アニメ版ポケットモンスター、第38話での出来事だった。ポリゴンが登場する回にて、演出が原因で体調を崩す子供達が続出した。
これを受け、以降ポケモンアニメでのポリゴン系列は出演は無くなった。当時は情報を共有するネットも無く、「ポリゴンがテレビから出て来た」だの「ピカチュウの色が変わった」だの、マスコミが誇張した記事を書き放題だったため事実に尾ヒレや胸ヒレに尻尾や耳とか手足とか付いた情報が垂れ流されることとなった。
実際はストーリー中でワクチンソフトのミサイルをピカチュウが迎撃した際、ポリゴンを意識した赤と青の背景が激しく点滅するという演出だった。
この回はビデオにも収録されず、幻の回となった。再開した最初の回は『ピカチュウの森』であり進化前のピチューが発覚した後に、ここで登場した子供らしき小さなピカチュウが物議を醸すこととなる。再開以降はオープニングなど一部演出が変更された。
問題となった手法は当時多数のアニメで用いられ、同じ様な事例は遅かれ早かれ起きただろう。ただそれが人気のあるポケモンで起きたため、大きな騒ぎになったに過ぎない。
ヒウンシティ ポケモンセンター
「ビートルエンブレム、ゲットだ……」
「待てぇえ!」
無事にビートルエンブレムを手に入れたアッシュが、いつもの様にゲット宣言をしようとした時のことだ。ヒュウはどういうわけかそれを止めた。
「え?」
「え、じゃねーよ! いろいろ言わせろ! 判定に納得いかねー!」
ヒュウが疑問視したのはアーティの判定。チョロネコの絵をかなり上手に描いたヒュウはビートルエンブレムを手に入れられなかった。
「ヒュウ、芸術はパトロンが決めるんだよ」
「そうよ、諦めなさい」
「納得出来ねー!」
下手くそに描いたアッシュとキョウヘイ、もう何描いてるかわからない画伯なメイが貰えたのにだ。そして、さらにヒュウは納得出来ないことがあった。
「あとなんでお前はそんなでかくなってんだよ?」
「へ?」
「服と髪型も変わってるし!」
アッシュが急成長を遂げ、シンジやヒカリに少し追い付きそうなサイズになっていた。髪型はモノズからセミロング、服は灰色パーカーにジーンズと、いろいろ変更があった。
「一ヶ月くらい経ってるからね。少しは成長するよ」
「急成長ってレベルじゃねーぞ! 栄養状態がよくなったからか?」
「多分」
栄養失調で小柄だったアッシュもまだまだ成長期。多少栄養状態が良くなれば大きくもなる。アッシュがシッポウを出発してから23日経った。
「じゃ、俺達は行くからな」
「またねー」
キョウヘイとメイは先に出発した。次の目的地はライモンシティ。イッシュ一の娯楽都市だ。そして、あまりに主観的なビートルエンブレムの試練の内容に、ヒュウは呆れかえっていた。
「まったく……道理で予選の期間が長いわけだ」
「へ?」
「知らなかったのか? 1年くらい猶予あるぞ、予選」
アッシュはヒュウに言われ、最初に貰ったイッシュラリーのパンフレットを見る。よく見てみると、予選の期間は1年ほどあった。最初には気付かなかったのだ。
「何か騒がしいような……」
「そういえばそうだな」
話していると、ポケモンセンターが騒がしくなっていることに気付く。転送装置の辺りを中心に、騒ぎが広がっていた。
「なんだ? どうしたんだ?」
「転送システムが故障なんだって」
アッシュは近くを通りかかったタブンネに話を聞く。転送システムが壊れたらしい。ポケモンを遠くに送る装置だけに、故障はトレーナーの心配の種。
「故障って……」
「送ったモンスターボールが届かないみたい」
「大丈夫かよそれ」
「タブンネ」
「かなりマズイ、って」
タブンネが言うと多分大丈夫そうに聞こえるが、実際には多分大丈夫では無いようだ。アッシュにはタブンネの言ってることがわかる。
アッシュはボールを取り出し、コイルのラファールを出した。ラファールは機械に詳しい。直してもらうつもりだ。
「ラファール! 故障を調べて!」
「ビビビ、出番ダ」
「その必要はない」
ラファールが転送装置まで行こうとすると、ロングコートの男がそれを止める。
「システム障害の理由なら既に判明している。私はゲームフリークのモリモト。君がアッシュ君にヒュウ君だね」
「はい」
「なんで俺達の名前を?」
男はゲームフリークのモリモトと名乗った。アッシュとヒュウを知っており、転送装置が壊れた原因も知っているらしい。
「転送装置が壊れたのは、プラズマ団の仕業だ。ついてきたまえ。プラズマ団を倒しにいく」
アッシュとヒュウはモリモトに連れられ、ブルジョワ芸能事務所に来た。ここはブルジョワ伯爵の持つ芸能プロダクションで、カタリンナなどが所属する。現在、ブルジョワ伯爵がリベレート団を解散したことで、彼が持つ会社は様々な混乱が起きている。
しかし、ブルジョワ芸能事務所は不気味なほどいつも通りだ。
