」
クロバットや町の人はアブソルを目撃したらしい。タイガもそれを聞いて、災いの予感を感じる。アッシュはアブソルと聞いて何か思い出した様子だった。
「アブソル…トモダチにいるんだよね。アブソルが来たってことは間違いなく災いの予兆だよ」
「おいおい、そりゃあまずくないか? 突然地面が地盤沈下してもあたしは驚かないね」
マインがアッシュの話を聞き、辺りを跳びはねる。すると、遠くに見えていたレストランが地面に沈んだ。
「ぎゃああっ! 僕のレストランが!」
「あたしのせいじゃないよ!」
「そんな心配はエンブオーになってからしなさいな」
絶叫するデントとマイン。マチルダは相変わらず斜に構えて皮肉を言っていた。ポカブのマインとチョロネコのマチルダ、実に噛み合わないコンビだ。
「いかんな」
「ええ」
タイガとヴァイオラも呆然と立ち尽くす。アッシュだけは事態を理解してないのか、ポケモン達からの事情聴取を続けた。先程、夢の跡地から出て来たムンナ達に話を伺っていた。
「夢の跡地が沈む夢を見たんだ!」
「お前らも逃げろよ!」
ムンナ達は一言だけ残して去った。切羽詰まった様子でフワフワ走る。他のポケモン達も同様だ。
「夢の跡地で何かあったのか?」
アッシュは夢の跡地に足を踏み入れた。そこで、辺りをキョロキョロ見渡すスリーパーに出会った。アッシュを追って、タイガ達も夢の跡地へ入った。
夢の跡地は工場の跡。あちこちに工場時代の面影が残る。そんな中に1匹、振り子を垂らしてスリーパーがいたのだ。
「そうか、子供達はスリーパーに誘拐されたのか。スリーパーは過去に何度か子供達を誘拐している。親御さんの予想通りだな」
タイガが頭から図鑑に印されていた情報を引きずり出す。スリーパーは子供をさらうことがある。寝てる子供達を操って遊ぶだけのゴチミルはまだマシな方である。
「そういえば…子供達が夢の跡地でスリーパーに声をかけられたって、保護者から聞いたな」
デントも元ジムリーダーとして地元住民からポケモンに関する相談を受けていた。スリーパーは過去に起きた事件が事件だけに、親達も神経質になっていた。
「おや、まだ子供が残ってましたか」
スリーパーはアッシュを睨む。振り子を彼に向け、催眠の準備をする。マインとマチルダがアッシュの前に立ち、臨戦体勢に入る。
「アッシュ、気をつけろ! 催眠術が来るぞ!」
「悪タイプの私にエスパー技は効きませんの。ここは私が」
二人の言葉を聞き、アッシュは即座に作戦を立てる。悪タイプはエスパー技が聞かないだけてなく、エスパータイプに大ダメージを与えられる。昨日、ヴァイオラが言っていたことだ。『タイプの相性』だけはアッシュも頭に入れておいた。
「その前に……説得してみるよ」
アッシュは戦う前に説得を試みる。マインとマチルダを止め、スリーパーに近付く。
「おーい! 何してるの?」
「知らなくともよい! サンヨウから子供達を連れ出すのが目的なのだ!」
アッシュが話かけると、スリーパーは焦っている様にも思えた。先程の地盤沈下と関係があるのだろうか。
「何か目的がありそうだね。ボクは君達の言葉がわかるから、話してよ!」
「その必要は無かろうなのだ!」
アッシュの言葉を聞かず、スリーパーは彼に襲い掛かる。振り子を振り回して念力を使った。マチルダが即座に踊り出し、念力を受けた。
「効いてない?」
「そうか! 悪タイプはエスパー技を無効化するんだ!」
アッシュはチョロネコであるマチルダのタイプを思い出す。悪タイプにエスパー技は効かない。スリーパーも戸惑っていた。
「ここは一体退散……」
「させない! 追い討ち!」
退散を考えたスリーパーにマチルダは『おいうち』を放つ。おいうちは交代する相手に大ダメージを与える技だ。効果抜群の技を受けたスリーパーは倒れた。
「くっ……こんなとこで立ち止まっていては子供達が……」
「何かあったの?」
アッシュは戦闘能力を失ったスリーパーに説得を試みる。初めて会うポケモン達と話せるのが、アッシュの最大の強みだ。
「お前…私の言葉がわかるのか?」
「わからなきゃ話してないよ。さっきも沈むレストランを見たんだけど、何が起きてるの?」
「変な奴らがサンヨウシティの地中を掘ってるんだ! このままだと地中がスカスカになってサンヨウシティが危ない!」
