ポケットモンスター 灰色の疾風    作:級長

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 前回までの粗筋
 ポケモンと話せる少年、アッシュは親代わりだったレントラーやハハコモリを探す旅に出た。なんとか彼らを探し当てたアッシュに迫ったのは、父親クロスケの動かす戦艦アルセウス。
 ポケモン犯罪防止委員会のイヴは、シンオウでかつて戦艦アルセウスを止めた。その経験を語り、シンジと協力し戦艦アルセウスの万全な状態での出港を阻止した。
 アッシュはクロスケと決着を付け、イッシュラリーの予選に挑む!


解放編
37.新たな旅立ち、イッシュラリー!


 ヒウンシティ ポケモンセンター

 

 「あいつ、何者なんだ?」

 「まあいいや」

 ヒュウはポケモンセンターから立ち去った少女を見て訝しむ。黒髪といいポケモンと喋れることといい、アッシュに似ている。名前が無いのも怪しい。

 「俺はポケモンリーグに行く」

 「うん。いろいろありがとう」

 シンジもポケモンリーグに向けて出発する。これでペンドライダーの撮影を初めとする一件にもケジメが付いたというもの。

 「私も家に帰るわね」

 「拙者もホウエンに戻るでござる」

 イヴとヒサメの帰路に着く。これでポケモン犯罪防止委員会の仕事は一旦終わりか。

 「さーて、まだ実習あるんだよなぁ」

 「じゃあ、またね」

 エルトとヴァイオラも実習に戻っていった。そういえば大学の実習で来ているのだとアッシュは思い出す。

 「残ったのは俺達だな」

 「そうだな」

 「イッシュラリー……またアーティさんのとこ行かないと」

 アッシュの他にポケモンセンターに残ったのはヒュウとアリス。アッシュは前回エンブレムを得られなかったヒウンジムへ行く必要があった。

 「あと4つだね。予選突破した時にエンブレムが余分にあるとポイントが増えるみたいだから、ちょっとお得だね」

 「俺はあと6つか」

 アッシュはエンブレムケースを開けて、これまでの道を確かめる。まず見たのは『ミュージアムエンブレム』。シッポウ博物館の外観を模ったエンブレムだ。

 手に入れたのは2番目。だが、旅を始めたのはシッポウからだ。試練を担当したのはエルト。見覚えの無いポケモン達が相手だったが、マチルダのチョロネコからレパルダスへの進化もあり突破出来た。ニンフィアがフェアリータイプであり、マチルダ達悪タイプに強いと聞いた時は少し驚いた。

 次に目を移したのは『トライエンブレム』。これはサンヨウシティで手に入れたものだ。サンヨウではヴァイオラに出会ったり、マチルダをゲットしたり、スリーパーがいたりした。ダブルバトルによるタイプ相性の把握が試練だった。

 シッポウからタチワキに至るまでは少し長かった。タチワキでの『トキシックエンブレム』はヒカリとのコンテストで手に入れた。また、グランドフェスティバル出場に使えるリボンも手に入れた。

 『ベーシックエンブレム』を手に入れたヒオウギでは、ヒュウ達に出会った。エリートスクールなる団体のこともわかり、新たな敵が増えた。

 「いろいろあったよね。ここまで」

 アッシュは手持ち全員のモンスターボールを眺め、感慨深げに呟く。エンブオーのマイン、レパルダスのマチルダ、ゴーゴートのトーゴ、マリルのシャルル、ヨーテリーのソミュア、コイルのラファール、ヘルガーのルガー、オンバーンのオンサ。