「調べは付けてある。ここから奴らは転送システムにハッキングをかけた」
ビルに入り、芸能事務所の上の階まで行く。ここはテナントが入っていないらしいが、厳重に鎖とかで封鎖されていた。
それを突破してフロアに入ると、転送装置の大きいものが置かれていた。人間が入れそうなサイズで、フロアを占拠している。
「やはりあったな。人間用転送装置」
「人間用? どういうことだ?」
「前にカントーで開発されたものを、設計図を持ち出して作ったんだろう」
モリモトはここに、人間用転送装置があると予想していた。おそらく、逆探知か何かだろう。
人間用転送装置。つまり、モンスターボールと同じ様に人間を転送する装置だ。カントーで開発されたらしいが、破壊されたとも言われている。多分、プラズマ団が設計図を入手して制作したと予想出来る。
「あ、なんだろ」
アッシュは部屋にポツンとしていたポケモンを見つけ、図鑑を向ける。
『ポリゴンZ。バーチャルポケモン。より優れたポケモンにするため、プログラムを追加したが、何故かおかしな行動を始めた』
そのポケモンはポリゴンZ。額に0と書かれているのが目に付いた。
「ポリゴン0号機! こんなところに!」
「なんじゃそりゃ」
「カントーで人間用転送装置破壊と共に封印された、始めて作られたポリゴンだよ。設計図と共に盗まれたのか」
モリモトは手元の資料を見ながら、ポリゴンを見て断定した。アッシュはポリゴンZと話していた。
「さっき黒ずくめの人が来たクエ」
「そう? なんかこんなマーク付いてなかった?」
「ついてたクエ」
「なら追いかけよう!」
アッシュはプラズマ団がここに来たことをポリゴンZから聞き出した。よくもアッシュの下手くそな絵でプラズマ団のマークとわかったものだ。モリモトが機械を操作し、転送装置を起動する。
「追い掛けるんだな、なら気をつけて行けよ!」
「はい!」
アッシュとポリゴンZは転送された。この辺りはモンスターボールの転送と同じか。
ネットワークハイウェイ内部
アッシュとポリゴンは転送され、電脳世界に来た。赤と青で構成されていた。陳腐なSF映画の未来都市みたいにも見えた。黒い背景に光の道が映える。
「モンスターボールの道はこっちだね」
「バイクモードクエ」
ポリゴンZが赤と青のバイクに変形し、アッシュと青い道を辿る。
「ビビビ、モンスターボールは一度中央に集約されるんダ。そこからそれぞれの場所に行ク」
「ラファール!」
ボールから出て来たラファールがモンスターボールの転送システムを説明する。単純に言えば、電話と同じなのだ。
「真ん中に行けばいいんだね? 任せて!」
「というか基本的に道は一方通行ダ」
中央を目指すアッシュとポリゴンZ。光速通信は早く、あっという間に中心まで来ることが出来た。ポケモンセンターからはボールの転送が止まってないらしく、後方からボールが飛んでくる。
「まだ故障の情報が出回っていないんだね」
「2年前に滅んだプラズマ団の名前を出しても不安を煽るだけだからナ」
中央ではモンスターボールがぎっしり詰まっていて通行止め。その前でプラズマ団の男女が2人、ボールを回収していた。
「見つけたぞプラズマ団!」
「クエー!」
「見つかった、プラーズマー!」
「撃てー!」
容赦無い段幕がプラズマ団を襲う。ラファールとポリゴンZの電撃を雨霰と撃ち、プラズマ団は慌てて逃げる。
「マイン!」
「おうよ!」
エンブオーのマインがボールから現れ、ボールの山に突貫する。通行止めをヒートスタンプで破壊し、ボールが流れ出す。
「よし!」
「やったナ!」
「しまった! ポケモンを解放する作戦が!」
残るはプラズマ団だけ。しかし、聞き覚えのあるサイレンが聞こえた。アッシュ達が通って来た道から、ホバーで動く救急車がやってきたのだ。
「ワクチンソフト! ビビビ、逃げロ!」
「あれは味方じゃないの?」
「プログラムに融通は効かないのダ! あれはネットワークハイウェイにとっての異物を考え無しに排除すル!」
ラファールの忠告を聞き、大人しくアッシュとポリゴンZはその場からプラズマ団を連れて待避する。赤い道から来た場所へ戻るのだ。救急車は手加減なくミサイルを撃ってきた。
「戻れ、マイン!」
「助けてくれー!」
「ひー!」
プラズマ団は慌てていたが、アッシュはあくまで冷静。ポリゴンZバイクを飛ばし、後方のミサイルを余裕の回避。
「ビビビ、アッシュ上手いナ」
「……見える!」
アッシュの回避はまるで、後ろに目が付いているという表現がこのためにある様な手際だった。
「目が……」
ラファールはアッシュの瞳が強く輝いていることに気付いた。紫色に輝いていたが、ラファールはアッシュの両親を思い浮かべて疑問を持つ。
(アッシュの両親は紫色じゃなかったはずダ……。隔世遺伝カ?)