スリーパーはアッシュにサンヨウシティで起きてることを話した。スリーパーがアッシュを話も聞かずに連れ去ろうとしたのはそのせいだ。それをアッシュがタイガ達に伝える。
「そうか、レストランが沈んだのは地中が穴だらけになったせいなんだ。地面の下がスカスカになってレストランを支え切れなかった」
タイガはレストランが沈んだ理由を推測した。スリーパーの言う通りなら、レストランが沈む理由がわかる。
「でも、サンヨウに穴掘ってまで手に入れたい珍しい鉱石は無いはずだよ?」
「じゃあ、別の理由なんじゃない? レストランが真っ先に沈んだし、心当たりは? 恨みを持った者の犯行とか」
サンヨウでジムリーダーをするデントには穴を掘る理由がわからなかった。ヴァイオラはレストランが沈んだことからデントに心当たりを聞く。
「あ、もしかしたら『ブルジョワバーガー』のことかな? レストランをチェーン店にしろってうるさかったし、こんなオマケ見せられたら断るに決まってるよ。チェーン店にならなかったら町がどうのこうの脅されたけど、まさか本当にやるだなんて……」
デントが服のポケットから『不気味な笑いシール』を出す。間違い無くブルジョワバーガーの関係だ。デント達が経営するレストランをブルジョワバーガーのチェーン店にしようと迫っていたが、デント達が断ったのでその報復らしい。
「そうか、地盤沈下で子供達が被害に遭わないよう、サンヨウから避難させてたのか」
ヴァイオラはスリーパーは子供達をさらった理由を理解した。サンヨウシティにいたら地盤沈下に巻き込まれてしまう。
「だったら、今すぐみんなを避難させないと…」
「昨日倒れて運び込まれた育て屋のおじいちゃんみたいに動けない人もいるよ?」
デントが町の住人に避難を呼びかけようとしたが、ヴァイオラが言うように動けない人も多数いる可能性がある。避難は困難だ。
「穴掘ってるなら地上に穴への出入口があるはずだ。それはどこだ?」
「こっちです!」
タイガが穴の出入口を聞くと、スリーパーが一行を案内する。スリーパーが連れて来たのはサンヨウシティから距離のある森の中。そこに大きな穴が開いていた。
「これか。イワパレス!」
デントはイワパレスをボールから出す。巨大な岩を背負った虫である。
「イワパレス、からをやぶる!」
デントの指示でイワパレスは岩を下ろした。デントには何か考えがあるのだろうか。
「アッシュ君、イワパレスに乗って穴の中へ! 君ならイワパレスの岩より圧倒的に軽いから、イワパレスは乗られても早いスピードで動ける!」
「よし、クロバット。お前も超音波でサポートだ!」
「任された!」
タイガはクロバットをアッシュのサポートに回した。アッシュはマインをボールに戻し、クロバットを頭に乗せ、イワパレスに乗った。
「行くよ! イワパレス、クロバット!」
「最大スピード!」
「道案内は任せろ!」
アッシュはイワパレス、クロバットと呼吸を合わせる。イワパレスが猛スピードで穴を駆け抜ける。クロバットの超音波で暗い穴の中を探知して、その結果をアッシュがイワパレスに伝える。見事な連携でこのスピードが出せているのだ。
「明かりがあるよ!」
「穴を開けていたのはハガネールか!」
アッシュが明かりを見つけ、クロバットが犯人を特定する。アッシュは図鑑を開いてハガネールの生態を確認する。
『ハガネール。てつへびポケモン。イワークよりも深い地中に住んでいる。地球の中心に向かって掘り進み深さ1キロに達することもある』
「鋼、地面タイプか……。だったらマインの出番だね。炎タイプは地面タイプが弱点だけど、地面タイプは炎タイプを半減しない。鋼タイプの弱点は炎タイプ、マイン!」
アッシュはボールからマインを出す。ようやくハガネールにも追い付き、トレーナーの姿も見えた。作業員の姿をしているが、例のスペルミスなLのバッチを付けている。リベレート団の関係者、つまりブルジョワ伯爵の配下だ。
「うわああ! 見付かった! 許してくれ! こうしないと私の経営する鉱山が!」
「知りませんよそんなこと! マイン、火の粉!」
アッシュはトレーナーの言い分を無視してマインに火の粉を指示する。人間の都合にスリーパー、そしてハガネールが巻き込まれている。それがアッシュには許せなかったのだ。
「あちち!」
火の粉もハガネールではなくトレーナーに飛んでいく。マインもアッシュの感情を察したのだろう。