 アリスがアッシュの手持ちを見て、あることを思い出した。ポケモントレーナーとしては重要なことだ。

 「アッシュ、手持ちが6匹以上になってる」

 「へ?」

 「ポケモントレーナーは一度に6匹しか持ち歩けない」

 アッシュの手持ちは既に8匹。思いの外多い。とにかく、トレーナーが持ち歩けるのは6匹まで。最低でも2匹は預ける必要がある。

 「アララギ博士に相談したらどうだ?」

 「うん、ちょっと待って」

 アッシュはヒュウのアドバイスでアララギ博士に電話することにした。ベルから貰ったライブキャスターにはアララギ博士の番号も入っている。

 「転送を兼ねるならあっちの方がいいけど」

 アリスに連れられ、アッシュは公衆電話の方に行く。初めて使う電話に四苦八苦しながら、アッシュは電話をかける。

 テレビ電話の画面に映されたのはかの有名なオーキド博士だった。

 『もしもし、なんじゃサトシじゃないのう』

 「あ、れ?」

 「とんでもないとこに間違い電話を!」

 アリスとヒュウはありえない間違い電話に驚愕した。有名な博士に偶然間違い電話とはこれいかに。

 「へ? 誰?」

 「ビビビ、ポケモン川柳で有名なオーキド博士ダ」

 ラファールから解説を受け、ようやくアッシュはオーキド博士のことを知る。

 「すいません、間違えました」

 『いや、いいんじゃよ。サトシからちょうど話を聞いてな。アララギ君から番号を教えて貰おうと思ってたんじゃ。ポケモンと話せるそうじゃな』

 「はい、そうですが」

 『それは興味深い。ポケモン達も良く懐いとるようじゃし、イッシュラリーに出るそうじゃな。頑張ってくるのじゃぞ』

 「はい!」

 そこでオーキド博士との電話は終わる。アッシュは改めてアララギ博士の番号に電話を掛けようとした。

 「ちょっと待て! お前あのオーキド博士に頑張ってと?」

 「へ?」

 「それはとても凄いことよ」

 アッシュはいまいちさっきの会話の凄さを理解していなかったが、ヒュウとアリスは少し羨ましそうだった。アララギ博士に電話が繋がる。

 『ハーイ、アッシュ。どうかした?』

 「手持ちが6匹越えちゃったんですが、どうしたらいいですか?」

 『それだったら、私に預けてね。あ、そうだ、預けるならゴーゴートとオンバーン、ヘルガーを送ってほしいのよ』

 アララギ博士はトーゴ、オンサ、ルガーを見て言った。オス3匹は快く承諾する。

 「行こう」

 「まあどこでもあいつよりマシか」

 「俺ら、旅するタイプじゃないしな」

 偶然にも、元々シラコの手持ちだったポケモンだ。トーゴは一度シラコからカタリンナに渡っている。

 『ゴーゴートとオンバーンはカロスのポケモンだから調べたいことあるし、ヘルガーも新発見があったから調べたいの』

 「みんながいいみたいなので送りますね」

 アッシュはトーゴ、オンサ、ルガーをボールに戻し、アララギ博士の下に転送する。

 「元気でね。トーゴ、約束は果たすから」

 『送られて来たわ。それじゃ、またね』

 アララギ博士との電話が切れる。アッシュはトーゴをカロスに送り返すという約束をしていた。

 というわけで、無事アッシュの手持ちは5匹まで減った。一旦ソファで休憩したアッシュだが、すぐにライブキャスターがかかってくる。

 「もしもし。あ、ジャスミンさん!」

 『大変なの! ブルジョワ伯爵がっ!』

 ライブキャスターの相手はジャスミン。番号を交換しておいたのだ。あと最近忘れがちだが、ブルジョワ伯爵の爵位は本来『男爵』。最高位である伯爵は自称に過ぎない。

 「ブルジョワ伯爵がどうしたんです? パルシェンに挟まったんですか?」

 『それならいつも通りだからいいよ。でも、伯爵がまさかリベレート団解散するって……』

 「え?」

 ジャスミンが告げたのはリベレート団の解散。アッシュもさすがに驚愕を隠せない。それを隣で聞いていたヒュウはブルジョワ伯爵をよく知らなかった。

 「ブルジョワ伯爵? 誰だ?」

 「プラズマ団の応援団、リベレート団のリーダーだよ。ジャスミンさんの知り合いだけど……いきなりどうして?」

 『私にもわからないけど、団員についていけなくなったのかな? 最近、戦艦なんか持ち出した人もいるみたいだし』

 ブルジョワ伯爵はメンバーの過激さに嫌気が差したらしい。あの事件があれば仕方ないとはアッシュも思う。戦艦や空母を引き連れて町を破壊など、尋常の精神では不可能だ。

 ブルジョワ伯爵は小物だが、一応の良識がある人間らしい。だからリベレート団について行けなくなる。正義を振りかざす人間は怖いものだ。

 『プラズマ団もポケモンの解放よりイッシュの征服を狙ってるみたいで、そういうのもあるかも』

 「イッシュの征服?」

 『提的。プラズマ団の目的が変わったから支援出来なくなったみたいね。これからリベレート団の人達が現れることは無いと思うから、安心してね。再見』

 ジャスミンはひとしきり話して電話を切る。リベレート団解散とは朗報か、ただブルジョワ伯爵は気掛かりだったりする。アッシュも人がいいものだから、少し伯爵を心配していた。