「ラファール、でんきショック!」
「ビビビ!」
避け切れないミサイルはラファールの電撃で破壊。赤と青のフラッシュが輝いた。
「救急車が!」
救急車は飛び上がり、アッシュ達の前方に先回りした。救急車は光に包まれ、何かに姿を変えた。
「あれは!」
「ミュウツーじゃないか!」
「プラーズマー! 帰してくれー!」
救急車が姿を変えたのは、ミュウツー。プラズマ団は泣き叫んで助けを請うが、相手はプログラム。仕事をするまで諦めない。
「マチルダ!」
エスパータイプのミュウツーに対し、アッシュは悪タイプであるレパルダスのマチルダを繰り出す。ここはセオリー通り。だが、アッシュはラファールとマチルダが予想しなかった指示を出す。
「つめとぎ!」
「え? ねこだましじゃなくて?」
マチルダは戸惑いながら、つめとぎをする。ミュウツーは守るを使っており、ねこだましだったら失敗していただろう。
「よこどり!」
「はいですわ!」
「まるで未来を見ているみたいダ!」
ミュウツーがビルドアップを使おうとしたのを読み、その効果を奪う。
「未来が見える……この力はなんだろう」
アッシュの周りに闇のオーラが立ち上る。そのオーラがマチルダに届き、駆け出した彼女のパワーを増す。
「ふいうち!」
マチルダはふいうちでミュウツーに致命傷を与えた。ラファールにも分析出来ない力だった。
ミュウツーの背後にマチルダが降り立つ。彼女は自分がミュウツーを仕留めたことに驚き、興奮に震える。
「ワタクシがデータとはいえあのミュウツーを! さすがアッシュですわ!」
しかしミュウツーは何かの殻を破り、アッシュに飛び掛かる。身体はさらにマッシブなものとなっていた。
「メガミュウツーX! 危なイ!」
ラファールもこれは防げない。何より早い。だが、アッシュはこれを前々から予想していたのか、右手をかざして貯めた闇を放つ。
「弾いタ!」
「ポリゴンZ、力を貸して!」
闇の力でミュウツーを空高く弾く。そして、ポリゴンZをバズーカに変形させて構える。
「消えろ、データごときが!」
バズーカからポリゴンZの強いとくこうにより、膨大な闇が勢いよく噴出する。ミュウツーに命中し、これを飲み込む。
「ミュウツーを消しタ!」
「戻れマチルダ、ラファール! 乗って!」
勝利の余韻に浸ることなく、アッシュはポリゴンZをバイクに変形させて、プラズマ団を乗せて走り去る。消えたミュウツーが最後の力を振り絞り、特大のミサイルを発射したのだ。
「ヒュウ、モリモトさん。ビルから避難を!」
『わ、わかった!』
モリモトに通信し、何故か避難させる。アッシュにはこの先の未来が読めていたのだ。
「行け! ポリゴン!」
フルスロットルで入って来た入口に戻る。脱出ゲートが開いており、帰還の準備は万全。モリモトは何があってもいいようにゲートを開放しっぱなしにしていたのだ。
「脱出! そして……」
アッシュ達は脱出ゲートを潜る。それと同時に、アッシュはポリゴンにバリアを貼らせた。
「アバァアアアア!」
「ぬわー!」
なぜなら、ミサイルごとゲートに突入して爆発するからだ。芸能事務所をビルごと粉砕し、業界人の断末魔を尻目にアッシュは無事脱出。彼らはザギンへシースーを食べに行く予定だったが、残念ながら中止となりそうだ。
「アッシュ!」
「やったね、ポリゴン!」
爆発を見たヒュウが駆け寄ってきた。ビルが吹き飛んだら当然心配になるだろう。
「ネットワークが復旧したよ。プラズマ団とブルジョワ芸能の奴らは警察に突き出そう」
モリモトの指示で、すでに瀕死のプラズマ団とブルジョワ芸能の業界人達は捕まった。ビルは瓦礫の山だった。
「なんか、疲れた」
「あの力、何だったんダ?」