「ハガネール、アイアンテール!」
「あたしに当たると思うな!」
ハガネールのアイアンテールをマインは炎を纏いながら回避した。マチルダが倒したものの、スリーパーとの戦闘に参加したマインはレベルアップしていた。新技を覚えたのだ。
「ニトロチャージ!」
マインは新技ニトロチャージでハガネールを倒した。トレーナーも自分のポケモンが倒されたのを見て、すぐに逃げ出す。
「マイン、体当たり!」
「ぐぎゃああ!」
ニトロチャージの効果で素早さが上がっていたマインはトレーナーに追い付き、体当たりをかました。イワパレスとクロバットも駆け付け、トレーナーを取り押さえた。
アッシュ達は急いで穴から出て、事件の顛末をタイガ達に伝えた。トレーナーもデントに差し出し、事件は解決に向かっていた。トレーナーはアッシュが近くの草ポケモンを呼び、眠り粉で眠らせておいた。
「しかしこいつはどうすれば……」
「スリーパーね」
タイガとヴァイオラはスリーパーの処分に困っていた。子供達を救う為とはいえさらったのは事実。これをどう子供達の保護者に伝えればいいのだろうか。元々のイメージもあまりよろしくない。
「あ、あれは?」
アッシュは大きなコンテナを見つける。そこに子供達がいた。スリーパーは夢の跡地に放置されたコンテナに子供達を避難させていたのだ。
「あの中に子供達を避難させてます。居住性は改造して改善してますし、いざとなればトラックに積み込んで遠くへ逃げれます」
「あんな感じか?」
アッシュとスリーパーが話していると、マインがコンテナに積み込まれてるコンテナを見付けた。子供達がいるコンテナが、クレーンで大きなトラックに乗せられていた。
「これだけでも手土産に……社長、あなたの鉱山は守ります!」
「部下がいたのか!」
タイガはハガネールのトレーナーを確かに拘束しているのを確認した。しかし、部下の存在までは念頭に置いてなかった。
「避難用に整備してたのを逆手に取られたのね!」
「急いで追おう!」
ヴァイオラとデントがトラックを追う。タイガとスリーパー、マインとマチルダも後を追ったが、アッシュだけがついて来れてない。
「な、なにをするだぁあ! 許さんッ!」
トラックは夢の跡地を抜けてサンヨウに至る。自分の準備を悪用されたスリーパーは激怒していた。ポケモンに夢の跡地に放置されたトラック、コンテナ、クレーンの整備は大変だっただろう。凄まじいスピードでトラックを追う。
「スリーパーをサポートしないとな! でもこのままじゃ追いつかない!」
タイガが焦る。相手が巨大なトラックではクロバットも追い付けたとして止められないだろう。目の前に飛び出させて黒い眼差しを使う手もあるが、クロバットが轢かれる危険もある。
「こうなったらデント、高速移動よ!」
「おう!」
ヴァイオラとデントは高速移動してスリーパーに追い付く。ヴァイオラはボールを投げ、スリーパーを援護する役を呼び出した。
「ペンドラー、君に決めた!」
出て来たのは巨大なムカデのポケモン、ペンドラー。図体に似合わず素早く、スリーパーに難無く追い付いた。
「スリーパー、コイツをサイコキネシスで浮かせてぶつけるのよ! ペンドラーはハードローラー!」
ペンドラーはヴァイオラの指示で丸くなる。スリーパーがそれをサイコキネシスで浮かせ、トラックの運転席にぶつける。
「ハードローラーだッ!」
ヴァイオラの叫びと共に運転席は潰れ、部下が外に投げ出される。トラックは運転席を失って停止した。
「クソ! 虫ならこれで!」
部下はボールからコータスを出した。しかし、すっかりスリーパーの存在は忘れていた。スリーパーが放つ気合い玉でコータスが倒される。
「お、覚えてろ!」
コータスをボールに戻した部下は即座に退散する。しかし、ペンドラーが先回りして行く手を塞ぐ。そこにスリーパーが現れ、催眠術で部下を寝かした。
「やった!」
「子供達……無事かな?」
喜ぶヴァイオラと対照的に、デントはやり過ぎ故に子供達の無事を心配した。トラックの止め方がかなり雑だった。
「やったーお家に帰れる!」
「スリーパーが助けてくれたんだ!」
「このペンドラー、ヴァイオラ先生のだー」
コンテナから出て来た子供達がペンドラーと並ぶスリーパーに駆け寄る。子供の一部にはペンドラーに見覚えがあったようだ。保育園に通っていた子供達には、ヴァイオラのペンドラーは馴染みのあるものだ。