 「伯爵大丈夫かな? 次会った時にガリガリだったらどうしよう……」

 「プラズマ団支援してたなら自業自得だろ?」

 ヒュウの対応が一番正しいかもしれない。そもそもブルジョワ伯爵など20キロほど痩せた方がいいのだが。

 「伯爵……」

 アッシュはちょっとした宿敵に思いを馳せながら、地図をめくる。ヒウンとライモンの間に、新たな町が出来たらしい。町の名前はクラッシュタウン。

 

 イッシュ湾岸 船

 

 イヴとヒサメは船に乗って帰ることにした。エルトの奨めでデラコロ諸島を周りながらの旅だ。ちなみにヒサメの水上バイクは船に積み込まれている。

 「ねぇ、ヒサメ。アッシュって誰かに似てない?」

 「へ? そうでござった?」

 甲板で海風を浴び、イヴとヒサメは話をする。話題はアッシュだ。イヴとヒサメはシンオウを旅した際、神を名乗る男を追う少年と出会った。

 「名前だって同じだったし……」

 「あの時に会った少年でござるか? もしやユクシー辺りに記憶でも消されたでござるかな?」

 「でも、アッシュは10歳だから5年前は5歳。シンオウで会ったアッシュは10歳って言ってたから今15歳じゃなきゃおかしい……」

 イヴとヒサメはそのことについて考える。そもそもシンオウのアッシュは少年とはいえ、印象が大分女の子寄りだった気もした。

 「世の中には不思議なこともあるでござる」

 「そう。アーシェって人もアッシュみたいに喋れるし、マリルリのシャルルが手持ちにいたし、うーん。アッシュもマリルのシャルルがいたのよね……」

 考えれば考えるだけ謎は深まる。そのうち、イヴとヒサメは考えるのをやめた。

 

 数日前 クラッシュタウン

 

 アッシュが地図で眺めていた町は、まるで西部劇の舞台かのような、荒野に作られた町だった。空にはバルジーナとウォーグルが舞い、下の人々を見下ろす。バイクに乗った男達やスキンヘッドの男達がたむろし、治安は悪そうだ。

 これは戦艦アルセウスがヒウンに攻め込む直前である。そのため、人々が大挙して避難する様子が垣間見えた。

 「なあ、最近ジョインアベニューって町に出来たカフェのスイーツ、うまそうだよな」

 「チーズケーキとか特にな」

 「バイト先にムカつく先輩いたから、雑巾の絞った水お茶に入れてやったぜ!」

 「超ワルじゃん!」

 ただ、男達の会話はOLみたいだった。今日もイッシュは平和です。

 そこをフラフラと歩く影があった。避難民なのか。それにしては他と雰囲気が違う。

 「うっ……」

 「だ、大丈夫か!」

 ボロボロの外套を羽織ったその影は突然倒れてしまう。たむろしていた男の1人がそれを抱き起こす。外套を羽織った影は、黒髪の少女だった。

 