ラファールはボールから出て来て、アッシュの力について考える。あれは、サイキッカーの力とも違う気がした。
サイキッカーにも、炎を操り炎タイプのポケモンとコンタクトを取る『革命の炎』という能力を持つ者がいる。サイキッカー達はその能力を応用し、エスパータイプ以外のポケモンとコンタクトを取る方法を模索していた。
だが、悪タイプとだけはエスパータイプとの相性が悪く、コミュニケーションを取る方法が見つかっていない。アッシュは悪タイプの力である闇を使った。つまり、サイキッカー能力ではなさそうだ。
「気になるナ」
「ポリゴンもお疲れ」
「クエ」
ラファールが考える中、アッシュはポリゴンZの頭を撫でる。瞳の輝きは元通りになっていた。
「ポリゴン0号機は封印されていたが、それはアキバ博士の隠蔽工作に過ぎん。そいつはうちで預かるよ。ゲーム作りを手伝ってもらおう」
「よかったねポリゴン!」
「クエー」
ポリゴンZはモリモトが預かることに。封印されていたポリゴンZは居場所が出来て嬉しそうだ。
プラズマ団を捕まえ、ヒュウも満足そうだ。ゆっくりチョロネコの行方でも聞こうとした。
「さて、プラズマ団もとっちめたことだし……」
「あ、こいつら仲間が下水道にいるそうだクエ」
「プラズマ団の仲間が下水道にいるって」
「俺は今から怒るぜ!」
しかし、ポリゴンZから仲間の情報を聞くとヒュウは早速走り出す。プラズマ団のこととなると、周りが見えなくなる。アッシュに先越された後のため、尚更だ。
「あ、待ってヒュ……」
「アッシュ!」
「なんだろ、急に疲れ……」
追い掛けようとするアッシュだが、身体が重くなって倒れ込む。ラファールは先程の力が関係しているとみて、マインをボールから出す。
「まったく、下水道まで行けばいいんだな?」
「あ、うん。また遊ぼうね、ポリゴン」
マインに背負われ、アッシュもヒュウを追い掛ける。去り際、ポリゴンに別れを言いながら。進化したマインの背中は広く、アッシュもウトウトし始めた。炎タイプのポケモンは暖かい。
「まったく、図体ばかりデカくなって中身は変わらないんだから」
「図体もさほど大きくなってないがナ」
マインは進化してしまったため、アッシュを軽々運べるようになった。小さかった頃が懐かしい。
『あたしは順当に進化したいね』
そう言ったのはほんの20日前。随分早く進化したものである。だが、これほど濃密な20日もそうそう無い。
ヒウンの水平線に夕日が沈む。アッシュとマインの新たな旅は、始まったばかりだ。
ヒウンシティ 中央広場
「かのプラズマ団は言いました。『ポケモンを人間から解放すべき』だと。ですが、私はそうは思いません」
アッシュやヒュウと別れたキョウヘイは、中央広場で白衣の男と話していた。非常に特徴的な髪型をした男は、傍にレアコイルを従える。
キョウヘイの隣にはルカリオ。白衣の男はさらに続ける。
「どうすればポケモンの力を最大に引き出すことが出来るのか。あなた、私とバトルしてくれませんか?」
「お前は……」
「申し遅れました。私はしがない研究者のアクロマです」
誰も知らないところで、アクロマとキョウヘイのバトルが始まる。同時に、イッシュを飲み込む陰謀が始まろうとしていた。
次回予告
ヒュウ「とうとう見つけたぜ、プラズマ団! 5年前に奪った妹のチョロネコ、返してもらう!」
マチルダ「ワタクシの親友なんですから、ワタクシ抜きに始めないで!」
ヒュウ「逃げたのは下水道だな……黒の摩天楼用の景品まで盗みやがって、覚悟しろ! 次回、ポケットモンスター灰色の疾風。『ベトベターとベトベトン!』」
アリス「私の本気を、見せてあげる!」
ハツネ「ドリル捕まえた時とは違うのよ!」