「事件は解決か?」
「子供達が助けてもらったってわかってりゃ、説明はいらないね」
タイガとマインが追い付いた。トラックを止める時に派手な音を立てたので、町の人達もやってきた。スリーパーに助けられたと子供達がわかってるのとこの状況で、おそらく彼らに事情を説明する必要はないだろう。
「おーい、待ってよー!」
アッシュがフラフラになりながら追い付いた。マチルダも傍にいて、アッシュに付き添っていた。
「あ、マチルダだ」
子供達がマチルダに注目する。野生のチョロネコである彼女が『マチルダ』という名前を貰ったのは子供達と仲が良かったからだとアッシュは思い出す。
「ゲットしたかったけど、仕方ないね」
「おいおい、トレーナーが欲しいポケモンを諦めてどうするよ」
アッシュはマチルダとせっかく仲良くなったので旅に連れて行きたかったが、子供達と仲がいいため断念した。マインが叱責するも、アッシュはボールを出そうとしない。
「マチルダの意思を無視して連れて行けないよ」
「全く珍しい奴だよあんたは」
アッシュとマインはマチルダに背を向けた。サンヨウシティでエンブレムを入手するため、デントに申し出ようとしたのだ。
「お待ちになって!」
しかしマチルダは子供達の間をすり抜け、アッシュを突き倒す。
「うべっ!」
その隙にマチルダはアッシュのバックを探り、未使用のモンスターボールを取り出した。それのボタンを自ら押し、ボールに入る。ボールは数回揺れて、停止する。
「え?」
倒れた状態から身体を起こしたアッシュが戸惑いながら、ボールからマチルダを出す。確かにゲットされていた。
「ついて来てくれるの?」
「もちろんですの!」
アッシュが聞くと、マチルダは即答した。ポケモンが自らトレーナーにゲットされる例は珍しいものの、決して無いわけではない。
「じゃあ例のアレ、やっちゃいます?」
「例のアレ? やってみる?」
マインがアッシュを促し、『例のアレ』をやらせる。アッシュが立ち上がって、マチルダをボールを構えて台詞を言う。
「チョロネコ、ゲットだぜ!」
「あ、旅立つ前にちょっとよろしいですか? 私にも旅立つ目的というのがごさいまして」
マチルダがそこに見事な水を差す。マチルダには旅に出る理由があったのだ。アッシュに進んで捕まったのは、その理由があるからだ。
「何? どの道、ハハコモリとレントラーを探すからイッシュ中旅するけど」
「親友のチョロネコを見付けてほしいんですの。5年以上前、ハリーセンみたいな頭をしたトレーナーに捕まりまして」
アッシュが聞いてみると、マチルダは探したいチョロネコがいるから旅立ちを決めたとのこと。ポケモンの事情を理解してくれるアッシュだからこそ、彼女はついていくことを決めたのだ。
「うん。探してあげるよ。心当たりがあるだけでも探しや、すい……よう、な」
「どうしたアッシュ?」
「アッシュさん?」
急にアッシュは遠くを見て、話し方がぎこちなくなる。マインとマチルダがアッシュと同じ方向を見ると、両親に迎えられる子供達の姿があった。この年代の子供にとって、親というのはあまりに大きな存在。アッシュはそれが抜けてしまっている。
「……」
アッシュはひたすらに、悲しげな表情で親子を見つめる。一見すれば当たり前の家族だが、アッシュにとってはその当たり前がどれ程渇望したものか。悲しみの深さは計り知れない。
そんなアッシュを、ヴァイオラは後ろから黙って抱きしめる。アッシュも力を抜いて彼女にもたれる。
「気にすんなアッシュ、あんたにはあたしがいるよ」
「チョロネコ界で最も優雅で強い私もいますわ」
マインとマチルダも寄り添ってアッシュを励ます。抜けたものを補う存在が、彼にはちゃんといた。
アデクのポケモン講座
アデク「3回目だとだんだん慣れてきたのう。では、ピッピカチュウ!」
ガラガラ、ガシャン!
アデク「さいみんポケモンのスリーパーじゃな。過去の図鑑に記載がある通り、何度か子供をさらう事件を起こしておる。サトシ達もその事件に巻き込まれておるのう」
チェレン「でも今回の活躍は一族の名誉を挽回しましたね」
アデク「うむ。この活躍ならポケウッドスターも近い!」
チェレン「なんかフラグ臭いですね。ポケウッド回まだですし」
アデク「みんなもポケモン、ゲットじゃぞ!」