 「……ここは?」

 「気が付いた!」

 少女が目覚めたのは、男達がたむろしていた場所の近くにある家。ベッドだけが並ぶ家で、町を建てるために来ていた労働者の宿泊施設だったのだろうか。

 何故か男達は少女から少し離れ、心配そうに見ていた。女の子の扱い方がわからないのか、服もレザーの上着すら脱がせていない始末だ。

 「ここはクラッシュタウン。イッシュ地方のヒウンシティとライモンシティの間にある町だ」

 「イッシュ……? 私はさっきまでシンオウにいたんじゃ…うっ、頭が……何も思い出せない……」

 少女は自分のことを思い出せないでいた。不審に思った男が、彼女に名前を聞くことにした。

 「嬢ちゃん、名前は?」

 「名前……私の名前、イヴ、ヒサメ、アッシュ、エルト……ダメ、私の名前だけ思い出せない」

 「記憶喪失か?」

 「それより、シャワー借りれる? 汚れたままだから」

 「あ、はい」

 少女はシャワーを借りることにした。身体は砂まみれの汗だく。とてもゆっくり眠れる状態ではない。

 少女は男達を置いてシャワールームに向かう。不規則な水音と共に聞こえる鼻歌に悶々としながら、男達は待機した。

 「きゃあっ!」

 「どうしました?」

 「ここのシャワー壊れてない? お湯が止まらない」

 「うわあ!」

 突如悲鳴が聞こえ、少女がバスタオルを巻いただけの姿で出て来た。男達は絶句した。あんたらどんだけ異性に耐性無いんだ。とはいえ、彼女が普通よりは確実に美少女であるため仕方ない。

 女の子に不慣れな野郎共に少女の湯上がり姿は効果抜群だ。濡れた髪が顔に張り付き、湿って艶やかな黒を放つ。露出したか細い腕や肩、剥き出しの健康的な脚なぞ言うまでもない。鎖骨を水が伝い、バスタオルのシワが流れる様なボディラインをあらわにする。

 「どうしたの?」

 「み、見て来ます」

 「うん。ふぁ……眠くなっちゃった。もう少し寝てていい?」

 「ど、どうぞ。あ、パジャマ持ってきますね」

 少女は壊れたシャワーを任せ、ベッドに潜り込んで寝息を立てる。よほど疲れていたのか、カビゴンもかくやという速度で寝ていた。

 「と、とりあえずティナ姐さんに相談だな」

 男達は困り果て、知り合いに相談することにしたとさ。

 

 ヒウンシティ ポケモンセンター

 

 「お、アッシュじゃんか」

 「ティナさん。久しぶり」

 クラッシュタウンの舎弟達から相談を受けて数日、ティナはアッシュと再会した。以前、アッシュがヒウンに来て以来となる。

 「うわ、また置いてかれた感が……」

 「チャム、君のトレーナーに会ったよ」

 「え? マジか?」

 ヤンチャムのチャムは進化したマインを見てガックリうなだれる。だが、アッシュの言葉を聞いて顔を上げる。ヤンチャムのニックネームもシルフィから聞いていた。

 「元気そうだったか?」

 「うん」

 「よかった。俺達を預けなきゃいかん場所に行くってんだから心配したぜ。ペロとシュシュに任せておきゃあ安心だな」

 ティナはとりあえず舎弟から任された用件を果たそうとする。アッシュに最近現れた記憶喪失の少女の写真を見せる。

 「なあ、お前はこいつに見覚えあるか? アッシュって名前が出て来たもんでな」

 「え? 知りませんね……ああ、でもイヴさんに似てるかも」

 「その名前も出て来たな。あとはヒサメ、エルトだったか」

 「その人達とは知り合いです。エルトさんならシッポウ博物館にいますよ」

 「そうか。ま、アッシュって珍しい名前じゃないもんな。じゃ、エルトって奴のとこに行くか」

 ティナはエルトの下へ向かうことにした。少なくとも身元くらいは判明させたい。ふと、彼女はアッシュがスケッチブックにクレヨンで何かを描いていることに気付く。

 「で、何描いてんだ?」

 「ヒウンシティの、ビートルエンブレムの試練です。心にあるものを描け、って」

 アッシュが描いていたのは自分のポケモン達の絵。手持ちメンバーはもちろん、スリーパー、ハハコモリやレントラー、ラプラスにガブリアスと他のトモダチも描いていた。

 「へぇ、ガブリアスを黒で描くか」

 「ストラートは色違いなんです」

 ティナはガブリアスの色が通常と違うことに気付く。普通と違えば学術的に全部色違いになるため、細かいことは言うまい。

 「これが、今のボクの心にあるもの」

 アッシュは出来上がった絵を見て呟く。ひたすら黒で塗り潰していたかつてと違い、しっかり心が見えていた。あの時は必死であまり何も感じなかったが、アッシュは間違いなく戦艦アルセウスを破壊した時、自らの過去に決着を付けられた。




 次回予告
 アッシュ「ビートルエンブレムを手に入れたボクは、ポケモンセンターの転送システムの故障を知った。早く直すにはポリゴンってポケモンの力を借りればいいんだけど……なんでみんなやらないんだろ?
 次回、ポケットモンスター灰色の疾風。第38話『電脳戦士ポリゴンZ』。見て下さい!」
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